イベント1日目#おしゃべりコーナー:23 みたまの場合:下
残念、後半戦は最後じゃなかった!
人生相談するにはやや間違っているショタから移り変わって……
「こんたま~~っ! 今日は来てくれてありがとうっ! 神薙みたまだよっ!」
らいばーほーむの核兵器とか言われている、明らかVTuberに付ける二つ名じゃないだろうみたいな名前が数多く量産されている、子持ち系お狐様ロリの神薙みたまであった。
尚、前回は邪神が割り込んできたのでプロテクトを硬くしております。
『み、みたまちゃんだっ……ほ、本物のみたまちゃんっ……やばい、目から海が……』
どこかのショタの所にやって来たファンと同様に、目から涙(本人は海と言っている)を流している二十代後半くらいの女性ファン。
「ふぇ!? ど、どうしたのっ? えと、ど、どこか痛いの……?」
『本物のみたまちゃんに会えたと言う感動で、胸が痛い』
「なんで!? そ、そんなになの……?」
『むしろ、みたまちゃんに会えたのに泣かない人の方がおかしいと思うんです』
「そ、そう、なんだ」
これが他のライバーだったら、普通に『そっかー』程度で済ませていたのだが、みたまなのでそんなことはなく、よくわからないなぁ程度の反応でしかない。
「え、えーっと、ともあれ、十分間だけだけど、よろしくねっ」
『こちらこそ!』
「それで、えっと、おねぇたまのお名前は?」
『綿海つみきって言いますっ』
「じゃあ、つみきおねぇたまだね! 改めて、来てくれてありがとうっ!」
にこっ、と愛らしい笑みとお礼を告げるみたま。
『え、本当に可愛すぎる……こ、これが、どこの世界でも熱狂的なファンがいる、みたまちゃん……!? ごふっ』
そんなみたまの挨拶を受けて、女性ファンは血を吐いた。
「ふぇ!? な、なんで血を吐くの!?」
『ご、ごめんなさい、初めて会うみたまちゃんに、その、感極まって私の血液が体外に……』
「んっと、その、大丈夫……?」
『不死身だから大丈夫です。何度でも蘇ります』
「そ、そう、なんだ?」
『なのでっ、私は普通にみたまちゃんとお話がしたいっ……!』
「あ、そうですねっ! じゃあ、えと、そうですね……つみきおねぇたまは、どこから来たの?」
『しんか――あ、いえ、ふ、福岡市です!』
一瞬何かを言いかけた女性ファンだったが、福岡市と言い直した。
どうやら、福岡県から来たようではある
「随分遠くから来たんだね。大変だったんじゃないのかな?」
『あ、いえ、そこはちょっとした裏技を使ったので、そんなに大変じゃなかったので!』
「へぇ~~! 福岡県からってなると、飛行機かな? それでも大変そうだけど」
『ふふふー、企業秘密!』
「そっかぁ。でも、そんなに遠くから会いに来てくれて本当に嬉しいな!」
『私もはるばるやって来てよかったと思ってます……血が止まりません』
「そこは止めないとダメじゃないかな!?」
よく見れば、口の端からだらだらと血を流していた。
いい笑顔で何をしているのだろうか。
『あ、そう言えば、みたまちゃんのふぅどめにゅぅがはんばぁぐとお聞きしたのですが……』
「あ、それは本当だよっ。わたしの得意なお料理で、フードエリアで売られてるのもわたしのレシピだからね!」
『それは是非行かせてもらいますっ! すごい長蛇の列でしたけど……』
「そ、そんなに?」
『かなり広く設定されてはいましたけど、その、ればにら炒めを求めていく方が多かったようでして』
「レバニラ炒めが好きな人、多いのかな?」
『会場の入り口やその他にもみたまちゃんが出しているげぇむが原因かと思いますけど……』
「ふぇ? わたし?」
そんなに変なところあったっけ? と可愛らしく首をかしげるみたま。
知らぬは本人のみなのだ。
『やっぱり気付いてないんですね』
「???」
まあ、無自覚だからこその破壊力ですよね、と女性ファンは思った。
「あ、そう言えば、つみきおねぇたまはグッズは買うのかな?」
『当然買いますっ! みたまちゃんが出ている物は全部購入します! 私の推しですから! 最推しですから! みたまの民として当然のことです!』
「それは嬉しいけど……あの、お金は大丈夫なの……? その、こういうグッズっていいお値段するし……さすがにその、心配になっちゃうよ?」
『そこは大丈夫です! 今まで全くお金を使わず、ずっと貯金でしたから! 全てのぐっずを購入しても、余裕があるくらいには、お金が有り余ってます!』
にっこり笑顔でかなりすごいことを言う女性ファンに、みたまはびっくりした表情を浮かべる。
