イベント#エピローグ:中 打ち上げの席は大体こんなもん
それから、道中楽しく話しながら一行は目的の会場に到着。
「……なんか、安心したわ」
「あ、あはは、柊君の気持ち、よくわかるなぁ……」
到着した会場は、どこにでもある普通の居酒屋であった。
悪く言えば平凡、よく言えば落ち着く、そんな雰囲気の外観の居酒屋だったため、二人はそれはもう安心した。
なんせ、二人が泊まっているホテルと言うのが、いかにも高そう……というか、実際に高いホテルだったのだから。
そりゃあそうなるだろう。
「んじゃ、入るか」
「うん! 二人とも、行こ」
「「わーいっ!」」
「ほんと、微笑ましいな」
「癒されるよね」
二人ははしゃぐ二人を見て、微笑ましそうに小さく笑みを浮かべながら居酒屋に入った。
「いらっしゃいませ! ご予約の方でしょうか?」
「はい。んっと、雲切っていう名前で多分予約されてると思うんですけど」
「雲切様ですね! 既に何名か来ております、奥のお座敷へどうぞ!」
「ありがとうございます」
居酒屋の店員に言われ、四人は奥の座敷へ移動。
通常の個室やテーブル席などとは違い、隔離されたような位置にその座敷はあった。
なんで少し離れた所にあるんだろうと思いつつ、四人は座敷の扉を開ける。
「あっ、四人とも来たぞ!」
「ん、早く入ると良い。掘りごたつであったかい」
「も、もう、出たくない、です、よね……!」
「そうですねぇ~。真冬ですから、さむいですよねぇ~。だからこそ、掘りごたつから出たくなくなっちゃいますよぉ~」
先に来ていたのは、寧々、藍華、恋雪、千鶴の四名。
実は、椎菜たちは三番目だったりする。
尚、一番最後に出発したのは、男二人。
「椎菜ちゃんどこ座る?」
「んっと、じゃあ真ん中の方?」
「ん、椎菜はらいばーほーむトップだからいいと思う」
「では私はぁ~……椎菜ちゃんの正面に座りますねぇ~」
「み、みまちゃんと、みおちゃん、が、います、からねっ……!」
「みまおかーさんのみぎー!」
「……みおは、ひだり、ですっ」
「ふふ、おいで、二人とも」
「「おかーさぁん!」」
先に座った椎菜がおいでと言うと、二人は嬉しそうにとてとてと駆け寄り、そのままべったりと椎菜にくっつきだした。
昨日今日とあまり一緒にいられなかった時間の埋め合わせをするような行為に……
「ごふっ……」
ロリコンが吐血した。
「ち、千鶴さん! 吐血が早すぎるぞ!? いやでも、気持ちはわかるけど!」
「ん、致し方なし」
「……椎菜、これ、日常?」
「よくあることかなぁ……」
「……まあ、学園でも見慣れてるが……あれだな。大人が血反吐吐いてる絵面って酷いな……」
「な、慣れる、よ?」
「慣れたくないなぁっ……!」
新参者の柊、ナチュラルに血を吐くロリコンを見て苦々しい顔になる!
