閑話#30 双子の探検
椎菜たちらいばーほーむメンバー組から離れたみま&みおのロリ双子神たちはといえば。
「おー、ひろーい」
「……ひろい、です」
旅館内をとてとてと可愛らしい足音と共に歩き回っていた。
現在は一階を歩き回っているが、ところどころの扉を開けては中を見て、きゃっきゃと感想を言ったり、扉ではなく襖を見つけたらそこを開けて中を覗いて、広い部屋にやっぱりきゃっきゃとはしゃいで。
そんな風に旅館内を探検していく。
もちろん、入ってはいけない場所には入っていないので、問題は無しである。
触っちゃいけなさそうな物にも触らず、少し離れた位置でそれをじっと見ていたり、二人して感想を言い合ったり、そんな風に過ごす。
初めての旅行、初めての旅館に、双子神はとてもはしゃいでいるのだ。
「んぅ、ここ、なんだろー?」
「……いいにおいする、です」
一階を探検していると、不意にいい匂いがする場所を見つける。
そこには扉はなく、暖簾がかかっているだけだった。
二人は中には入らずに、ひょこっと顔だけを覗かせると、そこでは何名かの男女が忙しなく動きまわりながら、料理を作っているところであった。
「ごはんをつくってるのかな?」
「……そうだとおもう、です」
「すごいねー」
「……んっ、すごいです」
「おかーさんとおばーちゃんもすごいけど、こーゆーところの人もすごいね」
「……うごきがきれー、です。かっこいー」
「おかーさんもできるかな?」
「……んぅ~、おかーさんなら、できる、とおもう、です」
「みまもそーおもう!」
「……んっ、おかーさんはすごいです、から」
中を覗いた二人は、なんとも微笑ましい会話を交わす。
純粋に中の人がすごいと思うのと同時に、自分たちの母親である椎菜もああいう動きができそう、みたいな。
子供らしいと言えば子供らしい会話である。
「おう、お嬢ちゃんたち。今日予約した一行の子供かな?」
と、二人で会話をしていると、中から初老くらいの男性が出て来て、柔らかい笑みと共に二人に話しかけて来た。
「そーです!」
「……おかーさんといっしょ、です!」
「ん? あの中に母親がいるのか。全員若い嬢ちゃんと、若い坊主だと思ったんだが、今の若いもんは進んでるんだなぁ」
初老の男性はそんな風に言葉を零す。
「まあ、そりゃあいいか。しかし、お嬢ちゃんたちはどうしてここに? 母親の所にいなくていいのか?」
「はじめてのりょこーで、りょかんだから、たんけんしてるのー!」
「……たのしー、です!」
にぱっ! と笑うみまと、表情はあまり変わらないが、よく見れば小さく笑っており、とても可愛らしい。
というより、二人で一緒にいるだけで魅力がそれはもうカンストしているのだが。
「ははっ! そうかそうか! そりゃ、探検もしたくなるもんな! 二人は今は小学生か?」
「一ねんせー!」
「……7さい、です」
「そうかそうか。将来いい娘に育ちそうなだな」
「えへへぇ」
「……んっ、いい娘になる、です」
「おう、そうなってくれよ? ……っと、折角ここに来てくれたんだしな……ちょっと待ってな」
そう言うと、初老の男性は中に引っ込んでいった。
「なんだろー?」
「……んぅ~?」
二人は顔を見合わせてこてんと首を傾げる。
奥で血を吐くような音が聞こえたような気がしたが、二人の耳には届いていない。
「おう、待たせたな。悪いな、今はこんな物しかなかったんだが、食うかい?」
中から戻って来た男性の手には、小さな皿に載せられたワカサギの唐揚げが。
「これはー?」
「……なん、です?」
「こいつは、ワカサギの唐揚げだ。美味しいぞ?」
「たべていいの?」
「……だいじょーぶ?」
「おう、子供は育ち盛りだからな! それに、今日は貸し切りなもんで、仕込み以外は特にやることが今は無くてな。余裕もあるってことで、嬢ちゃんたちにな」
「じゃー、たべるー!」
「……もらう、です!」
「おう、食え食え!」
「「いただきますっ!」」
二人は男性から貰ったワカサギの唐揚げを食べた。
数としては、8匹ほどなので、軽いおやつのようなものである。
二人の食事量的には、一般的な小学一年生よりも食べる方ではあるし、探検で動き回っていることもあって、実はちょっとだけお腹が空いていた。
なので、この予期せぬ貰い物はとても喜んだ。
「はむっ、おいしーね!」
「……おいしー、です!」
「「はむはむっ……!」」
「ははっ! いい食いっぷりだな! その方が、料理人として嬉しいってもんだ! 今日の夜ご飯も美味いもん作るから、楽しみにしててな!」
「「わーい!」」
「素直な子はいいねぇ。ウチの孫も、これくらい素直ならいいんだがなぁ」
純粋に喜ぶ二人を見て、男性は笑いながらそう零した。
「「ごちそーさまでした!」」
「おいしかったです!」
「……おいしかった」
「おじさん、ありがとうございました!」
