イベント1日目#おしゃべりコーナー:14 ひかりの場合:下
安心してください! 今回の狂気は薄いよ!
彼女にエロゲの存在がバレたリリスが最推しのファンやら、ラオウ系女子をキルした刀から移り、次に出て来たのは……
「どもどもー☆ みたまちゃんの永遠のお姉ちゃん、邪神だゾ☆」
邪神であった。
遂にはシスコンの部分を略し始めたので、こいつはもう人ではなく邪神なのだろう(人体構造は一応人間なのだが……)。
『……っ』
そんなシスコンと直接相対した男性はと言えば……
「おやおやー? なんで泣いてるのかな? あっ、もしかしてみたま教に入信で来たからかな!? いやぁ、嬉しいねぇ!」
シスコンを前にして泣いていた。
こう、卒業式で尊敬し、敬愛していた先輩がいなくなっていく時に俯いて男泣きする男子生徒のように。
『……俺の好きだったひかりんはもういないっ……』
そして、思っていたことをぶちまけた。
「おっとー? 突然の火の玉ストレート! あと、好きだった、は少なくとも本人の前で言う事じゃないと思うぜ☆ だがしかし! 私は許す! 問答無用で許すので、みたま教に入信しましょう」
『許されてねぇ……!』
こいつの頭の中どうかしてるんじゃないだろうか、と思う人は多いが、シスコンはそもそも、正気で狂気なのでどうあがいてもこれがデフォルトだし、異常は何一つもない。
「許してますが? みたま教に入信するだけで許されるし、幸せになれる。ほら、許されてる」
『やり口がカルト宗教と同じ手口やん……』
「あ? みたま教をそこらのテロリスト的カルト宗教と同じにしないで貰えます?」
『怖いよ!? ファン相手に、ガチトーンは怖いよ!?』
「おっといけないいけない、脅しをしてしまっては、みたま教の教義に背くことになっちゃうからね! ごめんごめん! まあでも、とりあえず、みたま教には入信しようね☆」
『強制なんですか……!?』
「え? そもそも、私のおしゃべりコーナーに来た時点で、ね?」
『実質ひかりんだけ外れでは……?』
「ぶっちゃけそう」
外れ呼ばわりされたのに、ひかりは特に気にした風もなく、むしろ笑顔で肯定した。
それでいいのかVTuber。
『本人が認めちゃうのそれ!?』
「いやだって、考えてもみよう? 絶対に私の配信を見るより、みたまちゃんの配信を見た方が有意義じゃない?」
『うわぁ……』
「おっと、ドン引き。まあいいけどね! あ、ところで君、名前は?」
『遠野大樹って言います』
「じゃ、大樹君だね。ところで君、私のことが好きだった、とか言ってたけど、今は違う感じかな?」
『……もちろん、今のひかりんも好きと言えば好きなんですけど……こう、八月下旬までの間のひかりんが好きだったと言うか……あの天真爛漫でふざけてて、いいことを言う時は言うけど、結局自分で台無しにする、みたいなあれが好きだったんです』
「おっと、古参ファン?」
『初期から応援してました』
どうやらこの男性ファンは初期からひかりを応援していた古参ファンだったようである。
たしかに、古参ファンならば、今のひかりはちょっとアレかもしれない……いやむしろ、古参ファンだからこそアレに思うのだろう。
「そっかそっか。なるほどねぇ。でも私、そんなに変わった?」
『え、気付いてない!?』
「いや、今まで通りだよ? 私。ほら、天真爛漫で、ふざけてて、いいことを言う時は言うけど、結局自分で台無しにする……今もしてることでは?」
『天真爛漫(狂気浸食)、ふざけてて(炎上すれすれの発言)、いいことを言う時は言う(結局みたまちゃんの話しで着地する上に狂気)、結局自分で台無しにする(隙あらばみたま教への入信を勧める)……こんな感じですが?』
「あっはっは! 君、ユーモアがあるねぇ! とはいえ、我が生涯におけるみたまちゃんと言う存在は、私が命を賭けてでも守護し、愛し、崇める存在だからね! 仕方ないね! シスコンだもの!」
『ひかりんにとってのみたまちゃんってなんなんですか?』
「私の人生」
男性ファンの問いかけに、ひかりは笑みを消して、真顔で即答した。
『おっっっっも……』
「いやでも、命の恩人だし。そりゃあ重くなるじゃん? ほら私、一時自殺考えるくらいにヤバかったときあるし? それをみたまちゃんに救われたら……ねぇ?」
『そういえばそうだった……』
