#112 借り物・借り人競争、ある意味お約束
「あ、次は借り物・借り人競争だね」
「ん、なら、俺と朝霧か」
「二人とも、頑張ってね~」
愛菜さんがすごい走りを見せて、ぶっちぎりで1位を取った後、椎菜ちゃんの膝枕で昇天していた。
うーん、さすが愛菜さん!
そんなこんなで、生徒側の午後の最初の種目は借り物・借り人競争。
姫月学園の借り物・借り人競争は、場合によっては理不尽な物もあるけど、結構盛り上がるので人気。
見てる方はね!
「じゃ、高宮君行こ!」
「あぁ。それじゃ、俺たちは行って来るな」
「うん! 頑張って!」
椎菜ちゃんの応援、やっぱりいいものです。
とまあ、椎菜ちゃんの応援を受けつつ、あたしたちは選手が集まる場所へ移動。
おー、やっぱり楽しみな人が多いのか賑わってるねぇ。
「ねぇ、高宮君。とんでもないお題が出てきたらどうする?」
「どうするって言われてもな……まあ、あまりにも無茶なお題だったら、お題を辞退して、筋トレで済ませることもできるが」
「バービー10回3セットと、腕立て10回、スクワット20回っていう、普通にキツイ奴だけどねー」
「まあ、普通はキツイよな」
「あれ? 高宮君はきつくないの?」
「あー……正直、愛菜さんに鍛えられてるから、それくらいならそこまで……あと、やれって言われて自主的に毎日筋トレしてるんだよ」
「なるほどー。愛菜さんの修業そんなにきついんだ」
「死ぬ」
「お、おおう、たったの二文字で言い表せられるレベルとは……」
愛菜さんの修業、本当にきついんだねぇ……。
あたしは絶対に無理だなぁ。
うん、無理。
だって、スウェーデンリレーの時の高宮君、普通にすごかったしね。
そう言えば、動きが愛菜さんそっくりだったなぁ。
本当に教えてもらってるんだろうね。
うんうん、何かの主人公みたい。
「まあ、普通のものであることを願うよ。……この学園じゃ、早々ないだろうがな」
「だねー」
うーん、まともな物だといいなー。
でも、姫月学園だからねぇ。
たまにとんでもないお題が来ることもあるみたいだし。
去年は確か……あー、小型冷蔵庫とかあったっけ。
本当に持って来てた人とかいたけど。
他にも変なお題が多かったなー。
でも、それ含めての人気種目ではあるし、うん、楽しまないとね!
『えー、それでは、選手のみなさんが集まったようですので、借り物・借り人競争を始めましょう! はい、ルール説明です! ルールは至ってシンプル! スタート地点からまず150メートル走ってもらうと、お題ボックスが置かれております。その中から無造作に紙を一枚取っていただき、そのお題に合わせた人、もしくは物を取って来てもらいます! 判定はゴール地点にいる先生がOKを出せばゴールとなります! 以上! ちなみに、これ絶対無理ィ! っていうようなお題の場合は、バービー10回3セット、腕立て10回、スクワット20回で許されるので、それでゴールしてもOKです! さぁさぁ、早速始めていきましょう!』
やー、あたしにはどんなお題が来るのかなー。
いいお題だといいけど
「それじゃあ、今からグループ分けを発表するので、各自準備をするように」
と、先生がそう切り出してからグループが発表されました。
あたしは三番目、高宮君は四番目。
うーん、連続!
「まあ、同じにならなかっただけよしとするか」
「だねー。でも、いいお題を引かないと地獄だねぇ」
「そうだな……できることなら、楽なお題にしたいところだ」
なんて、二人で順番が来るまで話していると、早速競技が開始。
「バイク用のヘルメット? なんでヘルメット!? ってか、バイクで来る奴いるの!?」
「実家が神職系の人。無理ゲーすぎない!?」
「巫女……いやばかじゃねーの!?」
おおう、本当に酷いお題が色々と……。
中には、恋人がいる異性とか、握力60キロの人とか、そう言うのもあった。
まだ比較的マシなのがなんとも……。
そんなこんなで、あたしの出場するレースに。
「頑張れよ、朝霧」
「もちろん! やるからには1位かな!」
「そうだな」
よーし、頑張っちゃうぞー!
「位置について、よーい」
パァン! と言う破裂音と共に走り出した。
あたしは運動は学園じゃ中の上くらいだけど、他の選手を見てるとあまり得意じゃなそうな人たちもいるみたい。
まあ、運動が苦手でも勝てる可能性がある種目だからね。
というより運要素が強い種目でもあるよね、これ。
幸いというか、あたしは二番目にお題ボックスに到着。
さて、お題は……これ!
