#161 お説教される邪神、売店が血まみれ
こわ……。(ドン引き)
「ん、んん……ハッ!?」
深く暗い場所から浮上していくような感覚と共に、俺の意識が急速に浮上し、ガバッ! と勢いよく上体を起こした。
「大丈夫かい? 柊君」
「あ、あー……皐月さんですかね? すみません、今ちょっと、愛菜さんの魔球で視界がチカチカしてまして……」
「だろうね。だが、助けてくれてありがとう、柊君。危うく、私のモデル人生が終わるところだったよ」
「いや割とシャレにならないんですけど!?」
俺が間に合ってなかったらそんなことになってたのか!?
護れてよかった……!
あ、少しずつ視界が戻って来たな……。
「ん、治ったか……」
「あ、あの、高宮、さん、大丈夫、です、か?」
「あぁ、はい、大丈夫です。戸隠さん。まさか、一撃で意識を持ってかれるとは思いませんでしたが……あの人は手加減という言葉を知らないのだろうか……」
「まあ、愛菜、だからね」
「それで納得できてしまう辺り、本当に酷いですね……」
それはそれとして、あそこで俺が受け止めることができず、意識を失ったのは間違いなくあの人的に減点対象なんだろうなぁ……。
おそらくだが、
『この程度を受け止められずして、椎菜ちゃんを守ることなど笑止千万! 鍛え方が甘い!』
とか言ってくるに決まってる。
絶対人じゃねぇ。
「それで、愛菜さんは……」
「あぁ、それなら……」
そう言いながら、皐月さんが視線を向けた先に、俺も顔を向けると……
「まったくもぉ! あれで柊君たちが怪我をしてたら大変だったんだよ!」
「う、うっす……でも、その、柊君がちゃんと間に入ってくるであろうということを想定した力でやってまして、それに、皐月ちゃんに当たらないように直前でカーブをかけるつもりだった――」
「言い訳無用ですっ!」
そんな風に、椎菜に叱られている愛菜さんの姿があった。
「見ての通り、椎菜ちゃんからの説教を受けている」
「あー……うん。さすがの邪神でも、あれには勝てませんよね……」
割と冗談抜きで愛菜さんは世界最強……もとい、世界最凶だとは思うが、その最凶も最愛の妹には勝てないのだ。
というか、椎菜はその辺本当に強いからな……。
あと、美人な大人の女性が、見た目小学生(胸と中身は小学生じゃない)に正座させられて怒られている様は、なんというか……情けないと思えてくる。
というか実際情けないだろう、あれ。
「お姉ちゃんはやりすぎなんです! 柊君を鍛えるのは……別にいいとしても」
椎菜、そこは流さないでくれるか!?
「ここにはみまちゃんとみおちゃんもいるんですっ! お姉ちゃんの奇行を見て、二人が真似したらどうするの! 二人は色々とアレで同年代の子供たちと比べると運動神経がいいんだよ? 学校でもし、真似をして怪我をさせちゃったら大変なことになっちゃいます!」
「う、うっす……」
椎菜の起こり方が完全に母親のそれなんだが……。
すっかり母親になったんだなぁ……椎菜。
まだ高校二年生だが。
「柊君は優しいから、多分なんだかんだで許すと思うけど……それでも、ダメなものはダメです! ちゃんと反省すること! ボールもちょっと焦げちゃってるんだからね! ちゃんと謝ってくださいね!」
「はい……」
「罰として、お姉ちゃんのカバンに入っている僕のグッズは全部処分しますからねっ!」
「それだけは! それだけはご勘弁をぉぉぉぉぉ!」
「ダメですっ! 反省してください!」
「ノォォォォ!」
取り付く島もないと言わんばかりに、椎菜は愛菜の懇願をバッサリ切り捨て、愛菜さんは絶叫した。
「うんまあ、自業自得だよね」
「あれ、愛菜さん的に一番痛い奴だろ……」
皐月さんは当然だろう、とどこか呆れたように言って、俺はあれが愛菜さんにとって、最も辛い罰だろうなぁと零した。
おそらくだが、今回カバンに入れていたグッズ自体は、複製品か何かだとは思うが、それでもあの人にとって椎菜のグッズは複製品だろうがコピーだろうが大事なものに他ならない。
