閑話#36-2 例の彼の相談的な:下
「はぁ、なるほどねぇ……あの温泉配信の次の日に女の子に……」
「あぁ……」
「うんまあ、椎菜ちゃんもTS病だしファンタジーしてるし、男女両方に切り替わるタイプの病気があっても不思議じゃないよね」
「……まあ、前例がない上に、初の発症者は俺らしいんだけどな……」
「なんというか……返す言葉も見つからないよ」
朝霧の同情的な視線が心に来るなぁ……。
「でも、あれだね。少なくとも美少女なのは幸いだったんじゃない? ほら、これでその、ね? 言い方は悪いけど、容姿が悪かったらそれはそれで大変だっただろうし……」
「本当に言い方悪いな……」
「残酷だけど、容姿によって人生の難易度は変わっちゃうからね……」
「まあ……そこは否定できないな……」
仮にここで否定したとしても、実際にそれで苦労している人もいる以上、完全に否定することは無理だろうなぁ……。
世の中、見た目より中身だ、なんて言うが、実際にそうではない場面なんていくらでもある。
特に学生の間は。
そう言う意味では、俺は本当に恵まれているんだろう。
……まあ、嫉妬に狂った男子によるリアル鬼ごっこが発生するんだが……。
……バレンタイン、大丈夫か、これ?
「でも……本当に綺麗だね? 高宮君」
「……自分でも思うよ」
「あ、そこは椎菜ちゃんとは違うんだ」
「椎菜は自分の容姿を、ちょっと可愛い程度としか思ってないが、あれは客観視ができない……いや、違うか。椎菜の場合は、そもそも容姿に対して大したこだわりもないからな。そりゃあ好みはあるんだろうが、少なくとも容姿だけで判断するような奴じゃない」
そもそも、椎菜に悪意とかあるのか? ってくらい純粋だし、善性が強いからなぁ……。
「それは、うん。あたしも今年から椎菜ちゃんと一緒にいる機会が増えたけど、本当に心優しいからね、椎菜ちゃん。一かけらも見た目だけで判断しないからすごいと思うもん、あたし」
「むしろ、清潔感があればもっと良くなりますよ! とか、もう少し食べる量を減らして、健康的な生活をすればカッコよくなります! とか笑顔で、しかもバカにした風でもなく、心の底からそう思ってますよ! って感じに言うんだからすごいよな……で、実際にそれを実行に移してモテる奴もいたからな。あれで見る目はあるんだよ」
過去に、男子にモテる(冗談抜きで)椎菜に嫉妬した女子が、椎菜に危害を加えようとしたんだが、結果的に椎菜に浄化されたからなぁ。
ああも善性しかないと、毒気を抜かれる。
実際、その例の女子はなんだかんだあって、性格がよくなったしな。
……笑顔だけで性格を変える椎菜が一番怖いな……。
「何それすごい。ちなみにそれいつの話?」
「中学時代。椎菜は、俺以外相手だと普通に広く浅くの付き合いをするからな。だから顔が広くてな。それで、悩んでる男子たちにアドバイスをしたりとか。ほら、椎菜は昔から料理をした関係で、バランスのいい食事なんてのを理解してるんだよ。だから、こういうご飯だと苦がなくダイエットできるよ! とかな」
「おおぅ、女子力が活かされてる……」
「あだ名がママだったからなぁ……」
「なんか納得するあだ名だねぇ……」
本当にな。
実際、家庭科の調理実習とか、椎菜の独壇場みたいなところはあったし。
だからか、家庭科においては椎菜と一緒の班になれるかどうかで一喜一憂する奴が多くいたほどだ。
それはまあ、高校でも変わらないんだが……。
「まあ、椎菜ちゃん談義は一旦置いておくとして……それで、あたしを呼び出したのは、女の子になったことを報告するためだけじゃないよね?」
「あぁ。実はというか……朝霧に頼みがあるんだ」
「お、あたしに頼み。いいよいいよー。何でも言って」
「ありがとう。頼みって言うのは大したことではないんだが……この体用の衣服を買いたくてな」
