イベント1日目#8 1日目の終了の後:下
場所は変わり、今度は俊道と冬夜の部屋。
「やー、今日は楽しかったぜ!」
「俊道先輩疲れさまー。ステージはどうだったー?」
とても充足感に満ちた表情で、椅子に座る俊道に対して、一緒にいた冬夜が労いの言葉をかける。
「いやぁ、やっぱし、改めているかがすげぇって思ったのと、ひかりの狂気は相変わらずだなって思ったことだな」
「あー、あれはねぇ。裏で千鶴さんが平気な顔してうんうんって頷いてたねぇ」
「マジか。やっぱ、あの二人は同類だな!」
狂気の長文をくらったはずなのに、普通に問題なかった上に、しかもうんうんと相槌まで打っていたという千鶴に、冬夜が笑いながらそう言う。
まあ、同類なのは間違いないだろう。
「ん~、同類で済ませていいのかアレですけどねー。あ、俊道先輩はおしゃべりコーナーどうでした?」
「俺か? 俺はあれだ、同じエロゲのキャラが趣味の奴が来てな! めっちゃよかったぜ! あと、血を吐いて倒れた人もいたなー」
「ボクもですよー。椎菜ちゃんじゃないんですけどねぇ」
「だなー」
「やっぱあれか? 椎菜ちゃんの萌え力が強すぎて、吐血しやすくなったとかか?」
「それはそれですごいですどねー。まあでも、みたまちゃんならあり得る?」
思い返してみれば、あそこまで出血するような人が出始めたのは、三期生の歩く核兵器だったなぁ、と二人は思う。
一応、それまでもなかったわけではない。
それを引き起こしていたのはリリスではあるが、今ほどではなかった。
「うちもある意味すごい事務所になりましたよねー。三期生が入る前は、ギリギリ大手? って感じだったのに、今じゃ平均登録者数で見れば、かなりの数になってますしね」
「だなー。俺たちも俺たちで、大きく伸びたし、新しく入って来た三期生には感謝しかないな!」
「そうですねぇ。それはそうと、四期生の例の彼、どう思いました?」
「そうだな……冬夜はどう思った?」
「ボクとしては、すごく欲しい人材でしたねー。今まで男子組にツッコミはいなかったですし、かなり大きいですよー」
「だよなー。顔合わせの時にも言ったが、あれくらいツッコミ力があるといいよな!」
「わかりますわかります。普段からツッコみ慣れてる感じがありましたよねー。皐月さんもそうだし」
「やっぱ、ツッコミが出来る奴は、日常的にツッコミをしてるんだろうな!」
などなど、知らないところで高評価な、常識人予定の柊である。
これを聞いたら柊はげんなりするかもしれないが。
「それで、俊道先輩は?」
「俺は……ま! 面白そうなやつってことだな! たつなが気に入った理由もわかるしな! っていうかあれ、たつなの好みにストライクだろ」
「そう言えば、年下で真面目そうな人が好みでしたね、皐月さん」
「おう。しかも年齢差はある程度離れてる方がいいらしいと来たもんだ。たしか、彼も年上好き、それも本来なら10歳差が好きでも、±5歳差くらいまでなら範囲なんだろ? なんか、あれだな。俺たちの中で真っ先にゴールインしそうなの、皐月じゃね?」
「ん~、それはそれで面白そうだけど、さすがに炎上しそうじゃないかな?」
「それはそうだが……なんか、後片付けの休憩から帰って来た時の皐月からヤンデレの波動を感じてな」
「わかるんですか?」
「一体何度、俺がヤンデレな人たちに告白されてきたと思ってるんだ? それくらいはわかるぜ!」
「おー、さすが俊道先輩!」
まさかの技能を持っていた俊道に、冬夜はツッコミを入れることなく、さすがだと褒めた。
ツッコミ不在だとこうなるのである。
「だから多分、皐月の方から迫って、彼の方が逃げる……つまり、捕食者は皐月で、非捕食者は彼と言うことになる。それにまあ……皐月のことだし、みたまちゃんへの完全耐性を持った彼は喉から手が出るほど欲しいくらいだろうしな! ま、いいと思うぜ」
