#165 TS先輩と、TS後輩の普通の会話
四期生の配信が全部終わった僕は、柊君にメッセージを飛ばしていました。
『柊君、TS病になったんだよね!?』
『……あぁ』
『そうなんだ。柊君、今って通話できる?』
『まあ、もう知られたしな……いいぞ』
柊君に電話をしていいかどうかメッセージで尋ねると、OKのお返事がもらえたので、早速通話をかける。
「もしもし、柊君?」
『……もしもし』
「わっ、本当に女の子になってる……!」
『そりゃあな……』
電話の向こうから聞こえた柊君の声は、配信でも聞いたあの声でした。
なんだか、すごく違和感……。
「それで、柊君はいつからTS病になったの?」
『あー、椎菜たちが旅行で配信をした次の日にな……』
『そうだったの? もう、なんで言ってくれなかったの?』
聞けば、柊君が女の子になっちゃったのは、温泉旅行で配信をした翌日だったみたい。
それならそれで言ってくれればよかったのに、と僕はちょっとむっとしました。
『……さすがに、言いにくいだろ……まあ、朝霧には話したが……』
「えぇ!? 麗奈ちゃんには言ったのに、幼馴染の僕には何も言ってくれなかったの……?」
『そ、それは……ほら、椎菜とは付き合いが長いだろ? だから、言いづらくてな……。椎菜だって、すぐには俺に言わなかっただろ?』
「……たしかに」
よくよく思い返してみれば、あの時の僕も柊君に言うのが恥ずかしいというか、なんて言えばいいのかわからなくて、何も言わなかったっけ……。
そう考えると、僕が文句を言うのは筋違いな気が……。
『俺より先にTS病になった椎菜ならわかるだろ? さすがに、親友で幼馴染な椎菜だからこそ、俺も言いにくかったんだよ。まあ、でも、そこは先に言っておくべきだったな、すまん』
「ううん、気にしないでいいよ。僕も同じような考えだったし……」
『……ありがとな』
「うん」
それにしても……うーん、やっぱり女の子な声の柊君がすごく不思議……。
今まではカッコいい声だったのに、今は綺麗な女の子の声になってるんだもん。
「でも、あれだよね。柊君はわからないことがいっぱいあると思うから、僕が先輩として教えるね!」
『あぁ、そこは本当に頼りにしてるよ……』
「うんっ! おねーさんに任せて!」
『……椎菜お前、それ絶対クラスでやるなよ』
「ふぇ!? なんで!?」
『死人が出る』
「どういう意味!?」
おねーさんみたいにふるまったら人が死んじゃう意味がわからないですっ……!
『だがまあ、俺の場合は一応男にもなるから、俺が女になった時だがな』
「むぅ、それってやっぱりずるいよね……僕も男に戻りたい……」
『椎菜が男に戻ったら、いろんな意味で大惨事になるからやめた方がいいだろ……』
「なんで!?」
『愛菜さんはまぁ、いつもと変わらないだろうが、明らか百合園さんとかやばいだろ。ロリじゃない椎菜とか見たら死ぬ…………いや、逆に超克しそうだな……まあ、あれだ。色々と狂わされる人が出るから、やめた方がいい』
「えぇぇ……」
僕が戻ったらそんなに酷いことになるのかなぁ……。
一応、この体にもすっかり慣れてきてはいるけど、それでも戻りたいとは思っているわけだもん。
そんな僕からすれば柊君はすごく羨ましい……。
『でもまぁ、さすがに明日は男……に戻ってるといいなぁ……』
「そう言えばランダムなんだっけ?」
『……今のところわかってるのは、寝ると体が切り替わるって感じだな。だから、今日寝て戻るかどうかって感じだ』
「あれ? 必ず戻るわけじゃないの?」
『連続して男でいられるってことは、裏を返せば連続して女でいられるってことでもあるからな。可能性として、明日も女のままという可能性もある』
「なるほど。……そうなると、柊君は色々と大変だね」
『まあ……そうだなぁ』