「そ、そうなのっ!? つ、つみきおねぇたまって、お金持ちさん……?」
『間違いではないですけど、今まで働いて来たお金が手つかずになってるだけですので! 故に! ここでその全てを使用してでも、みたまちゃんのぐっずを制覇する所存ですっ!』
「そ、そう、なんだ。んっと、買えるといいねっ!」
かなりの種類があったはずだけど、とみたまは頭の中で考えたが、ここまで欲しがってる女性ファンを見て、心の底から買えるといいね、と告げた。
『はい! 個人的にはみたまちゃんの膝枕を模した物が一番欲しいと思ってます』
「あの……つみきおねぇたま」
『なんでしょう!』
「その、わたしの膝枕クッションって、そんなに欲しがられる物、なの……?」
ふと、一番欲しいと話題に上がったみたまの膝枕クッションについて、あれが本当に欲しがられているものなのか気になって、目の前に欲しがっている女性ファンがいたので、試しに訊いてみることに。
『正直に言えば、世が世なら暴力で手に入れようとする人がいるくらいには欲しがられてます』
「物騒!?」
『だって、みたまちゃんの膝枕を再現したくっしょんですよ!? あのたつなさんや、うさぎさんや、いるかさんがすぐに眠っちゃうくらいには素晴らしい寝心地であることが予想されているみたまちゃんの膝枕を再現したくっしょんですよ!? みたまちゃんを推している人たちからすれば最も欲しい物と言われております! とわったぁなどでも、このお祭りに参加できなかった方々が、嘆いておりましたし』
「そ、そんなになんだ……なんだろう、僕本人と言うわけじゃないけど、すっごく照れちゃうね……えへへ」
『ごぶふぅっ』
みたまがはにかみ笑顔で照れると、女性ファンは吐血! 鼻血も出ている!
「ふぇ!?」
『は、はにかみ笑顔は、その、殺傷力が高すぎます……』
「笑顔で殺傷力って何!?」
『みたまちゃんは全身凶器みたいなものなので……』
「僕、そんなに物騒じゃないよぉ!?」
全身凶器とかいうわけのわからないことを言われて、みたまは思わず一人称が僕になってしまっている辺り。
『くっ、このままでは、私の血液が持ちそうにないですね……!』
おおよそ、VTuberイベントで出るはずのない心配と言うか、セリフである。
まあ、そもそもがらいばーほーむはノリがおかしいので、こういうのが最近は当然だろ? になりつつあり、らいばーほーむ以外の箱を見ているファンたちは、
『あれ? VTuberってこんなに平和だったっけ?』
と思うようになってしまったとか。
汚染が進んでしまっている……。
「あ、そう言えば……」
『どうかしたんですか? みたまちゃん』
「いえ、その、実は今日来てくれた人たちにしてることがあって……」
『してること? 何かあるんですか?』
「は、はい。んっと、えっと、つみきおねぇたまも受けますか?」
『……何故でしょう。私の頭の中には断ると言う選択肢がなぜか浮かんできません。そして、自分の死が見えるのですが』
「んっと……?」
『あ、受けます受けます! さぁ、バッチコイ! みたまちゃんから貰えるものは貰うのが、一流のファンです!』
「ファンに一流も何もないような……?」
『というわけですので、是非とも!』
「あ、はい。じゃあ、えと…………つみきおねぇたま、だぁ~~~~いすきっ!」
『―――ごぶはぁぁぁっ!!!???』
みたまの名前+大好き発言に、こちらの女性ファンも見事に死亡した。
みたまが慌てたのは言うまでもない。
なんとか死んだ女性を起こし、それからも話を続けていると、
『よ、ようやく、ようやく会うことが出来たっ……!』
入って来た瞬間からなぜか感極まっている金髪金眼のなんかやたら綺麗な女性が現れた。
「あ、えと、こんたまっ! 神薙みたまだよっ!」
まさか自分より早くぽろぽろ泣き出す美人な女性がいるとは思わなかったみたまは、一瞬おろおろするも、すぐにいつもの挨拶と笑顔を浮かべた。
「あの、おねぇたま、すっごくその、泣いてるけど……何かあったの?」
『……生まれてこの方、一度も休みと言う休みがなかったのじゃ』
「うん!?」
『ある日、儂は地上で天使と出会い、救われてな……まあ、天上でも癒しに出会えたのじゃが』
「そ、そう、なんですね? んっと、地上に、天上……? あれ……?」
『む? どうかしたのか?』
「あ、いえ」
よくわからないことを言っている目の前の女性の『地上』と『天上』と言う言葉に引っかかりを覚えると、同時に目の前の女性にもなにか既視感があることに気付く。
(よく見たらこの人……あの時の天使さん?)