「ですねー。そうなったら面白そうですしねー。ボク的には大あり。まあ、炎上するかどうかは、例の彼次第じゃないですかねー」
「だなー。例の彼が得られる好感度によって変わるだろうな」
などなど、二人はしばらく四期生の例の彼の話題で盛り上がるのであった。
◇
やっぱり場所は変わって、今度はいくまとデレーナの部屋。
「つっかれたー!」
「お疲れ、杏実」
「んぁ~~~~、踊り疲れちゃったしー……あーし、動き過ぎっしょー」
「そりゃあ、あんな動きしてたら疲れるわよ。べ、別に、心配なわけじゃないけどっ」
「おっ、ミレーネっちのナチュラルツンデレ! 最近は椎菜っちの影響でツンデレ成分が薄目になっちゃったけど、まだまだ健在っしょー」
「何言ってんのよ」
こちらの部屋では、らいばーほーむ内でも比較的マシな二人ということもあり、基本的には平穏だった。
「だってー、最近のミレーネっち、椎菜っちが出て来る配信では、ずーっとおぎゃってんじゃん? おかげで、ツンデレちゃんというポジションが揺らぎかけてんよー」
「別に欲しいわけじゃないけど!?」
「そうは言うけどさー、ミレーネっちってそれで人気が出たと言うか、最初から最後までツンデレたっぷりの状態が受けてたじゃん? あーしあれ、好きだったんだけどなー」
「そうは言うけど、あたしは別にツンデレじゃないからねっ?」
「はいはい、ツンデレはみんなそう言うっしょー」
「だから違うわよっ?」
と、ボケるいくまに対して、ちゃんとツッコミを入れるミレーネ。
基本的に、みたまが絡まなければ本当に常識人なのだが、ひとたびみたまが絡むとただのおぎゃリストに変貌してしまうのである。
まあ、今のこの姿を皐月が見たら、なんで普段はそれじゃないんだッ……と血涙を流しそうだが。
「んで? ミレーネっちは今日はどうだったん? ほら、おしゃべりコーナーとか」
「あたしはなんてことなかったわよ。おぎゃり方とか、おぎゃる為の心構えとか、そう言うのを教えてただけ」
「教えてただけの中身が強すぎるんよー」
「あたしはいつもそんなものよ」
「ん~、皐月パイセンも大変だー」
大変だとは思っても一切ツッコミに回ろうと思わない辺りが、らいばーほーむか常識人かの差である。
皐月は泣いていい。
「で? そっちはどうだったのよ?」
「あーしは委員長キャラ好きの同性のファンと出会えた! メッチャ嬉しかったし、メッチャ盛り上がったんよ!」
「何それすごいわね。しかもそれ、エロゲじゃないの?」
「正解! やー、まさか同性でエロゲやってて、しかも同じ属性が好みなファンとか、マージ最高だった! 10分以上欲しかったくらいっしょ」
「まあ、うちでギャルゲーやってるの、男性二人か、あたしくらいだし。あとは、千鶴さんとか?」
「一応うさぎっちもやってんよー。あーしが無理矢理押し付けたけど」
「そう言えばそうだったわね……」
尚、そのエロゲの知識が今回のイベントで役に立っていたなど、杏実は知る由もない。
「あ、そう言えば聞いた? 次の四期生の例の彼、冬夜っちと俊道パイセンと遭遇したっぽいよ?」
「え、そうなの?」
「ちなみに、俊道パイセン曰く、皐月パイセンがヤンデレ化しそうって言ってたんよ」
「そ、それは何と言うか……すごいことになってるわね……」
「ま、皐月パイセンも頑張ってたし、仕方ないんじゃない?」
「それもそうね。でも皐月さん、大丈夫なのかしら?」
「ん~、あーし的にはぶっ壊したのはミレーネっちだとは思うけどねー」
「あたしは何もしてないけど?」
「無自覚って怖いわー」
曇りなき眼で何もしてないと言い張るミレーネに、杏実は苦笑いを浮かべるのであった。
◇
さらに部屋は変わり、寧々と藍華の部屋。
「ん、今日は楽しかった」
「お疲れだぞ! 藍華!」
「ん、楽しかった。やはり、声真似はいい」
寧々の労いの言葉に楽しかったと返した後、藍華は声真似はいいと呟く。
藍華としては、声真似が気に入っているので……。
