イベント#エピローグ:下 これにて終幕!
騒がしい打ち上げが終わり、ホテルへ帰ることになったわけなのだが……。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「で、でぇじょうぶ……」
「おねーちゃん、びょーき?」
「……つらい、です?」
「はっはっは、大丈夫だよー、双子ちゃんたちぃ……ただちょっと飲みすぎて死に体なだけだから……ふへへ」
現在進行形で、シスコンこと愛菜がダウン中であった。
それなりにお酒を飲んだことと、妹と姪の存在の尊さによって死亡したためだ。
そんなシスコンは椎菜に肩を貸されるような形で、ホテルまで向かって歩いており、椎菜のすぐそばにはみまとみおの二名がいる。
夜遅くなってしまったが、幸いなことにホテルまではそう遠くなかった。
「もう、お姉ちゃん飲みすぎだよ?」
「ふへへ、いやぁ、楽しかったイベントが終わって、その打ち上げの席だからついつい……」
「まったくもう。お酒はほどほどに! だよ? まあでも、今回はイベントの打ち上げだったからね、大目に見ます」
「やったぜ」
なんてどちらが姉なのかわからない会話をしながら、桜木家の面々は夜遅い道を歩く。
ほどなくしてホテルに到着し、与えられた部屋へ戻るなり、
「だーいぶっ!」
と、愛菜がベッドにダイブをかました。
「うへぇ~~、もう寝ちゃいたいぁい……あ、椎菜ちゃん、今日一緒に寝るぅ?」
「みまちゃんみおちゃんと一緒に寝るので無理です」
「冗談冗談! いやー、ほんとに楽しかったねぇ、椎菜ちゃん」
「うん。そうだね。あっという間だったね」
「だねぇ……椎菜ちゃん、眠くない?」
「ん~、眠くはあるんだけど、なんだろう? ちょっと興奮して眠れない、かな?」
「みまちゃんみおちゃんの二人はうつらうつらしてるけどね」
「「んぅ~~~……」」
「もう夜遅いからね。さっきはたぶん、一時的に寝てたのと、歩いてたからちょっとだけ目が覚めてたのかも。二人とも、お風呂は明日にして今日はもう寝よっか?」
「「ねましゅ……」」
「ごふっ……」
仲良く下っ足らずに言えば、シスコンが吐血する。
ただ、どこからか取り出したビニール袋に吐いたために部屋の中に血をぶちまけることはなかったが。
「じゃあ、お布団に入ろ?」
「「んぅ~……おかーしゃんも……」」
椎菜がそう言えば、二人は椎菜の袖をくいくいと引っ張りながら布団に引き込もうと動く。
「がはっ……」
シスコン、さらなる吐血!
ビニール袋が血反吐でいっぱいになる!
なので、そそくさと吐血袋廃棄用の袋に詰め、それを自分の旅行カバンの中にぶち込んだ。
「あ、その前にお着換えしないと。二人とも、お着換えが先だよ~」
「「ふあぁ~い……」」
「げぼはぁっ……!」
もう駄目だろう、このシスコンは。
まあ、ナチュラルに殺しに来ている神薙母娘が原因ではあるのだが。
それから椎菜はおねむ状態の二人の着替えを行い、自身も寝間着(Yシャツ一枚とパンツのみ)に着替えて布団の中へ。
本来ならお風呂に入るところだが、椎菜自身も眠かったことと、それ以上にみまみお双子が椎菜と一緒じゃないとぐずりそうだから、というのもあり、椎菜は入浴を明日の朝に回すことにした。
シスコン? そもそも、椎菜がお風呂に入ろうとしていない時点で死なばもろともです。
布団に入ると、椎菜の右側にみま、左側にみおが入ってきて、ぴったり椎菜にくっついてそのまますやすやと寝息を立てて眠り始めた。
なんとも愛らしい寝顔に、椎菜も思わず笑みがこぼれる。
「いやぁ、すでに我が血液がなくなりそうだぜ……」
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「昨日今日でもはや数十リットル単位で血液が消し飛んだよね」
「それは死んじゃうよ!?」
「そのためのレバニラ炒めっ!」
「それはそれでどうかと思うけど……まあでも、大丈夫ならいい、かな?」
「問題なし! ……っと、それで、椎菜ちゃん」
「なぁに?」
「イベントどうだった? 楽しかった?」
「うんっ! すっごく楽しかった!」
「そっかそっか。それなら、お姉ちゃんとして、というか……天空ひかりとしてらいばーほーむに引きずり込んだ甲斐があったかな」