柊自身も、間違いなく慣れるのはわかり切っているので、猶更なんとも言えない気持ちになった。
それからほどなくして、らいばーほーむメンバー全員が居酒屋に到着。
座敷の中はそれはもうびっくりするくらい賑やかなことになっていた。
というか、ただでさえ騒がしいメンバーに追加で四人も入って来れば、さらに騒がしくなるのも必然と言うものだろう。
現在進行形で騒がしいので。
「はいはい、全員揃ったね!」
「あの、愛菜さん、この打ち上げってライバーだけなんですか?」
全員揃ったと言う愛菜に、ミレーネが愛菜にそう尋ねる。
「そういやそうだな。あれか? 俺たちだけでやれって社長が言ってたのか?」
「イグザクトリー! 社長が、スタッフはスタッフで打ち上げするから、ライバーはライバーで打ち上げして来い! だって! というわけで、はい飲み物注文!」
「私は、あー、ビール」
「俺もビールでいいや」
「うちはオレンジジュースで」
「あたしは日本酒」
「ボクはカシスオレンジかなー」
「あーしは芋焼酎!」
「わ、わたしは……ぱ、パインサワーで」
「あたしは……お! ゆずのお酒がある! じゃあこれで!」
「ん、なら私はイチゴ」
「私は焼酎のロックでぇ~」
「僕はパインジュースがいいかな。みまちゃんとみおちゃんは何がいいかな?」
「オレンジジュース!」
「……リンゴジュース」
「だそうです!」
「あー、じゃあ俺もパインジュースでいいです」
「わたくしはまだ二十歳ではないので、ぶどうジュースをお願いします」
「私は熱燗をお願いします」
「うちはつい最近二十歳になったんでお酒解禁! んまー、さすがに重いものは飲めねぇんで、カル○スサワーで!」
「はいはーい、んじゃまあ、タッチパネル式なんで頼んじゃうねー。ちなみに、食べたいものとかある? なきゃないで、こっちで適当に頼むよー」
『『『お任せで』』』
「おっけぃ! しれっと四期生も混じってるのが実に素晴らしい! この調子で馴染んでくれたまえ!」
料理は全部愛菜に丸投げとなった。
お任せと言ってきた中には、しれっと四期生のメンバーもいるのだから、順応性が高いようである。
「あ、ちなみにこの打ち上げは普通に事務所の経費で落ちるそうなので、ご心配なく! というか、カード預かって来てるし」
「不用心すぎないかい?」
「まー、私たちに盗むような阿呆はいないからねー。柊君はともかくとして、他の三人、絶対お金持ってそうだし」
「それなりですの」
「うふふ、お金に困ってはいませんね」
「うちもイラストレーター的収入があるんで、問題ねぇです!」
「だそうなので、まあ、遠慮せず飲み食いってことでハイ注文! しばしお待ちィ!」
ちゃちゃっと飲み物と料理を注文し、それらが来るまで軽く雑談。
それから三分ほどした頃に飲み物が到着し、ついでにお通しもやって来た。
飲み物をそれぞれの前に置く。
「さ、これで全員揃ったし飲み物の準備もOK! まあ、料理はまだ来てないけどね! んじゃあ、早速打ち上げを……えー、打ち上げの音頭取りたい人ぉ!」
『『『……(さっ)』』』
愛菜が音頭を取りた人がいるかどうか尋ねた瞬間、全員が一斉に目を逸らす!
誰一人としてやりたがっていない!
「えー、はい、じゃあジャンケンで決めたいと思いまーす。出さなかった人は強制的に私がせんの――んんっ! 説得してやってもらいまーす。ちなみに、四期生も参加です」
『『『出さなきゃ負けよ! じゃーんけーん……』』』
愛菜がなかなかとんでもないことを口にした瞬間、この場にいる全員がジャンケンを始めた。
それだけ洗脳が嫌だったようである。
それはそうだ。
『『『ポンっ!』』』
ともあれ、ジャンケンの結果はと言えば……
「ふぇ!? 僕!?」
椎菜の一人負けであった。
尚、椎菜はパーだが、他十五名はチョキである。
「さすが椎菜っち。持ってるっしょ!」
