#102 焼肉パーティー前、生命の危機な二人
三人でお風呂に入って、一緒に寝て、一日が終わってから三日後。
今日は土曜日で、以前修学旅行中に栞お姉ちゃんと配信をしている際に出た、みんなで焼肉パーティーをしよう、という配信を実現させるために、今日はらいばーほーむの人が事前に貸切ったお部屋を使用することに。
なので、これから僕とお姉ちゃんで向かうところだったんだけど……。
「「……うぅ~~」」
みまちゃんとみおちゃんの二人が泣きそうな顔……というか、実際にちょっと泣いていました。
「まあ、うん……夜ならともかく、ゴリゴリのお昼だもんねぇ……」
「あらあら、本当に椎菜が大好きなのね。どうするの? 二人のこと」
「ど、どうしよう……」
みおちゃんが桜木家で過ごすことになり、来週からみまちゃんと同じく小学校に通うことに。
体験授業もできるよーって言ったんだけど、みまちゃんがいるからいいって言って体験授業は受けませんでした。
僕が学園に行っている間は、お父さんたちが面倒を見てくれてました。
ただ、思った以上にその、お休みの日に僕と一緒に過ごしたい! ってなってるみたいで……僕が配信でお家を出ると言ったらぐずりだしちゃって……。
「困ったねぇ……」
「うん……二人は一緒がいい、んだよね?」
「「……(こくり)」」
僕の問いかけに、二人はこくりと小さく頷きました。
だよね……。
うぅ、お仕事に行こうとしてる時に、行かないでって懇願されるお父さんやお母さんってこんな気持ちだったのかなぁっ……! すごく、胸が! 痛いですっっ!
「ん~……あ、そうだ。椎菜ちゃん、ちょっと待ってね?」
「ふぇ? お姉ちゃん、どこかに電話?」
「うん。…………あ、もしもし、ひかりです。はい、はい。今日の配信なんですけど、例のみたまちゃんの娘ちゃんと追加の娘ちゃんを連れて行ってもいいですかね? はい、はい、なんかこう、すっごく泣きそうで、みたまちゃんも連れて行きたいけど身バレがッ! みたいな感じで……そうそう。あ、なるほど、たしかに流用できる、と。ふむふむ……あー、たしかに。カラーリングを変えれば何とか……了解です! じゃあ、それでお願いしまーす! はい、失礼します! うん、OKだって!」
「どういうこと!?」
突然どこかに電話をかけて電話が終わるなり、いきなりOKと言って来ました。
いや本当にどういうことなの!?
「どういうことって……二人を連れてってもいーい? って聞いたら、OK! ってことだけど」
「なんで!? え、いいのそれ!? だって、その、ライバーじゃないよ!?」
「うん。でもほら、みまちゃん……ゆあちゃんのことは普通に存在は知られてるし、それに、事情説明は必要でしょ? 特に、わたもちさんは」
「あ」
そう言えば今日、小夜お姉ちゃんも来ることになってるわけで……当然、みおちゃんの元になった神薙みたまオルタをデザインしたのも小夜お姉ちゃん……たしかに、説明しておかないとまずいかも!?
「それに、他のメンバーにも言っておかないとじゃん? 現状、皐月ちゃんは知ってるけど、それでもみまちゃんだけだし」
「たしかに……」
「まあ、それは建前で」
「建前なの!?」
「私はッッ! みたまちゃんとッッッ! 二人の母娘ほのぼの焼肉が見たいッッッッ!」
「お姉ちゃん、何言ってるの……?」
「あとは、是非とも私が味わった貧血を全員にも経験させたい。特に、ふゆりちゃんとか絶対に処せるよね」
「お姉ちゃん、本当に何を言ってるの……?」
真顔でよくわからないことを言ってるんだけど……僕はどう反応すればいいのかな。
でも……。
「とりあえず、一緒に行ける、って言うことでいいのかな……?」
「そゆことー。まあ大丈夫大丈夫。中学生以上ならともかく、小学生じゃ案外わからないよ。声で」
「そうかなぁ……」
「それに……もしバレそうになって厄介ごとになったら、私が消す☆」
「何をする気なの!? 消すってどういうこと!? すごくいい笑顔だけど怖いよ!? お姉ちゃん!?」
怖いよぉっ! いつものことだけど、お姉ちゃんが怖いよぉ!?
「「おかーさん……?」」
あっ! それよりも、二人のこと!
