#83 似たもの親子、ツッコミに回る椎菜
お家に帰宅してからも、みまちゃんはまだ眠ったままでした。
よっぽど疲れちゃったみたいで……。
その間はとりあえず、リビングでみまちゃんのことについて話すことに。
「お帰り、椎菜」
「お帰り! っと、住民票は取って来たか?」
「うん! とは言っても、僕すっかり忘れてて、お姉ちゃんが取りに行ってくれたよ」
「そうか、ありがとな、愛菜」
「いやいやいいってことよ!」
「にしても、本当に住民票があるなんてねぇ。神様ってすごいのね」
「だな。それで、中身はどうなっているんだ? 特に、親が誰になっているかについてもあるだろう」
「あ、そうだね。じゃあ、見てみよっか」
というわけで、住民票を取り出して早速確認。
その結果わかったことと言えば……。
「あ、お父さんとお母さんが親になってるね?」
みまちゃんの両親は、お父さんとお母さんということでした。
「だな。まあ、法律上20歳以上でなければ養子は取れないからな。……今は俺たちだが、みまちゃんのことを考えると、椎菜が20歳になった時には、移さないとだな」
「そうね。やっぱり、本当の親子で関係を結んでおいた方がいいもの」
「っていうことは、戸籍上では私たちは三姉妹、ってことになるんだね」
「そうなるかなぁ」
実際の母親は僕だけど、戸籍とか世間で見たら僕じゃなくてお父さんとお母さんになるみたいです。
……まあ、これで僕が戸籍でも母親になっていた場合、僕いくつでみまちゃんを産んだの? ってなっちゃうからね。
「まあ、あくまでも対外的にはって感じだしな。椎菜はいいか?」
「全然大丈夫。大人になったら、その時にお父さんが言ったみたいにすればいいもん」
「だな。ま、別に戸籍がこうなだけだ、気にする必要はないだろう」
「そうね~。でも、三姉妹か~。お母さん、こういう華やかな姉妹が欲しかったのよね~」
「わかる……俺も子供は女の子がいいとは思っていたからな。まあ、椎菜は椎菜で可愛かったからな! 気にしなかったが」
「お父さん、地味にフォローになってないよ……」
僕、やっぱり可愛いと思われてたんだね……。
男の時は、お母さんにすらずっとそう思われてたもんね……今はもう女の子になっちゃったから、意味はないけど……。
「名前は桜木みま、と。この辺りもちゃんと調整してくれたんだねぇ、神様は」
「うん。まあ、親子なのに神薙っていうのも変だからね。僕、桜木姓だし」
「あれはVTuberとしての苗字だしね。まあ、こっちの方がいいよね!」
「うん」
なんだかんだで、僕はみまちゃんのことが好きだし、やっぱり苗字は神薙姓じゃなくて、桜木姓の方がいい。
もちろん、否定する気もないけど、さすがに母娘なのに苗字が違うのはちょっと……。
「小学校の編入は来週からでいいか?」
「うん。極力早い方がいいし、みまちゃんも楽しみにしてるからね」
視線をみまちゃんに向けながら、すやすやと眠るみまちゃんの頭を撫でながら、僕はそう答える。
もちろん、学校の都合が合わなかったら別日にするつもりだけど。
「じゃ、明日俺たちが手続きに行ってこよう。しかし、みまちゃんは一度も学校に通っていなかったからな……どうやって転入させるのか……」
「あ、それならさっき手紙が届いてたわよ?」
と、みまちゃんの転入について色々と悩んでいたお父さんだったけど、お母さんが封筒を取り出すと、それをお父さんに手渡しました。
「あ、ねえ、椎菜ちゃん、あの封筒って……」
「うん、神様がくれるお手紙、だよね?」
「へぇ、これがそうなのか。どれ…………お、これは……」
「何が書いてあったのー?」
「どうやら、転入に必要な書類を送ってくれたようだ。ありがたい限りだ」
「へぇ~、それじゃあ、問題は解決なのね」
「あぁ。早速、明日行くとしよう」
「椎菜ちゃん、あれってどうやったと思う?」
「……みまちゃんの戸籍を作った時みたいに、色々したんじゃないかなぁ……」
「だーよねぇ」
神様って、もしかして結構好き放題してる、のかな?
