イベント1日目#6 物販でグッズ購入、ライブステージ前へ
視点は再び柊たちへ。
昼食を食べ終えた三人は食器等を返却してから、三人は東館へ移動する。
「おー、あたしたちでも結構早い方なのに人がいっぱい! これ、欲しいの買えるかなぁ」
物販エリアがある東館へやって来ると、既に結構な数のファンたちが並んでいた。
グッズが買えるのを今か今かと待っているのだ。
「どうだろうな。まあでも、人が大勢来ることを予想していた運営だし、それなりの量を生産していそうだけどな。私はとりあえず、コンプする気だがな」
「おー! 星歌さんガチだね! 髙宮君は何買うの?」
「俺は……とりあえず、たつなさんかな……」
「やっぱりファンなのか?」
「まあ、はい。あとは、少しでも気を楽にさせたいと言いますか……」
「変な考え方だな、高宮」
「ははは……」
柊的には、とりあえず、少しでもお金を落として酒でも飲んでほしい、みたいなことを考えている。
あとは、お世話になるタイミングが増えそうだから、先に相談料のようなものを払っておこうか……というのもある。
「とりあえず並ぶか」
「ですね!」
「ん、なるほど、個人グッズ以外は先にスマホで注文するのか……」
「あ、ほんとだ。個人グッズは先着順だからかな?」
「そうじゃないか? 俺はとりあえず……クリアファイルとボールペン、シャーペンに……あー、アクリルキーホルダーもいいな……とりあえず、買っておくか」
「高宮も買うんだな」
「まあ、親友がいますし、個人的に色々あるので……」
「そうか。まあ、踏み込む気はないがな」
小さく笑みを浮かべながらそう言う星歌に、柊は苦笑いを浮かべた。
この人、何か気付いてね? と柊はちょっと勘ぐる。
「ともあれ、私は、全ライバーのグッズを買うとしよう。もちろん、全種類」
「お、おおぅ、先生散財……」
「生憎と、今の生活だとお金を使う場面が無くてな。なんなら、ここで金を落とした方がいい。……一部は教え子だしな」
最後の部分を周囲に聴こえないよう小声で言いつつ、ふっと笑みを浮かべる星歌に、柊と麗奈の二人も釣られるように笑った。
「うむむむ、現金だと2万円しかないからなぁ……」
「カード払いもできるらしいが?」
「あたし、そう言うの持ってないので……」
「そりゃ仕方ないな。まあ、高校生じゃ普通は作らないか」
「欲しいのだけ買っておけばいいとは思うが……ところで星歌さん」
「ん、なんだ? 高宮」
「星歌さんは全部買うんですよね? 個人グッズも含めて」
「まあな」
「それ、どうやって持ち帰るんですか? 結構な量があると言うか……」
「とりあえず、車の中に突っ込んでおくつもりだ。どのみち、明日もここに来るんだしな。お前らもだろう?」
「もちろんです! あたしは、明日は入場券だけですけど」
「俺もまあ、似たようなもんです。というか、先生車だったんですね」
「どうせ、持ち帰るグッズが多いことはわかってたしな。それなら車で来た方がいいだろう?」
「でも星歌さん、もうちょっとしたらライブステージがありますよ? それまで大量の荷物はどうするんですか?」
「ロッカーに預けるつもりだ」
「そう言えばありましたね。じゃあ、俺もそこ後で預けておくかな」
「あたしもー」
そんな風に、物販で物を購入した後のことを話しつつ、順番が来るのを待っていると、ようやく三人の順番に。
一人につき一カウンターなので、一旦三人はバラバラに。
「こんにちは! QRコードをお願いします!」
物販に辿り着くと、スタッフが笑顔でQRコードの提示を求めて来たので、三人はそれぞれQRコードを店員に見せる。
「ありがとうございます! 個人グッズはいかがしましょうか!」
「私は全部買う」
「お姉さんすごいですね! 全部買うなんて! らいばーほーむマニアですか?」
「基本的にコンプしたくなる質でな」
星歌は宣言通り、本当に全種類お買い上げ。
「あ、みたまちゃんとリリスちゃん、あとは……いくまちゃんのってありますか?」
「はい、まだ在庫はありますよ!」
「じゃあ、それをお願いします!」
と、麗奈はみたま、リリス、いくまの個人グッズをお買い上げ。
「俺は……あー、たつなさんとデレーナさん、あとは……ひかりさんのを。在庫はありますかね?」
「ありますよ! では、以上の三点でよろしいでしょうか?」
「はい、お願いします」
柊は常識人組とシスコンのグッズを購入した。
麗奈と柊の会計金額としては、2万円は切ったものの、それでも現金のほとんどが飛んだ結果となった。
星歌は、全種類コンプなのでかなりの額だった、とだけ。
大人買いである。
「お前たち、買えたな」
「買えました!」
「問題ないです」
