イベント2日目#5 予想通りの二人
人々の腹筋と表情筋を破壊するという、未曽有の大災害を起こしたクイズステージが終わってからほどなくして、次なる館内ボイスが流れる。
《イベント会場に来てくれているリスナーたち! らいばーほーむ一期生の、宮剣刀だ!》
最初に流れたのは、らいばーほーむにおいて一番最初に男性ライバーとして入って来た、宮剣刀であった。
刀の声が聞こえた瞬間から、黄色い悲鳴が上がるが、まあ、女性ファンはそういう人が多い。
暁のファンも同様だが。
そして、刀の声が聞こえて来たと言うことは、その相手が二期生のショタ野郎であろうことは明白だった。
なので、特に身構える必要がないだろう、とこの館内ボイスを聞いている者たちは思った。
まあ、あの二人なら普通に面白いだろうし、と気楽に会場内を歩きながら、そちらに耳を傾ける。
《会場にいる、お兄ちゃん、お姉ちゃんたち、こんにちはー。詩与太暁だよー》
予想通り、聴こえて来たのはらいばーほーむにおける唯一のショタである、詩与太暁の声であった。
やっぱり会場内で黄色い悲鳴が上がったが。
そう言った声を上げているのは、お姉さんな雰囲気のある女性が多かった。
《ぶはっ!》
かと思ったら、なぜか刀が噴き出した。
向こうで暁が何かをしたのか? と首をかしげていた来場者たち。
たまに刀と暁は配信内において、謎のギャグをし始めることがあり、それで噴き出すことがある。
特にそれをやるのは暁の方であり、突然変顔をし始めて、一緒にいる刀を笑わせるということをしてくるのだ。
今回もなんかやったんだろうなー、と思っていた来場者たち。
《生で見ると、マジで面白いなっ……! ハハハ! いやぁ、昨日今日も見たが、やっぱすげぇぜ!》
と思ったら、何か様子がおかしい。
暁相手に言うようなセリフではないことを、なぜか刀が口にしていた。
一体何があったのか? とさらに首を傾げると、嫌な予感が来場者たちを襲う!
それは、会場内の様子を見ている視聴者たちも同じであった。
《あははー、何を言ってるんですか、刀先輩。ボクはいつもこんな感じですよー?》
《~~~っ、そ、そうだなっ。くふっ……》
《どうしたんですか? 声が震えちゃってますよー?》
《ぶはっ!? ハハハハハハ! や、やっぱダメだっ……そ、それ、笑うなって方が無理だ!》
《んー、そんなに面白いことなんてありますかねー? あ、そうだ、刀先輩は今日の今年のイベントに参加してどう思います? ボクはいろんなところに目移りしちゃってますし、この後にある、残りのステージとかも楽しみなんですよねー。ほら、うさぎさんとはつきさんのRTAとかー》
《お、おう、そうだな!》
《でもやっぱり、シークレットもいいですよねー。何があるかわからない、そんなワクワク感もありますしねー》
《あー、それはわかるな。俺たちも一切情報がないし、マジで楽しみなんだよな! ってか、俺たちにも情報伏せてるんだぜ? すっげぇ、徹底してるよな!》
《ですねー。それくらい、ビッグニュースなんでしょうかね?》
《だろうなぁ》
先ほどまで笑っていた刀だが、話していく内に持ち直したようで、いつも通りに暁と雑談をする。
何かあったのかと思ったが、なんか問題なさそうだった。
何か暁の近くであったんだろうと思うことにして、気に留めなくなった。
《しっかし、今日のステージも残すとこあと三つか。もう半分も終わったんだな》
《時間が経つのは早いですよねー。ボクたちの番ももう終わっちゃいましたし》
《そうだなぁ。もうイベントも残り少ないと思うと、なんかこう、寂寥感みたいなのがあるよな!》
《あー、わかりますよ。もっと続いて欲しい、なんて思っちゃうんですよねー。たったの二日しかないですからねー》
《まあ、これでも長い方だとは思うがな!》
《昨日は前座で今日が本番、なんて言われてますし、ボクたちも今日が本番だと思ってますからねー》
