閑話#31 神界での一幕と、どこぞのバケモンの変遷
次回は配信と言ったな、色々あって時間がなかったので閑話になりました。すまぬ。
「「「仕事したくない」」」
「おぬしら……」
ところ変わり、神界にて。
そこでは、それはもうだる~~~~い空気が流れていた。
理由は色々あるのだが、一番の原因は……
「あの阿呆な主神様が地上に降りた挙句、とんでもないことしたんですよ?」
「しかも、居残り組の我々でその会場の守護をやるとか……体力死ぬ」
「いいですよねぇ! 一部の神々はぁ! こっちなんて、入場券が外れ、警備の仕事にも落ち、結果として結界での守護やら、神子たちの歌と踊りでまたあの時の二の舞にならないようにしなきゃいけなかったしぃ!」
「「「働きたくない!」」」
とまあ、らいばーほーむのイベントに行けなかったことである。
地上に降りることができず、神界で会場を守護っていた神々は、それはもう働く気力を失っていたのだ。
「あ、あー、うむ……まあ、なんじゃ……すまん」
「みたまちゃんは最高でした!」
「すごく、可愛かったです。私、リリスちゃんが最推し……あ、やっぱりろりぴゅあ二人」
「くっ、やはりおしゃべりこぉなぁに行った二人が羨ましすぎるっ……!」
「「幸運でした!」」
にっこりと微笑む、深い青の髪を持つまるで乙姫のような衣装を着る女性と、巫女服に似た衣装を着る幼女二人は、それはもう幸せそうな表情でそう言った。
他の神々はイラァッ、とした。
特に、おしゃべりコーナーのチケットを当てた、アメノウズメとワタツミに対して。
「畜生ッ……なぜだ、何故私は当たらなかったッ……!」
「せめて、会場の警備員にと思っていたのに、ダメでしたし……」
「というか、宇迦之御魂大神様と美月が当たったの、とてもずるいと思うんですが!」
「我が神子が出演する祭りに、私が当たらないなど、あるわけがないでしょう」
「妾はこやつの大本じゃからな。であれば、妾が当選すると言うのも納得じゃろう?」
「「「な、納得できねぇ……!」」」
「まあ、良いではないか。らいばぁほぉむのぐっずも販売されるしのう」
「それはそうですが……」
「真っ先に神子の膝枕座布団を手に入れているのがムカつく……」
「少なくとも、会場を楽しんだ神々は入手したしのう」
「「「妬ましい……!」」」
つい先日行われたイベントにおいて、会場入りした神々は、グッズの購入に成功していた。
しかも全員、グッズを全種類コンプしているという有様である。
基本、神たちは箱推しなのだ。
「とはいえ、じゃ。我々からすれば更なる問題があろう」
イベントの話をしていたが、宇迦之御魂大神が話題を変える。
「そうですね。まさか、人の子があのようなものを発明するとは……」
「ぶいあぁるでしたか。調べた所、仮想現実というものだそうですね」
次なる話題は、イベント時に発表された、VRシステムの発売である。
日本中で沸き、海外では大荒れとなったアレである。
当然、神界でも大騒ぎになった。
「うむ。最初はよくわからなかったが、どうやら電子世界に入り込み、自由に動き回ることができるらしい。そして、神子たちが所属するらいばぁほぉむの面々と触れ合えるらしい」
「その時点で、購入したいところ……!」
「推しと触れ合える時点で最高過ぎる!」
「しかし、どうやらあれも抽選らしい……」
「現状では、日ノ本でのみ稼働するそうですが……神界で動くんですかね?」
「何を言うとるのじゃ。そもそも、らいばぁほぉむの配信を見るために、我々はいんたぁねっとの回線をこちらの世界に構築したではないか」
「いえ、それはそうですが、そもそも神界は日ノ本の判定を貰えるのかと」
「「「……たしかに」」」
美月のその言葉に、神々が頷く。
配信を見るために、神々は必死こいてインターネット回線の構築を行ったり、スパチャをするために口座無しで送金する方法を確立したり、などなどそれはもう配信を見るためだけに頑張りまくっていた。
だが、次なるVRに関しては、現状日本でしか意味がない代物。
インターネット回線は繋げたけど、これできるの?
