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魅了の魔法が解けたので。  作者: 遠野
嘲弄編

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21 月になんて返さない(3)

 さて、肝心の作戦会議を始める前に、ここでいったん改めて現状確認をしておこうと思う。

 私が把握していることと、風君が把握できていることがどこまで一致しているのかわからないし、お互いの持ちうる情報に齟齬がある状態でいきなり作戦会議を始めた結果とんでもないことになりました! なーんて話になったらマジで笑えない。

 私は私自身と、今はまだお休み中のウィロウのために、なんとしてでも王太子に捕まるわけにはいかないのである。


 まずは何より、私が王太子に捕捉されてしまったこと。

 依頼者夫婦を娘さんが待つ店に送り届けた時点ではまだ、ギリギリ見つかっていなかったけれど、風君たちと合流した直後には確実に見つかっていたと考えて間違いない。

 ノラさんに『来ちゃった☆』されて動揺する同士をなだめている間、ずっと視線を感じていたし、背筋もぞわぞわしていたし……。

 なんならいっそ、同士に対する敵意ないし害意すら感じたほど。


 風君が私の隣に来て視線を遮る壁になってくれてからは、多少マシになったかな? という感じだった。

 ただ、私が『マシになった』と感じたのは風君が物理的に視線を遮ってくれたことのほかに、同士に向けられていた険のある鋭さが風君へシフトしていたから……というのも理由だと思ってる。


 たぶん、私……というかウィロウと同士にはそこそこ年齢差があることと、同士が明らかに私じゃなくてノラさんに対して好意を持っていることがわかったから、あの子的にはそこまで警戒する必要がないと判断したからだろう。


 そしてそのぶん、警戒の対象が風君に移った。


 風君はウィロウや王太子よりもひとつ年上だけど、それくらいの年の差なら男女の仲には全然問題ない。

 加えて私に対して気安いし(もちろんいい意味で)、私に対して少なからず親愛の情を抱いているし、私自身が風君に対して気を許していることもあって、王太子の中では間違いなく敵だと認識されているとみていいはずだ。

 その結果があの、私たちの神経を逆撫でるような視線ってわけ。



「ここまではいい?」

「ああ。……その上で警戒すべきは、あの執着の強さからヴィルが狙われるパターンと、嫉妬や逆恨みによって俺が狙われるパターンのふたつだな?」

「さすが。こっちから何も言わなくてもそこをわかってくれるなんて、やっぱり風君は貴族社会でも生きていけそうだね?」

「冗談でもやめてくれ……」



 とまあ、ちょっとした軽口で風君をげんなりさせたところで本題に戻るけれど、これから私たちが危惧すべき可能性はまさにそのふたつ。


 割合的にはやっぱり、私が狙われる可能性の方が高いんだろうけどね。

 なんせ王太子は依存先(ウィロウ)という精神安定剤を欠いて日が長く、精神的にも立場的にもギリギリの綱渡り状態。

 今はなんとか、手当たり次第に代替品を用意することで、首の皮一枚を無理やりつなげているようなものなんだと思う。


 だからこそ、あの子は一刻も早く、ウィロウを自分の手元に取り戻したがっているはず。


 魅了が解けてウィロウが心変わりしたことには薄々勘づいているかもしれないけれど、中身がすっかり変わっていることには気付かずに、宿に戻って来るまで私たちをストーキングしていたのがその何よりの証拠だろう。


 ただねぇ……。私たちの様子を見ていた王太子がもし、ウィロウが逃げ出した理由は風君にある、なんて勘違いをしていたら話はまた変わってくるんですよ。


 あの子自身の心の安寧と、やべー方向にすっかり突き抜けて歪んでしまっているけれど、初恋の情を優先させて私を狙うならまだいい。

 でも、もしも王太子が風君を自分の恋敵だなんて、そんな誤認識してしまったら。

 ウィロウを自分の元に取り戻すためには風君を排除しなければいけないとか、他人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られてなんとやらだよね? ……なんて、逆恨みに走る可能性もなきにしもあらずってのが怖いところ。


 繊細過ぎるくらい繊細で、周囲の期待の応えようと必死になるくらい、優しい気質の子ではあった。それは確か。

 魅了の魔法なんてものを知ってやべー方向に突き抜けてしまったけど、元々は自分のために他者を害するとか、そういうことができるタイプの子ではなかったんだよ。

 だからこそ自分の中に溜め込んで、溜め込んで……溜め込んだものが爆発した結果の今、という感じではあるんだけど。



(初恋の女の子に魅了の魔法なんてものをかけた時点で、箍が外れちゃったんだよなぁ)



 自分のために他人を犠牲にすることをおぼえて、その心地よさを王太子は知ってしまった。

 これまではその対象がウィロウ一人におさまっていたから露呈しなかっただけで、(ウィロウ)という楔が逃げ出した今、王太子の自分勝手すぎる自己愛はもう暴走の一途を辿るしかない。



(はてさてどうしたものかな)



 風君が味方であってくれるのはありがたいけれど、私の都合に巻き込んで怪我をさせるのは本望じゃない。

 かといって、今のあの子の正常じゃない思考を推測・誘導するのもだいぶ難易度が高いし……うーん、これは困った。

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