「も、持ってる、のかなぁ?」
「ある意味持ってるよねー」
「椎菜さんなら大丈夫や」
「うぅ、じゃあ、えと……」
「おかーさん、がんばってー」
「……がんばって、ですっ」
「う、うん、頑張るね……!」
愛娘二人に応援され、椎菜はにこっと笑って立ち上がる。
「それじゃあ……昨日今日とイベントお疲れ様でしたっ! 初めてのイベントは慣れないことばかりだったけど、すっごく楽しかったですっ! また来年もイベントがあったら今年以上に、たくさん騒いで、たくさんの人をみなさんと一緒に楽しませられたらいいなって思います! んとんと……二日間お疲れ様でしたっ! 今年も残りわずかだけど、最後まで頑張ろうねっ! かんぱーーーいっ!」
『『『かんぱーーーいっ!』』』
椎菜の音頭で打ち上げが始まった。
いざ打ち上げが始まると、それはもう全員楽しそうに飲み食いを始める。
始まった瞬間から打ち上げはすでにフルスロットルである。
「ヒャッハーー! イベントで動きまくった体にお酒がしみるぅぅぅぅぅ!」
「愛菜、調子に乗って飲み過ぎないように。ごく、ごく……ふぅ。あー、ツッコミしまくった体にビールが沁みるね」
「楽しいなぁ。まあ、ウチは飲めんのやけど」
「あー、キンキンに冷えたビールがうめぇな! 枝豆も最高だぜ!」
一期生はこんな風に飲み食いしつつ騒ぐ。
「ぷはぁ! あー、ほんっと楽しかったわー」
「んねー! あーしもめっちゃ楽しかったんよ! あ、恋雪っち、そこのサラダ取ってー」
「こ、これ、です、ねっ。ど、どうぞっ」
「あ、この唐揚げ美味しいなー。みんなも食べた方がいいよー」
二期生の方は和気藹々と食事を楽しむ。
「はむはむはむっ! ん~~! さいっこうに美味しいぞ! 今日はたくさん動いたし、たくさん吐血して鼻血も流したからね!」
「ん、お酒も美味しいけど、それ以上にご飯がいい。疲れにはやっぱり美味しい食事!」
「こくこく……はふぅ、このお酒美味しいですねぇ~。あ、椎菜ちゃんみまちゃんみおちゃん、そちらにえんがわがありましたよぉ~」
「「「えんがわっ!」」」
「「「ごふっ……!」」」
三期生の方はご飯を食べつつ吐血。
「おー、これで二度目だけど、全員楽しそうだねぇ! うち、こういう空気嫌いじゃねぇです! むしろ、大好き! うちたちも、あんな風になれるようになろうぜぇ!」
「そうですわね! 今後は同期として活動するわけですからね! あ、この炒め物美味しいですわ! いくらでも食べられますの!」
「うふふ、このように騒がしく飲むお酒と言うのも良いものですね。熱燗も大変美味しいです。高宮さんは育ち盛りですからしっかり食べるのですよ。こちらの揚げ物は美味しいですよ。それとサラダも」
「あ、ども」
四期生の方は一期生から三期生の騒ぎっぷりを見て、自分たちもああなりたいと初々しい様子で飲み食いしていた。
ともあれ、全員楽しそうである。
そうして、時間が経つと……
『『『( ˘ω˘)スヤァ』』』
何名かが既に夢の世界に旅立っていた。
ちなみに、そのメンバーというのは、愛菜、杏実、恋雪、寧々、千鶴、小夜、双葉の計七名である。
杏実、恋雪、寧々の三名は単純に酒によるものだが、他の四名は尊死である。
途中で眠くなったみまみおの双子が椎菜の膝枕をせがみだし、そのまま椎菜が寝かせた際の母性溢れる表情を見て死亡したのである。
尚、死亡していない面子は、たまたま見ていなかっただけである。
少なからずお酒が入っているので。
さて、そんな中である意味目立つ存在が一組。
「柊君……君は絶対に、私を置いてらいばーほーむらないよねぇ……?」
「あの、城ケ崎さん? さっきからなんでその、俺にそんなにくっついてるんで?」
「ははは、私の君の仲じゃないかぁ……あぁ、そうだ、これ美味しいよ? 食べるかい?」
「あ、はい、それは貰いますが……」
「それじゃあ、これでポッキーゲームでもするかい?」