楽しかったかと訊かれた椎菜は、それはもう心底嬉しそうな声で楽しかったと返事した。
それを受けた愛菜の方は、ただ一人の姉として嬉しそうに柔らかく微笑んで、そう零す。
「たしかに、お姉ちゃんにVTuber界に引きずり込まれなかったら、今みたいな生活は送れてないよね」
「いやぁ、そう言ってもらえると、お姉ちゃんとしては嬉しいってもんです。一応私、かなり強引というか、一般的に見たらかなりアウトオブアウトなあれで椎菜ちゃんをらいばーほーむに引きずり込んだからね。実は、心配もしてたりしたんだよね」
「そうなの?」
「そうなんです。けど、昨日今日とたくさん楽しんでいる椎菜ちゃんの笑顔やら、今の本当に楽しかったことがわかる返事が聞けただけでお姉ちゃんは安堵したってもんです」
愛菜的に、椎菜の可愛さと魅力と自分と椎菜の仲の良さを世に知らしめてやるぜぇぇぇぇ! という考えで椎菜をらいばーほーむ入りさせたものの、それはそれとしてもあの入れ方に対してはそれなりに負い目というか、思うところがあったのだ。
まあ、結果として椎菜は普通に順応していったし、それどころか相性のいいロリ先輩とペアを組むどころか、ユニット組んで無敵の核兵器と化していき、見事VTuberとして頭角を現していったが。
なので、今回のイベントを楽しんでいた椎菜を見て、それらの不安というか負い目的なあれこれはきれいさっぱり消失。入れてよかったぁ! と思えたのだ。
「もちろん、僕はお姉ちゃんにすっごく感謝してるよ? 最初はその、とんでもないことをしたなぁって思っちゃったけど、興味自体はあったからね。もし、お姉ちゃんがあそこでああしてなかったら、多分僕、うじうじしてそこから先に行かなかったかもしれないからね。だから、すっごく感謝してるんだよ?」
「お、おおぅ、そっかぁ……私の欲望という欲望が原因だっただけに、なんかこう、罪悪感が……」
「あはは、お姉ちゃんが罪悪感なんてらしくないよ? お姉ちゃんはいつも自由に自分の思うままに進んで、過去を振り返らない! っていう感じなんだし、気にしなくていいよ!」
「え、やばい、椎菜ちゃんデレ期? もしかして、お姉ちゃん√突入!?」
「ちょっと何言ってるのかわからないです……」
「あ、お気になさらず! っていうか、私、そう思われてたのかー」
「だって、お姉ちゃんはいつも自由! だからね。まあでも……もうちょっとこう、私生活は顧みてほしいかなぁ。家事とか、家事とか」
「私はなんでも完璧にこなせる女! 私が家事ができるようになっちゃったら、それはもう、椎菜ちゃんの家事を受けられないじゃん!? 故に、私は家事は今まで通りぃ!」
「まったくもう……」
愛菜の絶対に直さないという、そんな意思を感じさせながら、椎菜は苦笑いを浮かべた。
理由は限りなくしょうもなくとも、椎菜にとっては大事で大好きな姉なので。
「でも、本当にイベントは楽しかったなぁ」
「そうだねぇ。去年もイベントをやったけど、今年ほどじゃなかったなぁ。というか、今年はちょっと去年の倍どころの騒ぎじゃないくらいに盛り上がったしねぇ」
「そうなの?」
「おうともさー。なんせ、ここまで血生臭い会場じゃなかったしねぇ! というか、今回のフードメニュー、結局レバニラ炒めが一番人気だったしね」
「そ、そうなんだ……」
ライバーたちのフードメニューを差し置いて、まさかのレバニラ炒めが一番人気とかいう実にらいばーほーむらしい結果に、椎菜はやっぱり苦笑い。
いまだかつて、VTuberイベントのメニューで、レバニラ炒めが一番人気になったイベントがあっただろうか。
世界広しと言えども、そんな奇特な状態はらいばーほーむくらいのものだろう。
さすがというべきだろうか。
「まあでも、仕入れた食材は全部はけたらしいし、メニューは完売したらしいしね。いやぁ、素晴らしいことですなぁ!」
「そうだね。食材が無駄にならなくてよかったよ。本当に」
「だねぇ。でも、椎菜ちゃんはイベント会場を歩き回れなくて残念じゃなかった? 折角の初イベント参加だったのに」
「うーん、それはあるけど……なんだかんだ栞お姉ちゃんが一緒にいてくれたし大丈夫だよ。来年もイベントをやるようなら、何らかの方法でイベント会場を歩き回りたいかなぁ」