箱の中に入ってる紙を一枚、無造作につかんで引き出すと……。
「……小さいのに、大きい人?」
何その矛盾したお題……。
でも、なるほど……うーん、小さいのに大きい人……小さいのに大きい人……あっ!
お題にぴったりな人、いる!
うん、じゃあ早速行こう!
目的の人物を頭の中に思い浮かべると、あたしは早速その人がいる場所へ走った。
「椎菜ちゃん! 一緒に来てくれる!?」
「ふぇ? 僕? うん、いいよ!」
というわけで、あたしは椎菜ちゃんを連れていくことに。
ふふ、小さくて大きいからね、椎菜ちゃんは!
「せんせー! 連れてきましたー!」
ゴール地点にいる、先生の元へ。
「よし、じゃあ、お題の紙を渡してくれ」
「どぞ!」
「なるほど、こういうお題か……で、連れて来たのは……あー、なるほど、桜木か。教師として、このお題はなんかこう、アレな感じもするが、まあお題には沿ってるからいいだろう」
「やったぜ!」
『おーっと、第3レース、早速ゴール者が出ました―――! っていうか早! まだ始まってからそんなに時間が経ってないんですけどねぇ!』
「いえーい!」
「ねえ、麗奈ちゃん。お題って何だったの?」
「んー? 小さくて大きい人」
「ふぇ? 小さくて、大きい人……?」
「そうそう、小さくて大きい人」
「……んっと、僕は確かに小さいけど……大きい?」
「うん、大きいよね、椎菜ちゃん」
「えーっと?」
「胸」
「……あっ」
うんうんと首を傾げる椎菜ちゃんに、あたしは大きい部分を告げた。
すると、みるみるうちに顔が赤くなっていった。
うん、可愛いね!
「あぅぅ~~……や、やっぱり、大きいの……?」
「そりゃもう大きい」
「うぅ……なんでこうなったんだろう?」
「遺伝とか?」
「……だよね」
初めて椎菜ちゃんのお母さんに会ったけど、たしかにあれは椎菜ちゃんのお母さんだと思わされたなぁ。
身長は前の椎菜ちゃんとどっこいどっこいだったけど、胸のサイズは確かに今の椎菜ちゃんと同じくらいだったし。
うぅむ、あたしも平均以上にあるなー、とは思ってたけど、遺伝なんだろうねぇ。
とはいえ、TS病について詳しいことをあたしは知らないから、なんとも言えないけどねー。
「じゃ、じゃあ、僕は戻るね」
「うん、ありがとねー!」
「じゃあ、柊君に頑張ってねって言っておいてもらえる?」
「もち!」
というわけで、椎菜ちゃんと別れて、あたしは高宮君のいる所に戻った。
◇
「頑張ってだってー」
「戻ってきて早々、最初のセリフがそれなのか……」
あっさり1位を勝ち取って来た朝霧が戻ってくるなり、椎菜の伝言であろう言葉を俺に投げて来た。
「まあね」
「それで、朝霧のお題はなんだったんだ? 椎菜を連れて行ったみたいだが?」
「小さくて大きい人」
「……なんだ、その矛盾しかないお題は」
「んー、椎菜ちゃんなら当てはまってたから」
「……あー、なるほどな。背は低いが、体の一部分が大きい、ということか」
「そこで安易に胸、と言わない辺りに、高宮君のイケメンレベルが伺えるねぇ」
「イケメンレベルという言葉、最近流行ってるのか?」
「どうだろねー」
むしろ、流行っていたらいたで、地味に嫌なんだが……。
というか、本当にイケメンレベルってなんだ。
「ともあれ、運が良ければあたしみたいな簡単なお題かもしれないし! きっと高宮君なら大丈夫!」
「いや、朝霧のお題も普通に難しいレベルだと思うんだが……」
たまたま、俺たちが椎菜という反則存在と仲が良かったからすぐに終わったわけでな。
普通は難しいお題なのは間違いない。
「っと、それじゃあ俺もそろそろ行って来るか」
「頑張ってねー」
「あぁ」
できることなら、簡単なお題だと助かるんだが……。
◇
そう思っていた俺だったが、俺の願いはある意味最悪の形で実現することになってしまった。
「バカ野郎ッ……!」
第4レースが始まり、三番目くらいに目的地に到着。
そうして、無造作に紙を一枚取ったのだが……。
『初恋の人 ※いなかったら、筋トレでOK』
そこにはこう書かれていた。
……死ねと!? 俺に死ねというのか!?
