#163 ここまでくると最早病気、ちょっと壊れた常識人
前回のあらすじ。
クラスメートが殺意をぶつけてきた。
「お前マジで何なんだよぉっ……!」
「何をどうしたらそんなハーレム状態になるんだお前!?」
「俺たちが虚しく男だけでプールに遊びに来たってのに、お前はハーレム王ってかこの野郎!」
「まあ、これはこれで楽しいんだけども……」
「とりあえず、お前は一度非モテな男子高校生たちの怨念を受けて死んだ方がいい」
『『『うんうん』』』
などと口々に言ってくる田中達。
罵倒してるんだろうが……俺としてはハーレム状態と思ったことはない。
この場にいるのは、朝霧を除いて全員らいばーほーむの関係者……というか、ほぼライバーだ。
みまちゃんとみおちゃんの二人は違うと言えば違うが、何気にゲストとして配信に出ることもある。
そういう意味では、配信者とも言える。
そして、そんならいばーほーむにおいて、現時点で一番人気があるライバーというのが……まあ、神薙みたまこと、椎菜だな。
一応デビューしてから一年も経ってないどころか、下手したら半年もまだ経過していないにもかかわらず、一期生と二期生の濃い先輩たちを差し置いて、トップに躍り出ている辺り、本当に人気だとわかる。
そして、その椎菜の人気は視聴者たちからだけではなく、同僚のライバーたちからもとなる。
実際問題、このメンバーの中で俺に対してそういう感情を向けている人はいないだろう。
……あれ、なんだろうか、今一瞬、背筋がぞわっとした気が……。
「……」
あの、皐月さん。
なんで俺に対して、にっこりしているのに、どこか絶対零度のごとき冷たさを伴った視線を俺に向けているんでしょうか。
怖いんですが。
……と、ともあれ、だ。
そんな椎菜に対しての好感情がある意味天元突破しているらいばーほーむのメンバーがこの場にいるわけだが……ぶっちゃけ、全員恋愛感情を持ってるとしたら、それは全部椎菜に行っていることになる。
実際、配信を見ていても、あぁ、これ椎菜のこと好きだな……と思う人は何人かいた。
愛菜さんは言わずもがな、東雲さんは本人に自覚がないだけで、割と近いと思う。
二期生では、元常識人(できれば今も常識人であってほしい……)な四季さんは間違いないだろう。あの人の場合は母性的なあれだろうが……。
三期生の方はもはや全員がそうだろうとか思うレベル。一名、ド変態すぎるが。
そして四期生の方は、俺を除いた三名が神薙みたまガチ勢。
というか、四期生だけ見事に椎菜とかかわりのある人、もしくは最推しがみたまばかりになったんだが。
俺もリアルで幼馴染で親友だしな。
……と、まあ、色々と語ったわけだが……実際のところ、この場において、俺がハーレム状態、という認識は間違いなのだ。
つまるところ、今回のこの遊びに来ている状況の相関図的に、中心にいるのは俺ではなく、椎菜なのだ。
「あのな……俺は椎菜に誘われたから一緒に遊びに来ただけで、田中達が思うようなことは何もないぞ」
「とか言ってるが、明らかに約一名、高宮に熱視線を向けてる人がいるんだが」
「何を言ってるんだ……そんな人いるわけないだろ……」
『『『……』』』
なぜだろうか、そんな人いるわけないと言った直後、なぜか田中達が可哀そうな人を見るような目を向けてきたんだが。
俺、何かおかしなこと言ったか……?
あと、なんかさっき以上に皐月さんからの視線が冷たくなったんだが。
これ以上冷たくなると、俺の体が霜焼けを起こしそうだ……。
「……あー、すんません。えー、そっちの……たしか学園祭に来てた桜木のお姉さん、っすよね?」
「もち。どうかしたのかな?」
「正直、なんで水に立ってるの? とか気になるんすけど……高宮ってもしかして、超が付くほどの鈍感朴念仁ハーレム野郎だったりします?」
「田中、お前は何を言っているんだ」
「うん、そだねー」
「愛菜さん!?」
「やっぱかー……」
「高宮、あいつある意味馬鹿だな……」
「文武両道で、成績も優秀なのに……」
「まあほら、あれだよ。学校の授業に恋愛学ってのはねぇから」
『『『可哀そうな奴だ……』』』
俺はなぜ、いきなり出会ったクラスメートたちに、憐みのこもった目を向けられているのだろうか。
そしてなぜ、皐月さんは俺に対してずっと絶対零度の視線伴った笑顔を向けているのだろうか。
それどころか、ガシッ……っと、なぜか俺の肩をつかんでイタタタタ!?
