#138 コミケ開始、殺戮担当は伊達じゃないということで
そんなこんなで始まった冬コミ。
どのサークルも既に準備万端。
愛菜もとい、弟愛妹が主導するサークルは、ロリとロリとロリとロリという、おおよそコミケでは見ることがほぼなさそうな布陣で地響きのような音と共にやって来る参加者たちを待ち受ける。
初めてのサークル参加且つ、コスプレ、そして売り子という状況にミリスとみおりの二名は緊張気味。
声優をしているみおり自身、顔出しなどを一切行っていないので、慣れていないのである。
反対に、二人のママである、たもとリルの両名は特に緊張した素振りもなく、まだかなー、と呑気に参加者たちがやって来るのを待った。
そして、それはやって来る。
「よっしゃ、四人とも文字通りの人波がやってきたぜぃ! というわけで、頑張って捌こうぜ!」
「「「「はーい!」」」」
「よしいい返事ごふっ!」
相変わらず声を揃えて言うものだから、可愛さの相乗効果で笑顔で吐血。
しかし、その手は一切よどみなく動き、懐から取り出したレバニラバーを流れるように口に放り込むと、そのまま咀嚼し嚥下。
食べやすいように、なるべく口の中の水分が持っていかれないようにしてはいるが、それでも水分はそれなりに持っていかれるので、そこは改良の余地あり、とかどうでもいいことをシスコンは考えている。
とまあ、そんな出来事がほんの僅か起こったが、地響きはすぐに近くにやって来た。
参加者たちの到来である。
「わわっ!? もういっぱい!?」
「ミリスさん、口調忘れてるよ?」
「はっ! え、えと、いっぱいじゃな!?」
見たことがないレベルの人の波に、ミリスは素の口調で驚き、みおりがツッコミを入れる。
横でママさん二人は微笑ましい表情を浮かべているが。
「あ、あれ? ここって弟愛妹先生のサークルで合ってるよね?」
と、一番最初にやってきた三十代前半くらいの男性が四人に尋ねる。
今まで弟愛妹一人でこのサークルを運営して来ており、尚且つ普通に素顔を晒していた。
そして、今目の前にいる男性は、弟愛妹の大ファンであり、いつも真っ先に買いに来るレベルの人物。しかも古参勢である。
なので、今回も美人同人作家として有名な弟愛妹がいると思っていたら……そこにいたのは、なんかものすご~~~~~く! どこかのVTuberにそっくりすぎるロリっ娘と、衣装がどこかのイベントで見たふりっふりなアイドル衣装を着た、これまた可愛いロリだったために、思わず面食らう。
鼻の奥がツンと鉄臭いが。
「はい! そうですよっ! あ、じゃなくて……えと、そうなのじゃ!」
「ごふっ!」
古参男性に不慣れでクッソ可愛いロリの攻撃が飛んでくる!
古参男性に9999のダメージ!
古参男性は血を吐いて倒れた。
FATALITY……。
「ふぇぇぇ!? だ、大丈夫です……かのう!?」
「ミリスさん、すごい口調になってるよ!」
「うぅ、だ、だって、まだ慣れないのじゃ……」
『『『がはぁっ!』』』
思わず素の口調で心配したミリスに、みおりがツッコミ!
その後、両手の人差し指をちょんちょんしながらしょんぼり顔を見せる!
結果、広範囲爆撃を発生させ、近くにいた参加者たちが血を吐いて倒れる!