《おかげで、腹筋やら表情筋が破壊されたって評判だけどな!》
《いいですねー。ボクたちの目標も達成できてますしねー》
《おう! あの朗読も楽しかったしな! やっぱ、裏側ってのは面白いもんだぜ! なんだったら、普段は見れないしな! だからこそ、ああいうのは面白いんだしよ!》
《でも一期生の方はすごかったですよねー。まさか、台本にメタ発言が書き起こされてるなんて》
《あれな、俺たちもマジで笑ったぜ。ま、俺たちらしくて良かったがな!》
《たしかに、らしいですよねー。たつなさんのツッコミに対する、社長の信頼感が垣間見えましたし》
《らいばーほーむきっての常識人且つ、ツッコミだからな!》
と、最初に笑ったのはなんだったんだと言わんばかりに、平穏に二人の雑談は続く。
これなら、腹筋やら表情筋やら、血液やらの回復に専念できる、と思っていた時のことである。
《で? いつまで遊んでるんだ?》
《あー、そうですねー。さすがに、刀先輩も限界そうですし……ん、ここからはいつも通りで》
刀が謎のセリフを暁(?)に投げかけた直後、暁がそれを肯定したかと思ったら、突然声が変わり……いるかの声が会場内に流れた。
『『『!!!???』』』
まさかの事態に、これを聞いていた者たちは驚愕の表情を浮かべる!
まあ、それはそうだろう。
自分たちが今まで暁だと思っていた声が、実は全く別の人物の声で、しかもそれが、先ほどまで自分たちの表情筋と腹筋を本気でぶっ壊しに来ていた、らいばーほーむの芸人だったのだから。
下手な芸人より面白いのはずるくね? とか言われているが。
《んじゃ、改めて、自己紹介してくれ》
《ん、さっきぶり。らいばーほーむ三期生の深海いるか》
《というわけで、今回は暁じゃなくて、俺といるかの二人で館内ボイスをしてくぜ! まあ、既に軽く雑談はしてたんだがな》
《ん、暁さんの振りをして会話をするのはなかなか楽しかった》
《俺は暁の声を出しながら、暁のように話すいるかがマジで面白かったがな! 実際俺、マジで笑いだしそうだったしよ!》
《ぷるぷるしてた》
《そりゃそうだろ! 見知った顔の奴の口から、俺の相棒の声が出るんだぜ? 笑うなって方が無理ってもんだ!》
あっはっは! といるかの言葉にそう返す刀。
まさかの展開に、やられたっ……! と来場者や視聴者たちは思った。
ステージに出たばかりだから、さすがにないだろうと頭の中から可能性を除外していた。
だが、言われてみれば確かに、最初の刀のセリフはおかしかったし、そもそも、昨日今日とか言ってる時点で、明らかに偽物だろうと言うことには気づけたはずだった。
姿が見えなければ、本人が話してるようにしか聞こえないのは反則だろう。
《ってか、マジでその声帯模倣すげぇよな。どうやってるんだ?》
《わからない。小学生の頃から、ある程度はできてた》
《マジかよ》
《ん、男性の声が出せるようになったのは、高校生くらいの時だけど》
《マジでなんで出せるんだろうな、それ》
《ん~……突然変異?》
《いるかの場合、突然変異をしてるのは、声帯の部分だとは思うがな!》
《ん、違いない》
本人すら、なぜあんなあほみたいなことができるのかはわかっていなかった。
らいばーほーむにおいて、一番の謎はある意味いるかの声帯なのかもしれない。
《いるかの場合演技力もあるしな。ってか、マジで暁かと思ったぜ? 俺。目を閉じたらわからん》
《ん、声帯模倣は声を真似するだけじゃ意味がない。それじゃあ、ただのモノマネ》
《やっぱこだわりとかあるのか?》
《もち。今言ったように、声を真似するだけじゃ意味がない。必要なのは、模倣する相手の話し方を完璧に再現すること。例えば……こんな感じの声でしゃべっても、私と変わんない。抑揚がないから》
《ぶふっ!》
突然いるかが刀の声でいつものいるかのやや抑揚のない口調で話すと、刀が噴き出した。
まあ、刀だけでなく、聴いたものたちが噴き出したのだが。
