閑話#29 商談してる社長
もはやジャンルが行方不明。
12月頭。
どこかの常識人枠だったツンデレなアレが完全にらいばーほーむった配信から数日のらいばーほーむの事務所にて。
その日、らいばーほーむの社長である桔梗は、とある企業との商談(?)をしていたのだが……
「というわけでして、以前から打診させていただいておりましたこちらのタイアップをお願いしたく」
「………………」
その内容を聴いてかなり絶句していた。
元々、タイアップをお願いしたいと言う打診はあったし、その中身自体についてもゲーム系である、とは言われていた。
だからきっと、オンラインゲームでのコラボとか、ソシャゲのコラボだろうと思っていたのだが……それらの斜め上どころか真上をカッ飛んで行くほどに、桔梗にとってとんでもない情報の核爆弾だった。
「……ふぅ。いや、待とうか。うん。ちょっと待とうか……あー、すまない。商談だと言うのに、口調がどうにも……えー、なので、本心から言わせてもらえば……マジ?」
「マジです」
「これ、本当に実現しちゃった感じ?」
「実現しちゃった感じです」
「……まぁじでぇ……?」
「まぁじでぇ、です」
「なるほど……ふむ。まあ、うん、とんでもない技術革新が起こったなぁと言うのは理解したし、これは確実に売れるとは思う。とはいえ、同時に間違いなくマイナスな意見も大量に出てくる気がしているんだが?」
「それは当然かと。新しい技術というのは、総じて賛否が分かれる物です。いや、むしろ分かれるどころか、否の方に傾くのが当然でしょう」
桔梗の指摘に、商談相手がそれを肯定しつつそう答える。
まあ、理解していないはずもないだろう、と桔梗は相手がその辺りもしっかり考えていることに感心しつつ、言葉を続ける。
「それを理解していながら……うちの事務所にタイアップを?」
マイナス意見が多いかもしれないとわかっていながら、人気がうなぎ登りになっている自分の事務所に、どうして案件を持って来たのか、桔梗はストレートに尋ねる。
桔梗は元々営業として働いていたが、ハッキリ言って腹の探り合いは苦手な部類だ。
むしろ、ドストレートに全てを伝えるタイプである。
とはいえ、営業はそれだけでできるものでもないので、ある程度は覚えたが……今回は自分が営業を受ける側ということもあり、割とドストレートにどういう考えを持ってここに来たのか、そしてどういう考えで自分の事務所にタイアップを申し出て来たのか、それを問う。
「はい。VTuberという存在は、今回のこの商品とは頗る相性がいいものですから。特に3DモデルがあるVTuberは特に」
「……あぁ、なるほど。たしかに、今回のこれの不完全版とも言うべきあれでも、モデルが使えたか。たしかに、流用が出来るのであればかなり大きいし、VTuberという存在がさらに身近な物になるだろうね。VirtualYoutuber、というより、VirtualIdol、かもしれないけどね」
「その通りです。今までは、ある意味映像の中だけの存在でしたが、これからはその縛りが消えると言えます」
「たしかに、VTuberでは不可能なあれこれが実現可能になる、か……たしかに、こちらとしても利益は大きそうだ。いやむしろ、最初にできたとあれば、他よりも先んじて利益を得られるだろうな」
話しながら、桔梗は持ちかけられた話の内容に、どのような形で利益が出て、同時にどれだけの利益が得られるのかを軽く計算する。
(計算するまでもない、か。こんなもの、経営素人でも目に見えてわかる商機。だが同時に、博打でもある……一つ訊いてみるか)
「ところで、鳳さん。これはについてのテストは? それから、その結果についてのデータはあるのかな?」
「もちろんです。こちらが、テスト結果のデータです。こちらですが、我が社と提携しております企業にテストを依頼しております。第三者によるテストによるデータです」
待ってました、とでも言わんばかりの様子に、桔梗は小さく笑みを浮かべながら、受け取った資料に目を通す。
(ふむ? なるほど、これはかなり高評価……だが同時に、懸念点の記載もある。いいデータしか書かないというようであれば、かなり難しかったが、こうして懸念点についての記載もある、と。やはり、新技術というだけあって、かなり誠実に、且つ慎重になっているのだろう。私は好きだね、こういう営業は)
いい所だけを告げて、成績を上げようとする者が前の会社にはいたな、と桔梗は心の中で苦笑いを零す。
まあ、別に人のやり方を否定するつもりもないが、場合によっては不誠実になりかねない行為だろうからなぁ、とも思う。
とはいえ、その懸念点を潰すようにするのも必要なのだが。
「この懸念点についてはどう思っているのかな?」
「現在は、長時間の使用を行った場合、3時間で警告が出るようになります。あとは、仮に子供が使用する場合は、スマホである程度の遠隔操作機能を備えたアプリを同梱。それらを用いて、時間に制限を掛けたり、時間帯による使用不可なども設定できるようにしております」
「なるほどね。しかし、警告は出しても、無視して続ける人もいると思うが?」
「それは当然でしょう。しかし、まだテスターの方々や社内の一部の者からの声を聴いただけで、まだまだデータとしては完璧ではありません。もちろん、安全性については何度も何度も確認しております。現状、体調不良を訴える者は誰一人としておりません」
