閑話#28 選考の裏側
我慢できなかった! あとがきに、ちょっとだけ四期生のヒント!
「なんというか……今年はいい年末になりそうな気がしてならないね」
らいばーほーむ事務所、その会議室にて、各期のマネージャーたちと社長などが集まって話をしている中、社長である雲切桔梗がそう切り出した。
「突発的且つ、短い期間のオーディションでしたが、相当数の応募者が来ましたからね」
「いやー、二次オーディションに進むだけあって、曲者ぞろいでしたねぇ」
「先輩、オーディションに来た人に対してかける言葉じゃない気がするんですが」
「まあ、いいとは思うよ。私としても、素晴らしい逸材とも会えたしね」
「うちのたつなが捕まえてきた、若い燕ですか?」
「その言い方だと、春風たつなが例の彼を捕まえようとしてるみたいじゃないか?」
「天空ひかり曰く、『まあ、お互い好みっぽいし、可能性はなくはないよね』とのことですが」
「ほほう? それはまた……まあ、彼はとてもよかったね。そもそも、神薙みたまへの完全耐性を持っている上に、ツッコミ気質。ならば、きっと素晴らしい苦労人且つ常識人として活躍してくれるだろう……あと、全員コラボの時に神薙みたまだけが立っていて、他が地に沈む、などということもなくなるというもの」
桔梗にとって、そこはかなり嬉しいポイントである。
そして、例の彼とも言うべき人物を頭の中に浮かべつつ、この場にいる者たちは例の彼がやってきた二次オーディションのことを思い返す。
◇
「71番の方どうぞ」
ほぼほぼ女性しかいない光景に、柊はどこか落ち着かない気持ちで呼ばれるまで待っていた。
そうして、ようやく呼ばれるなり、柊は立ち上がると軽くノックして入っていいと言われてから中へ入る。
「失礼します」
既に大手事務所とも言うべき事務所へと成長したらいばーほーむオーディションに着ていることに対し、柊は結構緊張していた。
一応、内定枠とは事前に言われてはいるものの、それはそれとして面接というのは緊張するものなのだ。
「あぁ、来たね。座っていいよ」
「失礼します」
「さて、私としては君の情報は既に天空ひかりや、神薙みたまの応募書類として提出された実況動画である程度知っているが……一応自己紹介をお願いできるかな?」
「高宮柊です。ご存じの通り、三期生の神薙みたまとは幼馴染で親友の関係です」
「うん、簡潔だね。それじゃあ、なぜうちの事務所に入ろうと思ったのかな?」
「……一つの理由としては、あまりにも、幼馴染が心配だからでしょうか」
「ほほう?」
「いつかとんでもない発言をして身バレするんじゃないか、と正直気が気でないんですよ。普段の生活でも、自分ともう一人がフォローに回ってる形で。まあ、クラスメートにはバレましたが」
「なるほどなるほど? それでは、別の理由は何かな?」
「あー……」
理由を尋ねられ、椎菜が心配である、という理由を話した柊だったが、別の理由があるだろう? と言外に言われ、柊は一瞬天を仰いだものの、正直に話すことにする。
「まあなんと言うか……春風たつなさんが、やたら強く勧誘して来た、というのも理由ではあります」
「ふむ?」
「いつの間にか愛菜さん経由で連絡先を入手したようで、自分の所に連絡が着ていたんですが……その内容が、切羽詰まっていると言うか、絶対に逃がさんぞぉ……という、意地でも自分を逃がそうとしない意思を強く感じまして。あ、これ逃げられない奴だ、と思ったし、何より幼馴染が心配でもありました。あとは単純に興味もありましたから、ライバーとして」
「なるほどね……では最後にテストをしようか」
「は? テスト、ですか?」
え、なにも聞かされてないんだが? と、突然テストをすると言われた柊は、思わず呆けた表情を浮かべる。
というか、既にオーディション自体がテストな気もするんだが……とも思う。
そんな柊をよそに、目の前の担当官たちはなぜかなぜかヘッドホンを着けていた。
一体何が……と思う柊だったが、すぐにその答えはわかった。
『柊おにぃたま、オーディション頑張ってねっ! ……ふぇぇぇ!? やっぱりこれすっごく恥ずかしいよぉ~~~!? 柊君相手に言うのは恥ずかしすぎるよぉ~~~~っ!』
「ぶふっ!」
突然流れて来た、明らかにこの瞬間のためだけに録音したらしき、自身の幼馴染であり親友の声が流れて来て、柊は噴き出す!
というか、何してるんだ椎菜は!? と、心の中でツッコミを入れる!
