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魅了の魔法が解けたので。  作者: 遠野
嘲弄編

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35 そして魔女はわらう(4)


 ──とまあ、真面目な話はここまでにして。



「気持ち悪……」

「えっ」



 ストーカーというか、変態じみた発言は普通に気持ち悪い。

 向こうは『心外!』と言うように驚き戸惑っているようだけど、これに関してはどう考えても私の感性の方が正常だと思う。



(風君に似たようなこと言われた時は平気だったんだけどなぁ……)



 まあ、彼の場合は本人が意図せず気付いてしまった、というのも大きいだろう。

 いかにも不本意そうだったし、なんなら『こんな厄介なこと気付きたくなかった……』と言いたげな雰囲気だったし、偶然ならまあ仕方ないよねって感じで。


 ちらっと聞いた話では、確か、実家が医療関係の仕事をしてるとかなんとか?

 風君自身がそういった仕事に関わったことはないらしいけど、家業がそうだって言うんなら、知らず知らずのうちにその手の知識をおぼえていた可能性もあるだろうし……骨格がどうこう、みたいな話をされたことについても『あーなるほど』と納得したくらいだ。


 でもほら、この子は違うじゃん?

 明らかにウィロウを見つけるために、私を観察してたわけじゃん?

 ……付け加えるなら、私を見つけるまでにウィロウと同じ年頃の女の子や、似た背格好の女の子ないし女の人の身体を舐め回すように見ていたってことじゃん?



(気色わる……)



 全身にぞわぞわと鳥肌が立って、思わず両腕を摩ってしまった。

 そんなことをしてもなんの意味もないのはわかっているんだけど、なんというかこう、条件反射的というか、気休め的な……?



「……君は、誰?」

「うん?」



 どうにかドン引きする自分を落ち着かせようと宥めていれば、戸惑いの表情から一転、訝しげにこちらを見据える王太子が問いを投げかけてきた。



(君は誰、と来たか)



 なるほどねぇ。と腕を摩る手はそのままに、スッと目を眇める。


 警戒、疑心、苛立ち。ウィロウには決して向けない感情を孕んだ目。

 問いかけの声は低く、刺々しく、完全無欠・完璧無比のお優しい王太子殿下からは到底かけ離れたもの。



(なんなら憎しみとか恨みとか、そういったものまで向けられてそう?)



 ――まるで敵でも見ているかのようだ。なんて思ったけど、あながち間違いでもないんだろうね。


 だって彼は、少なくともこの身体がウィロウのものだと確信している。

 牽制のために『威圧』に使っている魔力がウィロウのものだと確信している。



(だから私の正体を尋ねてきたんでしょ?)



 身体も魔力もウィロウのもの。それは間違いない。

 なのに自分と言葉を交わしている相手が、ウィロウではない『別の何か』だってことに、今になって気が付いたから。



身体(入れ物)の方にはすぐ気付いたのに、精神(中身)になかなか気付かなかったのは不思議な話だけどさぁ……)



 誘拐、あるいは拉致をするなら、普通そこまで確認してからじゃない?

 そういうところが私、本当に嫌なんだよなぁ……。


 自分の中にある偶像としてのあの子――魅了の魔法で抑圧して、自分の好きなように捏造したウィロウのことしか見えてないっていうか、そもそもウィロウ個人に対する興味がないっていうか。そんな感じがする。



(……マ、そりゃそうか)



 そうじゃなきゃ十年間も婚約者を洗脳して縛り付けようなんて考えないもんな。

 考えるだけならまだしも、踏みとどまらずにアクセル全開で実行してる時点で、この子の人間性なんてお察しというやつだ。


 期待するだけ無駄無駄。

 ……元から期待なんてしてなかったけどね!



「誰、と言われましても。私はただの、しがないDランク冒険者ですよ」

「とぼけないでくれないかな。君は『自分はウィロウと別人だ』なんて言うけど、その身体は間違いなくウィロウのものだよ。ぼくがウィロウを見間違うはずがないんだから、それは絶対だ」

「はあ、左様で」

「なのにどうして、君がそこ(・・)にいる? それは間違いなくウィロウの身体なのに、そこにいるのはウィロウじゃない。ウィロウがいない。代わりにいるのは君だ。……ねえ、なんで?」

「……」

「ぼくを決して傷つけない、ぼくが傷つくようなことは言わない、ぼくを決して拒絶せずにぼくのすべてを受け入れてくれるやさしいあの子はぼくを目にするだけで嬉しそうに笑って触れ合うだけで幸せそうにはにかんでいつだって蕩けるような甘い瞳でぼくを見つめてくれるんだ。ぼくがほかの女に興味を持ったふりをすれば嫉妬して悲しんでそれでも一心にぼくを好いてぼくだけを見つめて傍にいてくれて、それで……ずっとぼくの傍にいるって、ぼくのことを好きでいてくれるって彼女は約束してくれたのに――ねえ。なんでお前が、ぼくの大事な大好きなウィロウの身体を乗っ取って、好き勝手してるの?」



 一歩、また一歩と、王太子はこちらの『威圧』を跳ねのけて近づいてくる。


 いやー……もうちょっとまともに会話ができるかなぁ、とか、何を考えているのか聞き出せないかなぁ、とか考えて黙って話を聞いていたのに、思った以上にあっさりプッツン切れるなんてメンタル雑魚すぎて草も生えないんですが?


 瞳孔かっぴらいて、おくすりをキメてそうな目で、じりじり距離を詰めてくる。

 肌がピリピリして、うなじのあたりがざわざわするのは、王太子がウィロウの身体を乗っ取った(暫定)私に向けて『威圧』を使っているからだろう。


 ……ここまで自分が『威圧』を受けていることがはっきりわかるのって、おじいさまが無意識の『威圧』を使っていた時以来だから、なんだかんだやっぱり王太子もそれなりに魔力保有量が多いんだろうなぁ。なんて。

 そんなことをつらつらと考えていると――



「!」

「早くその身体から出て行って、ぼくに彼女を返せよ!!」



 私の胸倉を乱暴に掴み上げて、彼は恫喝をしてきた。

 直前に息を吸い込んでいたから、怒鳴られることは予想できていたといえども、さすがにちょっとびっくりしている。


 だってほら、みんなの理想の王子様が声を荒げるところ、私も初めて見たし。

 ……私の中であの子も怖がっているような、なんとなくそんな感じもするし。



(らしくもなく乱暴な手を取ってきたことは意外ではある、――けど)



 まー、だからって私までもが萎縮して?

 王太子の大人しく言うことを聞くとか?

 そんなことは天地がひっくり返ってもありえないんですけどね?

 

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