「なるほどね。まあ、最初なんてそんな物だろう。私からすれば、子供はともかく、大人は自己責任、で片付けることもできる。まあ、だからと言って、開発側が手を抜いていい言い訳にはならない。その辺りは、ユーザーからの声を聴いて、改善点を見つけ、改善していくということでいいのかな?」
「その通りです」
「なるほど」
子供の責任は結果として大人の責任ではある。
故に、自己責任が伴うし、自分でしでかしたことの尻拭いは自分でしなければいけない、それが大人だと桔梗は思っている。
(データに記載された懸念点自体も、最初から改善できるわけではないことは理解していて、トライアル&エラーで改善する、と。まあ、これほどの技術だし、最初から懸念点は潰せないか。むしろ、この資料からはやる気と熱意の量が半端じゃない。ふぅむ)
「では最後。どうして、私の事務所に打診を? それとも、他の事務所にも打診を出しているのかな?」
「その質問に対する答えとしましては……らいばーほーむの皆様の相性が良さそうでしたので。それから、たしかに他の事務所にもある程度の打診をしておりますが……如何せん、新技術で、まだ世間にも発表されていない、テストしたのは少数と言わざるを得ない人数。あまり色よい返事は貰えておらず」
「そうなのか……まあ、そんなことをしなくても売れているからね。もしや、相手はアイドル売りをしている企業かな?」
「その通りです」
「なるほどね。概ね、何か事故が起こった時のことを考えて安全策を取ったか、単純に信用しきれないから受けられない、と言ったところかな?」
「はい」
(それはそうだろうね)
資料を見つつ、桔梗は苦笑いを零す。
むしろ、経営者としてはある意味正しい。
よくわからない技術のタイアップをさせて、何か起こりました、では取り返しのつかない事態に陥るからだ。
それに、ライバーたちの中にも忌避感に似た感情をいだく者もいるはずだと、桔梗は予想する。
じゃあ、らいばーほーむはどうかと言えば……
(……全員、ノリ気になりそうなんだよな……。特に、うさぎ君辺りが顕著。あとは、男性ライバーの二人に……デレーナ君にはつき君、あとはいるか君もかな? 他の面子は未知数だが、まあ食わず嫌いにはならなさそうだ。強いて言えば、ひかり君が心配なくらいで……まあ、自分で実験して安全を保障してみたま君を、とかやるだろうけど。うん、我ながら頭のおかしい者を集めたと思うよ、本当に)
絶対にノリノリになるであろうことは明白だった。
特に一部が。
「それで、いかがでしょうか? こちら、お受けしていただくことは……」
「そうだね……これ、安全マージンはしっかりしているんだよね?」
「それはもちろんです。サポート体制も整っております」
「これ、内側から配信はできるのかい?」
「そちらについてももちろんです。もとより、動画投稿サイトとも提携して技術開発を行いましたので」
「なるほど? ふむふむ、それはそれは……」
ここまで聞いて、桔梗の中では断る、という選択肢はほぼ消えていた。
たしかに、こんな未知の物に大事なライバーたちを関わらせることにはなるし、下手したら大惨事になる可能性もある。
だが、それ以上に興味もあった。
同時に、先頭を突っ走らせるの、楽しそうだな、と。
「それじゃあ、最後に一つ訊こうか。らいばーほーむは好きかな?」
「……え?」
「だから、らいばーほーむは好きかな? あぁ、正直に言って欲しい。嫌いでもいいし、好きでもいい。どちらでもないでもいい」
「あ、はい。それでしたら……大好きです!」
「ほほう?」
「実は私自身、らいばーほーむが始まった時から見ておりまして」
「もしや古参ファン?」
「はい。最初の頃から比べて、今はエンジンがフルスロットルどころか、ターボジェットを付けたくらいの暴走具合で、見ていてとても笑えますし、何より元気が貰えます。個人としては、今回の商談では一番の本命のつもりで臨んでおりました」
「ふむふむ! ちなみに、推しは?」
まさかの古参ファンということもあり、桔梗はすっごい嬉しくなった。その嬉しさを隠せず、笑みを浮かべながら推しは誰かと問いかける。
「箱推し、というのが基本ですが……強いて言えば、天空ひかりですね。カップリングであれば、ロリピュアも好きです! もちろん、男性二人についても!」
「うん、いいね! その提案を受けよう!」
「は? よ、よろしいのですか!?」
「もちろんだとも! らいばーほーむ好きに悪い人はいない! 私の持論だ。それに、こんな面白そうな企画に、先んじて突っ込めるのだろう? そこが素晴らしい。むしろ、断った企業達に対して『こっちは大成功したけどぉ? NDK? NDK?』ってしたくもある」
「あ、ありがとうございます!」
「あとはまあ、もう一つ理由があるとすれば……」
「すれば?」
「画面の向こうの推しと触れ合える機会が出来るとか、最高過ぎない?」
「激同」
「ほう、君とは語り合えそうだ。どうだい? この後私の行きつけの店で一杯」
「是非に」
ニヤリと笑って、二人がガシィ! と握手をし、商談は成立した。
そして、この一件が世間どころか世界を騒がせるのは……約三週間ほど先の出来事である。
はい、察しの言い方は気付くであろう何かです。
まあ、どこかの回のあとがきで、同じ技術革新が起きると明言してましたしね! 憶えてる人、いないと思うけど!
ちなみに、開発者の中にどっかの世界のヤバイ学園長的な人がいたとかいないとか。
まあ、割と序盤の方でやりたいなぁ、このネタ、とか思いながら書いてたしね。我慢できんかった。




