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魅了の魔法が解けたので。  作者: 遠野
嘲弄編

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02 坂道転がる赤い靴(2)

 ――とまあ、帰って早々そんな賑やかな出来事もあったわけだけれど、何はともあれ三週間ぶりの休暇である。


 現地への移動、コボルト退治、現地ギルドの冒険者への教鞭その他エトセトラで張り詰め続けていた緊張の糸も、自分の所属するギルドに戻ってきたことでようやく切れたらしい。

 「報酬はたんまりあるから一週間くらいゆっくりしたらいいわ」と、具体的な金額――私も風君も驚きすぎて絶句したとだけ言っておく――と共にそう勧めてきたパトリシアさんの言葉に甘えるかたちで、泥のように眠る日が続くことおよそ三日。

 さすがに寝過ぎでは? とは自分でも思うのだが……まあ、アドレナリンのおかげでまったく気付かなかった、あるいはなんとか乗り切れてしまっただけで、知らず知らずのうちにそれだけ疲労がたまっていたんだろう。

 実際、四日目の朝の寝起きはすっきりしゃっきりって感じで、めちゃくちゃ身体も軽かったしね。


 風君ほどではないとはいえ、私だって人付き合いはあまり得意な方ではないから、あっちのギルドの人たち相手に教鞭を取るのはしんどいものがあったんだろうなと自己分析してみたり。

 それでも、あの人たちが使い物にならないと、いざという時に被害をこうむるのは戦う力を持たない現地住民なわけで……。それだけは絶対に避けられるようにって、慣れないながらに一生懸命、どうにかこうにか頑張った私は本当に偉いと思う。

 前世で先輩に押し付けられて、社内講習の講師として前に立った経験は決して無駄じゃなかったな!


 あとあれ、ウィロウの顔の良さにつられる男をあしらうのもとにかく面倒臭かった!

 早いうちからヴィルとしての身の上話(仮)を交えつつ、風君が私のパートナー(という名の相棒)であることを女性陣には話しておいたから、彼の方は早々に落ち着いたんだけどさ。

 男性陣にはそうもいかず、やたらめったら私に声をかけてくる輩が多くて本当に辟易としたよね……?

 よっぽど『威圧』をかけてやろうかと思ったけど、下手に適当にあしらってギルド同士のいざこざの種にされても嫌だし、かといって他人にベタベタ身体に触られるのも不快極まりないし、思い返してみれば確かにあれはゴリゴリ精神力を削られた。

 例えるなら、そう、むき出しの神経を目の粗いやすりとかすりがねとかで逆撫でされている感じね!!

 控えめに言ってとっても地獄。


 でも、口数少なめな風君がかける無言の圧とか、あとは私の身の上話(仮)で同情的になってくれた女性陣の協力があったおかげで、なんとか『威圧』を使わずに最後まで乗り切れたのは本当に運が良かった……。

 もちろん、わたし自身が『彼はヤキモチやきだから~』とかなんとか言ってなるべく風君と一緒にいるよう心がけもしたけど(もちろん事前に確認と承認は得た上で使った方便だ)、やっぱり一番は風君が不在の時に女性陣ががっちりわたしのまわりを固めてくれたのが大きかったんじゃないかな? という気がしている。


 なんせ言い寄ってくる連中なりにパートナーの目の前で口説くのはまずい、という最低限の配慮はあるようで、私に声をかけて来るのは風君が不在の時が多かったからね……。

 風君がすぐに戻ってくれば彼を理由にその場から離れることもできたけど、そうじゃない時も同じくらいあって。

 これこれこういうわけで対処にとっても困ってるんです……と向こうのギルドの女性陣に相談すれば、そういうことならお姉さんたちに任せなさい! と相談直後から助け船を出してくれたり、しつこい輩を鮮やかな手腕で追い払ってくれるようになったので、本っっっ当に彼女たちには頭が上がらない。

 その行動力と手際の良さには、なんというか、女子同士の連携力というか連帯感というか、そう言ったものの力の強さを改めて思い知った気分だよね?


 うちのギルドも職員・冒険者問わず女子の仲は良いし、結束力もけっこうある方なんじゃないかな? と思うけど、あっちもあっちですごく頼もしかった!

 あっという間に追い払ってしまったお姉さま方の手腕に思わず拍手して褒めちぎれば、はにかみ顔で「立場を問わず冒険者ギルドに所属する女性人口ってそもそもが少ないから、ギルドの枠を超えて女子同士の結束が強くなりがちだし、男に負けてらんないから自然と腕っ節も口も強くなるわよね?」……とのこと。なるほどなー。

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