#173 休み明け、突然のメールの内容にちょっぴり困惑する椎菜
突発的に三人になった配信を終えた後、僕は三人にデザートとしてロールケーキを出して、帰る時にマンションに住んでいるほかのらいばーほーむの人たちにもおすそ分けをしてからお家に帰宅しました。
今回はマンションの人だけだったし、そうじゃなかった人たちにも今度何か作って持って行ってあげたいなぁ。
なんて、そんなことを考えつつ家に帰った後は、みまちゃんとみおちゃんに抱き着かれつつ、お風呂に入って、そのまま就寝。
その翌日。
「おはよう、柊君。あ、今日もいつも通りなんだね?」
今日も今日とて、柊君と待ち合わせをして登校。
今日も男の方の柊君でした。
「まあな。……正直に言えば、この姿で学園に行くのはいろんな意味で怖いがな……」
「そうなの?」
「……色々とな。とはいえ、俺としてはこっちの方がしっくりくるから、ありがたいと言えばありがたいんだが」
「それはそうだよ。生まれてからずっと男だったんだもん。むしろ、女の子の方がしっくりくる! なんて言われたら、それはそれで困惑したよ?」
「……それもそうだな」
仮にもし、そういうことを柊君が言ってきた場合、柊君は女の子になりたい願望でもあるのかな? なんて思ってたよ。
ないみたいだけど。
「そう言えば、LINNではもうお話ししたけど、土曜日見たよ。改めてだけど、お疲れ様」
「……本当に疲れたよ。まあ、仲良くなれそうではあるからそういう意味での心配はないけどな」
「じゃあ、他の心配ががあるんだね?」
「……俺の胃痛がな。というか俺、皐月さんから本当に胃薬がダース単位で送られてきたんだが」
「あ、あれ本当に来たんだ……」
それについてもびっくりだけど、皐月お姉ちゃんって胃薬飲む人だったんだね……。
「ちなみに、胃薬はいつでも飲めるようにポケットに入れている」
「……ほ、ほどほどにね?」
「それは周囲次第だな」
わー、遠い目してるー……。
なんというか、皐月お姉ちゃんに近い雰囲気というか、うん……顔になって来てるね……。
まだ本格的な配信は二回しかしてないはずだけど……。
でも、あんなにツッコミをしてたんだし、それも仕方ないと言えば仕方ない、のかな?
が、頑張って、柊君!
◇
というわけで、学園に到着して、教室へ移動。
『『『お前を殺す』』』
「うおっ!? って、いきなりなんだお前ら!? いや、何が原因かはわかりきってるが!」
教室に入るなり、柊君が突然男子のみんなに襲われました。
って!
「え、な、なにしてるの!?」
「チッ、外したか……!」
「おのれ、貴様いい思いしやがって……」
「まさか、あんな美味しいタイミングで男に戻るとはよぉ……温厚な俺達でも、あればかりは殺人鬼になっちまうってもんだぜぇ……」
「お前らは何を言ってるんだ!?」
「あ、椎菜ちー、危ないから中に入って入ってー」
いったい何が起こってるんだろう? とちょっぴりハラハラしていると、美咲ちゃんが僕の手を引いて教室の中へ。
「み、美咲ちゃん。なんで柊君が襲われてるの……?」
「男の嫉妬よ、椎菜さん」
「あ、瑠璃ちゃん。んっと、嫉妬……?」
「ほら、高宮君って二日前の配信で、男子一人で、他三人が女性だったじゃん? だから、羨ましぃ! ってバーサーカーになったクラスの男子たちが高宮君に襲い掛かってるってわけよー」
「……あ、えと、はーれむ? だから?」
「そそ」
「な、なるほど……あれ? でも僕も男の時もよく多くの女の子からいじられていたというか、囲まれていたけど……嫉妬されたことないよ?」
『『『椎菜ちゃんは名誉女性的な……』』』
「聞いたことないよぉ!?」
名誉女性って何!?
あと、僕ってそんな風に思われてたの!?
「先に言っておくがな、お前たちが思うようなことなんて何一つなかったぞ? そもそも、全員狂信者で、明らかに男相手に恋愛感情抱かなそうだろ、あの三人」
『『『……否定できねぇ』』』
そこは否定しようよ……。
三人だって女の人なんだし、きっと男の人相手に恋愛を………………あ、あれ? あんまりしてるイメージがないような……?