という疑問が生じたのである。
「ふむ……そもそも、地球ではないからのう」
「であれば、ここが日ノ本であるという認識をできるようにするしかないのではないでしょうか」
「そうじゃなぁ……」
「やはり、本気を出すしかない、ということか……」
「結局仕事しなきゃじゃん」
「でもこれ、抽選からあぶれたら……」
「「「……」」」
「それはもう、己の運の問題じゃろう。かといって、我々神が出しゃばり過ぎれば、真に必要としている人の子たちに迷惑が掛かる。故に、入場券同様、運を向上させるのはなしじゃ。ま、恨みっこなしじゃな」
「「「それしかないか……」」」
らいばーほーむメンバーと実際に触れ合うことができるという夢のような機械ではあるが、基本的なメインはあくまでも人間である。
超常存在はなるべく人の営みに干渉しすぎない、というのが暗黙の了解なのである。
……まあ、らいばーほーむ……というか、どこぞのお狐ロリが人気になり過ぎて、普通にバレないように出しゃばっているのだが、それはそれである。
「しかし、我々はいいとしても……天使や悪魔などは大丈夫ですかね?」
「あー、まあ、あそこは大丈夫じゃろ。天使は基本ド真面目。悪魔はずる賢いことはするが、それはあくまでも契約に限る。自分たちの欲望に対しては無駄に誠実と言うか、正攻法じゃからな」
「精霊、妖魔、妖精は……」
「精霊は基本的に不正はせん。むしろ、不正をする者を見つけ次第ぶっ殺すくらいじゃろ。妖魔は大らかじゃが真面目故、問題は無し。妖精は……とりあえず、何かしようとした時は潰せばよい」
「しれっととんでもないこと言ってません?」
「いくらド畜生でも、妖精がいないと色々不味いのですが……」
「うんうん。色々と最悪でも、いなきゃいないで困る」
「いるだけで面倒ごとになるが、逆にいなきゃいないで困る存在、と言うのも厄介じゃなぁ……」
「それが妖精ですし……」
実際の所、妖精の存在はそれはもう、面倒なのである。
神々だけでなく、他の超常存在たちも頭を悩ませているのだ。
「とはいえ、、何かあれば他の種族も黙っていないでしょうし、さすがに悪さはしないかと」
「それもそうじゃな。……さて、そろそろ仕事に戻るぞ」
「「「えぇぇ……」」」
「えぇぇぇ、ではないわ!」
「自分たち、どこぞの阿呆主神がいなくなった結果、仕事が激増してるんですよ?」
「さすがに死ぬって……」
「そうは言うが、あの阿呆主神、たしかに阿呆なことをしたが、それ以上にとんでも仕事量を平気な顔してやっておったからのう……まあ、あれじゃ。出世したければ、仕事しろ、ということじゃな」
「上位神になっても、いいことなくない……・」
「……うんまあ、やることが多いからのう。自身の分け御霊の管理やら、社の管理などもある故……」
「「「なりたくねぇ……」」」
最近の神は、上位神になりたくない、と言う空気感があった。
面倒くささがあるので……。
「まったくおぬしらは……って、ぬっ! 双子からの呼び出し! すまぬ、妾はちぃっと双子の所へ行って来る!」
「え、ずる!?」
「っていうか、いつのまに連絡手段を!?」
「一応、美月の神子から生まれた存在である以上、その大本は妾じゃからな。それに、これでもどこぞの阿呆よりは劣るが、上位神じゃ。というか……あの双子にもしもがあれば、色々と問題じゃからな。では、妾はちぃっと行って来る!」
そう言って、宇迦之御魂大神は大急ぎで双子の元へ転移して行った。
それからほどなくして戻って来て……。
「妾の分け御霊増やして来た」
「「「何してんの???」」」
「いや、双子が、可哀そうとか言って来るし、頼って来たから……」
「「「それは仕方ない」」」
神々は双子に甘かった。
◇
時間は遡り、椎菜という弟が出来た頃の愛菜のこと。
「うん、強くなろう」
椎菜ちゃんという、可愛い可愛い弟ができたその日の夜、私はそう思った。
椎菜ちゃんと出会うまでは、それはもう精神が死んでいたけど、あんなに可愛い弟君ができたのならば、私のことやら周りのいじめっ子などどうでもよし!