「カレイの唐揚げで!? というかどうやれと!? あと、俺未成年ですが!? あなた大丈夫ですか!?」
「いやぁ、すまないね、ダメだダメだー、とは思うんだが……ははは、なんだかどうでもよくてね!」
「いやそれ酒のせい!? とりあえず、水でも飲んでください、城ケ崎さん!」
「城ケ崎さんだなんて他人行儀だねぇ。私のことは皐月、で構わないよ?」
「さすがにそれはできないですよ!?」
「いいじゃないか……さぁ、私のことを皐月って呼んでごらん? 皐月って」
「ちょっ、近い近い近い!? っていうか、酒臭いですよ!?」
「私、臭いかい!? そ、そんなバカなっ……!」
「あなた絶対酔っぱらってますよね!?」
「そんなことないさぁ……あぁ、君の傍はなんだか落ち着くなぁ……」
「いやマジで飲み過ぎですってぇ!?」
柊と皐月のペアである。
最初こそ別段近くにいなかったのだが、打ち上げの途中から皐月が何を思ったのか柊に絡み始めたのである。
どういう状態かと言えば、男子高校生に二十五歳の大人の女性が柊の方に腕を回してそれはもう密着しているのである。
しかも、皐月はモデルをしてるだけあってかなりスタイルがよく、それはもう彼女の柔らかい所が柊に当たるわけで、柊の内心はそれはもうドッキドキである。
というか、柊の好みドストライクなのもあって余計である。
普段はここまで酔っぱらうこともないのだが、昨日今日のストレスのすさまじさと柊が入って来てくれたと言う喜びで、テンション上がって飲み過ぎた結果がこれである。
「これは、皐月に遅い春が来たかもなぁ」
「そうですね。皐月さん、いつも疲れてましたし……というか、行き遅れそうですよね」
「ん、というより、らいばーほーむのメンバーほぼ全員行き遅れると思う」
『『『否定できない……』』』
しれっととんでもないことを言ってる藍華の言葉に、起きてる者たち(柊、皐月、椎菜、美鈴は除く)が苦々しい顔でそう言った。
全員男っ気がなく、男二人についても女っ気がないのでそれもそうだろう。
「こく、こく……ふぅ。本当に賑やかですね」
「美鈴さんはあまり騒がないんですね?」
「うふふ、これでもはしゃいでいるのですよ、ミレーネさん。ですが、そうですね。私はどちらかと言えば自分が騒ぐよりも、騒いでいる方々を見る方が好ましいのです」
「わかるなぁ。見てるだけで楽しのはええよなぁ」
「そうですね。個人的には……あちらのお二方、なかなかに素晴らしい縁のようですし、成就してほしいと言うものです。最も……高宮さんの方については、この先様々な受難がありますが……愛があれば問題はないでしょう。愛に障害はつきものです」
「よくわからねぇけど、柊は今後も大変ってことだな! ま、らいばーほーむに入ったんだ、それは当然ってもんだよな!」
「ですねー。それにしても、皐月さんの絡み方が面白いねー。ところどころヤンデレっぽい雰囲気があるのが面白いよねー。ちなみに、俊道先輩から見て、皐月さんってヤンデレ判定なんですかー?」
「おう、潜在的ヤンデレだな! つってもまぁ、周囲に害を与えるタイプじゃないな! ま、皐月なら大丈夫だろ。自制もできるし」
「ん、問題なし」
「あ、あははは……柊君も大変だなぁ」
生存組は、未だ楽しそうに(?)言い合う二人を見て、そんな風に感想を言い合う。
途中、美鈴が何やら不穏なことを言っていたが、誰一人として酒の席だからということで適当に流した。
騒がしい打ち上げは夜遅くまで続くのであった。
らいばーほーむメンバーって、マジで結婚しなさそうだよね。
むしろ、結婚してそうなイメージがあるの、柊と皐月の二人なんですが。
男二人は……案外一般女性と結婚してそう。でもどうだろ。最後まで友人だけの方がいいやスタンスな気もする……。
ともあれ、次回イベント編最終回!
やっとイベント編が終わるよ!