「なるほど、おっけー! そういうことなら任せて! ……でも、なんであたし? お母さんとかいるよね?」
「あー、ほら。なんだかんだ、椎菜のサポートをしてる朝霧だからこそ、と思ってな」
「なるほどなるほど。そういうことなら仕方ないね! それに、同級生だし、お互い椎菜ちゃんのサポートをする縁もあるし、付き合おうじゃないか! 年末だし、案外セールとかもやってそうだし……うん、善は急げ! ショッピングモール行こう!」
「なんか朝霧、テンション高くないか……?」
やけにテンションが高い朝霧に手を引かれながら、俺たちはショッピングモールへ向かった。
◇
電車に乗り、隣街にあるショッピングモールに到着。
「そう言えば、この街に例の事務所があるんだよな……」
「あ、そう言えばそうだっけ」
ショッピングモールの中に入り、朝霧がおすすめする店へ向かって歩いている途中、俺は事務所のことをぼやく。
「そう言えば言ったことあるんだよね?」
「三回だけな」
「あり、三回なんだ?」
「あぁ。面接一回、面接後一回。大規模なアレの前に一回って感じだな」
「あ、そういう。言われてみれば、表に立ったのは一回だし、あれは会場だったからねぇ」
「まあな」
今思えば、初めてのVTuberとしての配信が大規模イベントなのは新手のいじめではないだろうか……。
幸いなのは、ステージ上に立つのではなく、配信用の部屋みたいな場所でやってたから、実際に見られていたわけじゃなかったことだろうか。
「そう言えば高宮君」
「なんだ?」
「スタッフの募集とかあった?」
「スタッフ? そう言えばあったな」
「ほんと!?」
「あぁ。……あー、そう言えば、将来は事務所に入りたいとか言ってたか」
「そりゃあね! 楽しそうだし!」
将来、らいばーほーむの事務所で働きたい、とか言ってたし、そりゃ気にもなるか。
なんだかんだ、スタッフの倍率も割と高いと聞くんだよな……だがまあ、朝霧は普通に入社できそうではあるな。
「まあ、楽しいのは間違いないだろうが……そう言えば、募集内容になんか条件があったな……いやでも、朝霧なら行けるか……?」
「条件? そんなのあったの?」
「あぁ。なんでも、某ライバーへの耐性持ち、だとかなんとか……」
「遂にスタッフにも求めるようになったんだ、あの事務所」
「……破壊力が高いからな」
何気にあの事務所、ビルの中の一部フロアを借りてる、とかじゃなく、建物一つが事務所なんだからな……。
そして、その事務所の中に求人があったわけだが…………なんか、ご自由にどうぞとか書いてあったし、何よりその文が書かれた紙の一部に、
『スタッフ・ライバーの身の回りに、耐性をお持ちの方が降りましたら是非、勧誘をお願いします』
とか書かれていたからな……。
イベントの時、裏方になりたいとか言っていた朝霧は、普通に条件を満たしていると言えるだろう。
耐性持ちというのは、要するに、あの二人の攻撃を受けても死なない人間のことだからな。
朝霧は鼻血を流し吐血はするものの、死にはしないし、なんとか動くことができる……いや普通に条件に合ってるな……。
「ちなみに高宮君、その求人ってあったりする?」
「あー……そう言えばなんとなくで一枚貰って行ったな……欲しかったら、初詣の時に持っていくぞ」
「ほんと!? ください!」
「はは、わかった。持ってくよ。まあ、明日だが」
「たしかに。まあでも、高校生だから入れないし、さすがに卒業後になるとは思うけどねー」
「それはそうだろうな。ま、案外大学生ならバイトでも行けるんじゃないか? あそこ、普通に人手不足らしいし、もしかするとバイト募集もしてるかもしれないからな」
「た、たしかに! ならば、今のうちに色々と勉強しておこうかな。編集とか」
「いいんじゃないか? 将来のためにしておいて損はないだろ」
