イベント1日目#おしゃべりコーナー:20 いるかの場合:下
最早常識人ではなく、立派ならいばーほーむになったおぎゃリストから一転して、その次に出て来たのは、
「こんるかー。深海いるか。来てくれてありがとう。今日はよろしく」
人体の神秘を素で体現し続けていた、声帯どうなってんだよというツッコミを何度も頂戴し、地味に掲示板でも三スレに一度は声帯のみの話題になる、らいばーほーむ三期生の元社畜系の深海いるかであった。
『よ、よかった、初見殺しはなかった……』
そんないるかとのおしゃべりコーナーにやって来た女性ファンは、いきなり初見殺しを仕掛けてこなかったいるかに、ほっと胸をなでおろした。
と言うのも、ここまでの間に、いるかはおしゃべりコーナーにやって来たファンたちを、笑い地獄に突き落としているからである。
しかも、瞬時に声を変えられると言う特技の特性上、一文字ずつ声を変えることさえ可能とするいるかなので、中には初手の挨拶で特大の笑い爆弾をくらうことがあった。
中には終始笑わされ続けたファンもおり、笑い過ぎて過呼吸になったままおしゃべりボックスから出て来る、などと言うこともあった。
その度に、並んでいるファンたちは恐怖したとか。
「ん、何をほっとしてるの?」
『あ、いえ、その、いるかちゃんの所から出て来る人たちが、引き笑いしてたり、過呼吸になってたりしてたので、もしかしたら最初から笑わされるのかも、って思って……それで、ちょっと安心を』
「ん、心外。私はすぐに声帯をいじらない。ああいうのは、不意打ちでしてこそ、破壊力が増す」
『あ、普通に笑わせようとはするんですね』
「私の特技、結構喜ばれる」
『それはまあ……本物が言ってる感じがしますからね』
いるかの特技である声帯変化は、かなり人気のある特技だ。
配信時でも歌配信と同レベルで望む声が多く、実際にいるかのましゅまろには、その手の物が数多く寄せられる。
これの真似をしてほしい! とか、こういうのが聴いてみたいです! とか、そう言う感じである。
いるか自身もノリノリでやるので、それはもう笑いが起こる。
しかもいるかの場合、男女両方の声が出せるのが一番人気が出てる理由でもある。
実は性別偽ってるんじゃね? とか思われてたりするくらいには、色々とすごいことになっている。
「ともあれ、10分しかないおしゃべりコーナーなので、色々話す」
『あっ! そ、そうですね! 私も、折角当たったんですし、楽しみますね!』
「ん、それがいい。とはいえ、何を話す? 生憎、私はそこまで一対一の会話に向いてない」
『そ、そうなんですか?』
「ん。そもそも、前職自体もコミュニケーションは一部を除いてほとんど必要としてなかった。最初の打ち合わせと、進行のすり合わせくらいで、あとは私の仕事。メール等でやりとりはしたけど、それくらい。仕事の話ししかしなかった」
『な、なるほど……でも、お仕事って、よほど仲が良くないと、そんなにお仕事以外のお話ってしないですよね』
「ん、本当にそう。それに、私の場合はクソみたいなブラック企業だったから、余計になかったけど。基本的に、作業が終わったら速攻で帰ってたし」
『定時帰宅ですか?』
「定時帰宅なんて、夢のまた夢だった。クソ上司が、仕事を押し付けて来るから、定時帰宅出来た時なんて、私の仕事がすぐに終わった時と、クソ上司が生牡蠣に中ってぶっ倒れた時くらいで、後は大体残業に次ぐ残業」
『わかります……私も割とその、そう言う感じがあるので……』
いるかの話を受けて、女性ファンも苦笑い交じりに自分もと話した。
それにいるかが反応する。
「ん、ブラック企業勤め?」
『そう、ですね。急に土日出勤してほしいって言われることもあって……』
「それは確かにクソ」
『直属の上司はいいんですけど、さらにその上の人が問題ありでして……』
「ふむ」
『明らかに無茶な仕事の入れ方をするんです。例えば、あと少しで終わる案件があったとして、明日で終わるー! って思ってたら、新しい案件を入れて来て、それをやらされるんです』
「それはクソ。本当にクソ」
『上司は無茶だし無理です、って言うんですけど、ヘラヘラ笑ってできるできるとか言って来るので……』
「……ん、それは殺意しか湧かない。とりあえず、労基に訴える、と言えば万事解決」
『たしかに』
現代において、ハラスメント系はかなり厳しい目で見られる。
昔は通用していた物が現代では通用しないなどざらだし、時代が進むごとに、ハラスメントの種類も増えているわけだ。
中には、え、それでハラスメントになるの!? みたいなものもあるくらいには細分化されてしまっているものもあるほどだ。
なので、こういう時は普通に労基に訴えるのは割と効果的だ。
「なので……困った時は労基にGOGO!」
そして、いきなりいるかがものっすごい明るくきゃぴきゃぴした声とテンションで、そんなことを言いだす。
顔は無表情のまま!