かなりの大きさの袋をいくつも手にぶら下げた星歌が二人に尋ね、それに対して二人は問題ないと返答。
というか、荷物がすごすぎて、星歌はかなり目立っている。
「星歌さん、なんか……すごいデカいのが見えてるんですが」
「思った以上に神薙みたまのクッションがでかかった。というかこれ、実寸大じゃないか……?」
「本当ですよね! あたしも大きくてびっくり。髙宮君は買わなかったの?」
「……親友の膝枕が完全再現された物を買うのはちょっと……」
「それを言ったら、私なんか教え子だぞ? 高宮より酷いと思うが」
「それは……たしかに」
言われてみれば、教え子の膝枕を再現したクッションを購入する教師とか傍から見ると色々と酷いな……と柊は思った。
「それじゃあ、さっさとロッカーに詰めてライブステージ前まで行くか。そろそろ行かないといい場所が取れなくなる」
「ですね!」
「はい」
というわけで、三人は一度ロッカーに荷物を預けに行く。
預け終えたら東館内のステージの前へ。
幸いなことに、まだそこまで人が集まっているわけではなかったので、そこそこいい場所を取れた。
「あら? 柊君?」
そこでふと、すぐ横から声をかけられた。
「え? あ、雪子さんに、聡一郎さん? それに……みまちゃんとみおちゃんも?」
柊が振り返ると、そこには桜木一家がいた。
みまとみおはキラキラとした目で周囲を見ているが。
「こんなところで会うなんて奇遇ね!」
「そちらはたしか、麗奈ちゃんだったかな? 体育祭以来だね」
「こんにちは! あの時はありがとうございました!」
「それに……あらあら! 田崎先生じゃないですか!」
「お久しぶりです。桜木椎菜の入学式以来でしょうか?」
「そうですね! 娘ともどもお世話になっているようで」
「うちの椎菜は学園で上手くやれてますかね?」
「問題ないですよ。まあ、本人は無自覚に無差別殺人してますが……」
「さすが椎菜ねぇ」
「だなぁ」
お宅の娘さん、無差別殺人してますよと言われても慌てるのではなく、さすがだと言う辺りはさすがあの二人の両親と言ったところだろう、星歌はそう思いながら苦笑いを浮かべた。
「んぅ~、おねーさん、おかーさんのせんせー?」
「……あったことある、です?」
ふと、周りを見ていたみまとみおの二人が星歌に話しかける。
二人はどこかで見たことがあるー、という反応示すも、上手く思い出せないのか、こてんと首をかしげている。
とても愛らしい姿に、周囲の人たちは頬を緩める。
まだ、鼻血を出すようなレベルではないようだ。
「あぁ、そうだな。二人の母親も参加していた体育祭の時にな。二人は、元気に学校に通ってるのか?」
そんなみまみお姉妹に、星歌は優し気な笑みを浮かべながら二人にそう声をかける。
心なしか、いつも以上に声音も柔らかい。
「うんっ」
「……げんき、ですっ」
「そうか、それならよかった。お前たち二人が元気にやってるって言うのは、桜木妹……二人の母親からしても嬉しいことだからな」
「そーなの?」
「……ほんと、です?」
「あぁ、本当だとも。だからお前たちは、母親や祖父母の言うことをよく聞いて、いい子に育つんだぞ?」
そう言いながら、星歌は二人の頭を撫でると、姉妹揃って気持ちよさそうに目を細めた。
「うんっ、みま、いいこになるっ」
「……みおもっ」
「ははっ、素直ないい娘たちだな。さすが桜木妹の娘と言うべきか……」
「田崎先生は子供がお好きなんですか?」
「それなりには。少なくとも、教師なんて仕事をするくらいですからね。もっとも、私は小学校ではなく、高校の教師ですが」
「そうでしたか。本当、うちの愛菜が高校時代はお世話になったそうで、私としては頭が上がらない思いですよ」
「いや、聡一郎さんの娘さんは強かったですよ。……まあ、本当にあそこまで強いのは予想外でしたが……」
「「でしょうね」」
星歌の言葉に、雪子と聡一郎の両名が揃って同じ返しをした。
昔は自殺すら考えるほどに追い詰められていたと言うのに、今では立派に邪神しているのだから、世の中わからないものである。
「ところで、お二方も当たっていたんですね」
「幸運なことに」
「しかし、よく四人分も当たりましたね?」
「その辺りについては、社長さんがかなり無理をしてくれたようで……」
「あー、なるほどそういう……」
実はみまとみおの両名については、社長がどうにかした、と言う経緯がある。
今ではらいばーほーむで一番の登録者数を誇るライバーであるみたまの実の娘(魂の繋がり的な方)だし、何より最初かららいばーほーむメンバーと一緒に宿泊してるということもあり、社長がかなり無理をした。
まあ、小さな女の子二人入れるくらいならわけない!
