#104 いい母親になりたいと願う椎菜、配信前に爆弾情報
おまけあり!
「で? 一体何の話をしてたんだ?」
お昼休み、いつも通り僕と柊君、麗奈ちゃんの三人でお昼ご飯を食べていると、柊君が朝の呼び出しの件について尋ねてきました。
「えっと、配信の時に僕がウイスキーボンボンを食べてたから、絶対にお酒入りのお菓子は食べないようにって……」
「「あー、納得……」」
「ふぇ!? ふ、二人も!?」
「あたしたちも、っていうより……多分、クラスのみんなも色々察してたと思うよ?」
「そうなの!?」
「まあ、あれはなぁ……」
「そんなに酷かった、の……? えと、その、すごく、酒癖が良くない、とか……?」
「あー、いや、あれはなんて言うか……別に、絡み酒ってわけでもないな……」
「笑い上戸とか、泣き上戸、とかあるけど、椎菜ちゃんの場合……百合上戸?」
「聞いたことないよ!? 百合上戸って何!?」
一度も耳にしたことがない単語が出て来ちゃった!?
「いい得て妙だな……」
「でしょでしょ? 今考えた!」
麗奈ちゃんの造語だったみたいです……。
でも、本当に何があったの? 僕が酔ってる間に……。
「まあ、あれだな。どのみち俺もそっち側になるんだし、酒が入らないように注意しよう」
「いいの?」
「まあ、椎菜は色々心配だしなぁ……」
「たまに思うけど、高宮君っておかん属性だよね」
「男子高校生におかんはなんか違うと思うぞ!?」
「えー、だって高宮君、いっつも椎菜ちゃんを心配して動いてるしー? それに、椎菜ちゃんに恋人が出来ない限り、絶対に恋人は作らないとか言ってるじゃん? っていうことは、おかんだよね!」
「な、なるほど、柊君はお母さん属性……!」
「いやいやいやいや!? それは椎菜の方だろう!? 実際に子供がいるし!」
「それはたしかに。というか、配信で思ったけど、椎菜ちゃん、こう、母性がすごいよね」
「ふぇ!? 母性!?」
「うん、母性。高校生であそこまでの母性が出せるのすごいよ? やっぱり、子供がいるから?」
「そ、それはどうかはわからないけど……でも、二人のことはすごく可愛いと思ってる、よ?」
「……じゃなきゃ、将来的に養子縁組するとか言わないわなぁ」
「一年たつ頃には、すっごい親バカになってそうだよね、椎菜ちゃん」
「さ、さすがにそこまでにはならないと思う……よ?」
「「……」」
あの、なんで何も言わないの……?
僕、そんなに親バカになると思われちゃってるの?
え、大丈夫だよね? そこまでにならないよね? 僕。
……じ、自信が無くなってきました。
「じゃあ仮の話をするとして。そうだな、二人が高校生くらいになったとするだろ?」
「うん」
「彼氏を急に連れてきたらどうする?」
「ふぇ!? か、かかか、彼氏!? え、えとえと……と、とりあえず、し、身辺調査!?」
「なんでそうなる!?」
「くふっ!」
「え、だ、だって、いい人じゃないかもしれないもん……も、もちろん、二人が信頼してるならいいけど、心配だもん……」
「高宮君、これ絶対親バカになるよ? 多分、お父さんあの男との結婚は許しませんッッ! みたいな、頑固なお父さんみたいな感じの……」
「いや、椎菜の場合は多分、普通に自分でどんな人か確認すると思う……地味に、人を見る目があるんだよ、椎菜は」
「そうなの?」
「あぁ。少なくとも、相手が何らかの下心や悪感情があると、なんとなくで気付くらしい。ま、本人は無意識らしいけどな」
「うぅ~~、彼氏さん、彼氏さん……で、でも、まだ小学一年生、だもんね?」
た、多分大丈夫っ……!
それに、今はまだ出会ったばかりで色々と心配なだけで、二人が大人になる頃には、きっと僕の方もお母さんとして成長してるはず!