「だね!」
などなど、そんな話をしている間に、目的の店に到着。
「とりあえず、ここで買おう! いやぁ、高宮君モデルさんみたいだから、なんでも合いそうで腕が鳴るねぇ!」
「あ、あー、そんなにいらないからな……? さすがにお金も……………いや、そう言えば一応俺も発症者だから貰ったんだったな……」
「その体質でももらえたんだ? 男に戻れるから、ないかもなんて思ってたけど」
「いや、むしろどちらにもなるとかストレス半端ないだろうから、って言う理由で通してくれたらしい。だから今、俺の口座には椎菜と同じように大金が入っていてな……とりあえず、ある程度は買うか……」
少なくとも、服はある程度買っておくに損はないだろうしな……。
さすがに、朝霧も俺の事情を知ったわけだし、そこまで酷いことにはならない……そう思っていた時期が俺にもありました。
◇
「おー、やっぱり綺麗系だから、パンツスタイルが似合うねぇ。というか、あれだね。可愛い寄りの綺麗系だから、何でも似合うね! ……ただ、背があるし、可愛い全振りって感じじゃないから、ガーリー系は似合わなそうかなー。あ、でもでも、フェミニン系は似合うかな? スカートも似合いそうだけど……ん~、フレアスカートみたいなロングもよさそう。というか、かなり美脚だし……ここはやっぱり、脚を見せるスタイルもかなりいいかな? 案外、膝丈の物とかありっぽいねぇ。あ、上はジャケット系がいいかも。シャツは……うーむ、シンプルに白か明るい色のセーターがいいかな? というか、柄があるよりも、シンプルな服装が一番似合いそうだよねぇ。あ、このデニムのジャケットとかどう?」
朝霧による服選びが始まった瞬間、俺はすぐさま着せ替え人形のような状況に陥っていた。
俺が男であることを知っている以上、さっさと終わるだろうと高をくくっていた結果がこれである。
女子のおしゃれ好きを舐めていたというべきか……。
いや、決して舐めていたわけではない。
俺も同級生の女子に付き合ってショッピングに行ったことがあるが、その時はかなり大変だったからな……。
男は基本、自分の目的の物を先に買いに行き、時間があったらゲームセンターに寄ったり、好きな物を売っている店へ行って、用が済んだらさっさと帰宅する。
だが、女子の場合は、目的の場所へ到達する間に、様々な寄り道を経由するのだ。
そして、そのより道がかなり長い。
というか、寄り道が目的になっているのだろう、そう思えるほどだ。
多分、目的以上に寄り道の方がかかった時間は長いからな……。
だが、さすがに今回ばかりはそうはないだろうと思っていたのだ。
なんせ、服を購入するのは俺であり、朝霧には服選びを手伝ってもらうだけだったのだから。
が、結果がこれである。
「というわけで、高宮君。あたし的にはこの辺がおすすめなんだけど、どれがいい?」
「…………なぁ、朝霧」
「なに?」
「俺の目には、上下セットで二十種類あるように見えるんだが……気のせいか?」
「これでも、三十くらいは選ぼうかなー、なんて思ったんだよ? でもさすがに多いかなーって」
「いやこれでも十分多いが!? 十種類程度でいいんだが!?」
「何を言ってるの! 高宮君! 超美少女なんだよ!? これは是非とも、着せ替えにん――こほんっ! 色んな服を着せたくなるじゃん!」
「取り繕えてないが!?」
やっぱり着せ替え人形にする気だったか……!
いやまあ、明らかに多いし、予想はしたが!
「でも高宮君、どのみち種類はあった方がいいよ? おしゃれってね、種類がたくさんあるから自分に合った物を探して見つけるのはすっごい楽しいから! 女の子は大体そう!」
「俺男なんだが!?」
「今は女の子だよ?」
「それはそうだけども!」
俺は椎菜とは違って、ちゃんと色々男なんだが!?
