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魅了の魔法が解けたので。  作者: 遠野
嘲弄編

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18 さあさお立ち会い!(6)

 こんがりトーストされて小麦の良い匂いがするバケットに、皮はパリッと香ばしく、身はじゅわっと肉汁があふれるくらいジューシーな鶏肉の香草焼き、野菜の甘さとチーズの塩気がお互いを引き立て合う彩り野菜のグリルと、にんにくの匂いが食欲をそそるプリッとしたきのことシーフードのアヒージョ、エトセトラエトセトラ……。


 次々運ばれてくる料理は見た目からして美味しいし、匂いも『これはもう間違いなく美味しいでしょ!』って確信させる匂いだし、おっとよだれが……なんてことにならないように気を付けるのがなかなか大変だった。

 とはいえ、私以上に腹ペコの風君と同士がいたので、まだかまだかと言うように料理を見つめてそわそわする二人を見たらスッと落ち着いてしまったんだけどね。

 どうも自分で自覚していた以上におなかがすいていたんだろなと思ったし、『自分より取り乱す人を見たらかえって落ち着く』の理論が空腹のときにも通用するんだなぁというわりとどうでもいい気付きを得た。

 ……それはそれとして、落ち着きのない私たちを見てノラさんがおかしそうに笑うものだから、それだけがとても恥ずかしかったです、はい。


 料理と飲み物がそろったところで乾杯をしたら、あとはもうめいめいに気になる料理に手を伸ばして、気に入ったものがあれば勧めて勧められて、思い思いに空腹を満たしていく。

 最初は「おいしい!」とか「うまい!」とか感想を言い合っていた私たちけど、それからすぐに、なんだか感想を言っている時間すらも惜しいような気がしてしまって。料理が冷めてしまう前に食べてしまおうと、お互い示し合わせるでもなく黙々と無言で料理をおなかにおさめていけば、このお店を紹介してくれたノラさんも満足げな様子でジョッキ片手ににっこり。


 ある程度おなかを満たすとゆっくり会話する余裕も出てきて、同士たちはどんな用事で王都に来てたのかとか、何日くらい滞在予定なのかとか、そういう話をちらほらと。

 曰く彼らはウチのギルドの報告書を王都にある冒険者ギルドの本社……元締め……うーん、どう言い表すのが一番適切なのか難しいところだけど、とにかく国内全体の冒険者ギルドの取りまとめをしているところへ提出しがてら、年末のマーケット観光に来たらしい。

 まあ、それはあくまでも表向きの理由っていうか、風君が王都に来るために使えるちょうどいい方便だった……って感じなんだろうけどね。

 はたして風君がどこまで同士に話しているのか気になるところだけど、私の事情については吹聴しないと約束してくれているし、上手い感じに誤魔化したはず。

 大丈夫だいじょうぶ、風君は同性相手にはちゃんと喋れるし、クソ真面目ではあるものの馬鹿じゃない。

 ――私にとってのノラさんが彼にとっての同士だから、下手にあいつに迷惑をかけるような迂闊な真似はしないって確信してるんだ。



「ねー、ヴィルってこれも作れる?」

「これって、アヒージョ? めちゃくちゃ簡単お手軽レシピだし余裕でいける」

「やった! じゃ、こっちでヴィルの好きそうな甘いお酒は用意しておくから、おつまみはよろしく!」

「任された! 具材はなんでもいい? ここのやつはシーフードときのこだけど、海が遠いウチのギルドでシーフードは難しいから、作るならソーセージにしようかなって思うんだけど」

「ヴィルが作る料理にハズレはないからね、任せた!」

「今のところはたまたま全部ノラさんの口に合ってるだけで、ハズレも普通にあると思うけどねぇ。でも、そう言ってもらえて嬉しい。……うーん、好きに任せてくれるなら、カマンベールチーズも入れちゃおうかな」

「……いやこれ、チーズなんて入れたら溶けちゃうだろ?」

「それがいいんだよ。とろっとろになるし、ガーリックオイルのいい香りもするし、カリカリになったにんにくと一緒にバゲットに乗せて食べると……」

「乗せて食べると……?」

「飛ぶ」

「よしやろう」



 なるほどノラさんはアヒージョがお気に入りかぁ、確かに注文する時も一番最初に頼んでいたっけ? なんて考えながら、軽く食材の相談も済ませてしまうことに。

 私たちは基本的に好き嫌いがないけど、せっかく食べるなら美味しく、好きなものを食べたいわけで、こういうちょっとした事前の相談が大切なんだよね。

 というわけで、前世で試してみてやべーくらい美味しかったチーズのアヒージョを提案。

 私のプレゼンを聞いてごくりと唾を飲むノラさんにさらに真顔で返せば、即答で乗ってきてくれた。わぁい。


 きっとノラさんなら乗ってくれるだろうな~と予想できていたリアクションとはいえ、がっちりハートを掴めた実感があって、これには思わず私もにっこりしちゃうな!

 個人的にはブロッコリーとかじゃがいもを入れたアヒージョも好きだから、一緒くたにして作るか、スキレットを分けて二種類にするか……ううむ、ちょっと迷いどころだ。

 私一人で食べる分には全然気にしないし、少し小さめのフライパンでまとめて作ってしまうところなんだけど。



「……ヴィル」

「なに、どしたの風君?」

「俺も食べたい」

「はいはいはい! 俺も! 俺も食べたいです先生!!」

「やかましいぞそこのムキムキ」

「アタシは構わないけど、ヴィルは?」

「この二人ならヘーキ。あ、でも食べたい分の食材調達はしてきてもらうから、そこんとこよろしくー」



 とろとろのチーズに惹かれたのかなんなのか、うっかり釣り上げてしまった二人に関しては、ノラさんからのオーケーも出たので責任もって受け入れることに(ただし最低限同席の条件は付けた)。


 ……まーね、全員ある程度は気心の知れた相手だからって言うのも大きいんだろうけど、案外この面子で食卓を囲むのは悪くないなって思える雰囲気の良さとか、居心地の良さがあったからさ。

 またの機会があるなら、一緒にのんべんだらりとおしゃべりしながら食べられたらいいな、とは、思ったりするよね。

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