少なくとも、僕たちが知らないところで、やっていそうな気はします。
「ところで椎菜」
「なぁに? お母さん」
「一つ疑問なんだけど……みまちゃんって、小学校に通うわよね?」
「うん、そうだね」
「授業参観、どうするの?」
「………………あ」
「あぁ、その問題があったか。みまちゃんのことだ、授業参観がどういうものかを知って、その時に椎菜が来てくれないとわかると泣きそうだな……」
「あー、わかるー。みまちゃん、椎菜ちゃん大好きだもんねぇ。少なくとも、ずっとくっついてるイメージがあるし」
そ、そうだよ!?
授業参観があったよ!
中学校ならともかくとして、小学校の授業参観はこう、すごくお母さんに参加してほしくて、お母さんもそれに応えて参加してくれてたっけ……。
けど、今の僕は高校生……どう考えても授業参観は平日だし、無理だよね?
「ど、どうすればっ……!」
「椎菜が見たことないレベルで頭抱えてるわ。よっぽどみまちゃんが気に入っちゃったのね」
「まあ、初めての娘だからなぁ。これは仕方ない。俺も、愛菜が出来た時は本当に喜んだ物さ。まあ、今は酷い有様だが……」
「お父さん、言葉って刃物なんだよ? もしかして、私のこと嫌い?」
「そんなわけないだろう。じゃなきゃ一緒に住むことはない。俺はそう言う性格だ」
「好きじゃない人と住むことほど、精神的ストレスって半端じゃないよね」
「その通りだぞ、我が娘よ」
「うん、すごい理解」
あっはっは! と二人は笑っているけど、僕はそれどころじゃありませんでした。
みまちゃんの授業参観が、今の僕にとってはすごく重要なことだよっ……!
「で、でも、学校を休むわけにも……」
「いや椎菜ちゃん、そこは休んでもいいんじゃない?」
「いや良くないと思うよ!?」
「でも私、年下の弟が熱出して家に誰もいないから看病するので休みます! って人が学生時代にいたし」
「え、そうなの!?」
「うん。ちなみに私」
「お姉ちゃんでしたかー……」
どうしよう、安心の判断材料にならない……。
だってお姉ちゃん、僕のためなら本当にとんでもないことをしそうなんだもん。
仮に、絶対にないけど……いや、うん、ちょっと試しに質問してみよう。
「ねえ、お姉ちゃん」
「なぁに、椎菜ちゃん」
「仮に、仮にだよ? 僕がその、えっと、王様になりたい! とか言ったら、どうする?」
「え? あはは、何言ってるの椎菜ちゃん!」
「だ、だよね! ごめんね、ちょっと気になっただけ――」
「そんなの、手ごろな国を落として、考え得る限り最善手の政策を行った後、そこを椎菜ちゃんに引き渡すけど?」
「全然問題しかないよっ……!」
しかも、絶対に本気で言ってるよぉ!
だって、お姉ちゃんの目、本気だもん! 真っ直ぐだもん! むしろ、曇りなき眼ってこう言う目を言うんだ! って感じで、すごいことになってるもん!
「あ、ごめんね、椎菜ちゃん」
「やっぱりしない?」
「ううん、そうじゃなくて……千鶴ちゃんやミレーネちゃんも追加しないとね!」
「そこじゃないよ!? 謝るのはそこじゃないよ!?」
なんでその二人も混ぜるの!? なんで!?