椎菜は……なんかもう、最近女子の服を着ることに対する違和感とかがないっぽいからな……むしろ、嬉々としてコスプレするくらいだし、あれはもう、女子だろう。心も。
あれでまだ中身は男! とか思ってるが、無理があるぞ、親友……。
「というわけで、さぁ選んで選んで! あ、全部でもいいよ!」
「それ数万するよな!?」
「でも、余裕あるよね?」
「……まあ、それはそうだが……」
「だったらここで買っておこ? まあ、全部は言い過ぎだけど、十種類くらいはあった方がいいよ。不測の事態に備えて」
「……一理ある」
「でしょ?」
正直な所、朝霧の言うこともわからないでもない。
仮に三種類しか買わなかった場合、洗濯中に雨が降っただけでアウトになるからな……。
それを考えると、十種類はあった方がいいようにも思える。
「……はぁ。仕方ない、十種類くらいは買っておくか……」
「やったぜ!」
この後、ファッションショーみたいになった。
◇
「疲れた……」
あれから朝霧の着せ替え人形と化したものの、なんだかんだでこの体に合うであろう服は買えたのでよしとすることに。
まあ、普通に疲れたが。
「あ、お昼どうする? 食べてく?」
「あー……そうだなぁ……そうするか。一階と三階のフードコートどっちがいい?」
「そうだねぇ……あたしは別にどっちもでいいんだよねぇ。どのみち、お正月になったらお年玉がもらえるからねぇ!」
「そういえばそうか」
考えてみれば、学生の冬休み中=お年玉、だからな。
それについては、高校生になっても楽しみであることに変わりはないん、んだが……。
俺の場合、早めのお年玉をもらった気分なんだがな。
あれ、税金らしいから普通にこう……申し訳なさが来るな……。
「まあでも、フードコートでいっか」
「そうだな。なら、俺は何にするかな……」
たしか、ここのフードコートはマ○ク、丸○製麵、ちゃんぽん、たこ焼き、カレー……あぁ、ラーメンもあったか。
結構種類が豊富なんだよな……。
そんなことを考えながらフードコートへ向かっていると……
「……もう一度確認するがこれはもう、罰ゲームでは?」
「何言ってんだ、やっぱ年末と言えばこれだろ!」
「あたし、初めてあれをするから楽しみだぞ」
「土台自体は椎菜さんがやってくれるみたいだけどね」
「くっ、何故私もこっちなのか……!」
「料理出来ないだろう、君。あっちはできる組でいいんだよ」
という感じで、前方から見覚えがあるというか……実際に数日前に見たというか、知り合いか知り合いじゃないかで言えば知り合いだし、今絶対に会いたくない人たちがなにやら大きな袋を持ってこちらへ向かって歩いていた。
「あれ? ねね、高宮君、あそこにいるのって、城ケ崎さんと愛菜さんじゃないかな?」
「……朝霧。いいか。仮に、あそこの人たちに話しかけられても、絶対に俺の名前を出すんじゃないぞ」
「え、なんで? 早い方がよくない?」
「絶対にッ……ダメなんだッッ……!」
「お、おう、そっか。じゃあ、そうするね」
ここでバレたらなんか不味いことになる気がする!
俺というか、主に皐月さんが!
おそらく、その場で崩れ落ちるような、そんな感じがしてならない!
あと、絶対にあそこの中に交じっている男性ライバーとしての先輩が笑う気がする!
それに、なったばかりでらいばーほーむの先輩方に遭遇するとか、どんな罰ゲームだ!? 俺、まだ心の準備ができていないんだよ!
「ん? やぁ、朝霧君じゃないか。久しぶりだね」
話しかけられることなく通り過ぎようと思ったら、皐月さんが朝霧の存在に気付いてにこやかに挨拶をしていた。
畜生ッ……!
「お久しぶりです! 城ケ崎さん!」
「あ、ほんとだ。麗奈ちゃんお久!」
「はい! 愛菜さんも、お久しぶりです! 買い出しですか?」
朝霧は嬉しそうに挨拶を返しつつ、手に持っている荷物を見ながらそう尋ねる。
「そそ! このあとやることに必要な物を買いにね! まあ、椎菜ちゃんは向こうで待機中だけど」
聞こえて来た会話からして、椎菜はいないのはわかっていたが、改めて聞かされるとほっとするな……。
「皐月、知り合いか?」
「あれ、たしか学園祭の時にあたしとミレーネさんは会ったことある気が?」
「あ、あの時来てくれたお二人ですね! 朝霧麗奈です!」
「朝霧麗奈……あぁ! 椎菜さんの事情を知ってる人ね! なら、本名でも問題ないわね。初めまして。四季ミレーネよ」
「琴石寧々だぞ!」
「四十万俊道だ! よろしくな!」
「ところで、朝霧君。そちらの娘は? 君の友人かい?」
なぜこっちを見る皐月さん……!
「そうです! あたしの友達の……えーっと、柊ちゃんです!」
朝霧それはギリギリだぞ!?
俺の名前の読みを変えただけだよな!?
