#146 新年、騒々しい始まり
あの配信の後は、スタッフさんたちが片づけをするということで、僕たちの方はすぐに解散となりました。
帰りに関しては、もう夜遅いということで、お姉ちゃんがタクシーを呼んでくれたので、それで帰宅。
まだ起きていたお母さんのお出迎えを受けてから、お風呂に入って自分のお部屋に戻るとみまちゃんとみおちゃんの二人が仲良くくっついて寝ていました。
さすがにこの状態でお布団に入るのもと思っていたら、たまたまみまちゃんとみおちゃんの二人が目を覚まして、寝ぼけながら僕の手を引っぱって中へベッドの中へ引きずり込みました。
そのまま、それぞれ僕の腕に抱き着くと再びすやすやと寝息を立てて眠ったので、僕は微笑ましくなって小さく笑って僕も眠りました。
◇
翌朝。
目を覚ました僕はほとんど同時に起きたみまちゃんとみおちゃんの二人を連れてリビングへ。
「あけましておめでとう!」
「あけましておめでとー?」
「……あけおめ、です」
「ふふふ、あけましておめでとう。三人とも。さ、朝ご飯できてるわよ。今日は初詣に行くのよね?」
「うん。みまちゃんとみおちゃんの二人も連れて行くつもり」
「はつもーで?」
「……なん、です?」
「うんと、神社にお参りに行くことかな? こう、神様に今年一年も見守ってください、みたいなことをお願いしたり、今年はこうなってほしい、と言うようなお願い事をしたり、かなぁ」
「んぅ? みま、かみさまだよ?」
「……みおも、です」
「あはは、うん。そうだね。二人も神様だね」
そう考えると、ある意味二人って初詣をする意味があまりないような?
言ってしまえば、神様にお願いするんじゃなくて、親戚の人にお願いするような物な気がするし……うーん、どうなんだろう?
「あけおめぇ!」
「あ、お姉ちゃん。あけましておめでとう!」
「あけましておめでとうです!」
「……あけおめ、です」
「あけましておめでとう、愛菜」
「おめおめ! あれ、お父さんは?」
「あの人なら、昨日の配信を見て死んでるわ」
「ありゃー、そうだったか。まいいや。はいはい、椎菜ちゃんにみまちゃんみおちゃん! 世界一頼りになるお姉ちゃん兼叔母さんが三人にお年玉を用意したぜぇ! はいどうぞ!」
そう言いながら、お姉ちゃんは僕たち三人にポチ袋をそれぞれに手渡しました。
「いいの?」
「おうよ!」
「んぅ? おかーさん、これなーに?」
「……かみの、ふくろ?」
と、みまちゃんとみおちゃんの二人はお年玉がよくわかっていないようで、こてんと可愛らしく小首をかしげていました。
そっか、お年玉は知らないんだ。
「おっと、二人はお年玉について知らない様子! いい? 二人とも。お年玉って言うのは、新年になると大人たちが親戚や自分の子供に、大きな額のお金を合法的に上げることができる日でもあるのですよ」
「お姉ちゃん、その説明は……」
なんだか色々と語弊があるような……?
「間違ってなくない? 普段だったら、間違いなく問題になるであろう大金を渡しても、まあ、お年玉だから、でどうにかなる! ってわけよぉ! あ、お母さんには今月の家に入れるお金をどうぞ」
「あらありがとう」
「ささ、開けて開けて!」
「あ、うん。じゃあ……って、えぇぇ……」
お姉ちゃんから貰ったポチ袋の中には、一万円札が10枚入っていました。
あの、見間違いじゃなければ、これ、10万円入ってるよね?
……多くない!?
「わー、おっきーお金だー!」
「……おじさんが、いっぱい」
「二人はどれくらい……あ、こっちは普通?」
みまちゃんとみおちゃんの二人が貰ったお金は、1000円札が5枚の計5000円。
小学一年生のお年玉と考えると普通に多い、かな?