「おロリ様困ります! 不慣れ系のじゃろりしょぼん顔はロリコンに効果抜群なんですっ! あーっ、いけませんおロリ様! あーっ! 困ります困ります! あーっ!」
「実際本当に困りそうだにゃあ」
その光景を横で見ていたたもはどこぞのテンプレ的セリフを発し、それを聞いたリルの方は本当に困るなぁと笑う。
尚、鼻血を流してるのは言うまでもない。
あと、ついでのように後ろで裏方がレバニラバーを二本同時摂取しているが、気にしてはいけない。
「な、なんと言う、逸材を連れて来たんだ……弟愛妹先生ェ……!」
古参男性、なんとか再起動。
そして、開口一番、とんでもない存在を連れて来たと称賛しながら立ち上がった。
「我が伝手よ。というわけで、今日はそちらの四人が売り子です。私は裏方なのでね。ま、お手柔らかに。あ、ついでに、四人に不埒なことを考える、もしくはしようとしてる人を見つけ次第、私に報告ヨロ」
『『『よっしゃ任せろ!』』』
「普段のあれ見てぇですね」
「そうだにゃぁ」
言動が明らかに、どこぞのシスコンと同じなのだが、誰一人としてそれを指摘する者はいなかった。
「というわけで、新刊三部ください」
「三部ですね! 1500円なのじゃ!」
「ぐふっ……じゃ、じゃあ、丁度……」
「ありがとうございますっ! あっ、ありがとうなのじゃ!」
「げぶふっ……くっ、つ、強すぎる……」
「わかる。血吐いちゃうよね」
何度も吐血させる幼女に、古参男性は開始直後から満身創痍である。
「あ、ち、ちなみに、握手とか……」
古参男性、つい勢い的なアレで握手ができないかと尋ねて来た。
「握手? おね……先生、握手ってOKなの、かの?」
「ん~? まあ、四人がいいならいいよ~。その辺は任せますぜ。ま、無理しない程度にね。あと、あんまり時間もかけすぎないよーに」
そういうのがありなのかどうかわからなかったミリスは、後ろでレバニラバーを加えながら作業をする弟愛妹にありかどうか尋ねると、こちらに任せると返して来た。
「とのことなので……えっと、しますか?」
「是非!」
「じゃあ、えと、右手でいい、かのう?」
「おなしゃす!」
握手OKが出たので、嬉々として握手を行う。
差し出して来た右手を、ミリスは小さな手でキュッと握り……
「三冊も買ってくれてありがとうなのじゃ!」
にぱっとした笑顔と共にそう言った。
不意打ち笑顔をくらった古参男性は……
「ごはぁっ……!」
まあ、やっぱりと言うべきか、吐血して死んだ。
尚、血はかからないようになんとか頑張って避けた。
「だ、だだ、大丈夫!?」
「血を吐いて倒れちゃった!?」
「おおぅ、いつもの光景……」
「あ、これでいつもの光景なんだー」
「そりゃあ、関わってますからねぇ」
「ほほう……まあ、ワタシも吐きそうだけどにゃぁ!」
「あ、四人いるから四列で並ぶようにねぇ! 参加者たちぃ!」
開幕早々カオスだった。
◇
そんなこんなで初手真っ赤な鮮血で始まったコミケ。
出入り口付近がなんかやべぇ! というのは、同業者たちの間でも噂になっており、どこか透明な笑みを浮かべた参加者たちがやって来ては、その者たちから事情訊く。
そこで判明したことは、弟愛妹の所に、なんかどこかのロリでピュアな某VTuberに激似な二人と、その衣装を身に纏った謎のロリ二人の、計四名が売り子をしているという情報を入手。
しかも、笑顔で握手をしてくれるとあり、今ではとんでもない長蛇の列ができてるとか。
まあ、そんな感じである。
で、その噂になっているサークルでは……。
「一冊で、500円なのじゃ! ちょうどじゃな! ありがとうなのじゃ!」
「え、待って、クソ可愛すぎて死ぬ……あ、死んだ」
「二冊で1000円だよ! 二冊もありがとう!」
「陛下にクリソツなのに、口調がみたまちゃんとか可愛すぎてバグる……血が止まらん……」
「おおぅ! 五冊とは強ぇですねぇ! けど、残念! お一人様三冊までなので、それで我慢をしてくだせぇ! あ、握手は無料ですぜ!」
「くっ、布教は二人までか……! でも、握手は嬉しいっ! あと、その衣装すっごい似合ってる!」
「にゃは! 三冊で1500円だにゃぁ! ん~、はい、丁度! ありがとうにゃぁ!」
「金髪ロリ巨乳で語尾がにゃ……? え、属性の大渋滞……大変好物ですっ……!」
とまあ、こんな感じである。
ミリスは明るくピュアな笑みでの接客により参加者が死ぬ。
みおりは見た目陛下なのに口調がみたまとかいうギャップ萌えによりやっぱり死ぬ。
たもは話し方が少し独特だが、みたまのアイドル衣装をナチュラルに着こなしているのでやっぱり可愛くて死ぬ。
