#135 冬コミの朝、遭遇的な
栞お姉ちゃんがお泊りするという事態になったけど、特にこれといったことが起こることはなく、翌日……冬コミ当日の朝に。
「ふわぁ~~~……んんゅ……ねむぃ……」
「うちも、ねむいわぁ……あふ……」
「はいはい、二人は顔を洗って来てね! 今日は戦場! オタクたちの祭典! なればこそ、しっかりと準備を整えて行かなければ死ぬ……!」
朝5時なのに、お姉ちゃんは元気だなぁ……なんて感想を抱く。
お母さんたちが帰ってくるまでの間は5時半起きとかだったけど、二人が帰って来てからは6時半起きになったせいで、実はちょっと朝が少しだけ弱くなってたり……。
でも、お姉ちゃんの言う通り、しっかりと準備をしないとなので、僕と栞お姉ちゃんは眠い目をこすりながら洗面所に向かって、そこで顔を洗いました。
今は冬だからすごくお水が冷たかったので……
「「ひゃっ!?」」
思わず、声が出ました。
「つ、つめたぁ……」
「そ、そやなぁ……でも、目ぇ覚めたわぁ」
「うん、やっぱり冷たいお水だと一気に目が覚めるよね」
「うんうん。ともあれ、ささっと歯も磨いて、準備しよか」
「そうだね!」
栞お姉ちゃんの言う通り、ちゃちゃっと歯を磨いて冬コミへ向かう準備へ。
「というわけで準備! と、言いたいところなんだけど……二人が持ってくのって、着替えと財布、スマホくらいなんだけどね。あとは、上着とかカイロとかそういうの」
「あ、そうなの?」
「なんや、えらい少ないんやなぁ」
「そりゃあ、二人は別に超オタク! ってわけじゃないしねー。そもそも、同人誌買うの?」
「僕は買わないかなぁ」
「うちは……基本、電子やなぁ」
「でしょ? これが、めちゃくちゃ買うぜー! ってレベルの人だったら、そりゃあもう袋とか袋とか袋とか……とにかく袋とか持ってくところだよ」
「そ、そうなんだ」
「愛菜はどうなん?」
「私? 私はまぁ……そもそも袋が足りなかったら積んで歩くから」
「「積んで歩く?」」
え、どういうこと……?
積んで歩く、積んで歩く……。
もしかして、言葉通りにタワーみたいにして持って歩く、とか……?
たしかにお姉ちゃんってすごく力持ちさんだけど、さすがにそれはない……よね?
「まあ、1000冊くらいだったら持てるし、問題はないかな!」
「そ、そうなんだ」
「1000冊はすごいわぁ……」
「ま、それはいいとして……とは言っても、私もそこまでって言うほど同人誌を買うわけじゃないからねー。買っても……まあ、50冊くらい?」
「そうなんやなぁ」
「そう言えばお姉ちゃんってどれくらい売るの?」
「椎菜ちゃん、コミケでは売るとは言わないのさ」
「ふぇ? そうなの?」
「コミケの場合、売るって言うんじゃなくて、頒布するって言うんだよ」
「へぇ、そらまたなんでなん?」
「ん~、色々理由はあるけど……参加してるサークル全部が有料で出してるわけじゃないって言うのと、あくまでも二次創作である場合が多いからねぇ。あくまでもファン活動。利益のためじゃないし。というか、結構稼ぐのがグレーゾーンってのもあって、販売じゃなくて、頒布って言うんだよ。」
「「へぇ~~~!」」
なるほど、それで頒布って言うんだ。
そう言えば昨日も冬コミのことについて、お姉ちゃんは売るとか販売って言ってなかったっけ。
そう言う理由があったんだなぁ。
「っと、それでどれくらい頒布するかだっけ? とりあえず、今年はかなり捌けそうと予想して……とりあえず、3000部くらいかなー」
「「……3000!?」」
「うん、3000。幸いというか、私も売り子側に回るしねー」
「そ、それって全部捌けるの……?」
「ん~、大丈夫じゃない? 実は残ってもそんなに痛手じゃないしねー。どのみち、委託販売もするし」
「委託販売?」
「そそ。簡単に言えば、同人誌を扱ってくれる書店とか通販サイトで代わりに売ってもらうこと。会場に来られない人もいるし、それくらいはね。あぁ、会場の方は自費で刷ってるから大丈夫!」
「えらいお金がかかってそうやな……」
「やー、別にここでお金を湯水のごとく使っても、どのみち利益が出るしねー。ま、私は利益は二の次だけど」
なんだろう、お姉ちゃんがコミケに参加してたのは知ってたけど、なんと言うか……すごいことになってました……。
コミケはよくわかってないけど、少なくともプロじゃないのにそんなに出すのはすごいんだと思います。
「うちら三人で捌き切れるん?」
「そうだねぇ……ま、なんとかなるでしょ。やばかったら、どうせ私の同人誌を手に入れるべくやって来るであろうらいばーほーむメンバーがいるからねぇ……!」
「お姉ちゃん、すごく悪い笑顔してる……」
「のこのこやって来る他のメンバーが不憫に思えて来たわぁ……」
「ふっ、私こそが法なり……! なんて、冗談はほどほどにして……さ、準備も済ませてそろそろ家を出よっか。朝ご飯は……あー、とりあえず、コンビニで。時間もないしね。どうせ、それなりに電車も混んでるだろうし」
「電車……そんなに酷いの?」
「ん~、そうだねぇ……とりあえず、大幅遅延してようやく動いた時の電車を想像してみて」
うーんと……うん、すっごくぎっちぎちなイメージ……。
「あれくらい」
「「え!?」」
あのレベルなの!?
