閑話#44 砂糖製造機した後の柊ちゃんと椎菜の朝的な
みんな大好き! 柊ちゃん視点です!
「おはよー」
「おはよう」
「あ、おはよう! 椎菜ちゃん、それと……今日もそっちなんだね? 柊ちゃん?」
「柊ちゃんはヤメロ」
俺と椎菜が一緒に教室に入って挨拶をすると、朝霧が真っ先に反応して、俺を見るなりニヤニヤとした表情で柊ちゃんと呼んだ。
「柊ちゃん?」
なぜか俺が朝霧に柊ちゃん呼びされたということが気になったのだろう、椎菜はこてんと首を傾げながら椎菜が朝霧に聞き返す。
「うん。だってほら、高宮君の名前って、『しゅう』だけど、読み方を変えると、『ひいらぎ』になるでしょ? だから、柊ちゃん」
「あ、なるほど。じゃあ、その姿の時は僕も柊ちゃんって呼んだ方がいいかな?」
なんて、椎菜がいたずらっぽく笑いながら俺に向かってそう言ってくる。
「椎菜まで……言っておくが俺は…………いや、名前を分ける意味ではありか……?」
途中までは言わないようにと言おうとした俺だったが、ふと男女両方の姿があるのなら、名前を分けると言うのはある意味でありなのではないか、と思い直す。
一応、VTuberとしての姿も名前は分けているしな。
なんてことを口に出してしまったのが悪かったのだろう。
「はい決定! こちらの姿の時の高宮君は柊ちゃんです!」
『『『OK!』』』
朝霧の発言で、俺の呼び方が定着した。
「なんで他の奴らがノリノリになってるんだ!?」
俺と朝霧、椎菜間だけではなく、なぜかクラスメートたちも賛同した。
一体なぜだ。
「いや、その姿で柊は合わんだろ、柊ちゃん」
「そうだぞ柊ちゃん。お前は無駄に可愛い美少女なんだし、似合わんぞ柊は。なぁ、柊ちゃん」
「うんうん、その姿は柊ちゃんの方がいいと思うぞ柊ちゃん」
「お前ら柊ちゃんって言いたいだけだろそれ!? 俺はちゃんと男だからな!?」
『『『……』』』
明らかに俺に対して柊ちゃん言いたいだけの男子たちにツッコミを入れると、なぜか男子たちが俺をまじまじと見つめながら押し黙った。
「……急に黙ってどうしたんだ?」
『『『……いや、自分を男だと言い張る系TS美少女はいいなぁ、と』』』
「気持ち悪っ!?」
なに少しだらしない顔しながら言ってるんだ!
マジで気持ち悪いんだが!?
『『『ありがとうございますッッ!』』』
「くそっ、変態しかいないっ……!」
あれか? 美少女の罵倒はご褒美にしかならないってか!?
くそっ、これが女の面倒くささかッ……!
「柊ちゃん、なんでみんなは柊ちゃんにお礼を言ってるの?」
「……いいか、椎菜。世の中にはな、罵倒されたのになぜか喜ぶ変人が一定数存在するんだ」
「ふぇ? そうなの?」
「そうなんだ。だから、もし、椎菜におかしなことを言ってくる奴がいても、絶対に罵倒してはいけない。椎菜の場合は、本当に悦ばれるだけだからな」
「んっと……気持ちはよくわからないけど……うん! 柊ちゃんが言うならそうするね!」
椎菜、そこまで濁り一つない純粋で綺麗な目を俺に向けるのはやめてくれ。
なんか、俺が汚れているみたいに感じる。
それが原因で、クラスメートたちもなぜか胸元を抑えて唸っているからな。
「あぁ、そうしてくれ。あと、しれっと柊ちゃん呼び固定になったな」
「その方がしっくりくるなって!」
「あぁ、うん、そうか……」
どうやら椎菜は、女の時の俺のことを柊ちゃんと呼ぶことにしたらしい。
まあ、親友が呼びやすいならいいが……。
「でも、柊ちゃんって本当に綺麗だよね」
「わかるわかる。椎菜ちゃんの時も驚いたけど、柊ちゃんは別の方向性で綺麗だよね!」
「くっ、すごいスタイルがいいのが気になるっ……!」
「というか、まつ毛長いし、美脚だし、肌とかすべすべ過ぎ……!」
「二人ともノーメイクなんだよね?」
「うん。そもそも僕、メイクは前にモデルをした時くらいしかしたことないよ?」
