#110 昼休み、ほのぼの一家
「柊君おめでとう!」
「さすが高宮君! というか、すっごい速くてびっくりしたけど」
「いやまあ、なんだ……うん」
スウェーデンリレーは僕たちのクラスが勝って、柊君が僕たちの所へ戻って来たので、お祝いの言葉をかけると、柊君はなぜかなんとも言えない微妙な表情を浮かべていました。
どうしたんだろう?
「何かあったの?」
「何かあったわけじゃない……いや、あった、と言えるか? まあいいか。とりあえず、俺の命が脅かされることはないだろうし」
「高宮君、なんでそんなに生を実感したような表情を浮かべてるの?」
「……生きてると言うのは、素晴らしいことだぞ、朝霧」
「本当に何があったの?」
柊君がちょっとおかしくなってました。
「まあいいや。次は……あー、綱引きか。まあ、応援してれば勝てるだろ。……というか茶番だろう、この体育祭」
「ふぇ? 茶番?」
「いや、なんでもない。……応援するだけで簡単に優勝できるのが一番怖いわ」
「???」
ぼそっと何かを呟いていたけど、何を言っていたのかは聞き取れませんでした。
◇
その後の綱引きは、二年一組が全勝して終わりました。
他のクラスにも、運動部、それも格闘技系の人とか結構いたはずなんだけど、僕のクラスってすごい人が多いのかな?
『それでは、只今の種目を持ちまして、お昼休みに入ります。生徒、保護者の皆様は、午後に備えてしっかり食べて、しっかり休憩をなさってください。午後最初の種目ですが、余興的種目として、教師と保護者によるリレーを行う予定です。ちなみに、保護者の参加者についてはこちらから学園側からお声がけさせていただきますので、もしお声がかかりましたら参加していただけるととても嬉しいです。もちろん、拒否することも可能ですので、ご安心ください。お昼ご飯についてですが、学食も営業しておりますので、お弁当がない、忘れた、もしくは全然足りねぇよこの野郎! という方は、学食や購買へどうぞ。今日は体育祭ということもあり、普段の五割引きでの販売となりますので、金欠学生の方々にとっては最高の状況です。ちなみに、今日は学食側でレバニラが大量に用意されているようです。なぜでしょうね! 私もこの後、レバニラを二人前食べに行く所存です。それでは、午後までゆっくりしていてください』
というわけで、お昼ご飯になりました。
それにしても、学食が半額なんだ。
こういうイベントの時、姫月学園の学食や購買の販売価格が安くなるので、すごく助かるっていう生徒も多いです。
僕はお弁当派なので、あまり関係はないけど、普段の柊君はそっちなのでとても助かるそう。
「おかーさん、おわりー?」
「……ひといない、です」
「あ、うん、お昼ご飯だからね」
「「ごはんっ!」」
「あはは、お腹すいたよね。いっぱい応援してくれたから。それじゃあ、お母さんたちの所に戻って、お弁当を食べよっか」
「わーいっ」
「「……(こくこくっ)」」
「あ、柊君と麗奈ちゃんはどうするの? 家族の人と?」
「いや、うちは生憎、仕事が休めなかったみたいでな。適当に学食にでも行くよ」
「あたしの方は、妹が熱を出しちゃったみたいで、一人だから、高宮君と一緒に学食にでも行こうかな」
どうやら、二人は家族の人が来てなかったみたいで、学食でご飯を食べるみたい。
それなら……。
「あ、そうなの? それじゃあ、僕たちの所に来る? いっぱいお弁当作って来たし、二人が来ても問題はないと思うから」
「ん、いいのか?」
「あたしも?」
「もちろん。ただ、僕のお母さんやお父さん、お姉ちゃんもいるけど」
「いや、正直ありがたい」
「あたしも! 椎菜ちゃんのお母さんが作ったの?」
「ううん、僕が作ったよー」
「じゃあ尚更いくぅ! 椎菜ちゃんの手料理が食べられるなら行く行く!」
「朝霧……まあ、椎菜の料理は美味いからな」
「照れるね。……それじゃあ、行こっか! お腹空いたよね」
「そうだな」
「お腹ぺこぺこ~」
「ごはんっ」
「……おなかすいた、です」
「あはは、じゃあちょっと急ごっか」
というわけで、柊君と麗奈ちゃんの二人も連れて、僕はお母さんたちがいる場所へ向かいました。
◇
「お母さん、来たよ~」
「あら、椎菜。いらっしゃい……って、あらあら、愛菜から聞いていたけど、随分と可愛らしい姿ね! それに、みまちゃんとみおちゃんの二人も!」
「お父さん、もう既に出血多量なんだがな……」
お父さん、それは大丈夫なの……?
