01 ワンス・アポン・ア・タイム(1)
遠征編、はじめました。
話数的には毎日一話ずつ投稿できると今月中に完結できるはずの量なので、ぜひお付き合いいただければ嬉しいです。がんばります。
ノラさんと初めて共同クエストに赴き、かつ、前世も含め初めて酔い潰れてしまった次の日は大変だった。
……あ、いや、先に断っておくと、飲み過ぎたせいで翌日までアルコールが残り、二日酔いで大変だったというわけではない。
そのあたりは前世の私の身体もウィロウの身体も抜かりなく(?)、どれほど飲んでも次の日にはケロッとして持ち越さない体質だったので、すっきり爽快な目覚めができたことを報告しておく。
まあ、その代わりと言うように、目が覚めたら同じベッドで寝ていたノラさんのご尊顔が至近距離にあってたっぷり五分くらい思考停止する羽目にはなったけれど。
私が『大変だった』と感じたのは寝起きではなく、そのあとのこと。
一度部屋に戻って身支度を整え、ノラさんと二人で一階の食堂へ降りていくと、既に食堂に降りて来ていたギルドの男衆が一斉に『ぐりんっ』と首を捩じって私たち――というか私に注目したのだ。
その様子と言ったら、……うん、ある種のホラーと表現しても過言ではないレベルだったよね
? ホラー耐性はある方だけど、さすがに見知った人たちの狂気さえ感じさせる行動にビクンと肩が跳ね、ノラさんにそっと身を寄せた私は悪くない。
悪くないったら悪くないんです異論は認めない。
で、肝心の『どうしてそんなことになったのか』だけど……これはどうやら、私のせい? だったらしい。
というのも、昨晩、ノラさんと晩酌するにあたって酒の肴にと前世ぶりにこしらえた鶏の唐揚げ。
アレが昨日の夜からみんな気になっていたらしく、朝イチに厨房のおっちゃんに押しかけて『ありゃなんだ?』と訊いたものの、醬油を持て余していたおっちゃんは当然ながら『知らん!』の一点張り。
そんなに知りたきゃヴィルに直接訊け、とすげなく返されたため、私が起きてくるのを待っていたらしい。
……い、いくら何も知らないからって、私に丸投げするのは良くないと思うなぁ、おっちゃん!
しかし悲しいかな、私がおっちゃんに抗議する暇は毛先ほどもなく。
やれ匂いが明らかに美味そうだっただの、見たことのない料理だっただの、あんなものを夜中に作るんじゃないだの、おかげで一睡もできなかっただのと、私からすれば『八つ当たりかな?』という感想を抱いてしまうようなことまで言われつつ、食堂にいた男衆にぐいぐい詰め寄られた。
……し、あんまりにも詰め寄ってくる勢いが鬼気迫っているというか、必死過ぎて? ちょっと、否、かなり引いた。
おまけに「うっっっわ……」と思い切りドン引きする声まで上げてしまったのはさすがに申し訳ないと思うけど、それだけのものだった、ということを理解して欲しい。いや本当に。
ちなみに、勢いに圧倒された私がこれは収拾がつかないかも……と困り始めた時、みんな大好きノラさんが一喝して場を納めてくれた。
わぁわぁとみんなが口々に話すせいで本題がわからなくなっていたところを、代表者一名を指名し、結局私に何が言いたいのかとズバッと切り込んでくれたのだ。
私は聖徳太子じゃないので、一度にたくさん話されても聞き取れない。
だから本当に、ノラさんが一喝し、話の要点を絞ってくれたのには助けられた。
なんせ、おかげさまで『ノラだけ狡い! 俺たちも唐揚げ食べたい!(要約)』という男衆の要求はわかったし、それなら厨房を使う許可と材料費が必要だなぁと言えば、どっちも気にしなくていいぞと厨房のおっちゃんからアッサリと……それはもう拍子抜けするほど簡単に許可が下りたので。
さすがに材料費については気にしないわけにはいかなくない? とも思ったんだけど、唐揚げの作り方をおっちゃんに教えることと、唐揚げを食堂の恒常メニューに加える許可さえくれれば全然問題ないぞ! ……とのことで。
それくらいなら、と私も了承し、円満に交渉成立したのでしたとさ。
でも、まさかこれを機に厨房に出入りさせてもらうことが増えるなんて思わなかったし、醤油がギルドの厨房に常備されるようになることも、その時は考えてもみなかったなぁ。
裏を返せば、それだけギルドの人たちが唐揚げを気に入ってくれたってことなんだけど。
もちろん、にんにくの匂いとか濃い目の味付けだったりすることから男の人たちがメインだけど、女性陣も次の日がお休みだったりするとちょくちょく頼んでいるのを見かけるから、やっぱり唐揚げは老若男女に受け入れられるオールマイティなメニューだなと確信した。
世界が変わっても、唐揚げが嫌いな人なんていないらしい。
(まあ、たまたまそういう人に出会ってないだけなんだろうけど)
――なお、厨房に出入りする回数が増えるにつれて食堂の新メニュー考案、もとい前世で馴染みがあった料理再現のための試行錯誤をさせてもらうことも増えていったのだが……そこに関しては、またの機会があればってことで。
残念ながら、私は知識チートできるほど専門的なことは知らないので、地道にコツコツ試行錯誤していくしかないからね。
人様に紹介できるほどの成果が上がるまで、その泥臭い過程は私とおっちゃんが知っていれば十分だろう。
逃亡編、新人編に引き続き、ちょっとでも「面白そうかも?」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ブクマ、いいね、評価等で応援していただければ嬉しいです。
モチベーションに直結しますし、作者が泣いて喜びます……!