「裏で聴いてたけど、本当に本人そっくりでびっくりしちゃうぞ」
「ん、私の最大の武器。当然。武器は効果的な場面で使ってこそ輝く」
「うーむ、いいこと言うね~。あたしも藍華みたいにもっとたくさんの声真似が出来るようになりたいんだけどなー」
「訓練あるのみ」
「だよねー。……でも、藍華ってなんでそんなにいろんな声が出せるの? 生まれつき?」
「ん、生まれつき。最初は小学生くらいの頃に、試しにニチアサ系の女児向けアニメのキャラクターの声を真似したのがきっかけ。友達に披露したら上手って言われたから、いろんな声を出すために、声をいじってたら今みたいになった」
「おー、つまり才能……!」
「ん、そうともいう。ちなみに、高校時代の学園祭でMCをした際に、これで笑いを取ってたし、卒業式ではそれを買われて答辞などもして笑わせてた。校長先生の声真似とかで」
「それは普通にすごいぞ……というか、よく怒られなかったね?」
藍華がしたという高校時代のあれこれに、さすがと言わんばかりの反応を示す寧々。
「むしろどんどんやれって感じだったから」
「なるほどねー。っていうか、藍華って姫月学園出身じゃないよね? どこの学校?」
「夢ノ木学園って言う場所。結構自由だった。制服もなかったし」
「あー、私服登校が出来る学校? それはそれで羨ましい」
「ん。でも、制服がある方がいい。思い出になるし」
「たしかに」
夢ノ木学園と言うのは、浜波市にある私立の学校で、私服登校が基本になっている、どちらかと言えば珍しい側の学校である。
最初は私服登校できるじゃんラッキー、と思っていた生徒たちは、最終的に制服羨ましい……となる生徒が多かったとか。
中には、それが理由で転校して行く生徒も現れたりしたが……。
「まあでも、面白かったのでよし。それにしても、今日は疲れた」
「だろうねー。だって、三期生出てたの、藍華だけだもんね」
「ん、すごかった。人がたくさんいる状況。あれがライブステージの光景だと感動した。明日も頑張る」
「明日はクイズだっけ? あたしたちも楽しませてもらうぞ!」
「ん、難しくはしてある。あと、私も寧々と恋雪さんのステージは楽しみ。期待してる」
「おおぅ、期待が重いぞ。でも、すっごい頑張るつもり! 何が何でもクリアして、いい記録を取るぞ!」
「ん、寧々ならできる」
三期生二人組は、初めてのイベントに対する感想やら、明日のことについて和気藹々と話すのであった。
◇
そして最後に、らいばーほーむ運営人側の方。
「えー、というわけで、明日が本番となるわけだが……正直に言おう。絶対にレバニラ炒めが足りない」
「「「たしかに」」」
その部屋では社長とマネージャー三名が話し合いを行っていたのだが……開口一番に社長が真面目な顔でレバニラが足りないと告げた。
「やはり、入り口のボイスがやりすぎだったのでは?」
「私はありだと思いましたけどねぇ。みたまちゃんの館内ボイスで殺してから、レバニラを売る……これだけで、かなりの利益が出ましたしねぇ」
「先輩、結構言ってることがあれです。まあ、実際その通りですけど」
「うん、まあ、そこが狙いでもあったからね。我々は基本的に利益は二の次だが……イベントという場面に関してはまた話が変わって来る。今年のイベントは特に」
基本、らいばーほーむから見たファンと言うのは、お金を落としてくれる存在と言うわけではなく、楽しませるべき人たちと言う認識である。
正直、金銭面は二の次であることが多い。
そんならいばーほーむだが、利益が大事じゃないかと言われればそんなことはなく、普通に大事にもしている。
それ以上にファンが大事と言うだけで。
だがしかし、イベントとなるとまた変わって来るのだ。
「あの件、マジなんですか?」
「あぁ、マジだよ。廿楽君。じゃなきゃ、ここまで本気にならない」
「それはそれでどうかと……」
