#82 事件性しかない、そんなショッピングモール
というわけで、ゲームセンター。
「わぁ~~~~っ!」
みまちゃんは初めてのゲームセンターを見るなり、それはもうすごく目をキラキラと輝かせて、ちょこちょこと動き回って、色々な物を見て回っていました。
特に気になったのはよくある子供向けのカードゲーム……ではなく、クレーンゲーム。
というより、クレーンゲームの景品かな?
「おかーさん、おかーさん。これ、なぁにっ?」
「これはクレーンゲームって言ってね、お金を入れてここのボタンを押して、上にあるあのクレーンを動かして景品をとるゲームだよ~。やってみる?」
「うんっ!」
あ、すごく目がキラキラしている。
うんうん、やっぱり神様とはいえ、本当に普通の子供だね~。
まあ、本当に子供なんだけど……。
なんだったら多分、生後一ヶ月とかそれくらいじゃないのかなぁ、みまちゃんって。
「じゃあ、やってみよっか。いい? ボタンはそれぞれ一回しか押せないからね? 長押しして、止めたいところでボタンを離すの。わかった?」
「やってみる」
そう言って、みまちゃんは人生(神生?)初のクレーンゲームに挑戦。
今回挑んでいるのは、デフォルメされた狐さんの可愛いぬいぐるみ。
みまちゃん、本当に狐さんが好きなんだなぁ。
僕も好きだけど。
「えいっ」
あ、掛け声可愛い。
まずはとばかりに、左に進むボタンを押して、ちょっとしてからみまちゃんはボタンを離しました。
「おかーさん、こっちのボタン?」
「そうそう。それで奥に行くから、ここっ! って思ったら止めればいいよ~」
「うんっ」
楽しそうな姿はほっこりします……こういう姿を見てると、こう、平穏な生活を送って、すくすくと優しい大人になってほしいと思います。
でも、神様の成長の仕方って、僕はよくわからないけどね。
「ここなのっ! ……あぅ~……」
みまちゃんがボタンを離した直後、クレーンが降りて来て、
どうやら、失敗しちゃったみたい。
「うぅ……おかーさん、とれなかった……」
肩を落としてしょんぼりとするみまちゃん。
「まあ、クレーンゲームは一回で取るものじゃないからねぇ……じゃあ、僕がやってあげよっか」
「とれる……?」
「もちろん」
……まあ、最悪の場合は取れるまでやる、なんて手段があるからっ……!
一応、ライバー用の口座のキャッシュカード持って来てるからね。
そこからみまちゃんの必要な物を買うのに必要なお金を出してるし。
とりあえず、2000円くらいを100円玉に両替して、早速挑戦。
見た所、二本爪タイプで、持ち上げて穴に落とす感じかぁ……。
でもこう言うのって確率機なんてお話をよく聞くよね……となると、こう、出口付近まで持って行って、片方のアームで掴むのがいいかも。
そう考えた僕は、とりあえずお試しとばかりに100円玉を投入。
極力出口がある右側に持って行こうと、左のアームを首の辺りに差し込んだら……。
「あ、あれ? なんか、引っかかっちゃった……?」
なんと、狐さんの首についている首輪? みたいなものにアームが刺さって、狐さんを持ち上げちゃいました。
え、えぇ? えぇぇぇ?
さ、さすがに途中で落ちる、よね? なんて思っていたら、狐さんのぬいぐるみを持ち上げたアームは出口の方まで行って……ぽとっ、と取り出し口に落ちました。
「と、取れちゃった」
「おかーさんすごーいっ!」
「た、たまたま、運がよかっただけだよ~。……じゃあ、はい、どうぞ~」
「わぁいっ」
狐さんのぬいぐるみを渡すと、みまちゃんはすごく嬉しそうにぎゅっとぬいぐるみを抱きしめました。
『『『ごふっ……!』』』
うんうん、子供にぬいぐるみはすごく合ってるね!
あと、みまちゃんは体が小さいので、ぬいぐるみに顔をうずめる形になっちゃってるのがすごく可愛いと思います。可愛いよ! みまちゃん!
「おかーさん、ありがとー!」
「いいよいいよ~。他にも何かやる?」
「んっと、んっと……おっ、おかーさんっ、あれなぁに?」
「あれ? ……あ、お菓子を取るゲームかな? 上手くやるとね、いっぱい取れるの」
「そうなんだ……!」
あ、みまちゃんがゲームに釘付けになっちゃった。
お菓子、欲しいのかな?