「そもそも俺がしたことあるわけないだろう」
『『『これがっ、TS病かっ……!』』』
俺と椎菜の返答を聞いて、女子たちはそれはもう悔しそうな表情を浮かべた。
「柊ちゃん、女の子たちはなんで悔しそうなの?」
そして、ある意味この世の女性からすれば、圧倒的なまでに理不尽な存在の椎菜が、不思議そうに俺に悔しそうにしているを訊いて来た。
「いいか、椎菜。世の中の女性は、常に美容と戦っているんだ。俺たちみたいに、何もしなくても一定以上をキープできる存在というのは羨ましいし、嫉妬の対象なんだ」
「なるほど」
そう言って頷いている椎菜が一番反則だけどな。
背は低いのに胸は圧倒的だし、何より髪の毛もかなり長いのに綺麗で、尚且つ顔立ちも誰が見たって可愛いという評価が得られるであろうものだからな。
……いや、本当に反則だな、これ。
「地味に柊ちゃんって女の子への理解度高いよね?」
「そりゃあな」
今までに色々と経験して来たし、何よりデートに誘われることも多かったからな……。
あと、なぜか逆ナンされることもあったし、な……あの時は本当に困ったが。
「というか、朝霧は羨ましいとは思わないのか?」
「それなりには思うけど……ほら、椎菜ちゃんと比べるのって、超人気モデルと自分を比べるくらい無謀なものじゃん? そもそも比べることが間違ってるから」
「なるほどな。まぁ、椎菜は反則だから仕方ない」
「ふぇ? 僕、何も悪いことしてないよ?」
「椎菜、そういう事じゃない。そういうところで天然を発揮しなくていい」
「???」
「椎菜ちゃん、本当可愛いよね」
「え、と、突然なに!?」
「気にしないでー。って、柊ちゃん、スマホ鳴ってるよ?」
「あぁ、そうだな。音からして、LINNの方か?」
朝霧指摘され、スマホをポケットから取り出して飛んで来たメッセージを確認すると、マネージャーからだった。
内容としては、
『土曜日の17時から反省会コラボを行います。場所は事務所です。準備やらなんやらあるので、まあ、16時くらいに集合で! じゃ!』
……一期生~三期生のマネージャーがどういう人なのかはわからないが……なんか、反応が軽いんだよな……この人。
だがまぁ、16時集合ということはわかったし、忘れないようにしないとな。
『『『……』』』
「ん? なんで俺、見つめられてるんだ?」
「ひ、柊ちゃん……そのスマホの裏に貼られてるのって……」
「裏? あぁ、これか? 昨日、椎菜と一緒にショッピングモールの方まで遊びに行った時に、椎菜の提案でプリクラを撮ってみてな。それを貼ったんだよ」
「僕も貼ってるよ~。ほら!」
そう言って、椎菜がクラスメートたちにちょっと嬉しそうにスマホの裏側を見せた。
『『『――!!!』』』
それを見たクラスメートたちは、雷に打たれたかのような反応を見せ、それはもう驚愕したような表情を浮かべた。
「あれ? どうしたの? みんな」
そんな様を見たからか、椎菜はこてんと首を傾げる。
「あ、あー……どうしたんだ? お前ら」
『『『……いつの間にカップルになってたの(んだ)!!??』』』
「なんでそうなった!?」
「ふぇぇぇ!? カップルじゃないよぉ!?」
なんでプリクラを見せただけでカップル認定されるんだ!?
色々とおかしいだろそれ!
「だ、だってプリクラを撮って、お互いにスマホに貼ってるとか……どう見てもカップルじゃん!」
「もしそれでカップルが成立するなら、世の中の女性同士の友人たちが全員カップルってことになるんだが!?」
「だって、カップルが最初にすることって、プリクラって訊いたよ!?」
「誰にだ!?」
「あたしの先輩が、お友達のお父さんの妹さんの後輩の友達のお姉さんの先輩の恋人の従姉妹から!」
「それもう他人だろ!?」
完全に朝霧に一切関係ない人物過ぎるし、何よりそれを訊いた先輩も完全に赤の他人じゃないかっ……!