「ちょっ、皐月さん肩が!? 肩が痛いですって!?」
「おっと、そうかい? 愛菜に鍛えられているから、これくらいなら問題ないと思ったんだが……ほら、君は鈍感朴念仁ハーレム野郎だろう? だから、痛みにも鈍感なのかと思ってね」
「あの、皐月さん? 怒ってます?」
「怒ってないが?」
にっっっっっっこり、とでも言わんばかりのとてもいい笑顔……というか、実際に近くの他の客……特に、女性客の人たちが皐月さんという、現役人気モデルの笑顔を見てキャーキャー言ってるんだが、俺はそれどころじゃなかった。
というか、田中達も見惚れているし、椎菜や朝霧も綺麗だなぁ、とか思っているんだろうが……その笑顔を向けられている俺からすれば、その笑顔は怒り狂った般若のような表情に見えた。
なんか怖い。
あと皐月さん、それ、絶対怒ってる人しか言わないセリフですよね。
「ちなみに、あー……田中君、だったかな?」
「あ、は、はい!」
「一つ聞きたいんだが……今日、椎菜ちゃんと麗奈君に聞いたんだけどね? こちらの彼、普段からかなりモテている、と聞いたんだけど、それは事実かな?」
「事実であります!」
田中、なんでお前、ちょっと軍人っぽくなってるんだ。
お前高校生だろう。
「まあ、そこは二人から聞いていたからね。それと……彼って、女泣かせだったりする? こう、ひっかけはしたけど釣り上げないでリリースする、みたいな」
皐月さん、なんて質問してるんですか……というか、俺がとんでもないド畜生みたいな言い方になってません?
俺、そんなことしてないんだが……。
『『『あー……泣かせてはいます』』』
『『『へぇ……』』』
田中たちが口を揃えて回答すれば、それを聞いたほかの全員が俺に白い目を向けてきた。
「あれ? なんで俺、全員から白い目で見られてるんですかね!?」
あと椎菜! お前は普段から俺と一緒にいるから知ってるよな!?
なんで一緒になってこっちを見てるんだ!?
ついでに言えば、朝霧も割と椎菜寄りだよな!?
「なんていうか……椎菜ちゃんから色々聞いてたけど、髙宮君ってこう……ある意味では女の敵だったんだね」
「そやなぁ……うちはあんましわからへんのやけど、さすがにどうかと思うで?」
「柊君、さすがにその……」
「わ、わたし、でも、ちょ、ちょっと、どうかと、思い、ます……。む、昔のクラスメート、に、似たような人が、いました、けど……不幸な目に、遭ってました、し……」
「柊君や、さすがに師匠もどうかと思うよ。変なところで人の機微には敏いのに、女声にだけはクソ雑魚ナメクジだし……」
「高宮君、もうちょっと女心を理解した方がいいよ? 本当に……」
「そうだそうだ!」
「お前はもげろー!」
「とりあえず、一発ずつ殴られとけー!」
「モテ男は万死!」
「お前ら好き放題だな!? あと、なんで俺が責められてるんだこれ!?」
田中達と遭遇した瞬間、俺としては間違いなく学園で行われているような鬼ごっこが展開されると思っていたのに、気が付けばなぜか女性陣から俺が責められる状況になっていた。
いったい俺が何をしたというんだ……!
