一周年記念特別編#椎菜(♀)→椎菜(♂)に戻るだけのIF:3
何事もなくHRを終えて、普通に一日の授業が始まる。
授業中は特にこれと言った問題が起こることはなかったんだけど……なんだか、視線をたくさん感じた気がしました。
まあでも、そこまで問題もないかなぁ、なんてことで気にせず流して、授業が終わって……その後に僕がやらかしちゃいました。
「あ、柊君、ちょっとトイレ行ってくるね」
「あぁ」
ふと、トイレに行きたくなったので、おしゃべりをしていた柊君に一言言ってから、僕はトイレに行って……
「「「あ」」」
「……あ」
間違えて、その……女子トイレに、入っちゃいました。
中には麗奈ちゃんと、美咲ちゃん、瑠璃ちゃんの三人がいて、手を洗っている麗奈ちゃんとすぐ傍でお話をしていたであろう、美咲ちゃんと瑠璃ちゃんの二人がいて、その三人と僕の視線がぶつかりました。
……え、えーっと……。
「ご、ごごっ―――ごめんなぁぁぁぁぁいっ!!!」
お互いに見つめ合ったまま固まった僕は、すぐに冷静になると、謝罪を口にしながら大慌てでトイレを出て、そのまま教室に逃げ帰ってきました。
うぅぅぅ、女の子だった時の癖で、間違えちゃったよぉ~~~~!?
「ん? 椎菜早かったな。どうした?」
「うぅぅっ、柊君、僕、変態さんになっちゃったよぉ……」
「いや何があった」
「じ、実は……その……女の子だった時の癖で、女子トイレに……」
「あ、あぁぁぁ……なるほど……そうか……」
「しかも、麗奈ちゃんたちと目が合っちゃって……うぅぅ、僕、絶対変態さんだと思われちゃったよぉ……嫌われちゃったよぉ……うぅぅ……」
最悪だよぉ……。
まさか、こんなことになるとは思わなかったし……うぅっ、男に戻ったんだから、ちゃんと確認しようよ僕ぅ!
戻れたことが嬉しくて舞い上がっちゃうのはわかるけど、それでもこれはないよぉ……。
「椎菜、多分だが、三人は怒ってないと思うぞ?」
「……怒ってるよぉ……。だって、男子が女子トイレに入って来たんだよ……? 変態さんだもん……」
(正直、椎菜の容姿だったら、普通に女子と間違えられて、何も言われない気がするんだがな……)
「椎菜、朝霧たち戻って来たぞ」
「ふぇ!? あ、え、えと、ご、ごめんなさい!?」
「あ、いや、椎菜君、あたしたち別に怒ってないよ?」
「うんうん、そりゃあびっくり……もしなかったけど、全然怒ってないから安心していいよ!」
「そうね。というか……ネタとしては美味しいし」
こちらにやってきた三人に、僕は勢いよく謝罪の言葉を口にすると、三人は特に怒ったような表情浮かべてなくて、いつも通りのにこやかな表情でした。
「鳥羽、今何か、不穏なことを言わなかったか?」
「気のせいよ」
「……そうか」
「え、えっと、本当に怒ってない……?」
「「「全然」」」
「でもその、僕、間違えて入っちゃったし……」
「椎菜君。そもそも椎菜君、昨日まで普通に女の子だったんだし、ある意味今更だと思うんだよ、あたし」
「うんうん。なんだったら、普通に一緒に行く時もあったしねー」
「というより……多分、誰一人として椎菜さん相手に怒らないんじゃないかしら」
「「「まあ、うん」」」
「あの、なんでみんな納得してるの……?」
すごくわかる、みたいにうんうん頷いてるけど……。
何気に柊君もだし……。
「ともあれ、気にしなくてOKOK! というか……椎菜君の場合、ある意味女子トイレを使った方がいい気もしてるんだけどね、あたし」
「なんでぇ!? 僕、男だよぉ!?」
(……昨日までやたら可愛いロリ巨乳美少女だったからなぁ……)
(うん……というか、椎菜ちー、無意識だとは思うんだけど、仕草とかが女の子だった時のアレだよね)
(無理もないわ。5ヶ月とはいえ、異性の体になっていたわけだし、慣れてもいたもの。体に染みついてしまっていてもおかしくないわ)
「あの、なんでこそこそお話してるの……?」
「あぁ、気にしないでくれ。そんなことより、椎菜。次の英語の授業、椎菜が当てられるんじゃないか?」
「あ、そう言えばそうだった。予習はしてあるけど……ちょっと見ておこう」
柊君に英語の授業のことを言われて、僕は今日の授業の範囲と、予習した範囲の再確認をしました。
こういうのはあらかじめやっておくからこそ身に付くわけだからね。
慌ててやってもあんまり意味がないのです。
ともあれ、予習予習!