「いや驚いた。春風たつなや天空ひかりからも聞いていはいたが、本当に鼻血も吐血もしないようだね」
「まあ、男の頃を知ってるので……」
「いくら男の頃を知ってるとは言っても、元があれだぞ? なるべくしてなった、みたいなビジュアルだが?」
「さすがに親友として、女扱いをするわけにはいかないので」
「なるほど……よし、合格! まあ、もとより君はらいばーほーむに強制的に入らされていたが、合格だ!」
「今不穏なこと言ってませんでしたか!?」
強制的に入らされていた、というセリフに柊は思わずツッコミを入れていた。
「はは! 気のせいだ」
「絶対に気のせいで片付けていい内容じゃないと思うんですが!」
「ふむ、なかなかにいいツッコミだ。さすが、春風たつなが連れてくるだけある……これならば、まだ見ぬ他の四期生たちのいいツッコミ役になってくれることだろう!」
ははは! と笑う桔梗は、確信した。
絶対にたつなと同じような感じになると。
苦労人はいくらいてもいい! らいばーほーむならば尚更ァ! と。
「さて、元より君は内定枠として決まっていたわけだが……実は君がやることになるVTuberとしての設定は既に案があってね」
「早くないですか……?」
「こっちとしては、常識人枠と男性枠が早々に決まったことが大変ありがたくてね。知っているだろう? うちの男組は」
「あぁ、まあ……それはもちろん」
「少なくとも、彼らのように恋愛面に興味ないぜ! という感じでなければ我が事務所に入るのは難しい。その点、君はならばそう言う目的じゃないだろう?」
「それはもちろん」
「故に、さっさと決めようと思ったわけだ」
「すみません、話が全く繋がってないんですが」
「気にした負けだ」
「むしろ気にしなければ勝てないと思います」
「いい切り返しだ。さて……君のVTuberとしての案だが――」
そこからは柊とVTuberとしての軽い話をして、柊の二次オーディションとは名ばかりの、ただの事前確認が終わった。
◇
「彼はいいね。すごくいい。らいばーほーむの男性組という、ツッコミ不在の中に入れればとてもいいバランスになる。そう思わないか?」
「そうですね。うちの宮剣刀はボケですから」
「詩与太暁もですねー」
「私の所は、そもそも男性(笑)みたいな感じですが」
「TS病を発症させただけで、中身は男……男? だからね、一応彼も男性組だ。そもそも、ハロウィンの時に男性組で配信もしていたからね」
桔梗はしっかり各ライバーのことをしっかり考えており、当然男から女になった椎菜のことはちゃんと男として見ている。
精神的には男なので。
とはいえ、あまりにも可愛すぎるので、普通に死ぬのだが。
「彼のライバーとしてのデザインは既に依頼済みだ。きっと、いいデザインになることだろう。……さて、今回は残る二人を決めるオーディションだったわけだが……私としてはあの二人を入れてもいいと考えている」
「「「あれは納得のらいばーほーむ」」」
桔梗が入れてもいいと考えている二人について言うと、マネージャーたちはあれはらいばーほーむだわ、と謎に納得していた。
実は今回のオーディションは最初はかなり難航していたのだ。
もとよりらいばーほーむは、頭のおかしい奴らの巣窟であり、全員が何らかの個性を持っている。
むしろ、強い個性が無ければ生き残れないのがらいばーほーむだ。
ちやほやされたいだけの者など、入れるに値しないのだ。
というか、一次オーディションの書類選考時点で、明らかにそう言う目的の者もいた。
簡単に言えば、有名なりたいとか、らいばーほーむに入れば人気になれる、とか、まあ、そんな決して悪い気持ちではないがらいばーほーむとしては求めている人材ではない者たちだ。
なので、そう言う者たちは速攻で書類選考で落とされる。
だからと言って、奇をてらった書類にすればいいわけでもないのだが。
たまーに、養殖typeもいたのだが、やはり天然の狂人たちを見て来た者たちからは速攻で落とされていたり。
ちょっと狂人を装う程度じゃらいばーほーむには入れないのだ。
あとはまあ、仮に上手く狂人キャラが作れたとしても、いつかは疲弊して引退、なんてことになる可能性もある。
そしてなんだかんだで、単純にらいばーほーむに求めるライバーじゃない、というのが大きい。
人数が多くても、なんだかんだ理想と合致するのは数が少ないのだ。
実際、応募総数が一万近くは行ったものの、最終的に二次オーディションに進んだのはほんの一握りだ。
数にすると、100人ちょっと程度だろうか。
もちろん、日数が少ないからと手を抜いたわけでもない。
むしろ、嬉々としてスタッフたちは選考をしていたし、なんだったら事務所に泊まってまで選考をしている者の方が多かったほどだ。
ちなみに、桔梗は会社に寝泊まりしていた。
