#166 女になっても変わらない柊くんちゃん、いつも通りのやり取りをすれば人が死ぬ
そんなこんなで、学園に到着。
学園に近づくにつれて、柊君への視線がすごくなって、昇降口ではさらにすごくなりました。
「あー、俺は色々と田崎先生に挨拶する必要があるから、またあとでな」
「うん、あとでね!」
その道中で柊君は一度職員室に行く必要があるとかで、一旦別れました。
僕の方は先に教室の方へ。
「おはよー」
「おはよ、椎菜ちゃん!」
「おっす、桜木!」
僕が挨拶しながら教室に入ると、先に登校していたクラスのみんなが挨拶を返してくれました。
それから自分の席に座って、荷物を机の中にしまっていると、なぜか僕のところにみんなが集まってきた。
「椎菜ちゃん、イベントよかったよ!」
「配信だけでもめっちゃ楽しめたわ」
「いやむしろあれ、現地の方が地獄だったような……」
「あはは、見てくれてありがとう! まあ、僕はそこまで出番があったわけじゃないけどね。どっちかというと、お姉ちゃんたちの方がいっぱい出てたし」
『『『いや、桜木(椎菜ちゃん)が出ずっぱりだったら、死人だらけになるから』』』
「どういうこと!?」
何をどうしてもさすがにそうはならないと思うんだけど……。
「そういや、桜木」
「あ、うん、なぁに?」
「なんかさ、今日桜木と一緒にいた女子は誰だー! って噂になってんだけどよ、なんか知らね?」
「えっ、あ、え、えーっと、その、僕のお友達、みたいな……?」
「へぇ、そうなんだ! なんか、すっごい綺麗な子だったって聞いてるよ!」
「あ、それ知ってる。あれでしょ? なぜか男子制服を着てた女の子。なんか、かなりの美人らしいって」
「男装美人とロリ巨乳美幼女とかいう癖しかない二人のせいで、なんか狂わされたー! って奴が多いみたいだったな」
『『『それはそう』』』
「あ、あははは……」
さ、さすがに今あの女の子が柊君だって言うわけにいかないもんね……。
僕の時は、まあ、田崎先生の提案で後から教室に入ったし、あの時はすごく驚かれたっけ……。
……それなら、柊君もそういう感じになると思うし、ある種のドッキリみたいな感じになるしね。うん。
「おっはよー!」
と、ここで元気いっぱいな挨拶と一緒に、麗奈ちゃんが登校してきました。
「おはよう、麗奈ちゃん」
「椎菜ちゃんおっはよう!」
「わぷっ! もぉ、いきなり抱き着かないでよ~」
「いやー、椎菜ちゃんが可愛いからつい」
「朝霧と桜木、なんか仲良くなってんなー」
「あぁ、あれじゃね? 一昨日のハルノレジャーパークで遊んでたらしいし」
「……思い出させんな」
「ぐぎぎ、おのれ高宮ァ……!」
「なになに? 椎菜ちゃんたち、温水プール行ってたの?」
「そうそう。元日に椎菜ちゃんが福引でチケット当てたから一緒にね!」
「へぇ~! って、あ、そうだ! 椎菜ちゃんって、宝くじ当ててたよね?」
「あっ、う、うん……そ、それがなにかな?」
「やっぱりあれって、会社設立するの?」
「あー、うー、えーっと……まだわからない、かなぁ……すぐに決められるようなことでもないし……」
あはは、と苦笑い交じりにそう返す。
僕自身、実際に会社を設立させるか迷ってるしね……。
一応、ほかのことにも使おうかなぁなんて思ったんだけど、僕がお金を使う場面って本当に少ないんだよね……。
だって、普段のお買い物とか、日用品を買ったりとか、あとはレシピ本を買ったりくらいだし……。
あ、いっそのこと、お家のリフォームをするとか……。
って、まだそこまででもないよね。
そうなると…………あ、将来的に、みまちゃんとみおちゃんのお社を建てるのもあり、かも?
