#187 特殊体質女子と友人のいる試合、開始前はそれなり
早速始まった、今年の突発イベント枠、節分大会は、かなりの盛り上がりと共に始まった。
俺と朝霧が出場するまでの第一~第四試合までは、なんというか……まあ、色々とアレだった。
まず、事前の予想では鬼の方が不利だと思われていたし、人数の多い豆投げ側が有利だろうと思われていたんだが……いざやってみると、案外接戦だった。
豆投げ側の拠点は合計で三か所あるようで、この三つが落とされたら問答無用で豆投げ側の敗北となる。
なので、敗北しないためにはその拠点三か所を守る必要があるし、同時に勝利するためには鬼を倒さなければいけない。
つまり、防御と攻撃、二手に分かれる必要がある上に、防御側はさらに三手に分かれる必要があるということでもある。
45人を最低でも四分割する必要がある、というわけだな。
とはいえ、鬼側は豆投げ側に対して武器が金棒という近接武器しかないので、豆を投げてくる豆投げ側に対してはかなり不利なんだが……そこはお助けアイテムの存在が大きかった。
「あれありなのか……」
試合を見ている際に、思わずそんな言葉が出てしまうくらいには。
というか、もうそれでいいだろ、という感想を抱いてしまうアイテム、その名も傘。
前方に傘をさしてるだけで、豆は当たらないだろう。
いざ開始して判明したんだが、鬼側が脱落する条件は、豆に合計で三回当たることらしい。
ただここで言う一回というのは、一回で投げた複数の豆が二個以上当たったとしても、それは一回としかカウントされず、最低でも三回の投擲を必要とするらしい。
あと、判断は裏で審判をしている先生たちだそうだ。
どうりで体育館に先生たちがいないわけだ。
審判なんてしてたら、来られるわけがない。
アウト判定になった生徒については、放送でアウトと言われるらしい。
あと、カーテンを使う生徒が地味に多かった。
カーテン便利だな……。
そのためか、序盤はカーテン争奪戦という、わけのわからない状況になっていたりする。
節分大会とは。
とまあ、各試合はかなり盛り上がり、体育館内もそれはもうお祭り騒ぎだった。
そうして、第五試合が行われる時間となり、俺と朝霧は椎菜に一言告げてから更衣室へ。
「……考えてみれば、この体で更衣室に来るの、初なんだが……」
「そう言えばそうだね。柊ちゃんが柊ちゃんで来たのって、三学期が始まってすぐの頃だっけ」
「そうだな。かれこれ……一ヶ月弱は男だったことになるな」
「そっかー。あたし的には、もっと女の子でいてくれてもいいんだけどなー?」
「それは勘弁してくれ……」
「あはは、冗談冗談。で、柊ちゃんは椎菜ちゃんとは違って恥ずかしがらないんだね?」
「……いやまあ、恥ずかしいし、極力見ないようにしてるし、周囲の音も聞かないようにしてるぞ」
「おー、さすが紳士」
「というか、俺は男の時もあるのに、女子更衣室で着替えていいのか……?」
「いいんじゃない? 実際問題、柊ちゃんはその辺り許可だされてるし。女子から」
「おかしくないか???」
普通に考えて、俺は男でもあり女でもある、摩訶不思議な状態になっているが、それでも基本的な性自認は男だし、男の時もある。
いくら体が女になったとは言っても、さすがに中身男の奴が同じ更衣室で着替えるのとか……どう考えても嫌がると思うんだが……。
「まあ、柊ちゃんっていうか、高宮君の人気ってすごいし、他の男子と違ってがっつかないし、紳士だし、達観してるし、大人びてるしで、信用があるからねぇ。あと、高宮君自身の好みのタイプが年上だし、最低でも五歳上の人だから、っていうのもあるかな」
「あー……なるほど、それがあったか……って、だとしても普通は嫌だと思うんだがな……」