「おっかえりぃ! 椎菜ちゃん! っと、お? 柊君と麗奈ちゃんも来たんだねー」
「あら、久しぶりね、柊君」
「お久しぶりです、雪子さん、聡一郎さん」
「あぁ、久しぶりだね。随分とまぁ、男前になったなぁ」
「男前って……」
柊君は僕のお母さんとお父さんに挨拶をしていて、二人とも懐かしそうな反応を見せました。
特に、お母さんとは僕が小学一年生の頃から知ってるし、何よりお母さんは柊君のことを信頼しているみたいだからね。
お父さんもそれは同じだけど。
「それで、そちらの女の子は、椎菜の友達?」
「うん! 麗奈ちゃんです!」
「初めまして、朝霧麗奈です! 椎菜ちゃんとはお友達です!」
「あらあら、元気のいい子ね。うふふ、女の子のお友達を連れてくるなんてねぇ。ともあれ、うちの娘のこと、よろしくお願いします」
「もちろんです! 精一杯フォローしますね!」
「ははは! フォローか! 椎菜は天然な所があるからなぁ」
「むぅ~~、僕、天然さんじゃないよ~?」
「いや、椎菜は天然だろう」
「天然さんだねぇ」
「ち、違うよぉ!」
僕、天然さんじゃないもんっ。
「おかーさん、おなかすいたー」
「……す、すきました」
「あ、ごめんね、お昼にしよっか。二人とも上がって上がって」
「じゃあ、お邪魔します」
「お邪魔しまーす」
靴を脱いで、レジャーシートに座ると、お母さんがお弁当を真ん中に置いて、同時に取り皿とお箸をこの場にいるみんなに配りました。
「これが愛娘特製のお弁当よ~」
「ま、愛娘って……その、嬉しいけど恥ずかしいよ」
「まあ、いいじゃないか。っと、本当に美味しそうだね」
「じゃあ、食べよっ。いただきますっ」
『『『いただきます!』』』
いただきますをしてから、みんな思い思いに食べたいものを取り皿に取っていく。
みまちゃんとみおちゃんは多分取りにくいと思うので、僕が代わりに。
「二人は何が食べたい?」
「んっとんっと……からあげと、たこさんと、おいなりさんっ!」
「……たまごやき、ハンバーグ、おいなりさんっ」
「ちょっと待っててね。…………はい、二人とも。いっぱい食べてね」
「「わーいっ」」
二人のお皿に食べたいものを乗せて、それを手渡すと二人は嬉しそうに食べ始めました。
「はむはむっ……おいしーっ」
「……これも、おいしい、ですっ。もぐもぐ」
「あぁ、口の周りに付いちゃってるよ? ちょっとこっち向いて」
ちょっと勢いよく食べているせいで、二人の口の周りに付いちゃってるので、一度こちらに向くように言ってから、ティッシュで二人の口元を拭う。
「「んぅ~~」」
「うん、これでよし。二人とも、慌てないで、ゆっくり食べるようにね? 喉に詰まっちゃったら大変だから」
「「はーいっ」」
「うんうん、いいお返事です」
二人は素直で可愛い。
世の中には、やんちゃな子供もいるけど、二人はそんなことはないからある意味ではすごく助かります。
僕としては、もうちょっとわがままになってもいいと思うけどなぁ。
「……ナチュラルに母親してるな、椎菜」
「だ、だねぇ。すっごいお母さんしてるぅ」
「うふふ、我が娘ながら、びっくりするくらいお母さんしちゃって」
「雪子、ティッシュを取ってくれ。鼻血が……」
「あぁぁ~~~、椎菜ちゃんたちの母娘のやり取りが最高過ぎて鼻血が止まらないぜ☆」
「……椎菜ちゃんのお父さんとお姉さん、そっくりだねぇ」
「……まあ、血の繋がりがあるからなぁ」
「あれ? 二人ともどうしたの? お弁当、美味しくない?」