だからこそ、椎菜の言い渡したあの罰が大きなダメージになるんだろうが……。
「お、高宮君、目が覚めたんだね! おはよう!」
「大丈夫? あ、これ氷だぞ!」
「災難やったなぁ」
「しゅーおにーさんだいじょーぶ?」
「……いたいいたい、です?」
「いや、大丈夫だよ、二人とも。心配してくれてありがとう。琴石さんは氷ありがとうございます」
プールでお説教を受けている美人な女性とお説教しているロリ巨乳美幼女という場違いすぎる光景を見ていたら、朝霧たちがこちらにやってきた。
朝霧はおはようと言ってくるが、琴石さんはおそらく救護室からもらってきたのであろう氷を俺に渡してくれた。
東雲さんに関しては、さっきのことを思い出しているのか、苦笑い交じりである。
みまちゃんとみおちゃんの二人は、心配そうに俺に声かけてくれた。
なんというか、こうも美少女・美女に囲まれていると、嫉妬と怨念のこもった視線がとんでもないことになりそ――
「チッ……んだあの野郎……」
「こっちは男だけで遊びに来てるってのに、いいご身分だぜ……ケッ!」
「美少女に美女がよりどりみどりじゃねぇか……! 死ね!」
「今この時ほど呪いの力が欲しいと思ったことはないなァ!」
「しかも見ろよ、あんなにクソ可愛い幼女までいやがんぞ」
「ロリコンでもあるのか……死ねばいいのに」
「包丁で刺さればいいのに」
……前言撤回。なりそう、ではなく、すでに嫉妬と怨念のこもった視線がとんでもないことになっていた。
「それで、ビーチバレーはどうするんですか? このまま続行になるんですかね?」
「あー、それなんだけどねー。色々と話し合って、あまりにも危険な競技だということで、やめようということに……」
「危険なのは愛菜さんだけでは……?」
「そらそうなんやけど……恋雪さんが、な?」
苦笑交じりにそう言いつつ、戸隠さんの方へ視線を向ける。
「ひぅぅぅ!? わ、わわ、わたしには、あ、あんな殺人競技、む、無理、です、よぉ~~~! し、死にますぅ~~~!」
戸隠さんは配信の時のように……いや、それ以上にびっくびくとしていた。
どうやら、さっきの愛菜さんの魔球がトラウマになりかけているらしい。
ガクガクと震えている。
「こないな感じなんや」
「あー……なるほど」
「というわけなので、一旦お昼にしようということになったんだよ」
「昼……あぁ、そういえばもういい時間か」
朝霧に言われて、施設内の大きな時計に視線を向ければ、時間は12時を少し過ぎたところを指していた。
言われてみれば空腹感がある。
お腹が空いたし、お昼もいいか、と思っていたら、
くぅ~~
と、可愛らしい音が二つなった。
「おなかすいたです……」
「……みおは、すいてない、ですっ(ぷいっ)」
音の発信源は、みまちゃんとみおちゃんの二人だった。
みまちゃんは素直にお腹が空いたというが、みおちゃんの方は素直ではないらしい。
そういえば、椎菜がそんなことを言ってたっけか。
「子供がお腹を空かせてるのはダメだぞ! すぐお昼にしよう!」
「そうだね。栞、椎菜ちゃんたちを呼んできてくれるかい? まだ説教中みたいだから」
「了解や」
皐月さんに頼まれて、東雲さんが未だお説教中の椎菜たちのところへ行き、お昼のことを話す。
「あ、もうそんな時間なんだ。うん、じゃあお昼にしよ! というわけだから、お姉ちゃん、あのグッズは帰ったら処分するからね!」
「うっす……」
愛菜さんがなんかこう、ものすごいしゅんとしてるんだが……。
だが、あればかりは完全に自業自得だからなぁ……。
これを機に今後は控えてほしい。
◇
お説教が終わり、昼食ということに。
いつもならば、椎菜が弁当を作ってくるのだが、今回の椎菜は、
『せっかくだから、たまには施設でご飯食べよ!』
と言ってきたそうだ。
なので、全員でフードコートへ。
こういう場所の食べ物は大体が悪い意味での特別価格であることが多い。
実際、この施設も例にもれず、かなり割高となっているが……まあ、レジャー施設なんてこんなものだろう、そう思える価格設定だ。
