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魅了の魔法が解けたので。  作者: 遠野
遠征編

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17 ある雛鳥の話をしよう(2)


「まあ、俺もどうあしらえばいいかわからないから、その時は二人で知恵を絞るか」

「お。何気にけっこう好感触?」

「当然だろう。……俺としても、そうしてもらえた方が助かるんだ。適材適所というやつだな」

「お互い同性を相手するぶんには平気だしね。……ふむ。ということは、契約成立?」

「ヴィルの迷惑にならないなら」

「私から持ち掛けた契約みたいなもんだし、迷惑わけないでしょー?」



 へらりと笑って私が頷けば、風さんはほ、と安堵の息をついた。

 その表情も心底良かった、と思っているのが簡単に見て取れて、……うーん。



(風さんてば、実はけっこうピュアッピュアな人だったりする?)



 大丈夫? 男の人が苦手なことは確かだけど、私が風さんを利用しようとしているだけの悪いヤツかもしれないとか、こんな風にあれこれ言ったり世話を焼こうとしたりするところに実は裏があるんじゃ……とか、もうちょっとこう、疑った方が良いんじゃない??

 疑われて困るのは私のくせに、そう思いたくなるくらい風さんがあどけない表情を見せたのが悪いです。

 もうちょっと警戒心をお持ちになられた方が良いと思うよ、君……。



「……なら、そうだな」

「?」

「ヴィルが俺に手を貸してくれる、と言うのなら。もっと、きちんと話をするのが最低限の礼儀で、俺から示せる誠意か……」



 私の中でいらぬ老婆心が顔を覗かせていることなどいざ知らず、風さんは何やら考え込む様子を見せながら、ぽつぽつと何かを呟いた。

 私から視線も外れているし、たぶん、ひとりごとのようなものだろう。

 私自身、ひとりごとを呟きながら思考を整理するタイプだし、もしかしたら風さんもそのタイプなのかもしれない。


 だとすれば、彼の中で考えがまとまるまでは大人しく待っていればいいや……と考えた私は、手持無沙汰を誤魔化すためにもすっかり冷めてしまったお茶をあたため直すことができるかどうか、魔法でチャレンジしてみることにする。


 大丈夫だいじょうぶ、魔法って自由でクリエイティブなものだから、『やれる』とか『できそう』と思ったことは大体実現する。

 あんまりにも荒唐無稽でファンタジー極まること……召喚獣だとか隕石を落とすだとか、そういうことはしっかり下準備をしないと難しそうだが、それに比べればコップの中の液体をあたため直すくらい難しいことじゃない。



(……お、じんわりあったかくなってきた気がする)



 手の中のコップが熱を帯び始め、これならお茶もあたたかくなってきているのでは? と思い、コップにそっと手をかざしてみる。


 ……ううむ、湯気や熱気は感じられないような気がする。

 ということはコップだけがあたたかくなっていて、お茶はそうでもないのかな。


 ちょっと試しに口に含んでみるか、とコップに口を付けて少しだけ傾け――



「あ゛っっっつ!!?!?!?」

「!?」

「アッ、ごめんなさいなんでもないです気にしないで……」



 思った以上にお茶が熱くなっていて、あの、わたしもウィロウも猫舌……熱い……痛い……。

 あたたまっていない前提で口を付けたからか、心の準備なんてものはできていなくて、そのせいでお茶の熱さにびっくりしすぎて、肩は跳ねたし悲鳴を上げてしまうし舌がひりひりするし、風さんにはキュウリを背後に置かれたネコチャンみたいな反応をされるしで、本当、最悪だ……。



(めっっっっっちゃくちゃ痛い)



 ……社畜製造魔法と化してしまった状態異常を解除する魔法のように、元になる魔法のイメージがあるものなら初回でも成功率は高いのだが、こういった地味な部分に関するものだとやっぱり失敗してしまうことが多くて、何回ミスしてもちょっと落ち込む。


 しかしはて、今回の敗因はなんだろう。

 漠然と『お茶をあたたかくしたい』と考えていただけだから、『どれぐらいまであたためるか』のイメージができていなかったこと……とか……?

 うんうん考え込みながらヒリヒリする舌を包み込むようなイメージで、軽めの状態異常解除魔法をかける。


 ……いちいち長いなこれ。

 もうちょっとこう、短くていい名前ないものかな。


 キュア……ヒール……ううん、名は体を表すってことでわかりやすいものがいいけど、どっちにしたものか。

 個人的にはキュアの方がそれっぽいというか、ヒールはもっと外傷(切傷とかそういうの)を治すイメージがあるのだけど、はてさてこの二つの単語の意味のニュアンスの違いはどうだったか。


 前世で英語はどれだけ単語や文法を頑張っておぼえても赤点回避するのが関の山だった私なので、悲しいかなとんと覚えがない。

 誰しも分かり合えない教科ってあるよね、英語さえできればたぶん国立を狙えたんだわ……。



「……ふ、っ、……クッ」

「笑いたければ笑えばいいよ……」



 ちくしょう、人の失敗を見て笑うとはいい性格してますね風さん!

 ……まあ、かくいう私も王太子の失脚を今か今かと待ち構え、なんなら待ち焦がれていると言っても過言ではない人間なんで、風さんのことを言えないくらい性格がひん曲がっているのだけども。


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