「あ、いや、そんなことはないぞ! 正直かなり美味い」
「うんうん! 玉子焼き美味しい! あと、ハンバーグも!」
「えへへ、それならよかったです! いっぱいあるからたくさん食べてね! あ、こっちにレバニラ炒めもあるから、よかったらどうぞ」
「体育祭のお弁当でレバニラ炒めを持ってくる生徒、初めて見たな……」
「まあ、学食の方にもあるみたいだし、結構普通なのかもしれないよ?」
「……いやどう考えても目の前の母性クソ強幼馴染が原因だと思うがな」
「はむっ。……うん、今日のも成功かなぁ」
もぐもぐ、と自分で作ったハンバーグを食べて、僕は満足げに呟いた。
◇
それから雑談をしつつお弁当を楽しんでいると、お弁当は綺麗になくなりました。
「「くぅ……すぅ……」」
「寝ちゃった」
ご飯を食べたからか、それとも午前中いっぱい応援してたからか、二人は僕の太股を枕に、すやすやと寝息を立てて寝ちゃいました。
二人はすごく仲がいいみたいで、基本的に一緒に行動することが多い。
小学校でもそれは同じらしくて、一緒に動くことが多いんだとか。
特に、何をするにも一緒で、みまちゃんが外に遊びに行くならみおちゃんも一緒に遊びに行くし、反対にみおちゃんが本を読みたいと言えば、みまちゃんも一緒に本を読む。
そんな風に生活していると二人から聞いてます。
お互いが神様で、しかも生まれた原因が僕らしいので、本当に双子の関係性なんだろうなぁ、なんて思います。
「「おかーしゃん……くぅ……すぅ……」」
「ふふ」
寝ていても僕を呼ぶ二人に、自然と笑みが零れて、自然と二人の頭を撫でていました。
うん、みまちゃんはふわふわだけど、みおちゃんはさらさらしてる。
結構違いがあるんだなぁ。
二人の違いって、よく見ると髪の色と目の色、あとは髪質と性格くらいで、好みは一緒だし、本当に双子みたいだったりします。
そもそも、みまちゃんが嫌いな物はみおちゃんも嫌いだし、みおちゃんが好きな物はみまちゃんも好き、そんな感じ。
基本的に神薙みたまから生まれたのが二人だから、僕の好みが反映されちゃってるみたいだしね。
……さすがに、これ以上娘が出来ることはないよね?
元々みまちゃんだけでも十分というか、むしろ手に余らないか心配だったのに、みおちゃんができちゃったからなぁ……もちろん、二人ともなんとなく僕の娘だって言うのは感じているし、そもそも僕をおかーさんと慕ってくれている以上は、絶対に立派に育てるつもりだけど……うーん、今後もVTuberを続けていくわけだけど、ちょっと心配。
娘、できないよね……?
「「「「( ˘ω˘)スヤァ」」」」
「って、あれ? みんな寝ちゃった?」
ふと、周りを見ると、柊君以外のみんなが寝ちゃってました。
「これは寝たと言うか……あー、いや、寝たでいいか。お腹いっぱい食べて眠くなったんだろう」
「そっか。柊君は寝なくていいの?」
「俺は別に眠くないからな」
「そうなんだ。じゃあ、少しお話しする?」
「そうだな。最近は二人で話すことも少なかったし、雑談でもするか」
「うん」
みんなが寝ている間、僕は柊君と他愛のないお話で盛り上がりました。
そう言えば、お母さんたちだけじゃなくて、周囲にいた別の家族の人たちもなぜか寝てたけど、そんなに疲れてる人が多かったのかな?
ただの母娘のやり取りをしただけで、周囲に甚大な被害を出しているのが神薙母娘です。
さすがに母娘のやり取りは邪魔できねぇ! ということで、頑張って血が噴き出すのを耐えたんですね。
というか、体育祭じゃなくない? もうこれ。