「……まあ、普通に考えて、あのレベルのやべぇ人たちを相手に一人でツッコミしまくってる時点で人外だよな」
「それな。マジで尊敬する」
「さすがスカウトされるだけあるわって思った」
「やっぱ高宮レベルの人間じゃなきゃ釣り合わねぇんだろうなって」
「根っからの苦労人だし」
「魂がすでに苦労人だしな」
「……褒められてる気がしないんだが」
『『『気のせい』』』
「ほんと仲いいな!?」
それはたしかに……。
というより、このクラスのみんなって仲いいよね。
こう、一緒におもしろおかしいことをしてる感じがあってすごくいいと思います。
変なところで団結することもあるけどね……主に、学園祭の時とか、体育祭の時とか……。
主に、僕のコスプレに対してだけどね……。
「だがしかし! 俺たちはお前に対して許せないことが一つある!」
「それ、本当に一つなのか?」
『『『……』』』
「無言になるなよ」
「ともかくだ! お前、らいばーほーむ一の常識人、たつな様直々にスカウトされたそうじゃねぇかよ……」
「まあ、そうだな」
「しかもその過程が、イベントの時に出ていたあれだろ?」
「……まあ、そうだな」
「ということは、だ。……お前、現役のモデルってことが判明してるたつな様に話しかけられただけでなく、逆ナンまがいの子とされたんだルルォ!? 許せんッ! 断じて許せ―――ん!!!」
『『『万死!』』』
「お前らそれ絶対コメントで書くなよ!? あの人、普通にあれ黒歴史だと思ってるんだからな!? っていうか、逆ナンとか言うな!?」
『『『てめぇ、そういうところだぞ! 天然ジゴロ女誑し野郎!!!!』』』
「最悪のあだ名をつけるな!?」
「というわけで、今から鬼ごっこだ、高宮ァ……!」
「安心しろ。お前の骨は拾って、たつな様の配信で5万円という大金を投げておくからよぉ……」
「なにも安心できねぇよ!?」
『『『お前をここで殺す!!!』』』
「あーもう! なんでこうなるんだーーーーっ!!??」
そんな感じのやり取りの後、柊君が教室から飛び出して行って、他のみんなが柊君の後を追って、教室には女の子だけになりました。
「ねぇ、なんか高宮君を先頭に、男子のみんなが出て行ったんだけど、何があったの?」
「あ、麗奈ちゃん。んっと、嫉妬?」
「あ、なるほどねー。まあ、このクラス……というか、高宮君が一緒のクラスだとよくあることだし、大丈夫だね!」
『『『うんうん』』』
「あの、もうちょっと心配してあげよう?」
……僕も、ちょっと見慣れてるけど……。
◇
「疲れた」
「あ、あはは、お疲れ様、柊君……」
「いつも大変だねぇ、高宮君は」
「いやまあ、ああいうのも大人になっていい思い出になるんだろうが……少なくとも、あれを平時からくらってる今の俺からすれば面倒くさいの一言でしかない」
「なら、楽しくないの?」
「……まあ、楽しくなかったらあんなのはしないな」
「なんというか、色々と高宮君も強いよね」
「慣れてるんだよ。中学の時から」
そう言いながら、柊君は焼きそばパンを一口齧る。
そう言えば、中学生の時から鬼ごっこしてたっけ、柊君。
「そう言えば、中学校の時のお友達は元気かな?」
「あー、そう言えば冬休み中にLINNが来たから適当に会話したが、元気そうだったぞ。ただ、うちの学園が羨ましいってさ」
「そうなの?」
「ほら、姫月学園は私立だし、イベントごとも多いし、割とバカ騒ぎが多いからな。それに、うちの学園は私立で学費も少し高めだろ?」
「あー、なるほど」
「私立校ってそこそこ高いもんね」
私立は滑り止めで受ける人も多いけど、何気に高いもんねぇ。
姫月学園は別に進学校って言うほどじゃないけど。
「ま、そういうことだ。公立校は退屈なんだと」
「そういえば前にそんなこと言ってたね」
「あたし公立の学校って行ったことないけど、やっぱり退屈なんだ?」
「らしいな。まぁ、それはそれで楽しいこともあるらしいがな」
「ところで、椎菜ちゃんと高宮君って同じ中学校出身なんだよね? 同じ学校の人って姫月学園にいないの?」
「いないわけじゃないが、友達って言う意味ではいないな」
「僕も。ちょっとだけ顔を合わせたことがあるかなー、ってくらいかな?」
「なるほどねぇ」
一応、姫月学園に進学した人は……んーと、僕と柊君の代だと、僕たち含めて大体10人もいなかったっけ?