「と、とりあえず、お話合いで見定めますっ」
「ほらな?」
「す、すごい、高宮君!」
「……とはいえ、相手が神様である以上、恋人を作るか疑問だがな。元が椎菜なわけだし」
「ふぇ?」
「あぁ、いや、こっちの話だ」
「そう? ……まあでも、今は楽しく小学校生活を楽しんでくれればいいかなぁ……」
「おー、椎菜ちゃんがお母さんの顔してる」
「お、お母さんの顔?」
「そうそう。母性に満ちた表情! 本当に好きなんだね?」
「出会ったばかりだけど、なんとなく可愛いなぁって。それに、大切に育てないとって思ってるから、かなぁ……」
二人とも、まだ出会ってから一ヶ月も経ってないけど、なんとなくそう思います。
神様が、魂の繋がりがあるって言ってたから、それが理由なのかも。
「なんと言うか、いい母親になりそうだな、椎菜は」
「そ、そうかな? そうだといいなぁ」
(まあ、授業参観に母親として行こうとしたら、えらいことになりそうだけどな……)
(わかる……多分、二人の同級生子供の性癖がバキバキに壊されて、変な方向に目覚めそうだし、親御さんたちがものすごいぎょっとしそう……)
できる限り、二人のためにいいお母さんになってあげないと。
◇
それから放課後になって、二人は練習してから帰るそうです。
僕はと言えば、出場する種目自体練習が必要ないと言うか……そもそも、障害物競走は当日のお楽しみって言われているので、練習が出来ません。
なので、今日は軽くランニングだけしてそのままお家に帰りました。
実は今日は配信をしようと思っていたからね。
個人での雑談配信、最近はあまりしてなかったし。
二週間くらい前はやった気がするけど、それでもコラボ配信の方が多いもんね、僕。
あ、そう言えば出張みたま家事サービスの方はたしか藍華お姉ちゃんだったっけ。
そろそろ予定を決めないと……。
たしか、体育祭が今週の土曜日で、来週の月曜日が振替休日だったから……日曜日か月曜日がいいかも。
あ、でも、日曜日はみまちゃんとみおちゃんが一緒にいたがる、かな?
……って、よくよく考えたら、藍華お姉ちゃんが空いてるかもまだわからないのに、あまり決めない方がいいかも。
まずはちゃんと相談しないと。
「ただいま~」
色々と配信のことを考えながら歩いている内に、お家に到着。
そのまま玄関のドアを開けて中に入ると、
「「おかえりなさいっ!」」
と、みまちゃんとみおちゃんの二人が勢いよく抱き着いて来ました。
突然の出来事だったし、二人同時ではあったけど、後ろに倒れると二人がケガをしちゃうかもしれないと思った僕は、持ち前の身体能力でなんとか倒れないように受け止めきりました。
「ただいま、二人とも。みおちゃん、学校はどうだった?」
抱き着きながらぐりぐりと頭をこすりつける二人に、僕は笑みを零しながら二人の頭を撫でて、みおちゃんに学校のことを尋ねました。
「……たのしかった、です」
「みおちゃん、はずかしがりやさんっ」
「……ち、ちがう、ですっ。き、きんちょーした、だけ、なのです……!」
「そっかそっか。でも、安心したよ」
とりあえず、みおちゃんも馴染めそうでよかった。
「さ、、僕はお着替えしてくるから、二人はリビングに行ってて?」
「「はーいっ」」
うんうん、いいお返事です。
◇
それからお着替えをしてリビングでのんびり過ごしていると夜ご飯に。
ご飯を食べ終えたらそのままお部屋に。
配信の準備をしていると、VTuber用のスマホに着信がありました。
あ、廿楽さんからだ。
「もしもし、桜木です」
『もしもし、お疲れ様です、廿楽です。今お時間はありますか?』
「はい、大丈夫ですけど、何かありましたか?」
『あ、いえ、問題が起こったとかではないです』
「それじゃあ、配信のことで?」
『そうですね。実はもう既に告知はつい先ほどから行っているのですが、ちょうどこれから配信をなさるとのことで、一つお願いがあります』
「お願い、ですか?」
なんだろう?
僕はまだ入ってから二ヶ月と少しだし、そんな僕に頼むことってあるのかな?
『おそらく、らいばーほーむの公式トワッターを見てもらえればわかると思うのですが、実は今月の下旬頃……大体、11月12日から11月30日の間、四期生のオーディションを行うことになったんです』
「あ、そうなんですか、四期生の………………って、へ!?」
い、今四期生って言った!? 言ったよね!?
