閑話#37 買い出し組の一幕
大晦日配信のための準備を、買い出し組と料理組(+制作組+α)という二つに分け、行動を開始。
私はと言えば、ある種のお目付け役のような役回りとして、買い出し組として動いていた。
そんな買い出し組のメンバーはと言えば、私、愛菜、俊道、ミレーネ君、寧々君の系五名。
栞、冬夜君、椎菜ちゃん、千鶴君の四名は料理組として配信スタジオに残り、杏実君と藍華君の二人は料理ができないということで、味見役兼ゲーム制作組として残り、恋雪君は味見役のみの役回りで残った。
つまるところ、こちらは人数が向こうに比べて少ないということでもあるのだが……正直、愛菜がいる時点で恐怖だし、男子高校生のノリをする俊道もいる。
寧々君は基本元気いっぱいなのだが、こういう時は何かやらかしそうな気配があるが、まあ問題はないと思う。
ミレーネ君については……そもそも、ミレーネ君はある時を境に頭がおかしくなってしまった。
今回は私と同じく、監視的な役回りとして連れてきたはものの、別に期待をしているわけではない。
まあ、椎菜ちゃんと母性が絡まなければ、ある程度ツッコミに回ってくれるので、そこだけは……そこだけは! 助かるんだけどね。
それはそれとして、普段から常識人であってほしいのはもちろんだが。
そんな私たち買い出しメンバーはと言えば、事務所近くのショッピングモールに来ていた。
買うもの自体は、事前にスタジオに残るメンバーから買ってきてほしいものをLINNで送ってもらっていて、この場にいる者は普通にショッピングモール内で買うことになっている。
何を買うかは……各人の自由、ということになっている。
まあ、今何かを買う人というのは、事前に持ってこなかった、もしくはここで買うことを考えていたメンバーくらいである。
ちなみに、シャトーブリアントリオという、らいばーほーむのアホセレブ三名は私の問いかけに対して、露骨に目を逸らしたので、十中八九とんでもないものを持ってきていると思われる。
今から配信の時間が怖い。
ただ一つわかるのは……三人とも、そこそこ大きめの箱を持ってきた、ということだろうか。
あの中にはいったい何が入っているんだ……そう思わずにはいられないし、知りたくもないし、やっぱり知りたくもない。
まあ、さすがに大丈夫だろうとは思うが……。
……前回のような、A5ランクのシャトーブリアンのようなものはさすがに持ってこない……はずだ。
「しっかし、あれだな」
「どしたん? 俊道君」
「いやさ、今五人で動いてんだろ?」
「そうですね」
「俺以外全員普通に見た目だけは美人、美少女なもんだから、俺への嫉妬の視線がすごくてな!」
ははは! と周囲への迷惑にならない程度の笑い声をあげる俊道。
まあ、たしかにそうだな……。
「あたしって、美人なのかな?」
「そりゃ美人だろ」
「そうだね。寧々君は普通に美人だと思うよ。というか、割とモデルできそうじゃないかい?」
「お、皐月先輩にそういわれると、ちょ~っと自信が出ちゃうなー。まあ、やらないけどね! 柄じゃないし!」
「だろうねー。寧々ちゃんって、じっとしてるの苦手そうだし」
「あ、わかります。なんていうか、あれよね。モデルみたいに、じっとしてるような状況だと、我慢できなくなって動いちゃいそうよね」
「お察しの通りだぞ。あたし、ゲームみたいな状況は問題ないんだけど、そういうじっとしなきゃいけない場面は苦手でねー」
たははー、なんて笑う寧々君。
うんまあ、それは私も思う。
というか、ゲーム内でも暴れまわるよね、彼女。
前に一緒にプレイしたデスクラとか、普通に暴れまわってたしね……。
そう考えると、あまり現実もゲームの中も変わらない気がする。
そこが彼女のいいところでもあると思うけどね。
見ていて面白いから。
個人的に、三期制の中じゃツッコミどころが少ないのも好印象。
藍華君は声帯模倣してくるし、千鶴君はロリコンの変態だし、椎菜ちゃんは核兵器だし……そう考えると、たしかに寧々君の個性が一番薄いのかもしれない。
まあ、あれでも十分濃いけど。
「うぅむ、やっぱ俺への視線がやべぇなぁ……なんか、学生時代を思い出すぜ」
「俊道君の学生時代って言えば、それはもうすごい修羅場だったって聞くよねぇ。そこんとこ、実際どうだったの?」
「そりゃ、やばかったぜ。さすがに、流血沙汰とまではいかなかったが、水面下ではそうなりかけたらしいがな。ま、いい思い出だぜ」
「いやそれ、普通にいい思い出で流せなくないですか?」
「学生時代の思い出なんざ、自分が嫌だと思った記憶以外は、大体がいい思い出になるってもんだぞ、ミレーネ」