「そんなっ、イケメンな柊ちゃんが、既に椎菜ちゃんと付き合ってたなんてっ……!」
「付き合ってないが!?」
「でも、二人ってお似合いだもんね……」
「なぜに!」
「あ、そう言えば朝、ものすご~~~く甘々な空気を振り撒きながら学園に登校してきたって噂が」
「それ知ってる! あれでしょ? 通った後には、萌え死体があちこちに転がってるって言う……」
『『『強い……』』』
「ちょっと待て!? 俺はそんなことをしてないが!? というか、萌え死体ってなんだ!?」
一度も聞いたことがない死体の名称が飛び出して来たんだが。
一体こいつらは何を言っているのか。
「で、柊ちゃんと椎菜ちゃんは付き合ってるの?」
「えっと、そもそも僕と柊ちゃんは元男だよ? それに、お互いに幼馴染で親友だし、それに……たしかに柊ちゃんのことは大好きだけど、親友としてだから。ね、柊ちゃん」
「まったくだ。俺も椎菜のことは好きだが、恋愛的な意味じゃないしな。というか……恋愛の話に入ってから、やけに寒気がするんだよ。マジで」
「え、柊ちゃん風邪引いちゃった?」
「いや、そういうわけじゃないが……」
「柊ちゃん、ちょっとかがんで?」
「ん? あぁ、まあいいが……」
なぜか椎菜にかがんでと言われて、少しだけかがむと、ぴと、と自分の額を俺の額にくっ付けて来た。
「ん~~~……熱はないかな?」
なんというか、付き合いの長い俺が見てもかなり可愛い椎菜の顔がものすごく近い。
それ故にさすがの俺もドキドキ……するなんてことはなかった。
まあ、うん。好みじゃないし、何より椎菜だからなぁ……。
「椎菜、近いんだが……」
「あ、ごめんね? 寒気がするって言ってたからつい」
えへへ、と笑う椎菜。
「まあ、見ての通り問題ないから大丈夫だ。というか、仮に熱があったとして、それで椎菜にうつるほうが大変だろうに」
「だいじょーぶです!」
「その自信はどこから来るんだか……。だがまぁ、心配してくれてありがとな」
「いいのいいの~」
なんというか、この幼馴染はずっとこんな風に笑顔を振りまいてるんだろうなぁ、なんて思うよ、本当に。
そして、その無自覚な行為をすることで、勘違いした男たちが軒並みノックアウトされそうだしな。
……ある意味、魔性の女だな、椎菜。
「というか、そういうのをほいほいとするんじゃないぞ」
「こういうことをするのはお姉ちゃんとか、みまちゃんたち、あとは柊ちゃんくらいだからだいじょーぶ!」
「ならいい……わけないな。とりあえず、俺相手でもあんまりしないでくれ。特に、男の時」
「柊ちゃんが病気だったら大変なので、それは聞けないです!」
「そこは聞いて欲しいわー……」
変な所で妙に頑固だからなぁ、椎菜。
とはいえ、そこもいいところではあるがな。
椎菜が頑固な時は、大抵誰かのためだし。
「っと、それはともかくとして……俺たちは恋人でもなんでもない……って、お前らなんで倒れてるんだ!?」
椎菜との話に夢中になっていたので、改めて恋人じゃないということを伝えようと周りを見たら、なぜか朝霧以外が倒れていた。
『『『あれで付き合ってないは噓でしょ……』』』
本当に付き合ってないんだがな……。
◇
とまあ、朝は色々と大騒ぎになったが、なんとか誤解は解け、今日の四時間目に。
とはいっても、LHRだがな。
「さて、もうすぐお前たちは三年生になる。三年生というのは、ある意味で今後の人生を大きく左右する重要な年だ。進路を既に決めた奴もいるだろうが、中にはまだ迷っている奴もいるだろう。なので、来週は一年生と二年生を対象とした、進路講演会がある」
あぁ、そう言えばもうそんな時期か。
うちの学園では、一月の二週目に、一年生と二年生を対象とした進路講演会がある。
普通なら二年生だけだとは思うが、うちでは一年生も対象としている。
その理由は至ってシンプルで、進路選択の幅を広げるためだそうだ。
俺たちも去年受けたしな。
「うちの卒業生の進路は多種多様。当日は、いろんな職業、もしくは学校に進学したOB・OGがわざわざ来てくれる。なので、なるべく休まないように」
進路か……俺も椎菜も進学を考えているが、その先は特には考えていないんだよな……。
お互い、らいばーほーむでVTuberになってるし、そのまま進路をそっちにする、なんてこともできるが、ああいうのは永遠にできるわけじゃないからな……。
椎菜はむしろずっとできそうなポテンシャルはあると思うがな。
とはいえ、俺はそうもいかない。
なら、色々と考えないといけないわけで。
特に、俺の場合は普通とは違う特殊体質なわけだしな。
……いや、本当に面倒くさい体質だなこれ……。
できれば、ある程度コントロールできればいいんだがなぁ。
「せんせー、講演会って誰が来るんですか?」
「言えるわけないだろう、高木」
「ですよねー」
「とはいえ、そうだな……うちの卒業生でも特殊な奴らではあるな」
特殊……いや誰が来るんだ、それ。
……そう言えば、らいばーほーむメンバーの何人かがうちの学園の卒業生だった気が……なんて、さすがにないよな?
……うん、ない。
ともあれ、だ。
今の俺は長い人生の先よりも、今週の土曜日にやって来る反省会コラボの方が色々と心配だな……。
まあ、まだあと四日はあるしな。
できればその時だけは、女の方がありがたいなぁ……。
そりゃ今までのノリを美少女同士でやったら尊いよねって言う。
進路は誰が来るんでしょうねー。あと、なんで柊ちゃんは寒気がしたんでしょうねー。