「とは言っても帰りだけどね。まあ、その帰りはヤバいけどねぇ。なので、帰りは最寄り駅から行くのではなく、そこからタクシー使って別の駅へ向かって、そのあと特急使って帰ります。あ、既に電車の切符は購入してあるから安心してね。まあ、行きはさすがに使えないので、ちょっと大変かもだけど」
「「不安……!」」
「あはは、安心してよ。二人の場合……可愛さで周りが避けてくれるから!」
なんてお姉ちゃんは言ったけど、それ以上に僕たちは心配になりました……。
◇
そんなこんなで準備を終えて出発。
朝早いのに、人はそれなりにいました。
アニメやゲームのキャラクターか何かの缶バッジなどが付いたリュックとか、カバンを持ってる人やお友達同士なのか和気あいあいとしながらあれは確保、とか、分担しよう、というような話し声が聞こえてきました。
それから目的の電車に乗ると、幸いなことに席が二席空いていました。
「二人とも座って座って。さすがにおしくらまんじゅうよろしく、それなりにぎちぎち状態な電車に乗せるわけにはいかないのでね」
って言って、お姉ちゃんは僕たち二人に座るよう促しました。
僕と栞お姉ちゃんは申し訳ないとは思いつつも、お姉ちゃんの厚意に甘えて座ることに。
それからお姉ちゃんの言う通り、電車は徐々に人が乗って来て、気が付けば満員電車状態に。
僕たちは小さいから、たしかに立ってたらかなりまずかったかも……。
なんて思いながら、大崎駅に到着してそこから乗り換え……だったんだけど、
「す、すごい人の数……!」
「おおぅ……」
駅のホームにいる人の数が尋常じゃなくて、僕と栞お姉ちゃんはその光景に気おされていました。
こ、こんなにいるの……?
だって、まだ朝だよ? 始発って言うわけじゃないけど、それでも異常とも言える人数……。
「ありゃー、やっぱこれくらいは混むかぁ。ん~……仕方ない。タクシー使うかなー。こんな状態で二人を乗せるとか……殺意湧くし」
「でもお姉ちゃん、タクシーって高いよ……?」
「ええの?」
「タクシー代ごとき、すぐに稼げるのでモーマンタイ! というか、お金には余裕あるしねー。お気になさらずってもんよ!」
「そ、そっか。じゃあ、えと、タクシーで……」
「はいはーい。じゃ、行こう行こう」
この状態で僕たちが乗るのが嫌だと言うお姉ちゃんの提案でタクシーになりました。
◇
それからタクシーを活用して冬コミの会場である東京ビッグサイトに到着。
「わっ、人がいっぱい!」
「おおぅ、まだ開場前やのに、えらい長蛇の列ができとるなぁ……!」
「いやー、見慣れた光景だぜー」
駅でもすごかったけど、ビッグサイトの前はもっとすごかったです。
なんというか、先が見えない……!