リルも、金髪碧眼ロリ巨乳で陛下のアイドル衣装を身に纏っている上に、語尾が「にゃぁ」なので、またまたやっぱり死ぬ。
つまるところ、どこの列に並ぼうが、三者三様ならぬ、四者四様である。
まあ、単純に死因が変わるだけだで、結果は全部同じなのだが。
あと、当人たちは知らないが、既にSNS上でかなり話題になっており、握手できた参加者たちが物凄い自慢しまくってる。
「おぉおぉ! ものすごい勢いで我が同人誌が捌けていく……! なんとかお昼過ぎには行けそうだねぇ」
そして、裏方作業をする弟愛妹の方もそれはもうすごいことになっていた。
四人はそれぞれのペースで同人誌を捌いているため、捌け方にばらつきがあるのだが、弟愛妹はそれを完璧に把握し、どこにどれが足りなくなるのかを瞬時に理解し、そこに必要分の同人誌を補充していく。
さらに、弟愛妹がしていることはそれだけではない。
列が他の所に迷惑をかけないよう、定期的に列形成の方を行い、ちょっとした言い争いがあればにっこりO☆HA☆NA☆SHI☆をして仲裁。
しれっと万引きをしようとする奴には肩を掴んで、万力の如き力を込めて威圧して近くにいたスタッフに引き渡し、今度は荷物をこっそり盗もうとする阿呆がいれば、縮地で瞬間移動の如き動きで迫り、やっぱりスタッフに引き渡す。
というか、一人でこなす仕事量ではない。
お前やっぱ人間じゃない。
あまりにも人外な動きを披露しまくっていたためか、四人のロリ子と同レベルで話題になっていたが、やっぱり本人は気付いていないのである。
ちなみに、外国人の参加者が縮地を披露しまくる弟愛妹を見て、ジャパニーズニンジャ!? と興奮していたりもしたが、まあ、間違っちゃいないのかもしれない。
と、まあ、そんなこんなで順調に進んでいると……
「おっす、来たぜ」
「どうもー」
どこぞの男二人組がやって来た。
まあ、言わずもがな、俊道と冬夜の男性組である。
「あ、こんにちは! あ、じゃなかった。よく来たのう!」
「二人とも、来てくれたんだね!」
「あ、どもども、お二方! あの日以来!」
「おっす! ってか、なんだ、二人とも話し方寄せてんのか! いいな! 普通に可愛いぜ!」
「だねー。あと、どこかで見た人と、見たことがない人がいるけどー。まあ、なんとなーく衣装で察しは付くよねー」
「だな! おっと。長話してると後ろに迷惑か。んじゃ、俺も冬夜は二冊ずつで」
男二人はしれっと二冊購入。
「はいなのじゃ! 1000円じゃ!」
「同じくだよ!」
「ほい、1000円」
「丁度でー」
「ありがとうなのじゃ! あ、握手する?」
「おっ、折角だからしとくぜ」
「ボクもー」
一応、握手する機会はかなりあるのだが、折角だからということで二人は握手をした。
俊道はミリスと握手し、冬夜はみおりとだ。
「おっし、次行こうぜ、冬夜」
「次は爆蛾蝶ダイナマイト先生の所ですねー」
((どんな名前!?))
ミリスとみおりの二人は、冬夜が口にした謎の名前の作家に、心の中でツッコミを入れた。
ちなみに、爆蛾蝶ダイナマイトは、なんか無駄に戦闘描写を描くのが上手いエロ同人作家である。
界隈においては、
『いやこれエロいらなくない???』
とか言われているほどに、戦闘描写に定評がある。
尚、エロも普通に上手いのだが、やっぱり戦闘描写が……となっているらしい。
「じゃ、俺たちは行くよ。あぁ、知り合いなら普通に割とすぐ来るぜ」
「まあ、一人本格的に死にそうだから、LINNで全力で止めるけどねー。とはいっても、それはそれで面白そうだから、来てくれた方がいいかなー。じゃ」
愉快犯じみた発言を残しつつ、二人は去って行った。
ちなみに、仲良さそうに話す二人には、それはもう嫉妬の視線が物凄い来ていたが、慣れている二人は自然に流した。
「ふぅむ、いいペースだねぇ。とはいえ、四人のフォローはしっかりしないとかな」
調子よく流れていく列を見ながら、弟愛妹はうんうんと縮地で移動しつつ、そう呟くのであった。
爆蛾蝶ダイナマイト先生は、現役ボディービルダーの方です。
なんでも、バチバチの殺し合いで生まれる恋ってのはいいよね! とかいう思想で戦闘系エロを描くという方。本人的にはこう、エロとバトルが上手く両立した作品を描きたいんだろうけど、実際に出来上がるのは、エロがほぼおまけのゴリゴリの少年漫画タイプのバトルマンガである。なんでそうなった。あれだよ、ハイ○クールD×D的な。あれ、エロもあるにはあるけど、泥臭い感じの方が強いじゃん? そういうことだよ。尚、爆蛾蝶ダイナマイト先生は二十代の女性。チャームポイントは鍛え上げられた背筋と僧帽筋だそうです。
次回は、多分三期生側の話しぃ!
ロリコンは多分死ぬ。