「……ありがとうございましたっ」
「おう、おじさんはお仕事に戻るが、二人も楽しんでな」
「「うんっ!」」
「いこー!」
「……つづき、です!」
二人は男性にぺこりとお辞儀をしてから、手を繋いで旅館探索に戻っていった。
「女の子の子供ってなぁ、華やかなもんだねぇ。孫娘がほしくならぁ。……って、お前らどうした!? なぜ全員倒れてんだ!?」
二人が去った裏では、そんな男性の声が響いたとかいないとか。
◇
一階を探索し切ったら、二階へ行ったり三階へ行ったりと、旅館内を隅々まで探検。
気が付くと、旅館内は探索し切っていた。
「見ちゃった……」
「……どうするです?」
「んぅ~~……りょかんのそと!」
「……でも、おかーさん、しんぱいする、です」
「じゃー、りょかんからはなれない!」
「……みえるばしょならだいじょーぶ、です?」
「んっ! それならたぶん?」
「……そと、いくです!」
というわけで、外に出ることにした。
最初は心配させると思ったのだが、旅館から離れない、もしくは旅館が見える場所にいるようにすると決め、そのまま外出。
とは言っても、そこまで遠くに行かず、ほとんど旅館の周囲をぐるっと仲良く手を繋いで歩くだけなのだが。
そうして歩いていると……
「んぅ? おうち?」
「……どこかの、おうち」
ふと、二人は何かを見つけた。
お家と言ったそれは、どう見ても……小さな社であった。
「でも、よわい?」
「……んぅ、たぶん、ひとがこない」
「かわいそー……」
「……宇迦之御魂大神様におねがいするー?」
「んっ! する!」
「……んっと、これ、だっけ?」
「うんっ! これをね、こうやるのー」
みおが取り出したお札を二人で弄っていると、お札が強く発光した。
光りは次第に人の形を取り始め……それが収まると、そこには誰もが目を引くような綺麗な女性が立っていた。
よく見れば狐の尻尾と耳を生やしている。
「――みま、みおよ! 何かあったのか!? 誘拐か? 誘拐でもされたのか!? 待っておれ、すぐにその愚か者どもをッ……!」
「ちがうよー」
「……だいじょーぶ、です」
「っと、なんじゃ、問題はないのか。して、何故妾を呼んだのじゃ?」
「んっとね、あそこのおうちがさみしそうなの」
「……よわってる、です」
「ぬ、本当じゃな。うぅむ、場所が場所故、人の子も気付かんかったのか……これをどうにかしたくて、妾を呼んだのじゃな?」
「うんっ!」
「……そー、です」
「なるほどのう。うむうむ。さすがは母があの神子なだけはある。本当におぬしらは心が綺麗であり、優しいのう」
二人が呼んだ理由を知ると、宇迦之御魂大神は我が子を見るかのような温かい眼差しと笑みを浮かべる。
「どーにかできる……?」
「……できますか?」
「うむ、任せよ。美月と同じく、我が魂の一部を与え、妾の眷属としよう」
と言うと、宇迦之御魂大神は自分の胸元からぼんやりと淡く光る球体を出現させると、それを目の前の社に飛ばす。
それはすぐに中へ入って行き、社が数秒ほど光った。
「うむ、これで問題なしじゃ。とはいえ、多少の掃除等は必要故、その辺りはまぁ……そこの宿の者に神託でも出しておくとしよう。なに、妾には商売に類するご利益もある。きっと、今以上に繁盛するはずじゃ」
「すごいです!」
「……かっこいー!」
「おおぅ、そこまでキラキラした目を向けられると、照れるのう……じゃが、妾はおぬしらからすれば神の先輩。おぬしらは……まぁ、妾の系統ではあるものの、独立した神でもある。あとは、ちゃんとした社さえあれば、おぬしらもさらに成長出来るじゃろうな、神として」
「ん~、よくわからない?」
「……んぅ?」
「かかっ! まぁ、気にせんでもよい。今はこちらの世界での生活を楽しめばよいのじゃよ、おぬしらは」
「うんっ!」
「……んっ!」
「かかっ! では、妾はあの地上に降りた挙句、とんでもないことをやらかしてった阿呆主神が残して言った仕事があるのでな。そろそろ帰るとしよう」
表情と声は笑っているように見えるし、聴こえるのだが、明らかに目が笑ってないどころか、言葉には呪詛のようなものが籠った言葉で呟きつつ、帰ると告げる。
「ありがとうございましたっ!」
「……ありがと、です!」
「うむうむ! では、旅行楽しむのじゃぞ!」
そう言って、宇迦之御魂大神は光の泡となって消えて行った。
「じゃー、みまたちももどろー」
「……んっ! おかーさんたちのとこ、もどる、です!」
宇迦之御魂大神が帰った後、二人は椎菜たちのいる場所へ戻っていった。
その背後では、青い髪の少女がにこやかな表情で去っていく二人を見て、軽くお辞儀をしていたが……二人は気付かずに旅館内へ戻っていくのであった。
昨日は投稿できなくてすまねぇ……!
とりあえず、今回は双子の話! やっぱりこの二人はほのぼのしてるぜぇ。