ハロウィンの日、学園の外れに不時着して空腹で倒れていたあの女性では? とみたまは思う。
と言うかどう見てもそうだよね、と。
『あ、そう言えばまだ名前を名乗っていなかったのう。駿河エミリーじゃ! いつもおぬしの配信で癒してもらっておる! 本当に、ありがとうっ……!』
「え、えと、そんなに強くお礼を言われると照れるけど……その、わたしで癒しになってるようでよかったよっ! エミリーおねぇたまはすっごく大変なの?」
『……ぶっちゃけ、休みなしの仕事に次ぐ仕事で、精神が虚無っておった』
「あっ……」
『がしかしっ! 地上で素晴らしい出会いをし、ストライキを起こし、そして今までの仕事漬けの日々から抜け出し、今現在は有休中じゃ! ざっと100年くらい!』
「あ、そ、そう、なんですねっ! えと、その、大変なんですね、天使さんって」
100年の有給と言った瞬間、椎菜は本当に大変だったんだなぁと同情した。
天使と言って。
『うむぅ……いやもう、本当に大変で………………………………今、なんて?』
「ふぇ? んっと、天使さんって……」
『ちょっと待って? え? 儂、天使って名乗った……?』
「いえ、名乗ってない、ですよ?」
『…………え、何故? 何故、儂が天使と?』
「……あっ」
『え、待って? そう言えばおぬしの声…………ハッ!? ま、まさかっ! あ、あの時儂に食事を分け与えてくれた、天使……!?』
みたまが失言を認識した直後、目の前の女性ファンこと、駿河エミリーはみたまの声がどうにも聞き覚えのある物だと気づくと、それがいつぞやの餓死しかけた時に弁当を分けてくれた少女だと気づいた。
「そ、それは、えと、その……………」
みたま! 痛恨のミス!
『……』
次の瞬間、エミリーの両目からものすごい勢いで滂沱の如き涙が流れ出す!
「ふぇ!? ど、どどっ、どうしたの!?」
『ま、まさかっ、地上と天上、両方で癒しを与えてくれた者が、同一人物だとは思わずっ……くっ、ふぅっ……』
「あ、な、泣かないで!? え、えと、えと……その、エミリーおねぇたまはすっごく頑張ってると思うのでっ! えと、だから、その……すごく尊敬しますっ! 頑張りましたねっ!」
『アッ――』
バタンっ!
みたまの満面の笑みと共に放たれた尊敬すると言う発言と、頑張りましたと言う言葉に、エミリーが許容限界を迎え、そのまま倒れた。
尚、倒れた時の姿が某ヤムチャしやがってだった。
「ふぇぇぇ!? また倒れちゃったよぉ!? す、スタッフさーん!? また人が倒れちゃいましたぁ~~~~~っ!」
いい笑顔で倒れたエミリーにみたまは何度目かわからないくらいの大慌てをするのであった。
圧倒的死傷率を誇るみたまのおしゃべりボックスから出て来る者たちは、青白いのにとてもいい顔でフードエリアに真っ直ぐ向かっていくそうな。
当然のように、エミリーも同様にそうなった。
というわけで、本作の主人公です!
まさかのニアミス! 最後ではなく、最後一個手前! そして、リリスが最後になると言う、ハードルが爆上がり! まあ、後半戦自体のハードルが高かったんですけどね……。
やっぱり、24話はバカだよ。なんで12話にしなかったんだよ、過去の私。
ともあれ、次でおしゃべりコーナーは終わり! ようやく、次のイベント関係の話に移れる……長かったっ……なんだったら、もう約1か月イベント編をやってたりします。これ、50話で終わらなくない?