「柊君、お姉さん、ちょっと君の将来が心配になって来たよ」
「皐月さんはいったい何の心配をしてるんですか……」
「だって君、このまま大人になったら……間違いなく、女性に刺されるよ」
「なぜ!?」
「餌を付けた釣り針が括りつけられた釣り糸を垂らし、それに食いついた女の子たちを釣り上げてからそのままポイ、はさすがに女心をバーサーカーさせかねないからね。きっと君は、ヤンデレにモテることになるだろう」
「本当に何を言ってるんですかね!? あと、女の子を魚に例えるのはさすがにどうかと思いますよ!?」
『『『そういうところだよ柊君(高宮君)(高宮)』』』
「何がァ!?」
俺、普通のことしか言ってない気がするんだが!?
え、なに? 俺がおかしいのか? え? え!?
「まあなんつーか……結構ガチっぽいし、まあ、お姉さん、色々頑張ってください」
「俺たち応援してるんで」
「むしろ、そこの鈍感朴念仁ハーレムクソ野郎をわからせてやってください」
「いろんな意味で殺して大丈夫っす」
「じゃ、俺たちはこれで。あ、桜木たち、新学期、学園でな!」
「うん! またね!」
「まったねー!」
「あぁ、高宮には最後に一つ」
『『『とりあえず、一回死んでくれ……!』』』
「えぇぇぇ……」
俺だけ殺意を向けられただけで、田中たちは去っていった。
「さてと……柊君、ちょっと、O☆HA☆NA☆SHI☆ しようか?」
「え、なんでですか!? というかその下り、ウォータースライダー前にもしましたよね!? え、また?!」
「まあほら、あれだよ。色々と知っておいた方がいいと思うんだよ、私」
「いったい何を!?」
なんか怖いんだが!? 目が怖いんだが!?
すっごいギラギラしてるから、肉食獣のごときギラついた目をしてるんだが!?
「あ、椎菜ちゃんとみまちゃん、みおちゃんはあっちを見ちゃだめだよー」
「どうして?」
「「なんでー?」」
「あの二人はそれはもう犬も食わないレベルで仲良しさんだから、この後二人きりで逢瀬に行っちゃうから」
「「「そっかー」」」
『『『げぶふぅ……!』』』
あの、しれっと殺戮兵器を使用しないでくれますか、愛菜さん。
そして、なぜ皐月さんを止めてくれないんですか愛菜さん!?
なんかすっごい怖いんですが! 目の前の現役人気モデルで年上で、好みドストライクな人で、先輩の常識人がすごい怖いことになっているんですが!?
あ、ちょっ、俺の手を引っ張らないでください!?
「安心してくれ、柊君。とりあえずは……まあ、私が捕まらない範囲で色々するから♪」
「あなたいったい何をしようとしてんですか!?」
「気にしないで大丈夫。天井の染みの数を数えている間に終わらせるよ」
「ちょっと待ってください!? それそっち方向でしか聞かないセリフですよね!? 本気で言ってます!? あ、待って待って!? すっごい力強いんですけど!? と、止まって! 止まってくれませんかぁ!?」
「というわけで……ちょっと彼を連れて遊んでくるから、それじゃあ」
「なんか今、言葉おかしくなかったですかね!? え、ちょっ、誰か!? 誰か助けてぇぇぇぇ!?」
この後、俺と皐月さんの地獄の鬼ごっこが開幕し、最終的に帰宅時間ギリギリまで俺が粘ったことで事なきを得た。
遊びに来たはずなのに、なぜ俺はこうも疲れているのだろうか……。
俺以外の人たちは全員しっかり遊ぶことができたのか、すごく満足そうな表情だったのがまともに遊んだ記憶のない俺からすれば、なんとも言えない複雑な気持ちになったし、何より……羨ましく思うのであった。
皐月さんがある意味怖かった……のだが……なぜか悪くないとか思ってしまっている自分がいたことに、俺は頭を抱えた。
鬼ごっこの相手は、同級生にあらず……!
田中君たちはあれです。皐月から感じたヤンデレの波動を理由に、これは面白そうだからけしかけよ! とか思って鬼を皐月に譲りました。
こっちの方が面白いよね!
というわけで、プール編は終了です。ほぼ柊の話しだったなこれ……。
次回はプール編のエピローグ的な物を書いて、その後は四期生の初配信へ入っていきます。
なので、三話後からになるかな?
尚、柊にはルーレットを回してもらうのでね!