「高宮君、気を逸らすの上手いよね」
「まあ、幼馴染だからなぁ」
「幼馴染で説明付かない時がある気がするなぁ、高宮君って」
「幼馴染なんてそんなものじゃないのかしら?」
「瑠璃ちーって結構真面目なのに、変な所でおかしなこと言うよね」
「気のせいよ」
◇
それからは何事もなく時間は過ぎて、お昼休み。
いつものように、三人で屋上でご飯を食べます。
今日は幸いなことに、太陽が出てるからそこまで寒くもないし、風邪もほとんどないです。
ありがたい限りだよぉ。
「それで、椎菜。VTuberの方はどうするんだ?」
「うぅん、あんまりよくないことだけど授業中に色々と考えて……とりあえず、小夜お姉ちゃんと社長さんにお話ししておこうかなぁって思って」
「まあ、それがいいよねぇ」
「うん。だから、今ちょっと電話してみようかなぁって」
お昼ご飯を食べ終えて、三人で雑談していると、柊君がVTuberの方について尋ねて来たので、僕は社長さんと小夜お姉ちゃんの二人にお話しすることを告げました。
必要だからね。
「というわけで、ちょっと電話するね」
「あぁ、ゆっくりな」
「はいはーい」
僕は一度二人から離れた所へ移動して、まずは小夜お姉ちゃんに電話をかけることに。
『もしもし、椎菜ちゃん? どうしたの? うちに電話かけて来るなんて珍しいじゃねぇですか』
「あ、もしもし、小夜お姉ちゃん?」
『……うん? あれ? 本当に椎菜ちゃんでOK?』
「うん、僕です」
『ほほう……? その割には、声がなんだか、いつもと違う気がするんですが? こう、今までの天使で甘いボイスではなく、柔らかく温かいような声と言うか、そんな感じが』
「あ、えっと、実は僕、男に戻りまして……」
『…………あ、ごめん。椎菜ちゃん。なんか、電波が悪いみてぇです。もう一度おなしゃす』
「僕、男に戻りました」
『……え、マジで?』
「マジです」
『夢とか、夢落ちでもなく?』
「現実ですね」
『……なんっ、だとっ……』
ドタバタガッシャーン!
小夜お姉ちゃんが言葉を発した直後、不意にものすごい音が電話の向こうから聞こえてきました。
え、今一体何が!?
「さ、小夜お姉ちゃん!?」
『ま、まさか、あの理想とも言うべき、激カワロリな、椎菜ちゃんが、お、男に戻るなんて……!』
「え、えと、ご、ごめんなさい……?」
『……いや、謝らねぇでください。こっちの問題ですんで……』
「そ、そう?」
『あい……。まあ、それはともかくとして……わざわざ、それを言いにうちに電話を?』
「あ、ええっと、実はその、男に戻ったから、VTuberの方をどうしようかなって思って……」
『あぁ、そういう……。椎菜ちゃん的には、バ美肉になるからどうなんだろうってことか』
「んっと、ばびにく……?」
なんだか聞いたことがない単語が出て来たんだけど……。
あ、でも、前にどこかで聞いたような覚えがないこともないような……?