初恋の人って……いやこれどうあがいても一択しかないんだが!?
クソッ、なまじ簡単なお題なのが恨めしい!
だがあくまでも、傍から見たら簡単なだけであって、このお題を引いた人の気持ちを考えたら、全然簡単でも何でもない!
むしろ、俺の精神的ライフがゴリゴリ削れていくタイプの!
俺の初恋の人とか……椎菜だぞ!?
あの時のことは今でも色々思うところがあると言うのに、よりにもよってこんなお題とか……まあ、椎菜は気にしないでいいよ~、なんて言ってくれてるが、今にして思えば、同性に恋をした、ということになるわけだ。
まあ、別にそういう人たちを否定するつもりはないのだが、まさか初恋が同学年の、しかも元男の娘相手だからなぁ…………椎菜なら仕方がない、という感想も抱くが。というか、九割がそれだ。
だが、だがしかしっ……!
これはもう、俺の黒歴史とも言うべきものを暴露せざるを得ないわけだ。
「はぁ……仕方ないか」
筋トレをしてもいいが、こうも人が多い中黙々と筋トレをするというのも、あまり気持ちのいいものじゃないしな。
俺は色々と諦めると、重い足取りで椎菜の所へ向かった。
「……というわけで、椎菜、一緒に来てくれ」
「ふぇ? 柊君も? いいよ~。でも、どうしてそんなに苦い顔なの?」
「……気に、するなっっ……!」
「そう?」
きょとんとする椎菜を連れてゴール地点へ。
「……というわけで、お題です」
「なんだ、また二年一組が最初か。で、お題は………………高宮、お前」
「言わないで、くださいっ……!」
「なるほどなぁ……ちなみに、いつの話?」
「……小一です。モテてたんです、男女問わず……まあ、それがきっかけで親友になったんですが」
「なるほどなぁ。教師側でも、欠点が少なすぎて少し心配されていた高宮にも、そういうのがあるんだなぁ」
「俺、そんな心配されてたんですか」
「まあな。なんせ高宮お前、人付き合いが上手いし、何より気配りもでき過ぎだ。人の機微に敏いんだろうな、だから心配されてたわけだが」
「マジですか……」
「マジだ。ともあれ、条件は満たしてるんでOKとしよう。ほいゴールな」
『おーーーっと! またして二年一組の生徒が真っ先にゴール! 今の所圧勝しまくっております! というか、また同じ人が連れてかれてますが、一体どんなお題だったんでしょうかねぇ!』
「勘弁してくれ……」
俺のお題とか、いろんな意味で見せられないよ……。
特に、クラスメートには。
「ねえ、柊君。お題って何だったの?」
……そりゃ訊かれるよなぁ。
「……初恋の人だよ」
「ふぇ? 初恋……あっ! あの時の! あはは、柊君まだ気にしてたの?」
「そりゃ気にするだろ……男って気づかなかったんだぞ? 今でも申し訳ないわ」
「別にいいのに。あの頃は今以上にわからなかったもんね~」
元の椎菜でもわからないレベルだろ、あれ。
というか、今だから言えるが、今の姿になる前の椎菜はどこからどう見ても女子だったからな……。
本人だけだな、男だと思ってたのは。
周囲の奴らも、椎菜の性別を知っていた上で、え、ほんと? 絶対嘘だろ、とか思ってたしな。
俺は小一以来の付き合いだし、夏なんてプールや海にも行ったからよく知ってるが。
余談だが、プールや海に行くと、椎菜はびっくりするくらい、スタッフの人に注意されていた。上はどうしたのか、と。
その度にしょんぼりしながら男です、という椎菜は……とても、哀愁が漂っていた。
「……………………そうだな」
「あの、すごく間があったよ?」
「気にするな。ともあれ、来てくれてありがとうな」
「ううん! 気にしないで! 柊君の頼みなら何でも聞くよ!」
「おい椎菜、そういうことをこういうところで言うな!?」
『オイ聞いたか?』
『あいつ、やっぱり……』
『手を出す気はないと言いながら、実は手を出す気なんじゃねぇか……?』
『チッ、このロリコン野郎が……』
……俺の学園生活、騒がしいなぁ……。
いつか、過去の椎菜と柊の話しとか書きたいですねぇ。
まあ、そのうち書くとして。現在進行形で、バレンタインの話は執筆中! まだ2/5だけどね!
それから、明日の投稿ですが、健康診断が木曜日にある関係上、普通に書けない上に、バレンタインの話が間に合わなくなるので、お休みします! ごめんねぇ!




