イベント1日目#おしゃべりコーナー:17 はつきの場合:下
両方の意味で自分のファンだった女子高生とのおしゃべりをしつつ、その後もアレなファンたちを捌いて体力がゴリゴリに減っていく常識人から一転して、次に登場したのは、
「おはつきぃ! らいばーほーむの騒音猫、猫夜はつきだぞ! よっろしくぅっ!」
『は、ひゃいっ! よ、よよっ、よろしくお願いしますっ……!』
らいばーほーむの騒音猫、猫夜はつきであった。
そんなはつきの相手は、どこかおどおどする中学生らしき少年である。
「おっと? はつきの声がうるさかったかな? ごめんねぇ! はつき、これがデフォルトなので!」
『あっ、い、いえっ、だ、大丈夫、です……』
「いやでも、無理は禁物だぞ! 嫌な時は嫌と言う! これが鉄則ぅ! じゃないと、自分が生きにくくなっちゃうからね!」
『あ、ありがとうございます……』
にっこにこでやたら元気なはつきとは対照的に、おどおどな男子中学生。
まさに正反対な二人。
『あ、あのっ、え、えとっ……い、いつも、お、応援、してますっ! だ、大好きですっ!』
「おーっ! それは嬉しいねぇ! ありがとう! やー、大好きかぁ! へへ、VTuberしてて、そうやって正面から言われると照れるし、すっごく嬉しくなるぞ! ありがとうね!」
『ひゃいっ』
「あっはっはー! 緊張しすぎだぞ! んで、君の名前はなんて言うのかな? 教えてもらえないと、折角こうしてサシで話してるのがもったいなくなっちゃうぞ!」
『と、遠山裕太って、言います……ちゅ、中学一年生です』
「おぉ! 中一! え、中一!? よく来れたねぇ!」
『その、運よく当たって……』
「ほほう! たしかに豪運! いやむしろ、子供だからこそ当たった可能性も……まあいいよねぇ! ちなみに、誰かと来たとか?」
『い、一応、お母さんと……当たったのは僕だけ、ですけど……』
「なるほどねぇ。一人で回るのって、大丈夫? 寂しくない?」
『あっ、い、いえっ、その、あっちこっち目移りしちゃって……すっごく楽しい、です』
「そっかそっかぁ! ならばよーしっ! やー、折角来たのに、一人じゃ寂しい! っていうんだったら、可哀そうだったからね! 楽しそうで何よりだぞ! うんうん!」
一人でも楽しく回れていると言う少年のファンの言葉を聞いて、はつきはうんうんと嬉しそうに頷く。
はつきは基本的に楽しいこと大好きなので、こういうお祭りイベントで寂しいのはご法度! とか思っているためでもある。
「なら、短い時間だけど、楽しんで行ってね! はつきは、全力で裕太君の話を受け止める所存ッッ!」
実にうるさい。
だが、これがいいというファンも多く存在しているし、何より見ていて気持ちのいいうるささでもあるので、着々とファンを獲得して行っているのである。
はつき自身、三期のみんなには負けるなぁ、とか思ってはいるものの、VTuberに限らず、配信者をしている者たちからすれば、いやお前も大概ペースおかしいから、と言うのがはつきである。
そもそも、既に50万を超えているライバーが何を言っているのだろうか。
尚、現時点で一番登録者がいないのがはつきだが、それでも60万弱なので、普通におかしい。
トップは言わずもがなの、どこかのお狐ロリ。
『あ、あの、じゃ、じゃあ……えと、き、聞いてみたいことが……』
「おっ! いいよいいよー! なんでも訊いて! はつきは、なんでも受け止めちゃーうぞ!」
『あ、ありがとうございます……じゃ、じゃあ、えと…………ど、どうやったら、はつきさんみたいに、いっぱいお話しできるようになりますかっ……!?』
はつきが二つ返事で了承すると、少年はきょろきょろと辺りを見回してから、意を決したように口を開いて、そんなことを訊いて来た。
どういうセリフが飛んでくるのかわくわくとしていたはつきは、少年ファンの質問を受けて、一瞬面食らう。