突然爆弾が投げ込まれたので、僕は慌てて自分のスマホを持って来てトワッターを覗くと、
らいばーほーむ公式✓ @Live_House11月6日
#告知
らいばーほーむ四期生オーディションのお知らせェェェェ!
以下リンクに詳細な情報があるので、我こそは! という頭の狂――んんっ!
自信ありありの方は是非参加してみてね!
https://~
○671 ↺8,143 ♡1.7万 5万
ほ、本当だ!? 本当に告知がされてる!? しかも本当についさっき!
あと、文章がすっごくおかしいと思うんだけど!?
『で、現状らいばーほーむ内で登録者数のトップが神薙みたまとなっています。つまり、桜木さんですね』
「ふぇ!?」
『まあ、一昨日の焼き肉パーティーで、全員軒並みまた大きく登録者数を伸ばしたんですけどね。特に、狼神いくまさん、御月美うさぎさん、雪ふゆりさんの三名が』
「そ、そう、なんですね!?」
『そうなんです。そこで、ここは一つ、桜木さんに配信冒頭で告知をお願いしたく』
あ、頼みってそう言う事!?
僕に告知をしてもらいたいってことなんだ、
「そ、それって、僕でいいんですか……? あの、こう言っては何ですけど、僕は入ったばかりですし、それに二ヶ月ちょっとですよ? それなら、一期生か二期生のみなさんの方がいいような……?」
『いえ、みたまさんが適任ですね』
「そ、そうなんですか?」
『はい。たしかに他の方々でもかなりの宣伝効果は生まれると思いますが……らいばーほーむにおいて、今一番ホットなのはみたまさんですから。それに、みたまさんが宣伝をしてくれるのなら、オーディションに来てくれる人も増えるでしょう。というか、既にかなりの応募が来てます』
「そうなんですか!?」
『はい。元々、四期生の募集をすること自体、以前みたまさんの配信中に匂わせていましたので、かなり準備をしていた人たちもいるようです。嬉しい限りです、本当に』
「な、なるほど……」
『我々としても、一期生から三期生のみなさんに負けないような、強い個性を持った方を求めておりますからね。まあ、実際の所、既に二人は内定をもらっているようなものですが』
「二人……? 一人はもしかしてですけど……」
『はい、桜木さんの幼馴染の方ですね。オーディションはもちろん受けてもらうことにはなりますが、ほぼ確定でしょう。というか……社長が物凄く欲しがっており、さらには社長以上に春風たつなさんが入らなければ常識人枠を辞めるッッ! とまで言われてしまっており』
「そんなことになってたんですか!?」
皐月お姉ちゃん、そんなに追い詰められてたんだ……!?
た、たしかに、焼き肉パーティーの時もその、お酒に逃げてる感がすごかったもんね……それに、柊君はすっごく真面目だし、ツッコミもやってくれそう、だもんね。
でも、らいばーほーむを辞めるとは言わない辺り、好きなんだろうなぁ……。
『まあ、こちらとしても男性枠兼常識人枠、しかもみたまさんへの完全耐性持ちとか言うクソ強個性で、さらには声もいい上に性格もいいイケメンとか言う、欲張りセット男子高校生とか普通に欲しいので、そのまま確保ですけどね』
「あの、すごいこと言ってますよ……?」
『こほん。つい、会議の内容が出ました。お気になさらず』
「そ、そですか……」
柊君、らいばーほーむの社員さんからそう言う風に思われてるんだね……あと、社長さんも柊君のこと欲しがってたんだ。
それ以上に皐月お姉ちゃんが欲しがってることがその、あれだけど……。
「って、あれ? もう一人決まってるんですか?」
ふと、二人決まっていると言われたことを思い出して、僕はもう一人について思わず尋ねていました。
『はい。それなりに前から話が出ていまして。まあ、その方はもう活動の準備を行っておりますし、ほぼ先行で活動するので、実質3.5期生として活動。四期生が活動を始めたら、四期生として、という形になります』
「それ、僕にお話しして大丈夫なんですか?」
なんと言うか、まだ聞いちゃいけないお話のような気が……。
『どなたか言っていない上は問題ありません。あと、社長からも許可は貰っていますので』
「あ、そうなんですね」
社長さんから許可が出てるのなら大丈夫だよね。
『まあ四期生募集が告知された時点で、既にらいばーほーむのライバーみなさんに連絡は行きますからね。ちなみに、幼馴染さんが確定していることをたつなさんに伝えましたら、狂喜乱舞していました。今までに見たことがないレベルで喜んでいました。お労しや』
「お労しいって……」
『まあそこはいいとして。まあ、二人も既に内定が決まってます! なんてことがバレたら大問題になるのは明白ですので、馬鹿正直に募集サイトには『二人決まってるので、二枠の募集です』と書いておきました』
「それ本当に大丈夫なんですか!?」
その辺りに疎い僕でも、炎上しそうって思うよ!?
