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魅了の魔法が解けたので。  作者: 遠野
新人編

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24 晩酌は背徳の味とともに(5)


 すっかり夜が更けたころには、お酒も唐揚げもよく進んで、えんもたけなわ。けんもほろろ。


 ……ん、けんもほろろは違ったかな?

 まあいいや。


 なんにせよ、いい感じに酔いが回ったなーって感じで、ノラさんはちょっぴり頬が赤く色づいて、チークなんてつけていないのにとってもかわいい。

 なのにグラスを傾けてお酒を飲む時は大人のおねーさんって感じで、色っぽくってついつい見惚れてしまう。


 ……そりゃあノラさんは私よりも肉体的には年上だし、実際に大人のおねーさんではあるんだけど、なんて言ったらいいのかな。

 伏せがちな瞳も、濡れた唇も、とっても魅力的でどきどきするのだ。


 それこそ、私が男として生まれていたら、ノラさんにコロッと落ちちゃいそうだなって思うくらい。


 次があるかはわからないし、あったとしてもいつになるかわからないけど、もしまた生まれ変わることがあるなら今度は男の子になりたいな。

 それが叶ったら、ノラさんにアプローチなんかしちゃったりしてさ。


 ま、私なんぞがノラさんに釣り合うとは思えないけど、憧れるくらいなら許されるでしょ。

 なんて、とりとめのないことを考えながらノラさんを見つめていると、バチッと視線がかち合った。


「すっかり酔ってるね、ヴィル?」

「ん! はじめてここまで酔った!」

「アンタもまあまあ強かったし、そりゃあそうだろうさ」

「ノラさんには負けたけどね!」

「アタシに勝とうなんざ、百年早いよ」


 いやー、それにしても酔った酔った!

 前世も含めてここまで酔ったの初めてかもしれない!


 前世ではもちろん、ウィロウの中にいた頃だってこんなにたくさんお酒を飲んだことはなかったし、気分がふわふわしているのも初体験。


 口調はゆるゆる、思考もゆるゆる。

 おまけに普段の数割増しでテンションが高いし、眠気で頭の中はぽやぽやしているときた。


 そんな有様でまだ酔ってないよ本当だよ、なーんて言い張るほど判断力が鈍っているつもりも耄碌しているつもりもないのである。


 酒は飲んでも飲まれるな。

 つまりはそういうこと!


「あーあ、それにしても、何度思い出しても気分が良いな!」

「んー?」

「あのオークどもさ! 今までずっと、連中にはさんっざん煮え湯を飲まされてきた! 殴っても蹴っても切っても突いても潰しても全然駄目! 何をしたってケロッとしやがって、物量で押してようやく動じさせることができるんだ! そりゃあアタシらにとっちゃオークの単調で力任せな攻撃なんざ屁でもないが、それにしたって限度はあるし、フラストレーションが溜まるってもんさね!」


 お酒の入ったグラスを煽り、空っぽのそれを机にダンッとたたきつけるようにしてノラさんは置いた。

 グラスが割れていないから、行動こそ乱暴なように見えるけれど、力加減がちゃんとされているのはわかる。


 頬杖をついたまま私もまた一口、お酒をこくりと嚥下して、うんうんと相槌を打ち続きを促す。


「でも、今日は全然そんなことなかった! ヴィルの魔法でバンバン倒して、燃やして、あっという間に動かなくなる。正直めちゃくちゃスカッとしたよ! これで魔法付与の物理が効くなら言うことなしなんだけどねぇ。……ま、その辺はまた今度か。今日あれだけ狩っておけば、連中も少しは警戒して慎重に行動するようになるだろ!」

「えー? でも、オークって知能低いって話じゃん? 大人しくなんてなるかなー?」

「そん時はそん時! っていうか、ヴィルがこの町に居るなら、そこまでピリピリしなくたっていいやって思ってる。だって魔法の使い手さえいれば、連中は普通のオークとたいして変わらないんだし? あれだけ自由に魔法が使えりゃ、怖いもんなしさ!」

「そうかなー?」

「そうとも! ヴィルならフォンにも負けず劣らず、早々にDランクに上がれるよ。このアタシが保証する! ……というか、最低ラインの受注クエスト数さえ達成しちゃえば、飛び級もできるんじゃない? 初級規模の魔法であんな芸当ができるならCランクは確実だな。上級魔法が安定して使えるか、中級でも初級並みに応用が利くならBランクも行けるかも? まさに大型新人あらわる! って感じかねぇ?」

「──」


 ニッと笑うノラさんはそう信じて疑っていないようだった。

 私が昇級することを確信し、それが嬉しくて仕方ないというような、楽しみでしょうがないというような、そんな笑顔。


 だから私は、つい、曖昧な笑みで言葉に詰まってしまって。


「? ヴィル?」

「……いやぁ、それは流石に無理でしょー? いくらここが実力主義のギルドって言ったって、ねぇ?」


 超ド級の爆弾を抱えてるからCランクまでしか上がれないです! とか、そんな暴露はできないし。

 というかしちゃいけないし。


 だから私は及び腰なセリフを吐くことで、不思議そうに首を傾げたノラさんも、ぎゅうっと締め付けられるみたいな苦しさを主張する胸も、誤魔化しちゃうことにした。


「でも」

「『でも』?」

「私は、……すぐには、高ランクには上がれないけど……いつか、ノラさんに追いついて……肩を並べられるようになれたらいいなぁ……」


 虚実を混ぜ込んだ本音を吐き出し、にへらと笑う。


 ……ああ、まずいな。

 めちゃくちゃ眠くなってきた。


 一日中、森の中を動き回って、夜遅くまでお酒をカパカパとハイペースで飲んでいたツケがここに来て襲ってきたらしい。

 せめて片付けて自室に戻ってから、と頭の中の冴えた部分が考えるけど、急激な眠気に飲み込まれてすぐに塗りつぶされる。


 ノラさんがどんな顔をしているのかも、何かを呟いたことにも気付かないまま、私はまどろみへと身を委ねた。

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