「んー? はつきみたいに?」
『は、はい……その、はつきさんって、すっごくお話しできるから……すごいなぁって思ってて……それに、僕、あがり症だし、人見知りだから……』
「あー、なるほどなるほど! つまり……はつきのような騒音人間になりたいと言うことだね!?」
『へ!? あっ、い、いえっ! そのっ、ふ、普通に、お、お話しできれば……』
「そっかー。それは残念……」
なぜ残念がるのだろうか。
さすがはらいばーほーむといったところだろう。
「まあいいや! それで、はつきみたいに? でいいんだよね?」
『は、はい』
「ん~、そうだねぇ……配信で言ったことあるかわからないけど、はつきが今のはつきになったのは、今までの経験なんだよね」
『経験……』
「そ! 経験! そりゃあ、最初は今みたいに騒音まき散らしてないからね! むしろ、ちょっと控えめな感じ! 具体的には、今の裕太君に近い!」
『そ、そうなん、ですか?』
「おうともさ! そうだねぇ……あ、あのっ、んっと……い、いっしょ、に……みたいな、こんな風に自分から遊びに誘うのも一苦労したくらいでね! やー! 最初は苦労したよね! だって、なっかなか友達が出来ないんだもん!」
あっはっは、と笑いながらそう語るはつきに、少年ファンは全くそうは見えないという表情を浮かべる。
「ん~、まあ、そりゃあ信じられないよねぇ。でも、これ事実! マジの話だぞ!」
『そ、それじゃあ、なんで、今みたいに……?』
「そんなの簡単! 殻を破った! 以上!」
『よ、よくわからないです……』
「うん、だよね! はつきもそう思う! むしろ、真面目に質問されたのに、そうやって返されたらはったおす自信がある! なので、ちょっと詳しく語ろっか」
『あ、はいっ』
「んーそうだねぇ……まず、はつきの家って、所謂転勤族って奴でねー。もうしょっちゅう転校してたんだよ」
『そ、そうだったんですか?』
「そ! それが高校まで続いたもんだから、はつきは一ヵ所に留まらない、風来坊みたいな感じになっちゃってね! まあ、それはいいんだけども。んでまあ、最初はおっどおどのおど子ちゃんでねー。すぐに友達はできなかったってもんです!」
『じゃ、じゃあ、その、学校は楽しくなかった、んですか……?』
「んや? まあ、あれだよね。某太陽神に出会っちゃってさ、こう、気合で何とかすれば何でもできるのか! って知っちゃったわけよこれが!」
『なる……ほど?』
まったくもってよくわからないはつきの話に、少年ファンは少し困惑気味。
だが、ちゃんと真剣に聞いている辺り、とても素直な少年なようである。
「とはいえ、人なんて早々変われるもんでもなし! 最初は空回りで、なかなか友達が出来なくてねぇ。で、結局できないまま転校なんてのもざらだったんだぞ」
『そう、なんですね』
「うん。そうなんだぞ。だから、はつきは学んだんだよ」
『何を、ですか?』
「もう失敗しても良くない? って」
『……?』
何を言ってるんだろう、と少年ファンは首を傾げた。
「いやほら、どうせ失敗しても、転勤で転校しちゃうんなら、その学校の子とはもう会わない可能性の方が高いじゃん? じゃあ、もう転校初日に当たって砕けろの精神で行けばよくない? って。それにはつき、新しい環境に行くのはなんだかんだ好きだったからね! そして! この考えが功を奏し、はつきは底抜けに明るい子供へと進化したってわけだぞ!」
にこぉっ! とやたらとうるさいテンションとうるさい笑顔と共に、そう言ったはつき。
なんというか、身振り手振りも割とうるさいので、本当にうるさい。
『そ、そう、なんですねっ! えと、す、すごいです!』
「お、おう、その、とりあえず、褒めました! みたいなのは、心に来るぞ……」
『あっ、す、すみませんっ……』