「ごめんね、二人とも。えーっとね、お姉ちゃんがお話ししたら、一緒に来てもいいっていうことになったから……一緒に来る?」
「いくっ」
「……いき、ますっ!」
「ふふ、じゃあ、行こっか。それに、挨拶も済ませないと、だもんね……」
「あらあら、随分と寛容ねぇ。まあでも、二人なら大丈夫そうね。愛菜、三人をしっかり守るのよ?」
「もちろんだよ! お母さん!」
僕がみまちゃんとみおちゃんとお話してる間に、お姉ちゃんとお母さんがサムズアップをしあっていました。
「それじゃあ、二人も行こ。荷物はいらないからね。僕が持ってるし」
そう言いながら、僕は自分の手に持った袋を二人に見せた。
この中に入ってるのは、前に通販で注文した牛タン。
自分へのご褒美……って言うわけじゃないけど、どうしても食べたくなっちゃったので、つい買っちゃいました。
でも、あまりお金は使わないようにしていくつもりです。
今ですらとんでもない額のお金を持ってるのに、バンバン使ってたら金銭感覚がおかしくなっちゃうもん。
こういうのは……よくて一ヶ月に一回程度に抑えるのが一番です。
……それでも多いと思うから、あまりやらないけど。
「「はーいっ」」
「んごふっ……!」
「娘と孫が尊い……あ、鼻血が……まあ、どうせしばらく止まらないし、いっか」
「お母さん、ちゃんと鼻血は止めてね……? あと、お姉ちゃんは大丈夫?」
「へ、へへ……致命傷なら問題なしです☆」
最近、致命傷という単語が間違って使われてる気がします……僕の周りで。
もう少し真面目に使った方がいいと思うなぁ……。
◇
というわけで、四人で目的地へ。
場所は事務所近くなので、当然電車を利用することに。
その際に、二人用のICカードを作りました。
今後も利用するかもしれないし、あって損はないからね。
それに、普段は僕が預かっていればいいので。
電車内では、初めて乗るみおちゃんが表面上は興味なさそうにしながらも、ちらっ、ちらっ、と外を見ている姿がとても可愛かったです。
あと、そんなみおちゃんに色々教えてるみまちゃんもすごく可愛かったです。
今はまだ僕の義妹ということにはなっているけど、大人になったらちゃんと養子縁組してあげないとね。
……高校生で考えることじゃない気がするけど、それはそれです。
そんなこんなで、電車に乗って目的の街に到着。
ここからは徒歩。
みまちゃんは僕の右腕に抱き着いて、みおちゃんは左手に抱き着きながらの移動。
「~~~♪」
「……(すりすり)」
そんな二人だけど、みまちゃんは嬉しそうに鼻歌を歌いながら、みおちゃんはすりすりと僕の腕に顔をこすりつけながら歩いていました。
子供らしくてとてもいいと思います。
「ヤバイ……私の貯蔵分の血液が到着前に尽きそう……」
「お姉ちゃん、どうしたの?」
「ううん、なんでないごふっ……何でもないよ☆」
「今血を吐いてたよね? 絶対に大丈夫じゃないよね!?」
「いやいや、いつもじゃん☆」
「いつもは大丈夫じゃないよ……?」
僕も慣れて来ちゃった気がするけど……。
「あ、あの建物かな?」
「多分そうかも? 結構大きいというか、マンションみたいだね?」
「そうだねぇ。貸し切り型の配信スタジオらしいし。VTuberの配信にも対応してるみたいだから、今回の企画にはうってつけというわけです」
「なるほど~」
「んーと…………あ、みんな先に来てるみたい」
「そうなの? じゃあ、急いだほうがいいかな?」
「大丈夫だと思うよ? まだまだ時間に余裕はあるし。それに、今はみまちゃんとみおちゃんの二人がいるわけだし、あまり急ぐと疲れちゃうよ?」
「あ、うん、それもそうだね」
お姉ちゃんの言う通り、僕たちだけならまだしも、今回は二人も連れて来ちゃってるしね、それなら二人に合わせた方がいいよね。
それに、二人いは僕と一緒にお出かけする、っていうのがすごく嬉しいみたいだし。
うん、僕も嬉しくなります。
と、二人の様子に胸が温かくなりつつ歩いていると、目的地に到着。
僕とお姉ちゃんは早速中に入りました。
あ、鍵は事前に貰ってます。
入ってすぐ目の前に扉があって、多分この先が配信用のお部屋みたいです。
僕たちは靴を脱いで中に入って……。
「やっほー! シスコン帝王とみたまちゃん一家が来たぜ☆」
「こんにちはー」
お姉ちゃんがよくわからないことを言いつつ、僕は挨拶をしながらお部屋に足を踏み入れると、らいばーほーむのライバーのみなさんと、小夜お姉ちゃんが焼肉パーティーの準備をしていました。
「おっ! 来たか! みたまちゃん、数日ぶり!」
「まったく、シスコン帝王とか言いながら入ってくるのは君くらいのもの……だ、よ?」
「なんや? 皐月、なにかあったん? ……って、え?」