「だって、寝たら変わるっていうことは、お昼寝でもダメってことだと思うし……」
『……あ』
「あれ? もしかして、お昼寝は対象外なの?」
『いや、実験してないからわからないが……そうか、寝ることで変わるなら、それもあり得る……つまり、学園で寝て起きたら変わってる可能性もある、ってことか…………最悪だぁっ!』
「柊君!?」
突然ぶつぶつと言ったかと思えば、柊君が突然叫んだ。
後ろで、だんっ! という何かを叩くような音も聞こえて来たけど……。
『椎菜、色々とありがとう……おかげで、色々と対策をしなきゃいけなくなった……』
「え、えと、どういたしまして……?」
『そうか、そうだよなぁ……その辺も確認した方がいいのか……』
「あの、柊君、大丈夫?」
『……ん、あぁ、大丈夫だ。しかし、明日から新学期かぁ……』
「そうだね。あともうちょっとで僕たちも三年生だね」
『だな。まあ、まさか三学期直前でこうなるとは思わなかったけどな……』
「あ、あはは、だろうね……僕も夏休みの時はそう思ったし……」
とはいっても、僕の時は夏休みっていう長いお休みがあったから、ある程度心の準備をする余裕があったけど、柊君の場合は冬休みっていう短い間だけだもんね……。
『椎菜、明日は一緒に登校してくれないか……?』
「うん、もちろんいいよ」
『……理由は聞かないのか?』
「聞かなくてもわかるよ~。柊君、明日が女の子になっても男の子のままでも、大変そうだもんね。一緒にいるよ。あと、女の子だった場合が一番大変そうだもん」
『ありがとな……』
「いいのいいの、気にしないで! 先輩ですから!」
『お、おう、そうだな』
「あ、そうだ。冬休みの――」
柊君が女の子になっても、僕たちは他愛のない会話をしました。
◇
そうして翌日。
今日から新学期。
「三人とも、気を付けてね? 車とか誘拐犯とか、ハイ〇ースとか」
「お母さん、なんでハイ〇ースだけピンポイントなの?」
「ハイ〇ースだからよ~」
「そ、そっか。そう言えば、お姉ちゃんは?」
「愛菜なら、ツリーハウスとログハウスの建設で力尽きたみたいで、部屋でぐっすりよ。椎菜たちが帰ってくる頃には起きていると思うわ」
「そっか。今日は久しぶりに個人で配信するつもりだし、大丈夫かな?」
「愛菜のことだから、それまでには確実ね」
「うん。それじゃあ、行ってきます」
「「いってきまーす!」」
玄関先でお母さんとお話をしてから、僕たちは仲良く出発。
「そう言えば、みまちゃんとみおちゃんは宿題、ちゃんと持った?」
「んっ! だいじょーぶ!」
「……もんだいなし、です」
「そっかそっか。せっかくやったのに忘れちゃったらもったいないからね。まあでも、昨日の夜にはしっかり終わらせていたみたいだしね」
みまちゃんとみおちゃんの二人は、基本的に学校の準備は前日に終わらせるタイプです。
タイプ、というか、僕がそうした方がいいよ~、って言ったら、そうなっちゃっただけなんだけどね。
なんというか、すごくお利口さんだよね。
なんて、そんなことを思ったり、二人と仲良く手を繋いで登校している途中で……
「あ、あー、椎菜」
と、僕に声をかけてくる女の人が、ぎこちない笑みを浮かべながら立っていました。
不思議なことに、目の前の女の人の服装は、ダボついているけど姫月学園の男子制服を着ていました。
女の人は明るい茶髪ですごく顔立ちも整った綺麗な人で、なんというか、すごくモデルさんみたいにスタイルがいいけど…………。
「え、えっと……?」
「あー、やっぱわからない、よなぁ……」
なんて、困ったように笑う女の人を見て、僕はハッとなりました。
もしかして……。
「もしかして、柊君……?」
「……あぁ。おはよう、椎菜」
半ば勘だったんだけど、本当に柊君だった……!