「やってみる?」
「やるー」
「じゃあ、はい、100円。こっちのボタンで流れてるお菓子を掬って、それをここに落とすの。タイミングが大事だよ?」
「うんっ……!」
というわけで、みまちゃんのプレイ。
さっきのクレーンゲームとは違って、こっちは本当に子供でも出来るような簡単な物だから、取れるといいけど……。
なんてみまちゃんのプレイを見守っていると、最初のボタンを押したら、かなりのお菓子を掬い取っていました。
あ、上手!
そんなみまちゃんはすごく真剣な表情で、じーっと落とすタイミングを見計らっていました。
そうして、前後に動く台が後ろに行ってほんの少しした瞬間に、二つ目のボタンを押してお菓子を落とす。
すると、綺麗に後ろの方にお菓子が乗って、手前にあったお菓子を押し出して……がこんっ! とたまたま前に出ていた重りが落ちて、大きいお菓子の方も取れました。
「ひぅ!? お、おかーさん! お、おっきーのが、おっきーのがっ……!」
あまりに真剣してたからか、みまちゃんはいきなり落ちて来た大きいお菓子にびっくりして、僕に抱き着いて来ました。
ちょっと震えている辺り、怖くなっちゃったのかな?
「よしよし、大丈夫だよ~。あれも景品なの。みまちゃん、上手だね~」
「あれももらえるの……?」
「うん! 店員さん呼ばないと……あ、丁度いい所に、すみませーん!」
こう言うのって大きいから取れないから、店員さんを呼ばないといけないので、辺りを見回していると、ちょうど店員さんが一人通りがかったので、店員さんを呼ぶ。
声に気付いた店員さんがこちらに向かって来てくれました。
「いかがなさいましたか?」
「あ、この娘がお菓子を取りまして、これを取っていただきたくて」
「それは、おめでとうございます! すぐにお取りしますね! 袋はご利用でしょうか?」
「お願いします」
「かしこまりました!」
そう言って、店員さんは筐体のドームになっている部分を開くと、そこから引っかかっていた大きなお菓子を取ってくれて、袋に入れて手渡してくれました。
「どうぞ!」
「ありがとうございます、店員さん!」
「ありがとー、おにーさん!」
「んぐっ」
すごく微笑ましくなるような、笑顔でお礼を言うみまちゃんに、店員さんはなぜか胸を抑えて少し前かがみに。
「大丈夫ですか?」
「あ、い、いえっ、大丈夫ですっ! 引き続き、お楽しみください!」
そう言って、どこかふらふらとする足取りで店員さんは去っていきました。
『ごはっ……』
『ちょっ、どうした!? なんで急に血を吐く!?』
『て、天使たちが、いた……ごふっ……』
『何があった!? お、起きろ! 死ぬにはまだ早いぞ! 起きろ! 起きろーーーー!』
あれ? なんだか、向こうが騒がしい気が……気のせいかな?
「みまちゃん、他にもまだやる?」
「んーん! まんぞく!」
「そっか。じゃあ次は……あー、そう言えばランドセル、見ておこうかなぁ……今日は買わないけど、今のうちに好きな色を見ておくのもいいし……うん。みまちゃん、ちょっとランドセルを見に行こっか」
「らんどせる?」
「そう、ランドセル。小学生が学校に荷物を持っていくためのカバンだよ~」
「いくっ!」
「じゃあ、行こっか」
というわけで、次に向かったのはランドセルを売っているお店。
そこでは色とりどりなランドセルが売られていました。
昔は黒と赤しかなかったー、なんてお話をよく聞くけど、僕は青いランドセルだったなぁ。
周りは黒とか赤がやっぱり多かったけど。
「みまちゃん、今日はまだ買わないけど、どの色がいい? なんでもいいよ?」
「おかーさんはなにいろ?」
「僕は青だったよ~。ああいう色」
「みまも、あれにするっ……!」
「え、あれでいいの? 他にもあるよ?」
「んーん、みま、おかーさんとおんなじがいー!」
「そっか。じゃあ、あれにしようね。お母さんたちに伝えておかないと」
今日は荷物が多いから難しいけど、明日か明後日辺りにお母さんたちと一緒に行くことになると思うし……って、あれ、電話だ。
お姉ちゃん?
