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ずっと一緒にいた幼馴染は、どうやら僕とは付き合わないらしい

似てない二人は、とてもよく似ている

作者: A

 我が桐谷家には頑固で、マイペースでとても手のかかる二人がいる。

 

 一人は夫の桐谷 宗玄そうげん、もう一人は娘の桐谷 花音かのん


 純日本人の風貌をした夫と私の方に似た花音の外見は本当に親子かというほど似ていないけど、彼らをよく知っている人は二人はとてもよく似ていると言う。





 夕食を食べ終わると、今年ようやく高校生になった娘がいつものように日課の準備をせっせと始めた。


 自立式のスクリーンから始まりプロジェクター、パソコン、ポインター。お年玉と誕生日で少しずつそろえた機材は最早大人顔負けだろう。


 正直、その極端さがいかにも娘らしいと苦笑してしまう。


 それに、どうせ長くなるのはわかってる。なので私は、最近作り方を覚えたアップルパイを焼くことにした。



「お父さん……今日こそ諦めて貰う」


「ふん、絶対に認めん」




 どうやら、ゴングは鳴ったらしい。花音がパワーポイントを画面に映しそれに説明を加えていく。


 まず、最初に陽人君の能力値がレーダーチャートで出され、その根拠の説明が始まった。優しさだけが枠外にはみ出ているのはご愛嬌だろうか。

 

 そして、次に自分との相性。欠点を全て補う関係と締めくくられ、最後に無駄にポップなハートがアニメーション付きで回り出す。


 

「あははっ。それは予想してなかったわ」


 

 花音らしくない不意打ちの演出につい、笑い出してしまう。恐らく、最近読んでる少女漫画の影響だろう。


 だが、それはお父さんには逆効果だったらしい。眉間に皴を寄せ今まで以上に険しい顔になっている。元々の顔が強面なのでまるでヤクザのような顔つきだった。


 まぁ花音は、それを全く気にせずどんどん次のスライドにいっているが。




「これが、今。で、これが未来」

 

 

 

 現在の学力から想定される進学先、就職傾向とそこから推測される年収が表示された後、将来の生活費、住居費、その他支出が表にして映し出される。


 ただ、画面の端に書かれた予測インフレ率とやらは本当にいるのだろうかと疑問に思った。

 

 そして、その後、人生で発生するだろうライフイベントとそれにかかる支出、ライフステージの変化による二人の関係の変化など、時間軸に沿った流れで人生設計が説明され今夜のプレゼンは終了した。



「どう?」



 得意げに語る娘はちょっと可愛い。



「ふん。まだ高校一年生も始め、中学生の学力など当てにならん」


「陽人なら大丈夫」


「それは根拠にならん」


「むー」


「それと、どうして子供が男の子一人だけなんだ」


「……内緒」


「それだとわからんだろう」

 


 確かに、なんで男の子で、それに一人だけなんだろう。


 疑問に思い私も考えてみたが、しばらくしてなんとなく分かった。


 片方だけ絶対に置いてけぼりの可哀想な手袋、それと意外に独占欲の強い性格。


 たぶん花音は、その大事な手の温もりを他の女の子に渡したくないのかもしれない。たとえそれが娘であっても。



「言いたくない」


「なんだそれは、はっきりしなさい」



 これは、ちょっと花音が可哀想だろう。どうせ言ってもお父さんは不機嫌になるのだろうし。

 

 だから、私は間に入ることにした。出来立てのアップルパイを持って。



「ほら、二人とも。今日はこれくらいにしましょ?アップルパイを作ってみたの」



 二人は、あまり表情には出ないが、甘いものが大好きだ。恐らく今日のも気に入ってくれるだろう。



「母さん。しかしな」


「お願い。ね?どうしても温かいうちに食べて欲しいの」


「…………わかった」


「ありがとう。さぁ花音も食べて」

 

「ん」



 無言で、フォークをつつく二人。でもその食べるスピードは、表情と反比例したようにとても早くて、あっという間に消えていく。

 


「初めて作ったんだけど。どうだった?おかわりもあるんだけど」

「悪くない」

「嫌いじゃない」


 私が問いかけると、父娘が揃って愛想のない言葉を言う。


 だが、同時に出された空のお皿が言葉以上にその想いを語ってくれた。



「ふふっ。ありがとう」



 個人的には陽人君のことはとても優しく、頼りがいのあるいい子だと思っている。


 それにお父さんも、口には出さないが、いつもどこか寂しそうだった花音が毎日楽しそうに外に行くようになったことを感謝しているようだ。




 今はまだ、花音の想い人に出した答えは逆のものだけど、いつの日か重なる時が来るのだろう。

  

 だって二人はそれこそ、そっくりなほどにとてもよく似ているから。


 きっと、最後に出す答えは同じなのだろうと私は思った。


※下記は作品とは関係ありませんので、該当の方のみお読みください。


【お誘い】絵を描かれる方へ

絵に合わせた作品を執筆してみたいと思っております。興味を惹かれた方は一度活動報告をご覧頂けると幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] どの作品も空気感、話しの流れがすごく好きな感じです。
[一言] その娘に付き合う父親も可愛らしい/w まあでも本来そのプレゼンをするのは娘ではなく、彼の方なんじゃないか、とか思ったりもする。
[一言] このシリーズ位の文章が好みです。他の作品の視点変更は重なる部分が多すぎてちょっと途中で飽きてしまったので
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