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魅了の魔法が解けたので。  作者: 遠野
新人編

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19 ちぐはぐアバンチュール(5)


「うっっっわ……」

「オークを見るのは初めてかい?」

「うん、実物はこれが初めて。……あんな見た目してるんだね?」


 草葉の陰から、ノラさんと一緒にオークを観察する。


 力自慢が特徴の魔物だけあって、その巨体は筋骨隆々。

 潰れた鼻のお世辞にも褒める箇所が見つからない顔は、なんというか、やはり人に近い姿かたちをしているとはいえ人外なんだな……と思わせるものがある。


 黄ばんだ不揃いの歯が鋭い牙だとか、エルフほどじゃないけど尖った耳だとか、そういうところ。

 やっぱりギルドで見せてもらったスケッチを見るだけじゃ駄目だな、としみじみ思う。


 私も苦手な方だからあまりとやかく言えないのだけど、ギルドに資料として置いてある魔物のスケッチは写実的じゃなくて、資料としては少し弱いんだよなぁ……。

 そのわりに植物のスケッチは細かくてわかりやすい解説付きだったから、恐らく過去にギルドに所属していた植物のスペシャリストが残してくれたものなんだろう。


 ……。

 ……、……。


 せめてスケッチだけでも、その人に描いてもらうわけにはいかなかったのだろうか……。


「見た目は普通のオークと一緒なんだっけ?」

「そうそう。でも、この辺りに出てくるヤツだけ、びっくりするぐらい攻撃が通らない」

「なんでだろうね?」

「今まではそれすら調べる余裕もなかったからねぇ」

「あー……」


 それもそうか、余裕がなくて数の暴力しか手段がなかったって言っていたし。


「あれ? そういえば、どうやって魔法が弱点だってわかったの?」

「前に一度だけ、他所のギルドのヤツが手伝ってくれたことがあったのさ」

「その人が魔法の使い手で、あっさりオークを倒しちゃったってこと?」

「そういうこと。……いやー、あの時ほど拍子抜けしたことはなかったよ」


 遠い目をして哀愁漂う笑みを浮かべる姿に、普段の苦労とオークの魔法耐性のなさが察せられる。


 ちょっと迷って、励ますように背中をぽんぽんと叩くと、ノラさんは気恥ずかしそうに笑った。うっ可愛い。


「まずははぐれの個体を探して、ヴィルの肩慣らしをしよう」

「はい」

「大丈夫、アイツらの魔法に対する弱さは折り紙付きさ。それに、万が一ミスしてもアタシがフォローに入る。一対一じゃ勝てないけど、負けもしないから安心しな」

「が、頑張る……!」


 今度は私が背中を叩かれる番だった。

 それが私を安心させるためだとわかっていても、流石に緊張はぬぐえそうにない。


 ノラさんの実体験からオークが魔法に弱いのは確実だけど、なにぶん、Eランクの私が相手したことがある魔物は小鬼ゴブリンのような小物しかないので。

 おいそれと冒険者のランクを上げられない立場にいるため、圧倒的に実戦経験が不足しているのだ、わたしは。


 ノラさんと二人、オークの群れを観察していた場所からそっと離れる。


 はぐれの個体は五分ほど歩き回ったところで発見したのだが、そいつはこちらに気付くことなく、ずんずんと一抹の迷いもない様子である方向に向かって歩いていた。


 ……このままヤツを見送れば、間違いなく町に現れ、略奪をするだろう。

 素人目からでもそう確信させるオークの動きに、ノラさんからGoサインが出た。


 やられるまえに殺れ、と。


 さて、今更の説明になるが、ここは草木が茂る森の中。

 火の扱いを間違えればあちこちに燃え移り、火災待ったなしのフィールドである。


 普通ならこの条件で火の魔法は使わない、と判断するところだけど、今回はそうもいかない。

 というのも、以前あのオークを倒した魔法の使い手は火の魔法を使っていたとノラさんに聞いたからだ。


 あのオークに火属性以外の魔法も有効なのかわからない以上、初手は確実に仕留めるためにも、前例のある方法を試したい。

 そんなわけで、わたしはヤツを火で炙るか燃やすつもりでいる。


 しかしながら、規模の大きい魔法でドカンと一発、なんて見境ない真似をして災害に発展させるつもりはない。

 ここはそう、初歩中の初歩である小火を出す程度の魔法に留めつつ、なるべくサクッと片をつけたいところだ。


 そこで。


蛍火ほたるび


 オークの身体のあちこちに、同時多発的に火を出現させる。


 ウィロウは同時にいくつもの魔法を展開させるのが得意だったから、その感覚は今も身体に染みついている。

 おかげでこういう芸当だってできてしまうわけだが……うん、なかなか良い感じだ。


 突然ボッと燃え出した身体にオークは慌てふためき、どうにか消そうと火を叩いたり、地面を転がったりしているけれど――


「ざーんねん、消えたらまた点けるだけだよ」


 火の勢いが弱いから、少しずつ、少しずつ、けれど着実にオークは身を焼かれ、その動きが鈍くなっていく。

 かなり加減したとはいえ、魔法耐性がまったくないからだろう、数分と経たないうちにオークの巨体は真っ黒な消し炭に変わり果てた。


 あとは仕上げに死体を消して……と。

 うん、これで良し。


 なんだ、これなら確かに楽勝だ!

 二、三匹の群れが相手でも、ウィロウの力があれば余裕でなんとかなりそう!


「……あのさ、ヴィル。喜んでるところ悪いんだけど、思いっきり討伐証明のこと忘れてるだろ?」

「あっ」


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