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魅了の魔法が解けたので。  作者: 遠野
遠征編

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10 ぎすぎすクエスト(5)


 考え込みながらも黙々と歩き続けたおかげか、日が暮れる前には目的地への案内看板がある場所まで辿り着いた。

 この看板からもう半日ほど歩けば目的地に辿り着く、というのはナタリーさんから事前に聞いた話なので、順調に旅程が進んでいると考えても良さそうだ。


 ここまで来たら件の町はもう目前、と言っても過言ではないので、今晩はここで一休みしようという話になった。


 ……もちろん私が切り出してお伺いを立て、フォンさんがこくんと頷いたことで決まった方針である。

 いい加減もうちょっとしゃべってくれねーかなこの先輩……と、引きつりかけた表情を総動員してにこやかに装った表情筋先輩にハイ拍手。



(……にしても、もうじき丸二日かぁ)



 いつまでもずるずるとこんな状況が続くことに、少しずつ、けれど着実に辟易とする気持ちが膨らみ始めているのがわかる。

 いくら気にしていない風を取り繕っても、さすがにちょっとしんどくなってくる頃と言えば良いのか、とにかく今日は早めに眠りたいなぁ……という気持ちに駆られていた。

 特に何もしていないはずなのに肩が凝るこの感覚はどうにかならないものかと、野営の準備をしながら遠い目をしてしまったのも仕方のない話だと思う。


 ……本音を言えばベッドに横になってぐっすり寝たいところではあるが、野宿だからそんなわけにもいかないし、不寝番ねずばんもあるので贅沢な睡眠は大人しく諦めるしかない。

 明日の夜には宿屋で部屋を借りてベッドで眠れるはずなので、今夜は気合を入れてもうひと頑張り、だ。



「ちょっとその辺で焚き木集めてきますね」

「ああ」



 今夜のもうひと頑張りのためにも少し一人の時間が欲しくて、ちょうどいい方便もあることだし、それを使って野営地からいったん離れることにした。


 背中にはこちらをじっと見つめている風さんの視線を感じ、それを振り切るつもりでふらりと森の木に紛れる。

 ついでに、私の存在を感知されにくくなる魔法――ゲームで言うところの敵とのエンカウント率を下げる術をイメージした魔法を使えば、風さんはすぐに私を見失ったのだろう。

 きょろきょろと私を探すように視線を動かす風さんを一瞥し、焚き木探しに足を動かした。


 あれとーこれとーそれとー、なんて適当に呟きながら、焚き木に良さそうな枝を拾ったり、魔法ですぱっと切り落としたりして集めていく。


 ……せっかく一人になったんだから、頭を空っぽにして無心になって、気分をリフレッシュさせてしまえばいい。


 そうわかっているのに、作業しながら考えてしまうのは風さんのこと。

 なんせ、こんな状態でクエストなんてまともにこなせるのかとか、いざというという時に意思疎通をミスリそうだなとか、あまりにも会話がなさ過ぎてもしかして私たちかなりヤバいのでは? ……と、ちょっとした危機感をおぼえ始めているところなので。



(それに――)



 会話がなさ過ぎるがゆえの危機感もそうだが、もうひとつ『おや?』と思う、気がかりなことがあった。


 それは時折、風さんから向けられる視線に身に覚えのない感情――怯えだとか恐怖に近いものが混じる、ということ。

 王太子もふとした時にそれらの感情を強く滲ませてウィロウに縋る、という出来事があったので、私が感じ取ったものは間違いではないはず。


 ……しかし、だとしたら一体何故?

 初めて会った時によその冒険者に向けた威圧が怖いのかな、と思ったりもしたが、それならもっと常にビクビクしているような気がするし。



「――そもそも、風さんってホントに女嫌いなのかな」



 ぽこり、と泡のように浮かび上がった疑問が思わず口をついた。


 いやでも、気付いてみれば風さんって本当に謎なんだよなぁ。

 女嫌いというわりには女性の扱いが丁寧、と言うか……。


 ぞんざいな対応じゃなくて、ちゃんと相手を見て応対してくれている感じがあるし、会話だってほとんどゼロに等しいけど声をかければきちんと反応してくれる。

 横暴さも横柄さもなく、むしろ物の受け渡しやなんかでちょっと物理的距離が近づく機会があれば、わずかに緊張を滲ませているくらい。

 良くも悪くも――否、良い意味で『普通』な感じがする人だ。



「女嫌いなんて言われてるくせに、嫌われてる感覚が薄いのもまたなんとも……」



 本当に『嫌い』なら、私が王太子に向けているような険のある感情がもっと表に出てくるはずだ。

 なのに風さんにはそれがまるで感じられなくて、情報と実情のちぐはぐさ――あまりの乖離っぷりにどういうこと? と首をひねってしまう。



「どっちかっていうと、風さんって、私よりウィロウに近い気がするんだよなぁ」



 ぽつり、となんの気なしに呟いた言葉。

 それを自分の中で反芻した時、すとん、と腑に落ちたような感覚がした。


 漠然と風さんが気になる理由だとか、つい風さんを気にしてしまう理由だとか、あとはそう、風さんの『女嫌い』の正体に関してだとか――そういったものたちに、ウィロウのことを思った時、私の中で納得のいく答えが出たことに気付いたからだ。



「……なるほど?」



 そりゃあ風さんの『女嫌い』に違和感があるわけだ、と得心を得る。


 わけあって風さんは『女嫌い』という建前を使っているだけで、恐らく厳密には『女嫌い』とは若干ニュアンスが違うんだろう。

 あの感じから察するに、より正確な表現をするならば、『女が苦手』と言った方が適切なんじゃなかろうか?



(……まあ、そのあたりは今日の夜にでも少し話して、今よりもう少しお互いへの付き合い方を改善できるようにアプローチすればいいや)



 そう考えた私は両手いっぱいに集めた焚き木を抱え、善は急げと風さんが待つ本日の野営ポイントに向けて踵を返すのだった。


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