二人とも神様なわけだし、やっぱりそういう建物は必要だと思うし……。
それだったら、あの御神刀を奉納するのもありだと思うしね。
うん、将来的にはそうしよう。
「おらー、お前ら席着けー」
なんて、お金の使い道を考えていると、先生が教室に入ってきて、席に着くように指示しました。
「せんせー、まだ時間早くないっすか?」
「いいんだよ。今日はちょっと連絡事項っていうか、まぁ、色々とあるからなー」
あ、それってもしかして……。
「おーし、席着いたなー。見た感じ……よし、高宮以外の奴らは全員来てるな」
「先生、高宮は休みすか?」
「休みじゃないぞ。まあ、その辺は本人にいろいろ言ってもらうか。ほれ、高宮入ってこーい」
田崎先生が廊下に向かってそう言うと、ゆっくりと前のドアが開いて、そこから明るい茶髪の女の子……というか、柊君が教室に入ってきました。
『『『( ゜д゜)』』』
「えー、見ての通り、高宮がTS病になって、こんな美少女に変貌した。ま、中身はいつもの高宮だが、体は普通に女になってるんで、お前ら色々と気を遣えよー。ほれ、一応挨拶」
「……まあ、なんだ。色々あってTSが、今まで通りに接してくれると助かる」
困ったような、それでいてどこか疲れたような表情で、柊君がそう言うと……
『『『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』』』
クラスが驚愕の声でいっぱいになりました。
◇
「高宮、え、高宮なのお前!?」
「明らかに面影ねぇじゃん!?」
「待って待って! 髙宮君めっちゃ可愛いーーー!」
「あのイケメンだった髙宮君が、こんな美少女になっちゃうなんて……! 恐るべし、TS病……!」
なんて、HRが終わるのと同時に、クラスのみんなが柊君の周りに集まっていて、すごい勢いで質問攻めにあっていました。
うわー、見たことある光景だなぁ……。
僕も二学期初日はああだったっけ……。
「っていうか、本当に変わりすぎじゃんこれ!」
「くっ、なんでイケメンがTSしても美少女ってかこの野郎っ……!」
「おめぇマジでどうなってんだよ! ずるいぞコノヤロー!」
「いや、そう言われても……」
男子のみんなから色々と言われている柊君はと言えば、どこか困ったような笑みを浮かべてそう返す。
「待って待って、本当に可愛くない!?」
「可愛いっ……!」
「椎菜ちゃんは可愛さ全振りって感じだけど、高宮君の方は綺麗と可愛いの中間だからこその可愛さって感じ!」
「高宮君、あとで一緒に写真撮っていい!?」
「あ、私も私も!」
「それは構わないが……」
「「「やた!」」」
柊君人気だなぁ。
まあでも、今の柊君すっごく可愛いもんね。
「あっと、そうだ。なぁ、高宮。俺、お前に聞きたいことがあるんだけどよ」
「あー、なんだ?」
「お前さぁ……絶対、四期生になってんだろ」
「……」
あ、柊君が固まった。
「あ、それ! っていうか、あれ絶対高宮君だよね!?」
「っていうか、声がもうそうだし、イベントだって、みたまちゃんとの距離感がいつものアレだったし!」
「あと、ツッコミの切れがマジで高宮」
「苦労人感もすごかったな」
「あー……やっぱ、全員気付いた感じか……?」
「気付いたってか、クラスのグループで大騒ぎになってたぜ? あれ絶対高宮だろって」
「だよなぁっ……!」
あの時の僕はイベントの方に集中してたからわからなかったけど、そういえばグループの方がかなり賑わってた気が……。
あれって、柊君のことだったんだ。
「そりゃあな」
「まあでも、昨日の配信のせいで、本当に高宮か? って思ったんだが……その様子じゃ、やっぱ凪刃ちゃんも高宮ってことか?」
「ちゃん付けはやめろ!? 椎菜はともかく、俺相手にちゃん付けは普通にやめろ! なんかぞわっとする!」
「やっぱりかぁっ……!」
「お前マジで何なんだよぉ!」
「いや待て、こいつが女になったってことは……」
「ハッ!? 学園一モテるイケメンが消えたということか!」
『『『ならばよし!』』』
あ、うん、なんというか、いつもの男子のみんなだね……。
でも、男子のみんな、多分忘れてるよね、あれ。
「あれ? でも高宮君って、昨日の配信で男女両方になれるって言ってなかった?」
『『『……あ』』』
「え、あれってマジなの? 高宮君」
「……マジだな。っていうか、実際に冬休み中に両方なってるんだよ……今日はまぁ、男に戻らなかったが……」
「エッ、あ、あれ、誤魔化しじゃないのか……!?」
「誤魔化しじゃないぞ。寝るとランダムで切り替わるんだよ」
「え、それってつまり……」
「……まあ、男の時もあれば女の時もある感じ、だな……面倒なことこの上ないけどな……」
『『『――チクショォォォォォォォォ!!!』』』
『『『きゃーーーーーーー!』』』
はぁ、とため息交じりに柊君が言えば、男子のみんなはなぜか叫んで、女の子の方はなぜか嬉しそうにしていました。
「なんでそんな叫んでるんだ!?」
「なんなんだよこいつよぉ……!」
「お前女の時は合法的に女子の体育に混ざれるってことじゃねぇか!」
「死ね!」
「お前ばっかいい思いするのはなんでだ!」
「なんでそうなる」
「高宮君の存在が強すぎるよぉ!」
「あんなにイケメンだったのが、こんなに可愛い女の子になったのに……イケメンにもなれるっ……!」
「最高すぎじゃん!」
「あ、でも、体育の着替えの時ってどうするの?」
「いや、高宮君なら見られてもいいでしょ」
『『『うんうん』』』
「だって、絶対に悪いことはしないって確信できるし」
「むしろ、めっちゃ見たい」
『『『うんうん!』』』
「いやさすがにそれはまずいからな!? 椎菜の場合は仕方ないとしても、俺は男の時もあるんだぞ!? さすがに――!?」
そこまで言って、柊君がなぜかぶるり、と体を震わせていました。
どうしたんだろう?