まずは席を探さないといけない。
しかも、今回は十人もいるので、その分だけ席が必要になるのだが……。
「お、ラッキー! ちゃんと十人分あるぞ!」
運がいいことに、十人が座れる席が見つかった。
冬休み中、それもお昼時だというのに、本当に運がいいな……。
十中八九、椎菜が原因だろうが……。
何はともあれ、無事に席に座れるのはありがたい。
待つ必要もないしな。
ちなみに、テーブルの形状などは、よくある円形のテーブルに椅子がその周囲に置かれているタイプだ。
今回は五人座れる席が丁度二つ。
席としては、椎菜、みまちゃん、みおちゃん、愛菜さん、東雲さんで一つのテーブル。
俺、皐月さん、琴石さん、戸隠さん、朝霧で一つのテーブルとなった。
席を決めたら、まずは何人かに分かれて料理を買いに行く。
「いらっしゃいませ! ご注文をどうぞ!」
「俺は……あー、カツカレーで」
「私は……ん、焼きそばがあるし、焼きそばを」
「あたしは、チャーシュー麵で!」
「かしこまりました! お飲み物はいかがなさいますか?」
「俺はコーラでお願いします」
「私は……ウーロン茶を」
「オレンジジュース!」
「かしこまりました!」
俺たちのテーブルでは、俺と皐月さん、朝霧がまずは買いに。
俺はカツカレーで、皐月さんは焼きそば、朝霧はチャーシュー麵となった。
朝霧、結構ガッツリ行くんだな……。
その隣の列では、椎菜とみまちゃん、みおちゃんの三人が。
「いらっしゃいませ! ご注文はお決まりでしょうか!」
「えーっと……僕はホットドッグのセットでお願いします。飲み物はカル○スでお願いします。二人は何にする?」
「んっと、んっと……カレー……でも、ラーメンもいい……」
「……みおも、です。まよう、です」
「「んぅ~~~」」
『『『ぐふっ……』』』
普通にテロってるな……。
みまちゃんとみおちゃんの二人が可愛らしく唸る姿が可愛いのもあり、それを見ていた周囲の客が吐血しかけていた。
あれだけでも吐血させるのか……。
「……みまおねーちゃんは、どっちがいー、です?」
「どっちもいー……」
「……じゃー、みまおねーちゃんと、みおではんぶんこする、です」
「んっ! それなのです! じゃー、はんぶんこ!」
「……はんぶこ、です!」
『『『げはぁっ!』』』
あー、うん。だろうなぁ……。
二人でどうしようと話していたが、結果的にみまちゃんとみおちゃんはお互いに半分ずつ食べることにしたらしい。
すごく微笑ましい。
しかしまあ、さすが元は神薙みたまから生まれた神様なだけあって、二人とも本当に仲がいいんだな。
あれ、絶対に喧嘩とかしないで、ずっと仲良くできるタイプだな。
「ふふっ、じゃあ、そうしよっか。それじゃあ、お子様カレーとお子様ラーメンを一つずつお願いします」
「か、かしこま、かしこまりましたっ……!」
あと、店員がすごい死にそうな顔になってる。
間近でくらってるからなぁ……。
「お、お飲み物は……」
「二人とも、飲み物はどうしよっか?」
「オレンジジュース!」
「……リンゴジュース!」
「だそうなので、その二つをお願いします」
「げぶふっ……かしこまり、ました……!」
この売店、色々大丈夫なんだろうか。
「ぐぶっ……た、高宮君……わ、私のい、命が溶けそう……!」
「朝霧は普通に耐性持ちだろう……あと、鼻血しか出てないぞ」
「柊君、普通は鼻血でも大事だと思うんだ」
「皐月さんも鼻血出てますよ」
「不可抗力だよ」
まあ、歩く天災みたいなものだからなぁ……。
◇
この後、昼食を食べる時にみまちゃんとみおちゃんがお互いにあーんをしたり、終始微笑ましい光景を繰り広げたことで、死人が大量生産された。
あいつ、マジでなにか憑いているのではなかろうか。
一応、8:2にしたんですけどねぇ……!
というより、この作品においてルーレットを使用すると、ルーレット神様がおかしな結果を叩きだすんですけど。
やっぱりあれか? ルーレット神様実在するの???
今日から崇めようかな……。