さて、そんなある種理想が高いとも言えるらいばーほーむの社長だけでなくマネージャーたちもらいばーほーむと思わされる者たちがどんな感じだったかと言えば……。
「あの感じは良かったですね。まだうちにはいないタイプで、しかも三期生推し。まあ、その相手は神薙みたまでしたが」
「もう一人は箱推しでしたねー。まあでもやっぱり神薙みたまが一番っぽかったですが」
「入ってからたったの二ヶ月ちょっとでらいばーほーむトップの登録者数になりましたからね。私としても、本当に信じられない思いです」
「まあ、神薙みたまの可愛さをもってすれば当然とも言えよう。あと、天空ひかりや雪ふゆりなんかもだろうね。……いやしかし、あの二人のキャラはよかった。では、あの二人を入れる、ということでいいかな?」
「「「異議なし」」」
「よし、では合格通知を明日までに出しておくように、採用担当のスタッフに伝えておいてくれ……って、あぁ、彼らは全員死んでいたか」
本来ならば、会議に参加しろよ、とか思うのかもしれないが、現在採用スタッフたちは応募&選考開始からずっと働きづめだったこともあり、現在は夢の世界へ旅立っている。
やり遂げたぜ、というそれはもう達成感に満ち満ちた表情で今はベッドの上だ。
ちなみに、オーディションが終わってから既に二日が経過しているが、未だに起きる気配がない辺り、相当なデスマーチだった模様。
まあ、らいばーほーむに入社するような者たちは全員頭がおかしいのだが。
残業代はもちろん出るが限度と言うものがある。
だから社員たちは思った。
『じゃあ、サービス残業すればいいじゃん』
と。
つまり、残業しても平気な時間まで残業代が出る残業をするが、それ以上は自ら進んでサービス残業をしていたのだ。
ブラック企業みたいだが、らいばーほーむの場合は愛しかないので、ブラックだとは当人たちは思ってない。
むしろ、嬉々としてデスマーチに身を投じるくらいだ。
「なら、間宮君、代わりに頼めるかな? テンプレート自体はあるから、それを使ってくれればいい。もちろん、マニュアルもある」
「わかりました。やっておきましょう」
「ありがとう。さて、と。問題はあの二人のキャラのデザイン関係だが……何か案はあるかな?」
「現状、明確に決まってる二人は神薙みたま関係のキャラ設定になりますからねー。というか、全員神薙みたま関係になりそうな気もするんですけど」
二期生のマネージャーである、葛城がそう言うと、その場にいる全員はたしかに、と思った。
「まあでも、箱推ししてるっぽいあちらの方は、こう、従者のようなキャラ設定でいいのでは?」
「ふむ、いいね。話し方からして、かなり物腰の柔らかい人物でもあったし、何より使い古されたキャラ設定であっても、うちならばきっと頭のおかしいことをしてくれるだろう」
「いいですね。では、先に名前を決めるのもありでは?」
「ふむ、キャラの方向性を決める上では、たしかにありだろう……では、まずは名前を考えるとしようか」
というわけで、名前決めが始まった。
あーでもない、こーでもない、と名前の案を出しては白熱し、その結果、ようやく名前が決まる。
「では、各四期生のライバーの名前はこれで行こう」
桔梗がホワイトボードに名前を書き込み、どこか自信の満ちた声でそう言った。
そこには、
『夜久嬢かざり』
『弩めい』
『神薙いなり』
『凪神司』
と書かれていた。
「では、キャラ設定を詰めて行こうか!」
名前が決まった後は、設定作りに精を出し……そして、全員徹夜コースになるのであった。
本当は、もうちょい先の所で出す予定だった四期生のみなさんの名前ですが、私が我慢できませんでした。まあ、いいかなって。
まあ折角なので、名前からどういうキャラなのか想像してみてね! 一番簡単なのは、まあ、後ろ二人だよね、これ。実は明らかに柊の名義だろって名前本当は『宮神司』にしようとしましたが、『宮剣刀』で既に宮を使った後だったことに気付き、泣く泣く変更しました。くそぅ。
それから、まだ見ぬ四期生二人がどういうことをオーディションでしたかについて、以下の通り。
・とある人物の素晴らしさを熱く語りました。ざっと一時間くらい。しかも、なぜかパワポで資料まで作成してきたうえに、めっちゃ細かいデータを作って来た。もっと言えば、あまりにも細部まで知り過ぎていて、いっそ清々しかった。担当官たちは、「あ、シスコンみたい」とか思ったらしい。
・いかにらいばーほーむが素晴らしいか、そして推しているか、ということを丁寧な口調でつらつらと言った挙句、その途中で、「あ、みk――神薙みたまの配信を拝見しなければ!」とか言って、どこからともなくスマホを取り出してオーディションの担当官たちと一緒に配信を見て鼻血を出しました。で、最後には握手をして帰っていきました。
うん、らいばーほーむだね!