中学校までは私立に行かない限りは、基本的に小学校から持ち上がるような感じだけど、高校生になると色んな学校に進学するからね。
ブー、ブー。
「椎菜、スマホ鳴ってるぞ?」
「あ、うん。メールかな?」
ふと、僕のスマホが鳴ったのでポケットから取り出して、中身を確認。
『お疲れ様です。廿楽です。明日の火曜日から金曜日の間のどこかで『アナザー・ファンタジア』のボイス収録を行いたいと考えております。本来ならば、早い段階でのご連絡をしなければならないにもかかわらず、突然のご連絡となってしまい申し訳ありません。それから、収録スタジオの関係で、午前中となってしまっており……可能でしょうか? 難しいようであれば、こちらも全力でどうにかしますので、正直にお答えいただいて問題ありません。宜しくお願い致します』
な、なるほど……。
「椎菜、誰からだ?」
「あー、えーっと……廿楽さん。なんでも、今週の平日のどこかでゲームの収録がしたいんだって」
「あ、もしかしてソシャゲコラボの?」
「うん。それで、収録スタジオの関係で午前中じゃないとダメみたいで……」
「あー、なるほどな。学校を休まなきゃいけないわけか」
「そうなるかなぁ。一応、無理なら全力でどうにかするって言ってるけど」
「らいばーほーむだから本当にどうにかしそうだな……」
「たしかに」
「あ、あははは……」
柊君の言葉に、乾いた笑いを零す。
らいばーほーむ、色んな意味ですごいもんね……。
「とりあえず、先生に相談したらどうだ?」
「……そうだね。そうしてみるよ。出来れば休みたくないから、遅刻になると思うけど……」
「それは仕方ないし、そうなったらあたしがノート見せてあげるよ!」
「ありがとう、麗奈ちゃん。早い方がいいから、ちょっと相談して来るね」
「あぁ、いってらっしゃい」
「いってらっしゃい!」
一度お弁当に蓋をしてから、職員室へ。
「失礼します」
職員室って、ちょっとだけ入るのに勇気がいるよね……。
慣れて来るとそうでもないのかもしれないけど、慣れるような状況って部活動が活発なところくらいな気がしてます。
あと、呼び出しが多い人。
「ん? 桜木か。どうした?」
「あ、先生、丁度良かったです。えっと、実は相談があって……」
職員室の中に入ると、ちょうど先生が目の前を通りがかって、そのまま僕に話しかけてくれました。
「相談か? あー、それはあれか? バイト系?」
バイト……あ。
「あ、はい。そっち関係で……」
「わかった。それなら空き教室にでも行くか」
「ありがとうございます!」
すぐに察してくれた先生にお礼を言いながら、先生と一緒に近くの空き教室へ。
「で、相談って言うのは、VTuber関係か?」
「はい。先生ってらいばーほーむがアナザー・ファンタジアっていうゲームとコラボすることって知ってますか?」
「あぁ。大晦日配信は見ていたからな。あと、そのソシャゲならちょこちょこやってるぞ?」
「先生、スマホのゲームってやるんですね?」
「そりゃ私だってやるさ」
僕の言葉に、先生は笑ってそう返しました。
そうだよね。そもそもVTuberを見てるわけだし、ゲームをしててもおかしくないよね。
「で、それを聞きたいわけじゃないんだろ?」
「あ、はい。えっと、実は今週のどこかで収録をするらしいんですけど……」
「あぁ、ボイスか。放課後にやるっていうなら私に相談する必要はないし……概ね、日中にやる必要があるってところか?」
「そうなんです。それで、その……僕がVTuberで、神薙みたまっていうことを知ってるのって、先生だけなので、その……」
「あー、そうか。公欠にしたくても難しいってことか」
「は、はい。えっと、どうすればいいですか……?」
「いや別に、公欠にすればいいと思うぞ?」
「ふぇ? え、い、いいんですか……?」
「あぁ。そもそも、VTuberという配信者とはいえ、それも立派な職業だからな。しかも、その仕事が事務所内で完結するのではなく、他社を巻き込む以上、大事な仕事だ。だったら気にせず行くといい。公欠届に関しては、私の方で学園長掛け合っておこう。なんでまぁ、今後のために桜木が企業勢のVTuberをやっている、ということは伝えなきゃならない。もっとも。どこの企業で、どのVTuberをやっているかは伝えないから安心していいぞ」
「ありがとうございますっ!」
うぅ、先生は本当にいい人です……。
あのお姉ちゃんがすごく慕ってる先生だもんね。
ここまでの先生、なかなかいないと思います……。
「気にするな。ほれ、昼休みは有限だ。さっさと戻れ。あぁ、ちなみにいつ行くんだ?」
「んっと、早い方がいいと思うんですけど、色々と準備をしたいので、明後日辺りに行こうかなって思います」
「了解だ。責任をもって伝えておこう」
「本当にありがとうございます!」
「はは、いいんだよ。ほれ、戻った戻った」
「はい! それじゃあ、失礼します!」
先生にお礼を言ってから、僕は空き教室を後にして、屋上に戻ってきました。
「というわけで、先生がどうにかしてくれるって言うことになりました」
「本当にいい先生だよな、田崎先生……」
「わかる。あたしも田崎先生ほどのいい先生に出会ったことないよ。多分、この先も出会わない気がする!」
「うん。来年も先生が担任だと嬉しいなぁ」
「「うんうん」」
そんなことをお話しながら、残りのお昼休みをのんびり過ごしました。
ソシャゲコラボの話題が出たの、今年の9月頭なんだぜ。
……どんだけ1月の話しやってんだよって話ですねこれ。
実際問題、まだ作中だと、1月15日だったりします。
あと、ソシャゲコラボ関係の話は2月辺りになる予定。
1月でやることと言えば、あとは個人配信が一回確定。記念配信、もしかすると外部コラボを書くかもです。まあ、外部は2月行きになる可能性もあるんで、なんとも言えないですね。




