#169 翌日の朝、朝からゲリラテロ起こしてる幼馴染
今回は短めです。あと、砂糖製造機。
個人配信を終えた翌日。
「連絡をもらったからもしやとは思ったけど……今日もそのまま、なんだね」
「……あぁ」
今日の朝、柊君から一緒に登校したいというメッセージを貰って、もしかして、と思って待ち合わせ場所に行くと、案の定柊君は今日も女の子のままでした。
僕が苦笑い気味に声をかけると、柊君は苦い顔を浮かべて頷いた。
なんと言うか……うん。
「色々大丈夫?」
「まさか、三日連続これとは思わないだろ……」
「僕はずっとこれだからわからないけど……うん、大変そうだね」
「明日こそは戻っていて欲しいよ、ほんと……」
柊君的にはそうだろうなぁ。
あ、今日の待ち合わせ場所は小学校を過ぎた辺りです。
みまちゃんとみおちゃんを先に送った方がいいって柊君が言ったので。
「あぁでも、土曜日はこっちの方がある意味ありがたいな」
「あ、もしかして土曜日に?」
「あぁ。マネージャーの方から連絡があってな」
「そっか。でも、僕の時みたいに別々の場所でって方法も取れる気がするけど」
「あの時はまぁ、椎菜も変化した後だったし、何より顔合わせを一度もしてなかっただろ? だが、俺はあの時に顔合わせを済ませてるからな。そういう意味もあって、普通に出ろって言われた」
「そ、そっか……」
強制、なんだね、そこは……。
でも、たしかに柊君の言う通り、僕の時は僕自身が恥ずかしがっていたのもあるし、何より一度も顔合わせをしてなかったからっていうのもあったからなぁ。
その反面、柊君はイベントの時に既に顔合わせを済ませてるどころか、ある程度お話もしていたみたいだし、そういう意味ではいきなりオフコラボでもおかしくない、のかも?
「色々と不安ではあるが……まぁ、何とかなるだろうと思うことにしている」
「きっと楽しいと思うよ? ほかのみなさんもいい人だし」
「いい人、ではあるんだろうが……それと同時に、狂人な気配がしてな……。一人は既に知ってるが、もう二人の方もそこはかとなくヤバいな、という雰囲気がある」
「んーと、双葉お姉ちゃんと美鈴お姉ちゃん?」
「あぁ。なんというか、愛菜さんとか百合園さんとか、そっち系の気配がな……」
「あ、あははは……昨日もすごかったからね……」
「あれ、本気だと思うぞ」
「さ、さすがに数人の人が頑張っても、目標には届かないとは思うけど……」
「椎菜、ガチになった人たちを舐めちゃいけない。特に、愛菜さんはな。あの人、人脈がかなりおかしいからな。というか、何をしてきてもおかしくないだろう、あの人」
「それは……うん」
僕関連だと、お姉ちゃんすごいことになるもんね……。
「まあ、もし達成したら、椎菜は日本一だな。まあ、既に上澄みだけどな、椎菜」
「そうなの?」
「なんだ、知らないのか? 椎菜の登録者数、同業者の中では15位以内だぞ?」
「……エッ!?」
「しかも、椎菜の場合は半年経たずにこれだからな。案外一周年になる頃には、1位になってるんじゃないか?」
「え、えぇぇ!? そ、そうだったの!?」
「むしろなんで知らないのか不思議なんだが……って、椎菜はそもそもエゴサとかしないか」
「エゴサ?」
「エゴサーチだな。一般人じゃほぼないが、ある程度の知名度を得てる人が、自分の評価がどんなものか、ということをネットで検索することだな。まあ、それが原因でアンチを見つけてそこで見た暴言で精神を病む、なんてこともあるから、あまりお勧めされないがな」
「なるほど……」
たしかに、有名人になるとそういう心無いことを言ってくる人もいるもんね。
ましてや、今は情報社会だし、いつでもどこでも、気軽に感想や悪口なんかも書きこめるわけだし……たしかに、そういうのを見ちゃったら精神に来そうだよね……。
「椎菜も気を付けろよ? 椎菜は悪意に慣れて……ないわけじゃないか」
「ん~、昔は色々言われてたからね~」
「何気に、椎菜は悪口を言われると普通に反論するもんな。椎菜みたいな性格だと、どちらかといえばなぁなぁで流そうとしそうなんだが」
「悪口は悪いことだからね。それに、早めにそういう悪い所を直さないと成長した時に取り返しのつかないことになるかもしれないでしょ? 僕の場合、小学生の頃は片親だったし、その、普通の男の子よりちょっぴり女の子みたいだったから、からかわれることも多かったからね」
「……だな。まぁ、その割にはいじめとかなかったからなぁ、椎菜」
「そこは本当に幸運だなって思ってるよ~」
今でこそ、片親の人は珍しいってほどじゃなくなってるけど、僕の時は本当にめずらかったからね……。
でも、僕の場合は柊君もいたから、いじめられなかったのかも。
「ま、椎菜は昔から運がよかったからな。……案外、元日に会ったあの神様の加護のおかげだったりしてな?」
「あー……それはちょっとあるかも? 言われてみれば、二年生くらいの頃から運がよくなったような気もするし」
「……そう言えばそうだな」
「でも、それならすごく嬉しいかな。見守ってくれてたんだなーって思うからね」
「はは、そうだな」
あの時、なんとなく神様が助けてくれたのかも、って思ってお参りして行ったけど、本当に神様が助けてくれたとは思わなかったから、あの時はすごく驚いたなぁ。
……まあ、知らない内に僕、天照大御神様の加護も貰っちゃってるみたいだけど……。
……僕、別に神社の生まれ、っていうわけでも、神様を信じてます! っていう人でもなかったんだけど……不思議。
それにしても、どうして天照大御神様は僕だけじゃなくて、らいばーほーむの人たちにも加護をくれたんだろう?