《けど、ここに刀さんのように、テンションを高めて、且つ話のリズムを加えると……こんな感じになるってわけだな!》
《な、なんか、自分が目の前にいる気分だぜ……ってか、マジですげぇな》
《ん、こういうこと。これが声帯模倣》
《なるほどな! しっかし、よくもまあそこまでできるもんだぜ。やっぱ、普段から研究してるのか?》
《当然。なんだったら、らいばーほーむに入る前から、一期生と二期生の喋り方はマスターしていた》
《マジで?》
《マジ。私、らいばーほーむのオーディションでこの技術を披露して合格した》
《いやこれはマジで合格するわ》
《ん。私の最大の特技》
いるか、まさかのオーディションで声帯模倣を披露していた模様。
尚、その時の面接官に社長がいたのだが、社長は大爆笑しながら合格を出したとか。
《ってか、いるかは声優にはなろうとは思わなかったのか? それ、声優向きじゃね?》
《ん、それは違う》
《というと?》
《声優はたしかに演技力と声が求められる。でも、私にあるのは演技力と模倣。これじゃ意味がない。おそらく、声優として欲しがられる存在と言うのは、その人個人の持つ声。つまり、オンリーワンなもののはず。けど、私の場合は模倣だからそうじゃない。99.9%模倣できても、残りの0.1%が模倣できない。その部分は、その人にしか表現できない者だから。……とはいえ、その人が急病になって担当しているキャラを降板せざるを得なくなったら、代わりのその声を担当する、みたいなそんな穴埋め要員ならなれるとは思うけど》
刀の声優向きではないか、という指摘に、いるかはそう返す。
いるか自身は、声真似は出来ても、その人だけの声と言う物がないのだ。
それでも、あれだけできる時点でおかしくね……? とは思われているが。
《十分じゃね? だって、年齢も性別も関係ないんだよな?》
《ん、ない。お爺さんの声も出せる》
《ってことは、もう二度と聴けない声がいるかなら再現できるってことだよな? 既に亡くなった人とか》
《できる。けど、やらない》
《そうなのか?》
《ん。仮に私がやっても、それはその人じゃない。その人たちのファンは、その人も好きだったはず。私が声と演技を真似て声を吹き込んでも、それはその人の演技ではなく、その人の演技をする私でしかない》
《あー、なるほどな。いるかにもポリシーみたいなものがあるんだな!》
《当然。それに……声優になったらこんな風に遊べない。私は、この声で遊んで、いろんな人の腹筋を壊したい》
《たしかに、そう思うならできねぇな!》
《ん、当然》
《しっかし、俺たちも裏で聴いてたが、マジで爆笑だったからな! あれには勝てねぇぜ》
《ふふふ、負ける気はない。……あ、今度はつきと一緒に全力朗読に交じりたい》
《おっ! マジか! いやぁ、俺たちもさ、はつきのあの騒音っぷりは俺たちの配信で活かせるんじゃね? って思ってたんだよ! しかも、いるかは声真似だろ? いいねな! 予定決めてやろうぜ!》
《やったぜ》
《面白くなって来たぜ!》
いるかの真面目な話(?)が聴けたかと思えば、なんかとんでもない企画を建てようとしている二人に、これを聴いている者たちは楽しみにしつつも、同時に未来の自分の腹筋と表情筋を心配するのであった。
といいつ、実は裏切りになっていたサブタイトルです。
まあ、勘づいていた人の方が多いでしょう!
たまには男同士じゃなくて、女キャラとも組ませようと思って書いたら、思いの外この二人の会話は書きやすかった。というか、いるかって誰かと会話させてる方がすっごい書きやすい。単体はむずいのよ。
次回は、ステージ回!
残るステージは三つ! 遂に折り返し!
長かったイベント編も、ようやく終わりが見えて……見えて………………見えて来たのかなぁ……。
少なくとも、三つのステージだけで、10話以上は絶対使うし……今月中に終わるかなぁ……終わるといいなぁ……。