「さて、私たちはサークル入場なんで、列はスルーして行くよー。あ、そうそう、コスプレ用の更衣室だけど、サークル入場だから8時~9時半まで。入り口ですぐにリストバンドを受けとって、そのまま登録しちゃうからね」
「うん!」
「了解やぁ」
なんて、お姉ちゃんに色々と教えてもらいながら入口の方へ向かっていると……
「あり? しい……じゃない、えー、あー、桜さん?」
「ふぇ?」
ふと、聞き覚えのある声が聞こえてきました。
その声がした方に視線を向けると……
「あ、やっぱり! おはよう!」
そこには小夜お姉ちゃんがいました。
「あっ、さy――」
「おっと桜さんや。ちょいと本名は勘弁で」
まさかの出会いに、一瞬驚いたものの、僕は笑みを浮かべて挨拶をしようとして、小夜おねえちゃんに止められました。
「んっと……?」
「うちらはまあ、サークル参加はしてるけど、代理人に任せてるんですね。んで、なるべく本名バレは避けてぇんですよ。ほら、身バレする可能性あるんで」
「あ、なるほど! じゃあえと……ん~」
「んまあ、面倒なんで、たもさんでいいですぜ」
「なんだろう、黒いサングラスをかけた司会者さんが頭に……」
「気にしねぇでください」
「あ、じゃあ、私はたもちゃん呼びで。改めて、たもちゃん、おはよう!」
「おはようごぜぇます!」
「はいおはよう! たもちゃんがここにいるってことは……あー、そう言えば、サークル参加してたんだっけ」
「そうですぜ! まな……じゃなくて、弟愛妹先生や」
ていあいまい……?
「そっかそっかー。いやぁ、知った顔がいるってのはいいねぇ……んで、たもちゃんの隣にいる方は? なんか、八重歯が魅力的で目を爛々と輝かせてるけど?」
お姉ちゃんの言う通り、小夜お姉ちゃんの隣には知らない女の人……女の子? がすごく目を輝かせて僕と栞お姉ちゃんを見ていました。
僕と同じで、ちっちゃくておっきい……!
「あ、こちらはうちの同業というか……東さんは声を聞けばわかりますぜ。あ、わかっても名前は出さないように! 色々と隠してますんでね」
「そうなん? んで、あなたは……」
「まさか、この三名は……! そして、ワタシの理想的なまでの可愛らしいロリっ娘……そして、聞き覚えのある声に話し方……! 対面じゃ初めまして! 本名はちょっとあれ何でとりあえず、リトルだにゃぁ!」
「んんん? その声……えっ、ま、まさか……!?」
「そのまさか! いやぁ、いつもあちらのお仕事ではお世話になってるにゃ!」
「え、えぇぇぇぇ!? ほ、ほんまに!? ほんまに、あの人なん!?」
「その人でぇぇす!」
「わ、わっ、こ、この場で会えるなんて……!」
そんな金髪の女の子(?)の人が誰なのか分かったのか、栞お姉ちゃんはすごく驚いていました。
知り合いなのかな?
「ふむふむ……色々察した! ともあれ、ここで騒いでると目立つんで、私たちも行こっか! あ、二人はコスプレとかしないの?」
「やー、衣装がねぇんですよねぇ」
「準備してないにゃぁ」
「ほほう? これはもしや行けるか……?」
「お姉ちゃん?」
「ん、なんでもないよ! お二人さんやお二人さんや。ものはご相談なんですがねぇ……ごにょごにょ……」
何でもないと言いつつ、お姉ちゃんはなぜか二人を連れて少し離れたところで何かこそこそとお話をし始めました。
「……ほほう?」
「……な、なんたる魅了的な提案……!」
「……というわけよ」
「「OK」」
「ノリがよくて、弟愛妹先生は嬉しい! じゃ、そうゆうことで。よしじゃあ、入ろう」
「「???」」
一体何のお話をしてたんだろう?
色々と気になりはするものの、僕たちはコスプレの登録をしつつ会場内へ入っていきました。
おかしい、入場前に遭遇するはずではなかった二人と遭遇を果たしてしまっている……!
頭の中で考えてる時は、こう、コスプレをした後に会うはずだったのに、なぜか入場前に出会ってしまっている……アウトプットをする時に何があったというのか。
というわけで、見ての通りですが、冬コミ編(編というほど長くやるつもりはないけど)のメインキャラは、多分愛菜を抜いた四名になるんじゃないかなー。
つまり、ロリ×4! ロリ巨乳×2、つるぺたロリ×2! 素晴らしいね!
尚、それぞれ母娘で両極端な模様。
あと、こっちは余談ですが、シスコンの同人活動の名前は、元は「弟愛」でしたが、椎菜が女の子になった後に「弟愛妹」に変更しました。ようは、今まで名字だけだったのが、なんか名前も追加された、的なイメージ。
地味にわたもちママがファインプレーしてるという……本名隠し!
ってか、らいばーほーむメンバーって、全員配信時と素の姿が変わらないんで、割と話したら身バレしそうだよね。シスコンとかロリコンとか特に。あとはツンデレちゃん。みたまとリリス? ……まあ、ほら、二人の詮索をすると、警察来るから……。
ちなみに、最近ロリピュアが鉄板になったせいで、みたま警察は進化しました。現在はみたまだけでなく、リリスも守護対象。配下たちと共同して日夜頑張っております。暇人かな?