『んばぶふっ!?』
突然の声帯変化に、女性ファンは噴き出す。
『げほっ、けほっ……! き、気管に、は、入ったっ……!』
「あっれぇ~? 大丈夫ぅ~?」
唾が気管に入ってしまった女性に追い打ちとばかりに、今度はどこか小悪魔チックな声を出す。
『~~~っ!?』
女性ファンはぷるぷると顔を真っ赤にしながら震えだす。
さっきまでと声違うじゃん! と内心で叫んでいる」
「ふむ、問題はなさそうだ。無事で何よりだ」
『ぶふっ! あっ、あはははっ! ちょ、ちょっとっ、ちょっと待ってくださいっ……え、ほ、本当にそれ、ど、どこからっ……あははっ!』
そして、今度はクール系なイケメンみたいな声を出したいるかに、耐えきれなくなった女性ファンは大笑いする。
さっきまで小悪魔チックな声だったはずなのに、急にクールタイプのイケボを出して来たいるかに、女性ファンはそれはもう腹を抱えての爆笑。
もしもここが自宅であったなら、女性ファンはバンバン! と床かテーブルを叩いていたことだろう。それほどに、女性ファンは笑っていた。
「ん、成功した」
『ひぃっ、ひぃ~~~っ……ほ、本当に、いるかちゃん、ず、ずるすぎぃ……!』
「やはり、安心しきった時にする声帯変化は最高。人を笑わせることは最高に気持ちがいい」
『こ、こんなの、笑うなって方が、無、無理ですよぉ~~~……んぶふっ』
「ん、いい笑いっぷり。一人一笑が今日の私のモットー」
『い、いやこれっ、一笑で済んでない、気がっ……!』
「笑いは取れれば取れるだけいい」
無表情ではあるが、どこかドヤ顔っぽい表情を浮かべながら、そんなことを言ういるか。
らいばーほーむにおいて、狙って笑いを取りに行けるのは、多分いるかくらいだと思われる。
どこかの騒音猫は笑わせまくりたい! とか言っていたが、実は笑わせる適正が高いのはこっちの声帯お化けだったりする。
まあ、その騒音猫もこの声帯お化けから声真似技術を学んでいるわけだが……。
尚、その騒音猫で受ける声真似は、クソゲープレイ中に理不尽な死をくらった時にする、何らかのキャラたちの叫び声である。
これで再起不能になったリスナーもいるとか。
『や、やっぱり、いるかちゃんは強いっ……!』
「ん、私は他のらいばーほーむのメンバーに比べると薄い方」
『これで、薄い……?』
「同期でも、いるかとふゆりはちょっと別格。特にみたまは強い」
『みたまちゃんは、存在がちょっと反則だと思う。っていうか、普通に考えたらいるかちゃんやふゆりんやはつきちゃんって、よくみたまちゃんの同期なのに擦れたりしないで活動できるよね……。普通だったら、色々と諦めて辞めちゃいそうなのに……』
「ん、そもそもの話……らいばーほーむに入るような人間が、同期に化け物級の可愛さを持った存在がいたくらいで辞めるような、軟な人間だとでも?」
『それを言われたら何も言い返せないですね……』
圧倒的なまでに説得力のあるいるかの説明に、女性ファンはぐうの音も出ないくらいに納得した。
劣等感やら敵対心を持つような人間では、らいばーほーむに入れないのである。
らいばーほーむにおいては、我を貫き通すことこそが大事なので。
この後も、女性ファンと色々と話したり、笑わせたり、やっぱり爆笑させたりして、女性ファンとのおしゃべりは終了となった。
笑わせることを好み、この後も笑わせ続けるいるかの所へ、今度は見た目は普通な女性がやって来た。
「こんるか。深海いるか。今日は来てくれてありがとう」