「それは否定できないねー。まあ、私の学生時代はそれはもうすごかったわけですが」
「愛菜先輩のは笑えないぞ」
「それはそう」
「というか、あれを軽くで流せる愛菜が一番すげぇよ」
「普通、いじめられた過去をあんなに軽く話せないと思うんですが、あたし」
「そこはもう、ほら、悪意が全部どうでもよくなるくらいの天使がいたから」
そういう愛菜の言葉で頭の中に思い浮かぶのは、エプロン姿の椎菜ちゃん。
愛菜ほどではないが、たしかに椎菜ちゃんレベルの存在がある日突然家族になる、と言われたら溺愛するのはわかる。私でもそうすると思う。
「しっかし、大晦日だってのに、人が多いな」
「それはそうですよ。大晦日と言えば、一部の例外を除けば、大抵は年末年始のお休みですからね。……まあ、あたしはその例外枠なんですがね……締め切り……」
ミレーネ君は時々、死んだ魚のような眼をすることがある。
まあ、その理由は当然のごとく締め切りなわけだけど。
売れっ子ラノベ作家をしている上に、らいばーほーむとしての活動を行い、家では古書店の店番もする……そう考えると、地味にミレーネ君の方もおかしいと言える。
まあ、らいばーほーむで一番おかしい日常を送ってるのは間違いなく愛菜なのは言うまでもないだろう。
何をどうしたら、あんな異次元の動きや技を習得できるのかわからない。
ゲッダン☆ ができる時点で頭おかしい。
「今日はパーティーなんだし、そういうのは忘れよう、ミレーネ君」
「……ですね、椎菜さんの料理で力をつけることにします」
「うんまあ、ほどほどにね」
君の場合、間違いなくおぎゃるから。
別にそれ自体を否定するつもりもないが……できる限り、可能な範囲で、それを暴走させないでほしい、というのが私の気持ちだろう。
あぁ、早く柊君が本格的に入ってきてはくれないだろうか。
コラボ解禁後は、俊道と冬夜君の両名とのコラボ配信となっているが……まあ、致し方なし。
私個人としてもいの一番にコラボをしたいとさえ思っているしね。
一番は無理でも、二番くらいで……。
「あ~、椎菜ちゃんの作る料理楽しみだなぁ。なんだかんだ、食べる機会少ないし。くっ、そういう時は、愛菜先輩がやっぱりずるいぞ……」
「これぞ家族特権。尚、二日に一回くらいの割合でレバニラ炒めが夕飯のおかずに出る模様」
「君の家、吐血とか鼻血、すごそうだからね」
椎菜ちゃんだけならまだしも、現状桜木家には双子のみまちゃんとみおちゃんの二人がいるからね。
しかも、二人は椎菜ちゃん大好き且つべったり。
であれば、普段からなんとも尊い母娘のやり取りが発生し、当然のように家の中は吐血と鼻血で赤く汚れると思うんだが……。
「私だけでなく、両親も……あー、いや、お父さんがよく死ぬからね」
「あれ? お母さんの方は大丈夫なんですか?」
「最近、母の愛、で克服しちゃった」
「それはすごいぞ……!」
「たしかに。というか、克服できるんだ……」
「すげぇな。つーか、克服か。やっぱ母親ってのは偉大ってことか」
「血の繋がりがあるからじゃない? まあ、なんにせよ、そこはさすがお母さんってところだよね」
どこの家も、母は強し、ということだろうか。
私は会ったことがないが、愛菜や椎菜ちゃんから聞いた話では、おっとりした雰囲気の女性だと聞いているし、前に配信に現れたときは、椎菜ちゃん似であることを暴露していた。
つまるところ、椎菜ちゃんのお母さんはロリ巨乳ということになるわけだが……。
うん、ある意味、椎菜ちゃんはなるべくしてなったのかもしれない。
一度会って挨拶をしたいところなんだけどね。
普段から娘さんたちのお世話をしています、と。
反対に、お父さんの方は愛菜にところどころ似ているとか似ていないとか……本当のところはどうかわからないが、血が繋がっている以上はそうなんだろう。
「さてと、こうして話しながら歩き回るのもいいけど、ちゃちゃーっと買うもの買おう! どうせ、やることは山積みだしね」
「だな」
「そうだね。私としても、この時間を無事に終わらせ、無心で準備を行いたいし」
「皐月先輩、さすがにそれは無理だと思うぞ」
「……寧々君、マジレスは勘弁して」
「そうよ、寧々さん」
「いや、ミレーネ君が言えることじゃない」
「あれぇぇ!?」
君は無理と言われる原因の一つだよ。
◇
そんなこんなで、五人での買い出しを行う。
私たち五人の間で購入したものは秘密となっているが、居残り組のメンバーから頼まれた買い物については普通に知っている。
そのため、これ、本当に鍋に入れるの?