「おかーさん、おかねもらったー!」
「……いっぱい、です」
「うん、よかったね~。お姉ちゃんにちゃんとお礼を言おうね?」
「「ありがとー!」」
「ごふっ……へ、へへ、この笑顔を見るためのお年玉よ……」
あ、レバニラバー食べてる。
いつも持ってるような気がするけど、一体どこにしまってるんだろう……って、そうじゃなくて!
「あの、お姉ちゃん? 明らかに僕のお年玉がおかしいんだけど……」
「いやいや、何を言ってるんだい椎菜ちゃん」
「ふぇ?」
「そもそもだよ? みたまちゃんは青春真っ盛り……ならば、資金はいくらあっても無駄にはならない!」
「あの、僕もVTuberでいっぱいお給料もらってるよ!?」
「でも椎菜ちゃん、あんまりお金使わないじゃん」
「そ、それはだって、将来のために貯金してるし……」
僕は将来、みまちゃんとみおちゃんの二人と養子縁組することを決めているし、二人は色々なことを学んでほしいからね。
だからこそ、今後の進学費用とかも考えてるわけで。
まあ、たまにお金は使うけど、それでもそこまで使わないようにしてるし、そもそもあんまりお金を使わないんだよね。
「高校生から将来の貯金を始めるなんて、我が娘ながらしっかりしているというか、妙に落ち着いているというか。まあ、二児の娘を持つ母親だし、当然と言えば当然かもしれないわね~」
「そうそう。なら、私が渡したお年玉という名目であれば、椎菜ちゃんはちゃんとお金が使えるはず! というわけよ! なんでまぁ、受け取って受けとって!」
「うんと、じゃあ、えと……大事に使うね、お姉ちゃん」
「いやむしろ椎菜ちゃんはちょっとくらい無駄遣いした方がいいと思う」
「それはそうね」
「えぇぇ?」
そこは普通止める所じゃないのかなぁ……。
◇
お年玉を受けとった後、お母さんの方からもお年玉を貰いました。
なんだかんだ、嬉しいよね、こういうのって。
「そう言えば、お父さんとお母さんの二人からもお年玉を預かってるわよ」
「あ、お爺ちゃんとお婆ちゃんから?」
「えぇ。いつでも遊びに来ていいって」
「そっか。じゃあ、夏休みかなぁ」
「二人とも、かなり驚くでしょうね」
「あ、そう言えばまだ伝えてなかったっけ……」
僕のお母さんの方のお爺ちゃんお婆ちゃんは田舎に住んでます。
そこは自然豊かな場所で、夏になると遊びに行くんだけど、昔はよく遊んでもらったこともあって、僕は二人が大好き。
向こうも僕を可愛がってくれていたんだけど……考えてみれば、女の子になったことは言ってなかったんだよね……。
うーん、二人とも驚き過ぎて怪我とかしないといいんだけど……。
「ま、まだまだ先のことだしね。というより、椎菜以上にひ孫が二人で来てることの方が驚きかも知れないわね」
「あ、それはたしかに……」
お爺ちゃんとお婆ちゃんに、神様の子供が二人で来たよ! って言ったらなんだか大変なことになるような……だ、大丈夫、だよね?
うん、きっと大丈夫……。
最悪の場合は、霊術や天使さんの方に変身して治せば……。
「いやいや、お母さんの両親なら、問題ないのでは? すぐ順応しそう」
「それもそうね。というわけだから、心配しなくても大丈夫よ」
「あ、う、うん」
それで納得できるんだ……。
「さてと、椎菜はみまちゃんとみおちゃんの二人を連れて、柊君と麗奈ちゃんの二人と初詣よね? どういう服装で行くの?」
「服装? いつも通りの私服で――」
「椎菜ちゃんアウトォ!」
「なんで!?」
私服で行くと答えようとするよりも早く、なぜかお姉ちゃんからアウトを受けました。
「椎菜ちゃん、いい? 椎菜ちゃんやみまちゃんみおちゃんの二人はそれはもう可愛い女の子……」
「僕はともかく、二人は可愛いけど……」
「なればこそ、いや、可愛いからこそ! 三人は振袖を着て行かなければならない!」
「んっと、どうして……?」
「私が見たい」
「わー、直球ー……」
「なんだったら、我が全財産を用いてでも、椎菜ちゃんたちの振袖姿が見たい……! というわけで、こちらに三人分の振袖がございます」
「なんで!?」
突然お姉ちゃんがどこからともなく三着の振袖を取り出して、何度目かもわからない、なんでという言葉を上げました。
本当になんで!?