「まあ、姫月学園の人って、変な所で強いから」
「本当にな」
その辺りは、男女関係なくそうだと思う。
などということを話しながら、着替えを終える。
「あ、柊ちゃん、これ上げる」
「ん? これは……ゴムか?」
着替えを終えたタイミングで、朝霧が黒色のゴムを俺に手渡して来た。
「そそ、ヘアゴム。柊ちゃん、すごく綺麗な髪だし、結構長いからまとめた方がいいなー、って思って。これでポニテにしよ」
「たしかにそうした方がいいか」
朝霧の指摘に、たしかにと俺は頷いて、ゴムを受けとる。
「うんうん。実際、その長さで結ばないまま運動すると、ばっさばっさするし、何より今回はかなり動くことになると思うからね。ささ、結んでみて!」
「あぁ。えーと、たしかこういう感じで……」
クラスの女子や、俺の母親がやるところを思い出しながら、後ろ髪を後頭部辺りでまとめて、ゴムでまとめる。
「朝霧、これで合ってるか?」
「お、いいねいいね。バランスバッチリ! あと、普通に似合う!」
「そうか、ありがとう。……それじゃあ、集合場所に行くか」
「だね!」
◇
更衣室から出て、俺たちは校庭に出て来た。
既に第五試合に出る人がちらほらと集まっていて、思い思いに話をしていた。
「あ、先生だ」
「お、そう言えばお前らも第五試合だったか」
集合場所には、生徒の他に田崎先生もいて、俺たちの姿を見るなり、どこか楽しそうに話しかけて来た。
「しっかし、高宮がいるのか……」
「何かあるんですか?」
「いや、お前、よかったな。男じゃなくて」
「……俺的には複雑なんですが」
「そうは言うがお前、男だったら嫉妬に狂った男子共がお前を狙い来てたぞ? そう考えたら、女の方がいいだろ。少なくとも、積極的に攻撃をすることはないだろうからな」
「いやまあ、そうかもしれないですが……」
たしかに、朝のクラスメートの様子を見る限りでは、先生の言う通りなんだろうが……それが女だから、というのがどうにも複雑だ。
俺としては、中身は男なんだし、そっちの意味である程度は接してほしくはあるんだが…………なるほど、これが椎菜の気持ちか。
なんとなくで理解してはいたが、いざ自分の身となると、それなりに複雑な気持ちになるんだな。
「ちなみにだが、鬼側の方にうちのクラスの男子が普通にいるぞ。折角だし、日頃の恨みを込めて、仕返しでもしたらどうだ? 多分、スッキリすると思うぞ」
俺がなんとも言えない気持ちでいると、先生がすこし悪い笑みを浮かべて、そんなことを俺に言ってきた。
……なるほど。
「……そうか。考えてみれば、普段の理不尽なあれこれに対する仕返しもできるのか……」
「そうだぞ、高宮。お前、なんだかんだ楽しんではいるんだろうが、こういうのは仕返しをしてこそでもある。今日はそれが許されるんだ。どうせなら、思う存分やってみたらどうだ?」
「……そうですね。先生、ありがとうございます。やる気が出ました」
「あぁ。ま、お前は高校生にしては妙に落ち着いてるし、あんまし騒がないからな。今日みたいな日くらいははっちゃけるくらいでちょうどいい。ってか、私としてはあまりにも人が出来過ぎてるから、お前が心配だったんだよ」
「先生、柊ちゃんのことよく見てるんですねぇ」
「それはそうだろ、担任だからな。というか、自分の生徒のことを理解できるようにするのが担任ってもんだよ。なんせ、学校生活において、普段からよく接することになる教師だからな。当然だ」
(((イケメン……)))
先生の言葉を聞いていた人たちが、軒並み同じことを思った気がする。
というか、本当に人格者が過ぎるだろう、この人。
本当、なんでこの人に恋人がいないのかが不思議で仕方ないんだが……。
実際、美人だしな、田崎先生。