みたいなことを思うわけで。
「……もう一度確認するがこれはもう、罰ゲームでは?」
だからか、私は再度これで本当にいいのか? というようなことを尋ねていた。
だってそうだろう。
中身が明らかに罰ゲームなんだから。
「何言ってんだ、やっぱ年末と言えばこれだろ!」
「あたし、初めてあれをするから楽しみだぞ」
「土台自体は椎菜さんがやってくれるみたいだけどね」
「くっ、何故私もこっちなのか……!」
「料理出来ないだろう、君。あっちはできる組でいいんだよ。というか、普通にさっきまで納得してたよね?」
「それはそれ、これはこれ、っていうのが私ですぞ、皐月ちゃん」
それでいいのだろうか、この邪神兼友人は。
なんだかんだ、らいばーほーむで一番仲がいい相手でもあるんだが、たまに怖くなる……。
はぁ、と心の中で溜息を吐いていると、ふと前方に見覚えのある人物を見つけた。
「ん? やぁ、麗奈君じゃないか。久しぶりだね」
その先には、椎菜ちゃんと柊君のクラスメートであり、様々な事情を知っている協力者であり、友人の麗奈君がいた。
ふむ、相変わらず綺麗な娘だ。
個人的には、是非ともモデルとして声をかけたいと思っているが……まあ、そこはさすがにそんなことはしないようにと決めている。
しかし、隣には私の知らない女性がいる。
友人かな?
「お久しぶりです! 城ケ崎さん!」
「あ、ほんとだ。麗奈ちゃんお久!」
「はい! 愛菜さんも、お久しぶりです!」
明るい笑みと共に私だけでなく、麗奈君に気付き挨拶をした愛菜に挨拶を返す。
「買い出しですか?」
「そそ! このあとやることに必要な物を買いにね! まあ、椎菜ちゃんは向こうで待機だけど」
「皐月、知り合いか?」
「あれ、たしか学園祭の時にあたしとミレーネさんは会ったことある気が?」
ナチュラルに話しかける私と愛菜が気になった俊道が知り合いなのかどうかを尋ねたが、寧々君が学園祭の時に会ったと零す。
「あ、あの時来てくれたお二人ですね! 朝霧麗奈です!」
その言葉を聞いた麗奈君は、その時のことを思い出したからか、パッ! とさらに表情を明るくさせ、自己紹介をした。
「朝霧麗奈……あぁ! 椎菜さんの事情を知ってる人ね! なら、本名でも問題ないわね。初めまして。四季ミレーネよ」
「琴石寧々だぞ!」
「四十万俊道だ! よろしくな!」
椎菜ちゃんの事情を全て知っている友人ということをらいばーほーむ全員から認知されていたこともあり、その存在が目の前にいる麗奈君だとわかると、それぞれ普通に本名を名乗った。
「ところで、麗奈君。そちらの娘は? 君の友人かい?」
自己紹介を済ませたところで、私はふと、一緒にいる麗奈君と同い年くらいの女性について、麗奈君に尋ねた。
その女性はなぜか冷や汗をだらだらと流しながら、どこか視線を彷徨わせているが……うーん? なんだか、どこかで見た様な……いや、見たというより、雰囲気、かな?
どこだろうか……。
「そうです! あたしの友達の……えーっと、柊ちゃんです!」
麗奈君が紹介をすると、女性はさらに挙動不審になった。
恋雪君のような恥ずかしがり屋なのかな?
可愛い。
「そうか。初めまして。城ケ崎皐月です。よろしく、柊君」
「あ、あははは、よ、よろしくお願いします……」
軽く自己紹介をすると、柊君の笑顔が少し引き攣った。
「う~~~~ん?」
コミュ障なのかもしれない、などと思っていると、すぐ横にいた愛菜がそんな風に唸り声を上げながら首をかしげていた。
その表情はどこか難しそうだが……もしかして、知り合いなのだろうか?