『初めまして。深海いるかさんに会えて光栄に思っております』
「ん、そこまで固くなくてもいいけど……光栄?」
『はい。我々の業界でかなり人気がありますからね、声帯変化』
「なるほど、それは嬉しい。評価されるのは嬉しい」
我々の業界で、というのは何を指しているのかはわからないが、いるかは自分の声帯変化が好かれているのはわかったので、普通に嬉しそうにする。
何事も、褒められるのは嬉しいものなのだ。
『実は私も特技を持っておりまして』
「特技。どんなの? 気になる」
そんな女性ファンが特技があると言うと、いるかが興味津々になる。
『姿を変える……というより、顔を変えると言った方が正しいでしょうか。色々な方に化けることができるのです』
「それは、面白そう。今ってできる?」
『可能ですよ。簡単なことですので』
「ん、じゃあ見せてほしい」
『もちろんです。では…………』
そう言うと、女性ファンは自身の右手を顔の左側に持っていくと、スッと左から右へスライドさせた。
すると、女性ファンの顔立ちが先ほどまでとは一変。
先ほどまでは、ごくごく普通の女性だったはずなのに、なぜかアイドルのような可愛らしい顔になっていた。
「んっ、すごい。手品?」
『手品、のようなものですね。例えば、こんなことも』
そう言って、先ほどのように右手を動かすと、今度は老婆の顔に変化。
さらに同じことをすれば、今度は平凡なサラリーマン風の顔立ちになり、今度は男の娘な顔になって、最後は最初の普通の女性に戻った。
「なかなかにすごい……! どうやって変えてるのか気になる」
『ふふふ、企業秘密です』
「ん、それなら仕方ない。変装技術……なかなかいい」
『ありがとうございます。ですが、声帯を思いのままに変化させる深海いるかさんもなかなかのものだと思います。我々は顔と共に別の所もいじらなければ声を変えることはできませんが、あなたの場合は声だけをいつでも変化させられる……本当にすごいことです』
「ん、すごく照れる」
『やはり、あなた方は面白い。私としても、今後も応援させていただくつもりです』
微笑みながら、今後も応援すると言うと、いるかも嬉しそうに小さく笑った。
「ありがとう。そう言ってもらえると、今後も頑張れる。ファンの応援が何より一番だから」
『はい、存じております。私の友人たちも、あなたを応援していますからね。今回は私のみしか当たりませんでしたが……』
「倍率が高いから仕方ない。でも、よく当たった」
『運がよかったものですから』
「ん、このイベントに当たるくらいだから、なかなかの豪運」
『私もそう思います』
「……とりあえず、さっきの顔を変えるのが気になる。色々話したい」
『私としましても、深海いるかさんの声帯変化について、色々お聞きしたいですね』
「ならば、二人で語り合おう」
『それは素晴らしいです。是非に』
と、声帯を変化させるいるかと、顔を変化させる謎の女性とで、色々と話は盛り上がった。
これを機に、いるかは変装とかも面白そう……とか思い始めており、いつしかそう言う技術を手に入れようとするのであった。
いるかも動かしにくいぜ……。
まあ、三期生の中で一番動かすのが難しいのって、いるかなんですけどね。
それと、いるかが相手した後半の女性は……やー、なんなんでしょうねぇ。なんか、明らかに一般人じゃないよね、あれ。
一応軽く触れると……そうですねー。顔……というより、貌を変えるのが得意な方、とだけ。
今日も二話投稿! 次は誰かなぁ!?