シスコンの狂気指数が高すぎるせいで割と忘れられがちになっているが、シスコンがシスコンしているのは、単純にみたまが大好きだからだけではなく、実際に命を救われているからでもあるためだ。
それらについては配信で語られており、ファンたちもそりゃそうなるわ、と納得しているが……それ以上に、『やっぱこいつ、普通に人間じゃないだろ』とか思われているので、結局それらについて忘れられるのである。
まあ、邪神シスコンなので……。
「とはいえ、ん~……そうだなぁ。こうして前の方が好きだった、と古参ファンの方に言われると、ちょっと申し訳なく思っちゃうよね」
『あ、いえ、別にその、文句というわけでもないんですけど……』
「最初の頃の私かぁ……あれ、最初の頃の私ってどんな感じだったっけ?」
『えぇぇ?』
最初の頃の自分を思い出そうとしたら、なぜかどんな感じだったのかを忘れていたひかりに、男性ファンは困惑した声を漏らした。
「んー、んー……あ、ちょっと思い出した! たしかこう……こほんっ!」
そして、色々と考えこむ素振りを見せた後、ひかりは当時の自分を思い出してから咳ばらいを一つして……
「――はいはーい、こんひか! 今日はスマホやPCテレビではなく、直接私に来てくれてありがとね、大樹君! 天空ひかりだよ☆」
邪神ってない時の自分をトレースした。
『あっ、邪神に転生する前のひかりん……!?』
「あはは! 邪神なんて何言ってるのー、私は翼をもいで地上にやって来た、ごくごく普通の天使だよ☆」
『……そう言えば、そんな設定だったなぁ』
「おっとー? VTuberに設定は禁句だぞ☆ まあでも、この業界で設定をちゃんと守ってる人なんて、数えるほどしかいないから、あながち間違いじゃないよね☆」
『こ、これですこれっ……! 俺の好きだったひかりんの感じ……!』
「好きだった? 今も好きの間違いじゃないかな?」
『うっす! 大好きっす!』
「はいよーし☆ やっぱり人間素直が一番! 正直に気持ちを伝えることが正解じゃない場面もあるけど、でもやっぱりプラスの気持ちを伝えることは一番いいよね☆ 特に、家族や友人に感謝の気持ちを伝えるのはかなりいいこと!」
『あ、普通にいいこと言ってる……!』
「なので……私はこの心の中にあるみたまちゃんへの愛を常に発し続ける! だって、お姉ちゃんだから! みたまちゃん可愛いヤッタ―――――!」
『結局いつもの邪神じゃないかッ……!』
「失礼しました邪神が出てしまいました☆」
某放送事故のような訂正である。
「――ふぅ。こんな感じだったっけ?」
『え、もう終わり!?』
「あ、もしかしてあっちの方がよかった?」
『どう考えてもあっちの方がいいです……!』
「なるほどなるほど。大樹君の反応を見る限り、もしかして前の私を希望する人って多い感じ?」
『ファンの3割くらいは』
「結構いるねぇ」
どうやら、シスコンじゃない時の天空ひかりを求める人は無視できないくらいには多かったようだ。
「ん~、でもそっかぁ。今のを求める人もいるのか……それなら、今度あのテンションで配信でもやろうかな!」
『え、本当ですか!?』
「当然! 私はみたま教の教祖である前に、一人のVTuberだからね☆ 求める人がいるのならば、全力で答える所存! むしろ、人を楽しませてこそのVTuberだしね。あとはほら、ネタになる」
『まさか、配信でやってくれるなんて……!』
「ま、これも君のおかげだよ、大樹君! なので、劣化版天空ひかりが登場するのを待っててね☆」
『劣化版なの!?』
「今の私が最強形態だし」
『Oh……』
ひかりは、どこまで行っても、ひかりであった。
とまあ、古参ファンとのおしゃべりコーナーを終えて、邪神として狂気を振りまいていると、
「どうもー☆ みたまちゃんの永遠のお姉ちゃん! 邪神だよ☆」
『お前、遂に自分のVTuberとしての名前を捨てたのか……』
ひかりの大恩人で恩師な田崎星歌が邪神の名乗りに呆れ混じりのツッコミを入れていた。
「あれ? あ、先生! え、マジで先生?」
『あぁ、先生だな』
「あ、えーっと……私、不正とかしてないですからね!?」
まさかの自身の恩師が現れたと言う出来事にびっくりしたシスコンだったが、その直後に謎の弁明をしだした。
『突然どうした!?』