らいばーほーむ、大丈夫!?
『あ、いえ。炎上どころか、『らいばーほーむが事前にスカウトしてる時点で普通の奴じゃないのが確定してる。むしろ楽しみ』というような、好意的なコメントで溢れております』
「えぇぇぇ……」
『今までの積み重ねですね。……さて、お話はそこそこに。それで、どうでしょうか?』
「あ、そうですね……わかりました。そのお話、お引き受けします!」
『ありがとうございます! みたまさんが告知をしてくれるのならば、更なる狂人発掘が進みます! では、素材をお渡ししますので、配信中に画面に映してください!』
「わかりました!」
『では、よろしくお願いいたします』
「はい! 失礼致します!」
『はい、失礼致します』
通話終了。
なんだかびっくりするような内容だったけど……そっかぁ、四期生募集…………よくよく考えてみたら、二期生から三期生の間が入るまでにかかった期間って、一年八か月くらいだった気が……今回、すごく早い?
何かあったのかな?
あれかな、最近ファンの人たちも増えてるって聞くし、海外の人たちも見てるなんてお話も聞くし……それもあるのかも。
「でも、四期生かぁ……僕先輩さんになるの、早くない……?」
柊君を除いて、どういう人が入って来るのか気になったけど、それよりもこれからの配信が大事ということもあって、僕は早速準備を始めました。
柊が確実に入って来ると言われた時の皐月の反応。
『というわけで、四期生枠でみたまさんの幼馴染君が入って来ることが確定しました』
「……マ?」
『思わず掲示板の如き聞き返し方が出るくらいには、驚いているみたいですね』
「え、ちょっと待って? たしかに彼からは入りますとは言われたよ? え、確定? 本当に?』
『確定です。あんなクソ強個性の過労死枠男子高校生とか、どう考えても美味しい存在ですよね? あと彼、すっごいイケメン』
「私情挟まってない? マネージャー」
『気のせいです。ともあれ、皐月さん待望の、みたまちゃんへの完全耐性持ち且つ常識人枠の彼が入ることが確定しているので、これで常識人枠は続行ですね。どうですか? 嬉しいですか?』
「イヤッタァァァァァァァァァァ!!!!! わ、私の孤独の常識人としての生が終わりを迎えるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」
『……突然の大音量に思わず耳がキーン! ってなりましたが、喜んでもらえてるようで何よりです』
「時期! 時期はいつだい!?」
『そうですね、彼は確定している二人の内の一人なので、今は絵師を吟味中です。面接時に色々と決まると思うので……まあ、早ければ12月末。遅くとも一月中には』
「つまり、あと二ヶ月頑張ればいいと言うことだね!? ヨシッ! ヨォォォォシ!! 私の春が来たっ……!」
『では、そう言うことですので。何か質問等はありますか?』
「あぁっ、今日はなんて言い日なんだ……これはもう、秘蔵の日本酒を開けよう! そうしよう!」
『あ、これ聞いてない奴ですね。まあいいです。それでは、失礼いたします』
「彼が入って来て呉れる時点で、私は頑張れるっっ! それまでの間、私は全力でらいばーほーむの狂人たちを受け止めるッッ! Yeahhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh!」
この後、皐月は仕事で貰ったクッソ高い日本酒を開けると、一人宴会をしたそうな。
尚、この時、柊はぶるり、と背中を震わせているのだった。
上記のおまけの時系列は、焼き肉パーティーよりも前です。