むしろ、私の人生における最重要課題が発生したと言っても過言ではない!
「よし、早速鍛えよう。あー、でも、さすがにムキムキにはなりたくないなぁ……椎菜ちゃんに嫌われたくないし」
今日出来たばかりの弟に対して、早速そう思っている私は既にブラコンなのだろうか。
いや、あんなに可愛い弟ができたのならば、誰であろうとブラコンになる!
むしろならないわけがない!
「うぅむ、鍛えるにしてもどうするか……やはり、最初は体力作りが必須かな?」
何をするにも、体力は必須。
いくら筋トレをして力が強くなったとしても、それを維持するための体力が無ければ話にならないし、椎菜ちゃんを護るためにはフルマラソンを息切れせずに、一時間で走り切るくらいの体力はならないといけない気がする。
「……決めた! まずは、毎日フルマラソン! そうすれば、体力などいくらでもつく! というか、急いで力を付けなければ!」
そう思った私は、毎日フルマラソンをすることにした。
◇
一か月後。
「うぅん、なんだか物足りなくなってきた」
私は一ヶ月で、目標だった息切れせずに一時間で走り切るという体力と走力を手に入れた。
「でも、目的の体力はそれなりに身に付いたし、それならば次は……武術!」
強くなるための最大の手段は、やっぱり武術。
戦いの才能がなかったとしても、努力次第で技を身に着けることは可能。
ならば、次はこの辺り一帯の道場で習いまくる!
そう決めた私は、早速とばかりに、道場で鍛えることに。
さすがに、武術素人だったので、すぐには強くならなかったけどね。
一つの武術を身に着けるのに、半年くらいかかったし。
あぁ、そう言えばその間に体育祭があったなー。
私を散々いじめてた……えーっと、名前何だっけ。
まあいいや、いじめっ子A、その他BとCたちとか、亀のように遅かったし。
というか、全員遅かった。
いつの間にレベルが低くなったんだろうか。
そう思ったほどである。
あぁ、あとはあれ。
椎菜ちゃんの応援で普段の5割増しだったのもあるかも。
やはり、最愛の弟の存在は、姉を強くする……!
◇
さらに月日は流れて、社会人になった私はある日。
「山を買おう」
山を購入することにした。
幸いと言うか、仕事は好調、同人活動でもかなりの収益を得られていた私は、お金に余裕があった。
ならばと、私は修行用の山を購入することにしたのだ。
幸い、それなりに安い値段で買えたし。
山を買った私は、早速とばかりに修行を開始。
「うぅん、とりあえず、空手、柔術、ボクシングは習ったけど……これだけじゃ弱い気がする」
そう思った私は、何をすれば強くなれるのかを考えた。
結果。
「あぁ、そうだ。木をへし折り、岩を砕けるようになればいいんだ」
そう思うこととなった。
最初は全然折れないし、全然罅も入らなかった。
むしろ、私の体が折れるのでは? 骨に罅が入るのでは? そう思ったほどだ。
だがしかし!
私には、強くならなければいけない理由がある!
私が強くなることで、椎菜ちゃんという世界一可愛い弟を護ることができるのだから!
それに、椎菜ちゃんを護るなら、最低限木々を折り、岩を砕けるくらいじゃないと守り切れない気がする。
「うぅむ……となると、やはり必要なのは……筋肉……!」
結局、純粋な力を手に入れるのならば、筋肉が必要。
かといって、ムキムキになったら、乙女心的な問題もある……。
それなら、筋肉がわからないように鍛えればいいのでは?
たしか、ピンク筋と呼ばれる、白筋と赤筋の二種類の特徴を持った筋肉があるはず……。
……それを増やせばいいのでは?