「んー? パイセンたち固まってどしたーん? みたまっちたち来たんしょ? あーし久しぶりだし…………へ!?」
「まったく、どうしたの? 何を驚いて……はいぃ!?」
「お、お久しぶり、です、あ、あの…………はぇぇ?」
「あ、これ後に続く人たちも驚く感じの奴だねー。じゃあ、ボクも混ざって……あ」
「一週間ぶり! 椎菜ちゃん! なんか先輩たちが固まってるけど! 楽しみにしてた……よぉ!?」
「ん、みんなおかしい。何かあった…………んんっ?」
「椎菜ちゃん、あの時以来! やー、うち、今日を楽しみに――」
「あらあらぁ~、何かあった――」
『『『千鶴(さん)(ちゃん)(っち)(君)と小夜(さん)(ちゃん)(っち)(君)は絶対見ない方がいいッ! 死ぬぞ(よ)!?』』』
「どういうことですかぁ~~~!?」
「何故うちもアウト扱い!?」
みなさんが僕たちの所へやって来ると、千鶴お姉ちゃんと小夜お姉ちゃん以外はみんな驚いた表情で僕……というより、僕の両腕にいる二人を見て驚いた表情をしていました。
最後に千鶴お姉ちゃんと小夜お姉ちゃんが来ようとしたけど、なぜか他の人たちに止められていました。
あ、あははは……。
「おかーさん、ひとがいっぱい……!」
「……ひと、おーい、です」
「嫌かな?」
「やじゃない、よ?」
「……だいじょーぶ、です」
「それならよかったよ~」
「あ、あー、椎菜ちゃん……その女の子は一体……いや、そっちの銀髪の娘は例の娘ちゃんなのはわかるんだけど……そっちの黒髪の娘……というか、どう見ても神薙みたまオルタを幼くしたような女の子は……?」
僕が二人とお話していると、皐月お姉ちゃんが恐る恐ると言った感じで、二人のことについて尋ねてきたので、答えようとしたら、それよりも早く反応した人がいました。
「え!? 今、神薙みたまオルタって言いました!? うちのデザインしたあれ!? どゆこと!? 超見てぇ! 超見てぇです!?」
「幼女!? 幼女が二人もいるんですかぁ~~~!? 見たいですよぉ~! 私もこの目に焼き付けたいですよぉ~~~!?」
小夜お姉ちゃんと千鶴お姉ちゃんの二人です。
「しまった!? 誰か、二人を抑えるんだ! 間違いなく、配信前に死人が出る!?」
「「了解っ!」」
「あっ、ちょ!? なぜ!? なぜうちは見ちゃだめなんで!?」
「わ、私にも見せてくださいよぉ~~~!? なぜ、みなさんだけ見てるんですかぁ~~!? 不公平ですぅ~~~~!」
皐月お姉ちゃんの指示に従ったミレーネお姉ちゃんと、杏実お姉ちゃんの二人が小夜お姉ちゃんと千鶴お姉ちゃんの二人を抑え始めました。
すごいことになってるんだけど……。
「ぐぬぬっ! ここまでされると見たくなるッッ!」
「わかりますよぉ~! ここは力づくでも見てやりますよぉ~~~~!」
「「うおぉぉぉぉぉぉ~~~~~~っっっ!」」
「ちょっ、力が強過ぎよ!?」
「んん~~~~っ! つ、強すぎっしょ!?」
「「えぇぇぇい! よっしゃ見れ、た…………」」
力づくでこちらでにやって来た二人は、みまちゃんとミオちゃんの二人を見て固まって……。
「こんにちはっ……!」
「……こ、こんにちは、です」
「「―――――」」
「あ、あれ? 固まってしまったが……二人とも?」
突然固まっちゃった二人に、皐月お姉ちゃんが怪訝そうな表情を浮かべて話しかけた直後。
パァァァンッ!
と、すごい音が鳴り響くと共に、二人の頭……というか、鼻と口が弾けて血が溢れ出しました。
「ふぇぇぇぇ!?」
「我が生涯に一片の悔いなし……ガクッ」
「( ˘ω˘)スヤァ」
「あぁぁ!? 二人が死んだぁ!?」
「た、大変や!? 二人とも、息しとらんよ!?」
「なんですって!? ちょっ! 心肺蘇生! 心肺蘇生――――――――――!」
「ひぅぅ!? し、ししし、死人がで、出ましたぁぁ!?」
「ん、大惨事」
「藍華さん、明らかに冷静になる事じゃないと思うぞ!?」
「でも正直、ふゆりっち相手はいつも通りっしょ、これ」
『『『たしかに』』』
「って、そうじゃなくて! ほら急いで蘇生だ! 大至急! 特に千鶴君がまずい!」
「くっ! 過剰過ぎるロリ成分を摂取した結果急性アルコール中毒よろしく、急性ロリニウム中毒になっちまったのか!」
「刀君、何を言ってるんだい!? いや、間違いじゃないかもしれないが!」
「いやー、なんだか大変なことになったねぇ」
「落ち着くところじゃないと思うよ!? お姉ちゃん! って、二人とも起きてぇ~~~~~っ!!」
配信前から大惨事になりました――。
ダメだあのロリコン、早く何とかしないと。
ロリを見ただけでしんでしまうとはなさけない! まあ、ロリコンだから仕方ないけど。