「いやいや気にしないでOK! むしろ、はつきが悪いしね! なので、ここからがアドバイス! いいかい? 裕太君! こういうのは、後のことを考えちゃだめだぞ!」
『後のことを……?』
「そうそう! だって、後のことを考えると、失敗したらどうしよう、とか、嫌われたらどうしよう、とか、そういうネガティブなことを考えちゃうからね」
『うっ……そう、です……』
「でもね、いつまでもそうやっていたら前には進めないんだぞ。むしろ、失敗しても仕方ない! って思うくらいがちょうどいいわけでね! というか、嫌われるってよっぽどのことをしない限り大丈夫だぞ」
『よっぽど……? 何かある、んですか?』
そのよっぽどがどういうものか気になり、少年ファンはそれについて尋ねると、はつきは少しだけ考えてから口を開く。
「ん~、いきなり呼び捨てとか、急に馴れ馴れしくしたりとか、教えられてないはずの連絡先に連絡するとか、こういうことをすると嫌われるぞ!」
『あ、当たり前、では……?』
「そう! 当たり前! いい所に気付いたね、裕太君! 君に100騒音ポイントを上げよう! そうだぞ! してはいけない当たり前と言うのを避ければ、まず嫌われることはないんだぞ! 初対面で!」
『なるほどっ……!』
などと言っているが、今し方はつきが挙げた例たちは、はつきが経験したことである。
はつき……というか、中の人である琴石寧々は普通に容姿が整っていたので、まあ、モテていたので。
しかも、社交性が高かったし、誰とでもすぐ仲良くなるので、転校しては人気者になり、転校する直前には告白ラッシュ、みたいなことがよく起こっていたのである。
その中に、連絡先云々のことがあったが……まあ、速攻ブロックして転校して行ったので、問題は0であった。
「あとは、身だしなみに気を付けるとか、普段から表情に気を付けるとか! 髪が長かったり、暗い表情を浮かべたりすると、マイナス点! なので、なるべく笑顔を心掛ける! それが難しいなら、鏡の前で練習するといいかも!」
『で、でも僕、あがり症で……』
「それなら、頭の中で楽しいことを思い浮かべるといいぞ!」
『楽しいこと、ですか……?』
「そ! 楽しいこと! 好きなゲームをプレイした時とか、マンガを読んだ時とか、某太陽神のカレンダーをめくる時とか、友達と遊んだ記憶とか! そういうのそういうの!」
『今、変な物がありませんでした……?』
「気のせい!」
はつきが出した例の中に混じる、明らかに変な物を聴きとった少年ファンは、控えめなツッコミを入れるが、はつきは笑顔でバッサリ。
「とまあ、そんな感じ! とはいえ、あくまでも一例だからね!」
『べ、勉強になり、ます……!』
「いやいや、それならよき! まあ、何事も小さな積み重ねが大事だからね! 是非とも頑張って!」
『は、はいっ! ありがとうございますっ!』
「なんのなんの!」
『あ、ち、ちなみに、はつきさんって、その、いつ頃、今みたいな感じに……?』
「ん? 年長!」
『え……』
「年少の時に初めて転園して、年中の時に友達が出来なくて悟って、年長で今みたいになったぞ!」
『え、えぇぇ!?』
「いやー、頑張ればできるもの! やはり太陽神は偉大だぞ! あ、今まで通ってきた小学校の子とは今でも連絡を取り合う人がいるくらいには続いているぞ!」
『や、やっぱり、はつきさん、すごい……!』
色々と勉強になったと思った少年ファンだったが、すぐにはつきが幼少期からの特殊な人間だったとわかり、さらに尊敬の眼差しを向けるのであった。
どこの世界に、速攻で転園後の悟りを開く幼稚園児がいると言うのか。
らいばーほーむのファンのみなさんは、おしゃべりコーナーを人生相談か何かだと勘違いしてはいないだろうか。
でも実際の所、こういう機会があったら訊いてみたくなると思うんですよね。
どうなんだろうか。
というわけで、明日の金曜日~日曜日で残るメンバー全員やるのでね! うん! お楽しみに!




