表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魅了の魔法が解けたので。  作者: 遠野
新人編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/134

06 はじまりを照らす一番星(1)


 窓から差し込む朝日で目が覚めた。


 抜けやらぬ疲労感で起き上がるのは非常に億劫だが、今日は駆け出し冒険者・ヴィルの最初の一日。


 一年の計は元旦にあると言うように、物事は何事も最初が肝心だ。

 今日だけは何がなんでも二度寝と寝坊をしてなるものかと、気合で身体を起こし、前世の癖でぐっと一つ背伸びをする。


 パキッと小気味のいい音がしたのには、思わず苦笑が漏れてしまった。

 ……お嬢様ウィロウには縁遠いことだっただけに、つい。


 昨晩はパトリシアさんにギルドを案内してもらったあと、楽しみにしていた夕飯もそこそこにベッドに入ってしまった。

 なにぶん先代様のお屋敷を出発してから、ギルドに無事に到着することだけを念頭に行動していたので、それまでろくな休憩を取っていなかったのだ。


 ギルドに着いて、ヴィルの戸籍を得て、冒険者という確かな身分を得たことで、緊張の糸が完全に切れたのだろう。

 気力体力ともにへとへとのへろへろ、まさに疲労困憊に等しい状態で、一刻も早く身体を横にして休みたかった。


 ……ほかの冒険者とかギルド職員からの視線がとても鬱陶しくて、さっさと酒場兼食堂から退散したかったのも一理ある。


 鉛のように重い身体を動かし、身なりを整える。

 いくら魔法で身体能力の強化をしていたとはいえ、ほぼ半日、まるっと歩き通したのは流石に良くなかったかもしれないと、今更ながらに反省した。


 幌馬車に拾われてからはいくぶん楽ではあったが、今度は体幹と揺れとの勝負に変わったので、それはそれでしんどいものがあったのは確かだ。


 魔法は便利だけど、便利だからと言って頼りすぎも良くないのだろう。

 用法用量をきちんと見極められるようにならなくちゃいけないな、と考えて……。


「……いや、待てよ?」


 ファンタジーの魔法と言えば、回復ないし治癒魔法がつきものだ。


 この世界では治癒士と呼ばれる人たちにしか使えない、かなり特殊な部類の魔法なのだが……その気になれば、才能の塊であるウィロウにも使えるのでは?

 盗聴防止魔法なんてものを偶然とはいえ編み出しているわけだし、案外いける気がする。


 かつてウィロウの中で聴いた講義によると、この世界の魔法は理論の理解・術式の構築・詠唱による発現の三工程を経て成り立つとかなんとか。


 だが、魔力が潤沢にあるからなのか、はたまたウィロウの才能によるのか、あの子は詠唱を省略した二工程でぽんぽん魔法を使っていた。

 私が無詠唱で魔法を使えるのも、恐らく、いや確実にウィロウからの恩恵によるのだと思う。


 そして、偶然の産物である盗聴防止魔法。


 あれは王太子を怖がるウィロウが極限状態で発露させたもので、そこには理論の理解も術式の構築も何もなかった。

 ただ、あの子の強い願い──『誰にも聞かれたくない』『今の自分の状態を知られたくない』という祈りがかたちになっただけ。


 そこから推測するに、魔法を使うのに必要なのは本来、理論でも術式でもなく願いや祈りといったものなのではなかろうか?

 事実、私は後者を重視する方法で髪の色を変えてしまったわけだし、あながち間違いでもないように思う。


 ウィロウが保有する魔力量が多いからこそできる、ある種のチート行為かもしれないが、ほかの人に試してもらったことがないので実際どうなのかはわからない。

 でも、ウィロウにも私にもできたということは、理論・術式・詠唱の三工程は絶対に必要なわけじゃないのかも。


 誰にでも魔法が使えるようにと、お行儀よく体裁を整えた結果として、あの三工程が確立されただったりして?

 ……まあ、あくまで素人の推論でしかないんだけど。


 閑話休題。


 ずいぶん話が寄り道してしまったが、要は『今の私なら理論も術式も知らなくても、回復魔法が使えるんじゃないか?』という仮説がある。


 魔法に必要なのは強い願いや祈り。

 そこに加えて、自分が求める結果をより鮮明に、具体的にイメージすることができれば、魔力が魔法として発露してくれるはず。


 ……そもそも、魔法というのは不可能を可能にする、ゼロからイチを生み出す力。


 なら、『ちょっと無理かも?』と思うような事柄だってアッサリ実現させられるに違いない!

 いけるいけるできるやれる!


 ということで、目標は弱体化デバフの解除。

 前世で遊んだゲームの中に『疲労』だか『過労』だか、そんな状態異常があるモノがあったからだ。


 ……いやアレ、今こうして思い返してみても、だいぶ戦闘システムやら状態異常が特殊なゲームだったな。

 特に状態異常なんて、やたら凝っているというか、種類が多いというか……おまけに自然回復しなかったり、対応のスキルじゃないと回復できないのとかあったし。


 そこがひとつの醍醐味でもあったけれど、今はそれだと困るので、ひとつの魔法であらゆる状態異常を解除・回復できるのがベスト。

 ああ、それだと、アレとは別のゲームの魔法をイメージした方が良いかな──


「……うっわ、やっぱウィロウって才能の塊だったんだ」


 実感した明らかな変化に、無意識の呟きがこぼれる。


 ……先ほどまでの身体の怠さが、嘘のようにまるごと消えてしまった。


 手足を動かすのが辛くないし、一挙一動に対するぎこちなさやのろさも今やサッパリ。

 なんなら尾を引く眠気であったり、精神的な疲労感もなくなってしまったように思う。


 えっ待ってこれ便利すぎるのでは?

 疲れても疲労を消せるなら、二十四時間、不眠不休で動き続けて徹夜なんかもできちゃったり……?


「……。……、いやだめだろ!?」


 良くない方向へ向かう思考に歯止めをかけ、セルフツッコミを入れる。


 しまった、ほんの思い付きで恐ろしい社畜製造魔法を編み出してしまった……!

 これはよほどのことがない限り、疲労回復を目的に使うのはやめておこう。


 ブラック労働ダメ、絶対。


社畜製造魔法というパワーワード。


作者は今日からお盆休みですが、読者の皆様はいかがでしょうか?

拙作が夏休み・お盆休み中の皆様にとってはほどよい暇潰し、お仕事の真っ只中な皆様にとってはちょっとした息抜きになれば幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