「いやだって、先生私が推しって言ってたし、まさか本当に当たるとは思ってなかったし……もしかすると、私が不正をしたと思って問い詰めに来たのかと……」
『しないが!? っていうか、お前が不正なんかするような性格じゃないことは理解してるんだよ。むしろ、お前そう言うの嫌いだろう』
「よくご存じで☆」
『あの時を経験してるからこその考えだし、そもそもあの時学園で一番お前と接していたのは私だからな。存じていて当然だろう』
「やっべぇ、先生がカッコ良すぎて、私本気で惚れちゃいますよ?」
『それはやめてくれ。お前の妹に向けられてる激重の愛を日常的に向けられるとか、罰ゲームだろう』
「先生、言葉って、時には相手の心に一生の深い傷を残すんですよ?」
『傷ついたのか?』
「そんなまさか☆ むしろここで、『惚れてくれていいぞ』なんて言われたら、ちょっと引いてました☆」
『お前はお前でかなり酷いことを言ってるな……』
「お互い様!」
『ははっ、それもそうだな』
軽口をたたき合って笑う二人。
普段のシスコンを見ているファンがこの光景を見たら、目を疑うを通り越して恐怖を覚えること間違いなしである。
尚、ひかり自身は軽くではあるものの、星歌のことを配信で触れている。
なので、ファンたちもそのそう言う人物がいることを知っているし、ひかり自身も『みたまちゃんと同レベルの恩人』とも明言している。
最初は、いい人がいたんだなぁと思ったファンたちだったが、ひかりの邪神化が進んでいくと、『あんなバケモンが未だに恩人って言うレベルって、実は相当の聖人でとんでもない人なのでは……?』という考えに変わっていたりする。
そして今では、バケモン以上のバケモン、とかいう共通認識だったり。
星歌に対する熱い風評被害なのだが……まあ、みたまへの完全耐性を持ってる時点で、化け物なのは間違いではないだろう。
『いやほんと、こうしてVTuberなお前を直接見るのは……変な感じだな』
「それを言うなら、高校時代の超恩師とこうして話してるのも変ですよ?」
『それはそうだ。……が、こうしてお前の仕事ぶりを見られて、私は満足だな。元気に生き生きとやってるようで何よりだ』
「でもこれ、私の三足の草鞋の内の一足ですが?」
『実際、お前的にはどれが本業なんだ?』
「ん~……全部本業!」
『欲張りな奴だなぁ』
ひかりの返答に、星歌は呆れたように笑いながら、実にこいつらしいと雰囲気で伝える。
それが伝わったひかりの方も、へっへーんと笑っていた。
「おっと、そうだった。先生」
『ん、なんだ?』
「先生も、みたま教に入信しませんか?」
『……お前絶対、私の前までのファンたちにもそれ言ってるだろう』
「当然ですが?」
『本当に、強くなったなぁっ……!』
ひかりはおしゃべりコーナーを、みたま教を布教する場所だと思い込んでいるようである。
何してんだお前。
「ちなみに、先生は私の大恩人なので、枢機卿に任命できます」
『いらないが!?』
「えっ!?」
『なんでそんなに驚く』
「いやだって、みたま教の枢機卿だよ!? みたま教の信徒たちからすれば、喉から手が出る程欲しい、役職ぞ!?」
『ちょっと待ってくれ。そもそもみたま教というのは、どれくらいの人数が入っているんだ……?』
「みたまちゃんのチャンネル登録者の9割はみたま教」
『もう終わりだろこの国』
星歌は、本気でそう思ったそうな……。
最終的に、星歌はちゃんと入信は拒否したし、恩人相手なのでひかりもすぐに引き下がった。
その後は、普通に雑談をして終了となるのだった。
……もっとも、ひかりは諦めていないようだが……。
はい、まさかのらいばーほーむ一ヤバイ人が二回目でしたぁ!
ルーレット全部回し終えて順番を知ってる私からすると、前半のルーレット神様は『ヤバい奴後ろに固めて狂気を振りまいたろwww』という邪神の類だったんですが、後半戦のルーレット神様は『癖ッ! 私の癖を優先させるッッ!! つまり、私の性癖が他の者たちを差し置いて優先されるのですッッッ!!!』という、自分の欲望に忠実な神様だと思います。多分折り返しに到達したら、なんとなく最後の順番がわかるかもしれませんね。
あと、個人的に思うんですけど……ぶっちゃけ、ひかりって現実だと割とこう、嫌われそうだよね。
どうなんだろう?