「もしもし? お姉ちゃん?」
『やっはろー! 椎菜ちゃん! 今ってみまちゃんとお出かけ中?』
「うん、ランドセルを見てるところだけど、どうしたの?」
『いや仕事が早く終わってね。だから、どうせなら二人を迎えに行ってあげようかと!』
「え、いいの!?」
『もちろん! というか、今から私がそっちへ行くよ? 大荷物だよね?』
「そうだね。みまちゃんのお洋服とかゲームセンターで取った大量のお菓子とか。他にも色々……って、あっ! お姉ちゃん、一つお願いが――」
『何でも言ってすぐに叶えるよさぁどうぞ!』
「あ、う、うん、えっと、今日みまちゃんの戸籍を取りに行くはずだったんだけど、すっかり忘れていて……代わりに取りに行ってもらえる?」
『いいよー! さっさと終わらせてそっちに合流しよう! この時間なら……まあ、すぐ終わるだろうし、捕まらない程度にかっ飛ばすから、待っててね!』
「うん! ありがとう、お姉ちゃん!」
『いいってことさ! じゃあ、ちょいと待っててね!』
そう言って通話は終了。
これで今日ランドセルを買っちゃっても問題は無し、と。
でも、今は荷物がいっぱいなので、お姉ちゃんが来るまで待たないと。
「みまちゃん、お姉ちゃんが来るみたいだから、ちょっとあそこの椅子でちょっと休憩しよっか」
「うん……」
と、ふと横を見ると、みまちゃんが眠そうにうつらうつらとしていました。
あ、子供特有の、急に電池が切れちゃうような、そんな状態に……!
寝ちゃいそうなので、急いでみまちゃんを連れて椅子というか、ソファーの方に。
荷物を置いて座ると、みまちゃんも横にちょこんと座って……こてん、と僕に寄りかかるように寝ちゃいました。
あっ、ね、寝ちゃった!?
「くぅ……すぅ……んんぅ……」
ど、どうしよう、ここ公共の場なんだけどっ……!
お姉ちゃん! 早く来て! お姉ちゃんっ!
それから三十分ほど経った頃……。
「いやぁ、椎菜ちゃんお待たせお待たせ! って、ごふぁっ!」
「お姉ちゃん!?」
僕たちの所に来たお姉ちゃんは、僕たちを見るなり血を吐いて倒れました。
なんで!?
「よ、洋服のみまちゃん、か、可愛すぎ……あ、あと、寄りかかって、寝るとか……は、反則ぅ……あぁっ、生きててよかったっ……椎菜ちゃんのお姉ちゃんで、みまちゃんの叔母でよかったっ……!」
「いやお姉ちゃん死にかけちゃってるよ!? 大丈夫!?」
「あ、これ戸籍」
何事もなかったかのように起き上がると、カバンから封筒を取り出してそれを僕に手渡して……また倒れました。
「ありがとう……って、あれ、今すぐに起き上がらなかった……?」
「き、きのせい……ごふっ」
お姉ちゃん、あの、ここショッピングモール……血は吐いちゃだめだよ……なんて周囲を見回したら、
『『『( ˘ω˘)スヤァ』』』
そこには、いい顔で鼻血を流しながら倒れてたり、椅子に座り込んだりする人たちが……って、え、なにこの状況!?
え!? えぇぇ!?
「お、お姉ちゃん、事件だよ!? ひ、人がっ!」
「……まあ、二人の、可愛さは、じ、事件だけど、ね……へへ……」
「どういう意味!?」
「と、とりあえず、ら、ランドセル、買うん、でしょ……? い、行こうぜぇ……」
「お姉ちゃん、すごく満身創痍だよ? ラスボスを倒した勇者さんみたいに、すごく満身創痍だよ……?」
「つまり、椎菜ちゃんのみまちゃんは、ら、ラスボスということかっ……いや、それなら全然支配されたい……可愛いで支配される……理想郷では?」
「お姉ちゃん!?」
「と、とりあえず、い、行こうか……!」
ちょっと風が吹いただけで倒れちゃいそうなお姉ちゃんを心配しながらも、お姉ちゃんは僕の荷物を持ってくれて、僕は寝てるみまちゃんをおんぶしてさっきのランドセル売り場へ。
そこで青いランドセルを買ってからお姉ちゃんが運転してきた車に戻って、そのまま帰宅となりました。
楽しかったけど、倒れてた人たちは大丈夫なのかな……?
この日以降、このショッピングモールには、血を綺麗に掃除するための部署が設立されたそうです。
原因はどっかのお狐ロリ母娘なんですが、まあ、うん、周りに尊死を振りまいてる時点で、マジで平気か何かですよねこれ。光と闇が合わさってるんじゃなくて、光と光が合わさって闇が全て浄化されたようなもんですよね、これ。