「え、えーっと、何か……?」
「ねぇ、どこかで会ったことない?」
「き、きき、気のせい、じゃないですかね……?」
やはり、愛菜はどこかで会ったことがあると思ったらしい。
なんか一昔前の客引きのようなことを言っていた。
尋ねられた柊君の方は、さらに冷や汗を流し、どもってしまっていた。
やっぱりコミュ障なのかな?
「うぅむ、その佇まい、歩く際の重心移動……どれも私が編み出した物のはず……。それに、その何かを隠してる時、右手でズボンを握りしめる癖…………ハッ!? まさか、しゅ――」
「おr……私たちは初めましてです!」
愛菜が柊君のことを思い出したのか、その名前らしきことを言おうとした直後、柊君がそれなりに大きな声でそれを遮った。
「え、でも、どう見ても魂とか動きとか癖が、しゅ――」
「朝霧さんから訊いていたんですよ! すごく綺麗な人だって! 私、初めて会ったなァ! すごく光栄ですぅっ!」
「柊ちゃん……」
何かを誤魔化すような言い方に、隣にいる麗奈君が何かこう、アレな物を見るような目を向けていた。
麗奈君、その視線は可哀そうだよ。
「おっと、こりゃ失敬。昔私が護身術を教えた人に似てた気がしたからついね! いやぁ、初めましてだね! 桜木愛菜だよ」
「柊です……」
しかし、誤魔化しのようなものが功を奏したのか、愛菜は人違いだと笑い飛ばしながら、自己紹介をした。
というか、誰もツッコまなかったけど、重心移動とか佇まいとか、果ては魂とか言い始めた以上、やっぱり知り合いなのかな?
それはそれとして、柊君の方は安堵したような顔で名前を口にしたが。
「愛菜、そろそろ戻らないと準備が遅くなっちまうぜ」
「あ、それもそうだね。やー、ごめんねー、二人とも。じゃ、そろそろ行こっか」
ここでタイムアップ。
準備の時間が押していることを俊道が告げた。
私も確認してみたら、たしかにいい時間だった。
そろそろ戻らないと、準備が遅くなるのは明白だし、何より……嫌な予感がしているからね。
個人的に、もう少し話をしたいところだけど、仕方ないかな。
「おう。んじゃ、またな!」
「それじゃあ」
「じゃあねー!」
軽い挨拶を交わしてから私たちは離れ……
「――……ず、……で……術…………をさせ…ね? お……になっ…………だし」
「――」
すれ違う瞬間に、愛菜が柊君に何かを言っていて、それを聞いた柊君の表情がビシリ……と固まったが……。
「愛菜、何を話したんだい?」
「ん~? 知り合いの人によろしく~ってだけ~」
「そうか」
やっぱり知り合いだったのかな?
ただ、愛菜が護身術を教えた相手って私の知る限りだと、椎菜ちゃんと柊君の二人だけ…………うん? あれ、今、何かが引っかかったような気が……。
何が引っかかったんだろうか?
……まあ、いいか。
多分、そんなに重要なことでもないと思うしね。
さて、スタジオの方に戻ろうか。
◇
そう思って、スタジオに戻って来たら……
「心肺蘇生! 心肺蘇生! あっ! 皐月パイセンいいとこに! ちょっち蘇生手伝って!」
『『『( ˘ω˘)スヤァ……』』』
椎菜ちゃん、栞、冬夜君を除いた面子で千鶴君を含めたスタッフたち(社長もいる)の心肺蘇生をしている光景がそこには広がっていた。
「一体何があったらこうなるんだい!?」
準備の段階でこれはもうなんというか……ほんっっっっっっとうに! 酷いっっっ!!!
とんでも暴露。実は椎菜は現在ノーブラ。理由は……『普段着』だから。
心の底から好きだったり、かなり好印象を抱いてる相手って、なんとなく雰囲気で分かるのがこいつら。ただ、皐月はまだその域ではなく、なんとなく見覚えがある程度。いやあなた、そんなに会ってないよね?
あと、社長たちスタッフ組が死んだのはまあ……Yシャツ+ホットパンツ+狐耳・尻尾+銀髪ロング+蒼眼+可愛いエプロン=核兵器の存在を認知したからです。仕方ないね。あと、味見で料理を振舞ったのも原因。開始前からこれだよ。
次回から配信回に入ります! さすがに、自己紹介で一話丸々使うことはない! べ、別にっ、フラグじゃないんだからねっ!