「あれはかなり魅力的であると同時に、大きな利益にはなるだろう。だからこそ私たちは乗ったわけだが……ならば、我々もやるからには本気にならざるを得ないと言うもの。故に、今回は利益が大事なわけだ。卑怯・汚い、と思うかも知れないが、これもまた立派な経営戦略と言う奴だ」
「その経営戦略で死人が出てるんですけどねぇ」
「問題はない。いつものことだ」
いつものことだ、で片付けられるのもそれはそれでどうなのだろうか、そう思う者はこの場にはいない。
だってらいばーほーむなので。
「だがしかし、あまりにもフードエリアに行く人が多かったからね……おかげで、想定以上の売り上げになったが、それが理由で在庫が心許ない。なので、既に追加発注をした。明日には材料が届くそうだよ」
「速いですね、社長」
「伊達に午前中はフードエリアでフードファイトしてないよ。おかげで、お腹がパンパンだ」
「「「でしょうね」」」
社長の言葉に、三人は口を揃えてそう言った。
そりゃあ、らいばーほーむ全員の缶バッジを揃えようとしたのだから当たり前である。
むしろ、なぜベストを尽くしたのか。
「まあそこはいいとして……あ、そう言えば君たちはSNS、もしくは掲示板は見ているかい?」
「見てます」
「ちょこっとは?」
「それなりには」
「そうかそうか。私も見ているんだが、その中に面白いものがあってね。どうも、館内ボイスを受けて死ななかった来場者が三人もいたらしい」
「それは人間ですか?」
「すごいですねぇ」
「そんな化け物が……?」
「気持ちはわかるが……ちなみにこの三人」
そう言って、社長はスマホに映した入口のところの画像を見せた。
その中央には、三名の男女がおり、一人は苦い顔、一人は頭が痛そうにし、一人は鼻血を流していた。
まあ、どこかの三人組である。
「一人は例の彼だが……この二人もなかなかだと思わないかい?」
「こちらは鼻血を出しいますが、二本の足でしっかり立っているのがすごいですね」
「こっちの人は、呆れたようにノーダメなのがすごいですねぇ」
「例の彼と一緒と言うことは、学園関係ですかね?」
「おそらくね。なので、この呆れた顔をしている無傷の女性はきっと、教師だろうね。偶然にしてはすごいことだ」
「ですね。引き込みます?」
「みたまちゃん耐性を得た人と言うのは貴重ですよ?」
「それも考えたけど……まあ、様子見だね。相手は私立とはいえ、教師だからね。個人的に面白そうだし、引き入れたいとは思わないでもないんだけどね」
社長、どこかの先生を引き入れたいとは考えていた模様。
「ま、まだ四期生も入っていないし、時間が経ってからだね。さ、他に報告は何かあるかい?」
「たつながヤンデレ化してます」
「え、なにそれ面白い。絶対例の彼相手だろう?」
「正解です」
「じゃあ、デビューして少ししたら最初にコラボを組ませよう。面白そうだし。面白そうだし!」
大事なことなので二回言いました、とでも言わんばかりの語気である。
さすが魔王。
「他は? ……特にないか。まあ、あれだ。明日は各員レバニラ炒めを持ち歩くように。間違いなく、ロリピュア組のライブステージは死ぬ。出血多量で。そうならないよう、絶対に持ち歩くこと。あと、どこで不意打ちをくらうかわからないのもあるので、そこも気を付けるように」
「「「はい」」」
「では、今日は解散しよう。明日が正念場だ。全力で取り組むようにね」
そう言って、ミーティング? は終了となった。
マネージャーがいなくなった後、部屋の中からは、
『ヒャッハーーーーー! 明日は死ぬ気だぁぁぁぁ!』
という叫びが聞こえたとかないとか。
というわけで、次の裏話で一日目が終了となります。
長かった……地味に、一ヶ月半はかかってるんだよね……いややりすぎ。
二日目はおしゃべりコーナーのように、アホみたいな長さになることはないので、多分半分か、それよりちょっと多いくらいになると思うので、うん。多分、5月には終わります。それでもなげぇよ。