「柊君、どうしたの?」
「い、いや、謎の寒気が俺を襲ったんだが……」
「風邪?」
「……特に、体がだるいとかはないな……まあ、気のせいだろう」
「そっか。気をつけてね?」
「あぁ、まあ、間違いなくストレスがマッハになるとは思うが……そこは、椎菜のことを頼りにしてるよ」
「うん! 僕は柊君の先輩さんだからね! おねーさんに任せて!」
「ははっ、あぁ」
『『『ごはぁっ……!』』』
「ふぇ!? みんなどうしたの!?」
僕と柊君が普通のやり取りをしていたら、なぜか周囲にいたみんなが血を吐いて倒れました。
「あれだよ、椎菜ちゃん。二人の百合幼馴染オーラを受けて、死んじゃったんだよ」
「どういう意味!?」
「百合って……俺と椎菜は元男だぞ? いや、俺の方は普通に男に戻るが……それで百合は無理があるだろ」
「高宮君。それは関係ないんだよ」
「……というと?」
「いいかい、高宮君。たとえどんなに中身がごりっごりの男子でも、見た目が可愛い女の子と綺麗な女の子であり、そして傍から見たら、あら^~~~~、な光景であれば、神の性別なんて些細な問題なんだよっ!」
「お前は一体何を言っているんだ……」
「というか、二人の場合は完成された関係だからね。今まではイケメンな高宮君と、世界一可愛い椎菜ちゃんとのラブコメっぽい絵面だったけど、今は綺麗な柊ちゃんと世界一可愛い椎菜ちゃんとの百合だからね! どうあがいても尊死は確実! っていうか、実際に死んでるしね。特に女子」
「だって、あのイケメンだった髙宮君が、こんなに綺麗で可愛い女の子……柊ちゃんになっちゃってるんだよ!?」
「どうあがいても尊い!」
「美少女とロリ巨乳美幼女の百合とか最高じゃん!?」
「しかも、どっちもお互い信頼度MAX!」
『『『これで尊死するなっていう方が無理ぃ!』』』
「このクラスはそんなんばっかりか!?」
「あ、あははは……」
なんだろう、柊君が女の子になっても、意外といつも通りだなぁ……。
「私としては、高宮が女子になってどういう反応をされるのかと少し心配だったが……まぁ、お前らなら問題もないか。安心したよ、担任として」
「でもセンセェ! 高宮がこんなクソ可愛い美少女になっちまったら、あいつをしばく時にあの顔を思い出しちまうんですが!」
「殴らせてください!」
「あいつの存在がうらやまけしからんです!」
「ま、そういうことをしているうちは、お前らに彼女ができることはないな」
『『『ぐはぁっ!』』』
先生に文句(?)を言う男子のみんなだったけど、先生の言葉に撃沈していました。
なんというか……うん。
「バッサリだねぇ、星歌先生」
「まともな先生だからな……」
「ほかの先生もまともだよ?」
「まともな先生は、イベントの抽選日に自習にしたり、授業そっちのけで確認していいとは言わないぞ、椎菜」
「……否定できない」
あの日を思い出してみても、たしかにその……まともとは言えない、かも……?
「そういえば、先生は髙宮君の惨状を見て何も思わなかったんですか?」
「ん? あぁまあ、冬休み中に知ったし、何より昨日の段階であれが高宮だって気づいていたしな。ま、その姿になったんなら、男子のやっかみも少しは減るだろうさ。よかったな」
「何一つよくないですよ、先生……」
「はは! ま、慣れろっていうことだよ、若人。んじゃ、もう少ししたら全校集会があるんで、お前らもさっさと体育館に移動しろよー」
最後にそう言って、先生は教室を出ていきました。
この後は、柊君への質問責めが再開して、柊君はすごく遠い目をしていました。
その、頑張って、柊君!
柊くんちゃんも大変だなー(にっこり)。
柊の場合、普段の人望が厚いせいで、可変式TS病になって、女の日に体育があったとしても、普通に更衣室で着替えることを許されます。というか、女子の方が思いっきりいじりに来ます。仕方ないね! 内外共にイケメンな男子がモデル系美少女になってんだもんね!