「そうか。初めまして。城ケ崎皐月です。よろしく、柊君」
「あ、あははは、よ、よろしくお願いします……」
やばい、笑顔が引き攣りそうだ……。
だが、ここでバレるのは色々と面倒になる。
できれば避けたい。
「う~~~~ん?」
なんて思っていると、愛菜さんが俺を見ながら怪訝そうな顔で首をかしげていた。
「え、えーっと、何か……?」
「ねぇ、どこかで会ったことない?」
「き、きき、気のせい、じゃないですかね……?」
嘘だろ、元の俺とはまるっきり姿が変わってるのに、なぜ怪しむ!?
「うぅむ、その佇まい、歩く際の重心移動……どれも私が編み出した物のはず……」
だからなぜわかる!?
というか、愛菜さんって武術の達人とかじゃなくて、デザイナー兼VTuber兼同人作家だよな!? 明らかに特技がそれじゃないんだよ!
え、大丈夫だよな? バレないよな!?
「それに、その何かを隠してる時、右手でズボンを握りしめる癖…………ハッ!? まさか、しゅ――」
「おr……私たちは初めましてです!」
「え、でも、どう見ても魂とか動きとか癖が、しゅ――」
「朝霧さんから訊いていたんですよ! すごく綺麗な人だって! 私、初めて会ったなァ! すごく光栄ですぅっ!」
「柊ちゃん……」
そんな目で見ないでくれ、朝霧っ……!
なんかちょっと引いてる感じしてるが!
俺だって女子の口調で話したいわけじゃないんだっ……!
だが、ここでバレると、とんでもないことになるから嫌なんだよ!
頼むっ、誤魔化しが効いてくれ……!
「おっと、こりゃ失敬。昔私が護身術を教えた人に似てた気がしたからついね! いやぁ、初めましてだね! 桜木愛菜だよ」
「柊です……」
やったっ……!
誤魔化せた!
なんか、男として何かを失った気がしたけどな……。
「愛菜、そろそろ戻らないと準備が遅くなっちまうぜ」
「あ、それもそうだね。やー、ごめんねー、二人とも。じゃ、そろそろ行こっか」
「おう。んじゃ、またな!」
「それじゃあ」
「じゃあねー!」
そう言って、五人は去って行こうとして……
「――とりあえず、新規で技術の習得をさせるね? 女の子になったみたいだし」
「――」
ぼそり、とすれ違う際にそんなことを言われ、思わず思考が停止した。
神よ、俺が何をしたというんですかッ……!
俺はこの日初めて、神を恨んだかもしれない。
「……ねぇ、高宮君。愛菜さんってもしかして……」
「……100%気付いてる」
「あ、そっか……」
「……ついでに、新しい技術仕込むって言われた……」
「うわぁ……」
俺はもうだめかもしれない。
◇
あの後、俺と朝霧はフードコートで食事をして、下着を買いそのまま帰宅となった。
あと、この先に地獄が設定されてしまったことはもうこの際仕方ないし、この体での生活がある以上、俺自身も護身術は多く覚えておいて損はない、と自分に言い聞かせることにした。
ちなみにだが……下着を買いに行く時が一番精神的にきつかった……椎菜、お前の気持ちがよく分かったよ……。
「はぁ……どうしてこうなったんだろうか……」
家に帰り、自室へ戻るなり、俺はベッドに倒れ込みつつ、そうぼやいた。
ごろり、とうつ伏せから仰向けに買え、天上を見上げる。
「はぁ……やっぱあの人人間じゃないだろ……」
なんで、動きで全部わかるんだろうか、あの人。
なんかもう……怖いよ、俺。
「配信は確か……あぁ、夜からか。しっかり見ておかないとな……今後、俺も地獄を見ることになるわけだし」
イベントの時に既にツッコミに回りまくって疲れたのは記憶に新しい。
というか、俺の同期全員みたま推しなのはバグだろ。
しかも、なんか推し方が怖いし。
四期生、全員みたま関係なのが酷い気がするぞ、俺は……。
「はぁ……憂鬱だ……」
一月頭に初配信があるが、なんかもう、今から気分が重くなる……。
皐月さんも最初はこんな感じだったのか、すごく気になる。
……今度、心構えでも聞いてみるか。
なんてことを考えつつ、俺は今年最後の日を過ごすのであった。
尚、配信については……いつも通りの酷さだった、とだけ。
これがコミケの翌日の柊ちゃんの動きです。
大変だねぇ! あと、一体あいつらなにしようとしてんだろうね!