うん、それだ。そうしよう。
そう考えた私は、体を鍛え始めた。
◇
一年後。
「うん、木なら簡単に折れるし、岩も砕けるようになったなぁ」
目の前には、根元からへし折れた木や、粉々に砕けた岩の破片が散らばっていた。
結果とし、目論見は成功した。
うっすらと筋肉がわかる程度に抑えつつも、木を折り、岩を砕くほどの力を私は手に入れた。
副次効果として、持久力も身に付いたのは嬉しい誤算だったけど。
「でも、これだけじゃ足りない……」
今の私は、あくまでも人間に対してどうにかできる程度……。
であれば、次に私がするべきことは一つ。
「銃撃戦想定……!」
銃を持った相手の対処法。
仮にもし、椎菜ちゃんを狙う悪人がいて、相手が銃を持っていた場合、私は一発くらいなら避けられると思うけど、何発も撃たれたら、避けるのは難しい。
それに、もしそれが椎菜ちゃんに当たりでもしたら、死んでも死にきれない。
ならば、銃を持った相手を想定した修業を積まなければ。
となると、必要なのは……銃の構造の理解と、一瞬で相手に肉薄する技術。
そう言えば、縮地と言う技術があったはず……うん、それを身に着けよう。
あとは……動体視力。
銃弾を目視で避けられるようになれば、言うことは無しのはず。
うん、次はそうしよう。
◇
さらに月日は流れて。
気が付くと私はVtuberになっていた。
まあ、それはいいんだけどね、楽しいし。
あと、椎菜ちゃんの幼馴染で親友の柊君と言う男の子を鍛えたし、椎菜ちゃんを狙うクソ野郎共の組織を潰したりもした。
その過程で、不知火組という組とも仲良くなれたからヨシ。
いやぁ、組長さんがいい人で良かったよー。
ついでに、妖怪やらバケモンやらと戦う術も教えてもらったし、私にとって超プラスだった!
最高。
まあ、できればあの三つ首でデカイ犬とやり合う時よりも前に知りたかったけどねぇ……。
あの時は本気で死を覚悟したし。
まあ、椎菜ちゃんの笑顔を思い出して勝ったけど。
「ん~、ここからどうしたものか……」
私は修行場で腕を組みながらそう呟いた。
今の私は、そこそこ強い。
少なくとも、銃を持ったテロリストであれば、縮地で肉薄からの柔術でぶん投げて意識を刈り取れるし、一応銃弾も避けられる……。
木だって折れるし、岩も砕ける。
持久力や走力もそれなりにつけたけど……問題は、ここからどうやって強くなるか、ということなわけで。
まだまだ椎菜ちゃんを護るには力が足りない気がする。
やっぱり、武術がいいのかなぁ……。
まだまだ覚えていないものもあるし。
「うん、それがいっかぁ……」
なんだかんだ、武術はバカにできないしねー。
ともあれ、今日は配信もあるし帰るかなぁ。
◇
それからほどなくして、椎菜ちゃんが女の子になった。
それはもう、世界一可愛いと言っても過言ではない愛らしさを持ったロリ巨乳美少女だった。
だから私は強さをまた求め始めて……。
「ありがとうございました、おかげさまで、全部学べましたよ」
「え、もう辞めるの!? 君、絶対世界取れるって!」
「いやー、私、最愛の妹を護るために覚えただけなので」
数日で武術を極められるようになっていた。
その度に、熱烈にスカウトを貰ったけど、私は生憎と世界に興味はない。
というか、私以上に強い人なんてごまんといるはず。
最愛の弟……じゃなくて、妹がいれば、誰だってここまで強くなれるからねぇ!
さぁ、次は何の武術を学ぼうか。
今回はムエタイだったし……テコンドーとか? 合気道もあるしなぁ……あぁでも、合気道は栞ちゃんの技を見れば普通に覚えられるしいっか。
となると……
「今度は武器系、かなー」
武器系の技術を手に入れよう。
それなら、また明日から道場探しかな。
◇
この愛菜のアホみたいな行動により、武術の界隈では、ふらりと現れて数日で技術を極める謎の美女がいる、とかいう噂が流れることとなった。
しかも、どう見ても世界を取れるレベルの逸材だったこともあり、血眼になって行方を捜す者もいたが……見つかることはなかった。
なんせ、あのシスコンは、気配を消すことができるので……。
バケモンがどうしてバケモンになったかの過程の話しでした。
まあ、あれです。最愛の存在を護るならこれくらいはなぁ! って感じです。
しれっと、不知火組との接点も出てますがまぁ……うん。




