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魅了の魔法が解けたので。  作者: 遠野
遠征編

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08 ぎすぎすクエスト(3)


「おはようございます、フォンさん」

「ああ、おはよう」



 さて、そんなこんなで翌日である。


 たまたま別のクエストで現地にいた冒険者が新種(仮)のコボルトを追い払ってくれているとはいえ、討伐が進まないのでは根本的な解決にはならない。

 そんなわけで『少しでも早く向こうに行ってコボルトをなんとかしよう』という方針を合致させた私たちは、早朝、日が昇り始めるよりもほんの少し前……山のの空がうっすら白み始めた頃に集合し、夜勤担当の職員さんたちに見送られてギルドを出発した。


 ……なんかいかにも、『この二人で大丈夫かしら』って感じの表情で送り出されたものだから、そう思うならギルドマスターに直談判してやめさせてくれたらよかったのに……なんて、意地の悪いことを考えてしまった。


 私とノラさん――よりは、囮役タンクをこなせる盾使いの同士と一撃必殺がお得意な暗殺者(仮)の風さんの組み合わせの方がクエスト内容的には妥当なところか。

 まあ、どちらを選ぶにしても、普段からペアを組んでいる者同士の組み合わせの方がよほどクエストの効率的にも連携的にも安牌だったと思うことに変わりはない。


 ……もっとも、訳アリのところを拾ってもらっている上にしがない一冒険者でしかない私がギルドマスターの決定に逆らうわけにも行かないし、ギルド全体が『ギルドマスターがそう言うんならそれが良いんだろう』って強く信頼している節もあるようなので、私も今回の指示には大人しく従いますけどね。



(よほど理不尽な内容なら流石に物申させてもらうけど、あくまで今回のペアはちゃんと根拠があるわけで、そうじゃないもんなぁ……)

「……」

「……どうかしました?」

「……、いや。比較的近距離の遠征とはいえ、お前はずいぶん荷物が少ないなと思っただけだ。……魔法使いは俺たちのように武器を持たないからか?」

「さあ、どうなんでしょう? 私は自分以外に魔法を使う冒険者に会ったことがないのでなんとも……」



 だんだん冬めいてきた朝の冷たい空気を裂き、しんとした静けさの町を歩きながら風さんとポツポツ言葉を交わす。


 ……実際、私は護身用のナイフを持っているので武器を持っていないわけではないし、魔法の使い手といっても千差万別。

 ウィロウは特別魔力が潤沢で魔法も上手に使えるので、何も持たなくても問題なく魔法を使えるけれど、多くの人は杖を持っているので(それこそ、某児童書のように小さなものからファンタジーで賢者と呼ばれる人が持っていそうな大きなものまで色々ある)、風さんの疑問への回答はなあなあにさせてもらうことにした。


 まあ、『私は私以外の魔法特化型の冒険者に会ったことがない』っていうのは本当のことだし、嘘はついてないよ。

 その代わり、本当のことも言ってないだけでさ。



(お貴族様お得意のヤツです、なんつって)



 ……ああでも、折角風さんが雑談を振ってくれたわけだし、私ももうちょっと会話を続ける努力はすべきかもしれない。

 いくらお互いに異性に対して良い印象を持っていないとはいえ、これから約二週間、ほとんどずっと一緒に行動することになるのだから、あまりギスギスした空気になるのは嫌だなと思うので。


 会話がないぶんには耐えられるというか、たぶんたいして気にならない。

 でも、ギスギスした空気は(原因が自分か他人か問わず)それだけで居心地が悪くなるので、できるかぎり避けたいところ。


 そういうわけで、問題なく、つつがなく、少しでも快適にこの遠征を過ごすためにも多少の労力はやむなしなのである。

 遠征の準備と同じだ。急がば回れ。手間を惜しむな。つまりはそういうこと。


 というわけで。



「あと」

「『あと』?」

「ポーチも、鞄も、見た目よりけっこう入るので。数ヵ月単位ならわからないですけど、一ヵ月くらいなら余裕ですよ」

「……魔法使いジョークか?」

「えっ」

「えっ」

「えっ……?」



 待て待て待て。私いま、そんなジョークと捉えられかねないこと言った?

 こちらとしてはせいぜい『そうなのか?』みたいな会話が続きそうな反応か、もしくは『へぇ、魔法って便利なんだなー』くらいの軽い返しを期待して言ったことなんだけど、……えっ??

 というか何より衝撃なのはそんなジョークを言いかねないやつだと風さんに認識されているかもしれないってことなんですが??? えっ……????



「……」

「……」

「……行きますか」

「……そうだな」



 お互いに会話の落としどころを見つけられなくなった私たちは会話を打ち切り、黙って街道を歩くことにした。


 ……アイスブレイクを継続しようと試みただけでこのザマとはこれいかに。

 前途多難な出立に、私がこっそりとため息をついてしまったのも致し方ない話である。


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