「その時は私も協力するよ!」
「うんっ、その時はよろしくお願いします!」
「万難を排してでも実現してしんぜよう!」
「ふふっ、本当にお姉ちゃんはいつでもお姉ちゃんだね」
「この私は常に椎菜ちゃんとみまちゃんみおちゃんの二人を第一にして生きている存在! それ以上に優先するべき存在はないのです!」
「あはは、そっか」
相変わらずな発言だが、椎菜はなんだかんだでこんな頭のおかしい姉が大好きだ。
まあ、できればもうちょっと自分以外にも目を向けてほしいなぁ、とも思っているが。
このままだと、本当に結婚できそうにないので……。
それを言ったら、椎菜もある意味では結婚できそうにないのだが、それは言わぬが花というものだろう。
「まあでも、イベントは終わったけど、まだまだ年末までやることいっぱいあるけどね! 旅行に、冬コミ、年末配信! 少なくとも三つは大きなことがある! 今年最後まで全力で楽しまないとね! 椎菜ちゃん!」
「うんっ! 旅行かぁ……温泉楽しみだなぁ」
「そうだねぇ。椎菜ちゃん、肩こりが酷いって言ってたし、これを機に改善するといいね!」
「本当にね……やっぱり、胸がおっきいからかなぁ……」
「んまあ、実際おもりをぶら下げてるようなものだからねぇ。私も正直肩こりあるしね」
「そういえば、お姉ちゃんもスタイルいいもんね。やっぱり、お友達とかから羨ましがられたりするの?」
「まあするねぇ。椎菜ちゃんは?」
「僕は……その、胸を……」
同じ質問を聞き返され、椎菜は少し恥ずかしそうにしながら、胸と答える。
それを聞いた愛菜は、だろうねぇ、と納得顔。
「あー、椎菜ちゃん本当におっきいからねぇ。そりゃあ羨ましがられるよねぇ。特に、うちだと栞ちゃんにミレーネちゃん、あとは寧々ちゃんがそうだもんね」
「そ、そんなにいいものかなぁ……」
「椎菜ちゃん、それは持つ人の贅沢な悩みってもんです」
「でも僕、元男だよ……?」
「それはそれ、これはこれ、っていうのが女の子の複雑な感情なのです」
「そ、そうなんだ……」
「あれだよ。椎菜ちゃんがわかるように言うと、背の高い男子に『いや、背なんてあるだけ無駄だぜ? 頭ぶつける』って言われてるようなもん。それも、元女の子が言ったらなんか複雑でしょ?」
「た、たしかに……」
現在進行形で背の低い椎菜的に、それを言われたらたしかに複雑な気持ちになりそうと思った。
持たざる者の気持ちは、持つ者が理解するのは難しいのである。
「んっ、ふわぁぁ~~~~……んんぅ、眠くなってきちゃった……」
「それじゃあ、私たちもそろそろ寝よっか。明日はチェックアウトもあるし、その次の日は旅行だからね。……改めて思うけど、本当にすごい日程してるよね」
「あ、あははは、本当にね……」
「さ、寝よ寝よ!」
「うん、おやすみなさい、お姉ちゃん」
「おやすみ! 椎菜ちゃん!」
お互いにおやすみと言って、二人は目を閉じた。
すると、二日間の疲れがたまっていたのだろう、二人はあっさりと意識を手放し、深い眠りに落ちていった。
そうして、短くも濃密だった二日間に渡るイベントの日々は幕を閉じた。
終わったァァァァァァァァァァァァ!!!!
3月8日に始まったイベント編、完結! いやもうほんとに長かったっ……! でもやり切った! やり切りました!
途中かなりはしょってたけど、それはそれとしても完結は完結ッ! まあ、別にロリVが最終回ってわけじゃないんですけどね。尚、端折らなかったら、100話越えの大作になっていました。もうやらん。
というか、5月中に終わらせるとか言いつつ、結局6月になってしまった……。
そして、このイベント編ですが、終了するのにかかった話数は95話です。長いね! あと5話で100話でした。なげぇよ。やっぱり、一日目のおしゃべりコーナーを二週はバカだったんだよ……あれ絶対1周でよかったって。まあ、もう今更ですね!
というわけで、次回から椎菜の一人称に戻りますし、日常の方に戻ります! まあ、イベント編が終わったら、今度は旅行とか冬コミ年末は威信があるんですけどねぇッ……! 一体いつ、ロリVの世界は信念を迎えられるのか。頑張れ! 未来の私ィ!