「え? 世界一愛している椎菜ちゃんとみまちゃんとみおちゃんの二人のためなら当然だよね? あぁ、安心して! ちゃんと三人の体に合うようになってるから!」
「そう言う問題じゃないよ!? というか、本当にどうやって用意したの!?」
「服部さん」
「服部さんがすごすぎるよぉ!?」
たしか、僕と栞お姉ちゃんの衣装も作ってくれてた人だよね!?
裁縫技術を習いたい!
あ、じゃなかった。
何をどうしたらそうなるんだろう……?
「まあ、服部さんだからね! さぁさぁ! 椎菜ちゃん! この振袖を着てみて! 二人も着る?」
「着るー!」
「……着る、です」
「やったぜ! ほらほら、椎菜ちゃん! 二人が着るって言ってるんだし、ここは椎菜ちゃんも着るべきだよぉ? なので……私に! 椎菜ちゃんの!! 振袖姿を!!! 拝ませてくだせぇぇぇ!!!! 土下座もするぜェェェ!!!!!」
「わ、わかったから! 土下座はさすがにやめてぇ!?」
「あらあら、新年早々騒がしいわね~」
なんだかちょっと疲れちゃったよぉ……。
◇
そんなこんなで、お姉ちゃんのお願いを叶える(?)ために、振袖を着ることに。
「え、えっと、これでいい、のかな?」
「わー、おかーさんきれー!」
「……き、きれー、だと思うです」
「そ、そうかな? えへへ、ありがとう、二人とも。二人もすごく可愛いよ?」
「「えへへぇ」」
「ごぶふっ……レバニラバーチャージ……ふぅ……。いやぁ、お母さん、二人が可愛すぎて私の心臓がBPM500の壁を越えて鳴りまくってんですが」
「あらあら、それは大変ね。それにしても、すごく似合うわね~」
「な、なんだか照れるよぉ……」
お姉ちゃんから受け取ったのは、薄い水色を基調として白いお花が描かれた物でした。
髪の毛についても、いつもは特にいじることがないんだけど、今日はお母さんがいじってくれて、今はゆるふわなポニーテールに。
みまちゃんは白と青を基調としたデザインに、こちらもお花の柄がデザインされています。
神薙みたまの通常の方が元になってるからか、白と青がすごく似合ってて可愛い。
みおちゃんは黒と赤を基調としたデザインになっていて、こっちについてもお花がデザインされています。
神薙みたまオルタがもとになってるからか、黒と赤がすごく似合っててやっぱり可愛い。
僕の娘は可愛いのです……。
「椎菜ちゃんたちの可愛さがとどまるところを知らなさすぎて怖いぜ……!」
「本当、我が娘ながらここまで可愛くなるなんてね~。孫二人も可愛すぎる……お年玉を増やして上げたくなっちゃうわ」
「やめてお母さん! その誘惑を聞くと、私の体が言うことを利かなくなる! この足がATMまで縮地とパルクールで全力で動き、この手が淀みなく10万円を下ろしてきてしまうよ……!」
「理性より本能が強いのね」
「我が至高の妹と姪っ子ちゃん相手ならば、理性など塵芥にも等しいのですよ、お母様……」
「こっちの娘は新年早々、頭がおかしいわね~」
ようやく新年に入れたぁ!
マジで長かった……。
12月なんて、イベント編もあったからね……いやもう、過去最長の長さだったよ、12月……もうやりたくねぇ!
ちなみに、お正月はやることが多いです。