……なんて、そんなことを考えてもわかりっこないもんね。
会ったことないしね!
「あ、お話は変わるけど、柊君昨日撮ったプリクラは貼ったの?」
「ん? あぁ、ほら、スマホ裏に貼ってるぞ」
そう言って、柊君がスマホの裏面を見せてくれました。
そこには昨日僕と柊君で撮ったプリクラが。
「ほんとだ。僕も柊君みたいに貼ったんだ~」
「はは、お揃いだな」
「だね! でも……なんだろう、ふと思ったんだけどこれって……女子高生さんみたいだね?」
なんて、いたずらっぽく笑ってそう言うと、柊君は苦い顔になりました。
「……やめろ椎菜、その発言は俺に効く」
「慣れてもいいと思うよ?」
「椎菜、俺は男にもなれるんだからな?」
「もうずっと女の子でもいいと思うな!」
「やめろ!? 仲間を見つけた! と言わんばかりの笑顔で言うな!?」
「だって、柊君が羨ましいんだもーん」
「そりゃ、椎菜からすればな……」
「柊君も僕と同じ目に遭えばいいんだよっ!」
「椎菜お前、ちょっと楽しくなってるだろ」
「あ、バレた?」
「そりゃ、普段しない言動をしてるからな。で、楽しいか?」
「すっごく!」
「ならよかったよ。……椎菜はあんまり俺以外じゃそういう風にはしゃがないからな」
「えへへー、柊君だったら遠慮なしだからね! あと、同じ女の子同士になったからね! ちょっと前までは男女だったけど、今なら同性! 柊君で遊んでも問題ないのです!」
えへん、と腰に手を当てて胸を張りながら、僕はそう言うと柊君はくすりと小さく笑った。
「そういう姿、愛菜さんにも見せてないだろ」
「お姉ちゃんはお姉ちゃんだからね。でも、柊君はずっと仲良しさんだったから! 付き合いの長さで言えば、柊君の方がなんだかんだで長いしね。あと、男同士だったから余計に」
「あー、男同士だからこその気安い関係って感じだもんな、俺と椎菜は」
「うん! 今だってそうでしょ? だから、柊君には本当に感謝してるんだよ? 態度を変えなかったから」
「……俺の場合は、椎菜との付き合いが長すぎたからなぁ。あと、例の黒歴史もそうだし、何より俺の好みが、な」
「あ、あー……なるほど」
柊君、昔僕に告白してるし、柊君の好みって年上の女性……丁度、皐月お姉ちゃんみたいな人だもんね。
それならたしかに、あまり変わらないのも納得かなぁ。
「というか、俺的には態度を変える理由がないし、そういうのは好まないし、何よりずっと仲が良かった椎菜に対して、女になったからって態度を変えるとか、そんなのは親友じゃないだろう? だから、俺は気にしなかったんだよ」
そう言って、柊君はニッ、と笑いました。
なんと言うか、こう言ってくれる親友がいるのって、すごく幸運だなぁ、なんてそんなことを思います。
あと、柊君がモテモテな理由の一端が垣間見えたよね。
「そっか。ありがとう、柊君。僕、柊君のそういうところ、大好きだよ?」
「ははっ! それは俺もだぞ、椎菜」
「「……あははは!」」
顔を見合わせて二人揃って笑う。
なんだろう、すごく恥ずかしいことを言ったはずなのに、それ以上におかしい気持ちになっちゃうなぁ。
「急に変な話になったな」
「そうだね。でも、本心だよ?」
「それは俺もな。……というか、嘘でもあんなことは言わないさ」
「僕もだよ!」
なんて、朝からなんとも言えない気持ちになるようなことをお話しながら学園へ、札理並んで向かいました。
◇
僕は知らなかったけど、僕と柊君が歩いた後ろとか横で、なぜか人が鼻血を流して吐血をしながら倒れていたそうです。
何かのパンデミックでもあったのかな……?
見た目、黒髪ロリ巨乳美幼女と茶髪男装美少女が普通に話してるだけの登校風景です。
まあ、それは当人たちだけで、傍から見たら、美少女と美幼女がものすご~~~く仲睦まじくもろ告白みたいなことを話してるんですけどね。
そしてそれをしているのが、ゲロ甘い空気を振り撒き、尊いを常時拡散させ続ける椎菜×柊ちゃんです。
なんなんですかね、この幼馴染共。