『そうそう。バ美肉。簡単に言えば、VTuberであれば、ガワは美少女だけど、中身は男性って感じの奴ですね』
「あ、そういうもののことを言うんだ」
そう言う意味であれば、たしかに僕はバ美肉になのかも。
男だもん。
『そうそう。で、椎菜ちゃん的にはそれがどうかと思うから、うちに電話をかけて来た……つまり、ガワについての相談ですかね?』
「そうなんです。あの、小夜お姉ちゃんならどうにかしてくれるかも、って思っちゃって……ママだし……」
『なるほどなるほど……んまあ、おっけ! そういうことなら、うちに任せてくだせぇ!』
「ほんと!?」
『もち! 娘のためだからね! あ、出来れば創作意欲をかきたてるために、出来れば今の椎菜ちゃんの写真を送ることってできねぇですかね?』
「もちろんいいよっ! 今そっちに送るね! ……送りました!」
『お、これ……ぶは!?』
小夜お姉ちゃんにLINNで、今の写真を送ると、向こうから小夜お姉ちゃんが血を吐くような声が聞こえてきました。
「さ、小夜お姉ちゃん、大丈夫?」
『え、こ、これで男なの……? 待って待って? うち、別にショタ好きじゃねぇと思ってたんだけど……え、マジ……? なるほどなるほどこれはつまり……我が創作意欲がわいて来たァァァァァァ!』
「ふひゃぁ!?」
『椎菜ちゃんありがとう! 今から今の椎菜ちゃんに合わせた物をデザインするんで、これで切らせてもらうぜぇ!』
「あ、うん、わかったよ! それじゃあ、お願いしますっ!」
『任された! よっしゃぁぁぁぁ! 最高のショタを描いてやるぜェェェェェ!』
と、そんな声が聞こえて来た後に、電話が切れました。
なんだかよくわからないけど、すっごくやる気があるようで、僕としても安心しました……。
ともあれ、小夜お姉ちゃんの方は大丈夫だし、次は社長さんの方に電話だね。
『もしもし、みたまちゃんかい? 珍しいね? 電話をかけるなんて。何かあったのかい?』
「あ、もしもし、社長さんですか? ちょっと、相談したいことがありまして……」
『ん? なんだか、いつもと声が違くないかい?』
「えっと、それも込みで色々と……」
『了解した。何でも言うといい』
「実は僕、男に戻りまして……」
『へぇ、男に………………いや、え? ちょっと待って? 男に戻ったの?』
「はい。なぜか」
『マジで?』
「マジです」
『……え、あれって治るの?』
「それはわからないですけど……」
少なくとも、僕が知ってる範囲じゃ治らないはずなんだけどね……。
『あ、あー……そうか……それで、本題は?』
「んっと、男に戻ったので、VTuber活動をどうしようかなって……神薙みたまは女の子ですけど、中身の僕が男に戻っちゃったので……」
『あぁ、なるほど、そう言う事か』
「さっき、小夜お姉ちゃん……えっと、いなりさんの方に連絡したら、すぐにデザインしてくれる! ってことになりまして……」
『さすがというかなんというか……ともあれ、了解した。つまり、私に連絡してきたのは……』
「えっと、その、色々な許可というか、確認、ですね。新しいデザインでの活動や、男に戻ったことの公表とか……」
『ふむ……うん、了解した。そういうことなら、許可しよう』
「ありがとうございますっ!」
『礼はいいよ。なんか面白そうだし。それと、2Dモデルの方も依頼しておこう。どうせ、いなりのことだ。ものすごい速さで完成させるだろうしね。実際、みたまのデザインは一日で作ったそうだし』
「え、そうなんですか!?」
『あぁ、そうだよ。ともあれ、諸々了解した。早速行動に移るので、これで私は失礼するよ』
「あ、はい! ありがとうございました!」
『頑張るようにね』
そう言って、通話が終わりました。
なんとか、社長さんの方からも許可が貰えたし……うん、安心しました。
今できることはこれくらい、だよね?
「ただいまぁ」
「戻ったか。どうだった?」
「すぐに作ってくれるって小夜お姉ちゃんが言ってたのと、社長さんからも色々許可がもらえたよ!」
「さすが椎菜君。あっさりなんとかなったねぇ」
「うん。安心しました。おかげで喉が渇いちゃった……って、あ、飲み物がない。僕、ちょっと買って来るね」
「あぁ、気を付けてな」
「悪い上級生の女の人についてっちゃだめだよ?」
「なんだかおかしい注意だよ!?」
柊君の方はともかく、麗奈ちゃんの方は何かおかしい気がしたけど、僕はツッコミを入れるだけして、飲み物を買いに行きました。
「……あの椎菜が配信かぁ……」
「高宮君的にはどう思う?」
「性癖を壊される人が大勢出ると思う」
「高宮君が言うと説得力が違うよね、それ」
「……言うな」
「まあでも、椎菜君、本当に男なの? ってレベルで声やら外見やらが可愛いし、実際性癖歪みそうだよね。現に、うちのクラスの男子の中に歪んでる人いるしねぇ」
「心配になって椎菜と一緒にトイレに行ったんだが……男子の方、なぜか顔を赤くしてたからなぁ……」
「あー、昨日まで女の子だったもんね、椎菜君。それもあるのかも」
「本当、特殊な存在だよ、椎菜は」
ロリ系の物しか、基本的にデザインしないのですがまあ、なんか目覚めたんでしょう。椎菜限定で。
椎菜みたいなのが配信したら、マジで性癖歪みそうですよね。