だそうだ。
もちろん、これに関しては秘密である。
……そもそも、神様な双子を入場させないのは色々とまずくない? とも思ったからだそうだが。
「でも、柊君が来ていたの驚いたわ」
「そうだね。椎菜からは来ないと思うと聞いていたんだが」
「あー……それに関してなんですが、俺がここにいることは椎菜には秘密でお願いします」
「あら? 何かあるの?」
「まあ色々ありまして……諸事情です」
「よくわからないが……柊君にも色々あるんだろう。わかった。椎菜には何も言わないでおこう。みまちゃんみおちゃんも、柊君がここにいることは椎菜には言っちゃだめだよ?」
「「はーいっ」」
聡一郎の注意に、二人はとても元気な返事をして……
「「ぐはっ……!」」
両親が揃って血を吐いた。
ついでに、周囲の人も血を吐いた。
「さすがアレの娘と言う事か……無意識にキルスコアを稼いでるな」
「姿とか、よく見るとそっくりなんてレベルじゃないですからね」
「……さすが、みまちゃんとみおちゃんっ……あたしも、鼻血が出ちゃったよ……」
「レバニラ炒め食べた意味、ないんじゃないか? それ」
「かもしれないね! まあでも、大丈夫! 今日はもうライブステージしかないしね!」
「そのライブステージもまともだといいんだがなぁ……」
「高宮、それはフラグじゃないか? 現時点では誰が出るか確定してるわけじゃないんだしな。一期生二期生三期生、それぞれから誰が出るのかが不明である以上、身構えた方がいいだろう」
「それはそうですが……まあでも、神薙みたまが出ることはないと思いますけどね」
「どうして?」
「……さすがの運営も、一日目で大量虐殺を起こす気はないだろうからな」
「「納得」」
柊の予想に、星歌と麗奈はそれはもう納得した。
VTuberのイベントで出る単語じゃない、というのは言うまでもない。
そもそもの話……知られてないだけで、神やら天使やら悪魔やら妖魔やら精霊やら邪神やらがいる時点で、色々と普通もへったくれもないのだが。
『ご来場の皆様にお知らせいたします。30分後に一日目のライブステージ、『前座! らいばーほーむの普通のライブステージ!』が開演されます。指定席のチケットをお持ちの方は早めにお越しいただくよう、お願い致します。また、立ち見のお客様等も他のお客様を押したり、争ったりしないようにお願い致します』
「あたし、らいばーほーむで言う『普通』が一番信用できないと思ってます」
「奇遇だな、朝霧。私もだ」
「俺もだな……」
らいばーほーむの普通の基準は世間一般で言うところの異常なので、この三人の反応についてはさもありなん。
そんなこんなで、らいばーほーむイベント一日目のライブステージが間もなく始まろうとしていた。
というわけで、次回から数話ライブステージの話になります!
他のミニゲームの話しも描写したいんだけど、あまりやり過ぎるとマジで話が進まないので……。
それから、あまりにも話の進みが遅いと言うことで、土日合わせて合計で3話投稿しようと思ってます。
いやもう、それくらいしないと終わらんのよ、これ。
なので、土曜日に2話か、日曜日に2話になるかはその週の私の気分次第になりますが、とりあえずそんな感じです! 個人的に早く二日目が書きたいんや!