「っと、気が付けば全員いるな。よーし、お前ら一旦こっち集まれー。装備品の支給と、拠点の位置について説明するぞ」
と、田崎先生がそう言って、集まった生徒たちに最後の説明を始めた。
「まず、豆投げ側のお前たちが使うことになる豆はこれな。ちなみに、豆と言ってるが、さすがに本物の煎り大豆を使うわけないはいかないので、それを模した物だ。ちなみに、本物さながらに作られてるので、潰した時の感触がほぼ豆だ」
『『『何その豆!?』』』
「言うな。私も謎の超技術疑似豆については、頭を痛めてるんだ」
そう話す先生は、頭が痛そうに顔を顰めていた。
たまに妙な技術の物が世の中に出てきたりするんだが……本当にどうなっているんだろうか。
「で、この豆は袋ごとに入れられている。最初は全員に二袋ずつ配る。補充については、拠点三カ所と屋上、視聴覚室、それからプール前に補給所が置いてあるので、そこで補充するように。ちなみに、拠点を鬼に制圧された場合、それは補充箇所が減るということでもあるので、気を付けるように」
なるほど、拠点を取られれば取られるほど、補充がしにくくなるってことか……。
そうなると、三カ所の拠点の内、守る箇所を一カ所に絞る、というのは不利になるな……。
「それと、仮にもし、双方時間切れで勝利条件を達成できなかった場合は、残り人数で勝敗が決まるので、そこを覚えておくように」
「先生!」
「なんだ、朝霧」
「豆投げ側って、鬼よりも15人多いですけど、時間切れになった場合、向こうが不利になりませんか?」
「時間切れになった場合、鬼は残ってる人数+15人で換算するから大丈夫だ。なんで、よほどがない限りは引き分けにならない」
「ありがとうございます!」
なるほど、数の不利についてはちゃんとしてるんだな……。
第一~第四試合まで、引き分けになる場面がなかったとはいえ、何か考えてあるんだろうと思っていたが、ちゃんとあったようで安心した。
まあ、俺は豆投げ側なので、あまりに意味はないんだが。
「で、拠点の場所について。拠点はまず旧校舎の第二音楽室に一ヵ所。新校舎の家庭科室に一ヵ所。そして、柔剣道に一ヵ所となる。しっかり覚えておけよー。試合中は連絡を取り合うことはできないからな」
「スマホもダメってことっすね」
「スマホがあったら、あんまり面白くないからな。とはいえ、それ以外の方法で連絡を取るのは自由なんで、まあ、工夫してくれ。……よし、説明は終わりだな。今から十分間、作戦会議の時間を設ける。開始までに配置や合図なんかを決めておくといいぞ。じゃ、私は審判としてのあれこれがあるんで、これで。開始の合図は観戦してたから知ってると思うが、チャイムで始まるからな。ま、頑張れよー」
そう言って、先生は校舎の方へ去って行った。
「おーし、じゃあ全員一旦円になってくれ。急いで配置決めるぞ!」
先生が去った後、三年生と思しき人がそう切り出し、十分間の作戦会議が始まった。
補足ですが、実は姫月学園は敷地が結構広いです。
実際にある建物を挙げると、
・新校舎
・旧校舎
・柔剣道場
・プール
・図書館
・学食
・体育館
・校庭
・テニスコート
・野球場
となります。
結構お金があるんですよね、この学園。
あと、なんか前回のコメントで、姫月学園って姫宮家と何か関わりがあるのでは? というものがあったんですが、まあ、ないわけじゃないです。簡単に言えば、椎菜の曾祖母の辺りから分岐してる感じで、その子孫っていうか、孫の方が学園の運営をしてます。なので、実は椎菜は学園長の親戚だったりするんですが……ぶっちゃけ、当人たちは知らないです。
だって、学園長の苗字違うし、椎菜側の曾祖母の方が別の場所に移り住んじゃったからね。