「いや、そもそも国を取るなら、周囲に納得させるだけの功績が必要……となると、まずは武力? いや、現代において武力は愚の骨頂……! となるとやはり……クーデターかっ!」
「本当に何を考えてるの!?」
「え? 椎菜ちゃんを最高で可愛い女王にするための方法?」
「しないし、なる気もないよ!? あと、冗談だから! 仮のお話だからっ!」
「……そっかー」
「なんで残念そうなの!?」
お姉ちゃんのことが僕はわからないですっ……すごくいいお姉ちゃんではあるんだけど、ね……。
「いやぁ、こういうやり取りも懐かしいもんだ」
「そうねぇ。愛菜は本当に椎菜のことが大好きだものね。……まあ、本当にやりかねないと思えてしまう辺りが愛菜だし、しかもできそうだと思ってしまうのもまた、愛菜よね」
「だなぁ……俺もさすがに、一国落としてそこを椎菜に! なんてことをしでかしたら、卒倒する自信が……いや待て? 今の椎菜が女王の国とか、最高じゃないか? こう、可愛いで満ち溢れていそうと言うか……」
「あなた? さすがにそれは…………いえ、たしかに、街中に堂々と椎菜の写真とかポスターを張り出せる……?」
「待って? お父さんとお母さんも何を言ってるの!? むしろ止めないとダメだと思いますっ! 親としてっ!」
「「ちょっとしか思ってないからセーフ」」
「アウトだよ!?」
僕のお家、いつの間に僕をここまで溺愛するお家になっちゃんったんだろうなぁ……。
男の時はここまでじゃなかった……ような気もしないでもない、けど…………あれ? 実はこれってあの時よりも今がちょっとだけ酷くなっちゃっただけで、根本はそんなに変わってないような……?
……色々と心配だよぉ。
でも、最悪の場合は学園、お休みしよう……!
◇
というわけで、みまちゃんを起こして夜ご飯に。
みまちゃんはよく食べてよく寝る子だからか、ご飯ですぐに起きます。
四人家族から五人家族になって、一人増えただけなのにすごく賑やかになった気がします。
まあ、お母さんたちも帰って来たから余計に、かも。
一時は一人だったからなぁ……。
女の子になるだけでも予想外なのに、娘もできたよ! なんて過去の自分に言っても信じないだろうなぁ。
そうしてご飯を食べ終えて、お風呂に入ってからまったりしている間に、みまちゃんが寝ちゃいました。
「椎菜ちゃん、今日配信するんだよね? 久しぶりの雑談」
「うん、そのつもりだよ~」
「その間、みまちゃん預かってよっか?」
「いいの?」
「もちろん! というか、こうでもしないと椎菜ちゃん、配信できなくない?」
「あ、あははは……まあ、みまちゃんがいるからね」
みまちゃん可愛いし、あまり目を離すのもね……まだまだ幼いわけで。
「というわけだから、今は私に任せて、配信どうぞ!」
「安心していいからね、椎菜。あ、私たちも見てるから」
「いやぁ、娘のああいう姿はいいもんだ」
「……家族に見られるのって、すっごくこう、恥ずかしいんだね……」
しかも、前向きに受け入れるどころか、むしろ嬉々として見てるのがなんとも、ね……。
僕はあんな姿を見られてたと思うと、顔から火が出そうだけど、何とか堪えて自分のお部屋へ。
みまちゃんはお姉ちゃんが膝枕しているので、多分大丈夫……だといいけど。
というわけで、早速配信の準備。
「……そう言えば、個人での雑談配信は久しぶりだなぁ」
なんだかんだでコラボ配信が続いたし……というより、僕の持ち味がそれになってるし、出張みたま家事サービスはコラボ前提の看板だから仕方ないと言えばそうなんだけど。
「とりあえず、ましゅまろも溜まっちゃってるし、何とか消費しないと!」
ふんすっ! とやる気を出す僕はいそいそと配信準備を進め、すぐに待機状態に。
そうすると、すぐに入って来てくれる視聴者さんたちが。
なんだろう、やっぱりこういう光景は嬉しくなるよね……。
「うん、今日も頑張ろうっ!」
実は個人の雑談配信を書くのは、実に約二ヵ月ぶりだったりします。ヤバくない? どんだけコラボってたの? このお狐ロリマザー。
あと余談ですが、シスコンはマジで国を取ろうとします。なんだったら、椎菜がお願いすれば、らいばーほーむの面々も、ね……尚、たつなだけは唯一止める側に回ります。他? みんな取りに行くよ。
まあ、シスコンがそもそも人外じみた強さしちゃってるからね。
あれ? この作品って、VTuber物ですよね? 日常物ですよね? なんで、戦闘力みたいなものがたまに出て来るんでしょうね。
途中までは、普通のTSVTuberものだったと思うんだけど……何があってこうなった?