「え、あ、本当にそうなの!?」
「まあ、な……これが、女の姿というか……うん」
「へぇ~~! はぁ~~~! ふぅ~~~ん! なんだか、すごく可愛いね!」
「勘弁してくれ……ってか、椎菜、急にテンション高くないか?」
「だって、柊君がすごく女の子してたんだもん。すごく変わったなぁって」
「それは本当にそう思うよ……ってか、なんで髪色まで変わってるんだろうな、俺……」
「でも、すごく似合ってるよ? 皐月お姉ちゃんと一緒にモデルさんできそう!」
「さすがに……いや、あの人、普通に誘ってきそうだな……」
「うんうん、きっとできるよ! 柊君なら!」
「……まあ、さすがになる気はないがな」
なんて言って柊君は苦笑い。
まあ、モデルさんってすごく大変って聞くもんね。
むしろ、モデルとVTuberを両立できてる皐月お姉ちゃんがすごいと思うもん。
「おかーさん、このひとだーれ?」
「……しってるひと、です?」
「あ、うん。えーっと、二人は柊君って憶えてるかな? 一昨日のプールでも一緒にいたんだけど」
「んっ! おぼえてるです!」
「……だいじょーぶ、です」
「その柊君が、目の前のお姉さんなの」
「そーなの?」
「……なるほど、です」
「んっと、しゅーおねーさんですね!」
「……しゅーおねーさんです」
「なんか、ナチュラルに納得されてないか?」
「一応、二人は僕がTS病を発症させてることを知ってるからじゃないかなぁ……あとは、ほら、神様だし……」
「……あー、なるほどな。それもそうか」
僕の説明に、柊君は納得したようで、苦笑いを浮かべる。
ただ、女の子状態での苦笑いだから、すごく不思議……。
笑った時の雰囲気は柊君のままだけど、それでも女の子の状態だから印象が全然違うなぁ。
「っと、そろそろ行かないと遅刻するかもしれないな」
「あ、そうだね。まずは、みまちゃんとみおちゃんを小学校まで連れて行かないとね」
お話も一旦そこそこにして、僕たちは小学校前まで行きました。
◇
それからみまちゃんとみおちゃんとは小学校でお別れ。
そこから、僕と柊君の二人で登校となったんだけど……。
「ねぇねぇ、桜木さんと一緒にいる人、転校生かな?」
「すごく綺麗だよね」
「可愛いのに綺麗って感じで羨ましい……!」
「でも、なんで男子制服なんだろ?」
「男装とか?」
「桜木さんの知り合いかな?」
「うわ、メッチャすげえ美少女がいるぜ?」
「たしかに、なんかスタイルもいいなー」
「なんでか男子制服だけどな」
「ああいう彼女が欲しいなぁ……」
「だが、なんで桜木と一緒にいるんかね?」
「……」
「えーっと、柊君、大丈夫?」
「……椎菜、この体って、視線を感じやすいんだなぁ……」
「……あはは、胸、だよね。うん、すごく気持ちはわかるよ……」
柊君は苦い顔で視線について言ってきて、僕もそれに対して苦笑い交じりに同意しました。
だって、すごく気持ちがわかるもん……。
柊君もおっきい方だもんね。
「……やっぱ、女子の制服じゃないってのも目立つ理由か……」
「そう言えば柊君、どうして女の子の制服じゃないの?」
「間に合わなかったんだよなぁ……」
「そうなの?」
「あぁ。少なくとも、今の姿に変化するようになった時期も時期だったし、何より年末年始だったからな。まあ、そういうことだ」
「あ、なるほど……」
たしかに、その時期に制服を新しくするのは難しそうだし、僕の場合はもともと国の方から連絡が行ってたっていうのもあったみたいだしね。
そう考えると、柊君ってすっごく不運……。
「椎菜の時のように、夏休み中ってわけじゃないのが、ここで足を引っ張ったな。まあ、まだ心の準備もできてないし、ある意味男子制服でいいと言えばいいんだが……正直、ぶっかぶかでなぁ……」
「それは……うん、でも、柊君美人さんだから、違和感はないよ?」
「そういう風に着こなしてるだけだぞ。ベルトも追加で穴をあけたほどだし」
「あー、そっか。腰回りも結構違うもんね。やっぱり、細くなっちゃった?」
「あぁ」
「そっかぁ……まあでも、困ったことがあったら言ってね? 少なくとも、同じTS病だったら、少しは助けになれると思うからね!」
「その時は頼むよ」
ふっと、困ったように笑う柊君に、僕もにこっと笑みを返しました。
うん、いつもの柊君で安心しました。
奴はルーレットに負けたのだ……。
というわけで、今回もルーレット回してます。今回は女だったので、次回回す時は、男6の女4になります。




