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05



 あの炎は確かにルー君のでした。

 たぶんスキルだと思う。でも確証はない。ルー君との会話はなんとなくわかるくらいしか通じないので細かいところは難しい。

 でもあの炎はルー君の? って聞いたらきゅっ、と頷いてた。


 最初から罠じゃなくてルー君が私を助けてくれてたんだ。

 ルー君は本当に私の王子様かもしれない。子狐だけど。


 ルー君に改めてお礼を言って抱きしめて手櫛でたっぷり撫でてあげる。

 ここはどうやら『敵』の入れない安全地帯のようだ。

 川の中にも何も居らず、木の上や草の中にも何も居ないことは確認済みだ。もし私の目を逃れて『敵』が潜伏していたらお手上げだけど。

 でもルー君なら気づいてくれると思う。匂いじゃないなら何を頼りに『敵』を感知しているのかはわからないけれど。

 今のところルー君は私の撫で撫ででとても上機嫌にお腹を見せている。

 こんなにのんびりしているならだぶん大丈夫だろう。


 何時間も歩き回ってたし、緊張に次ぐ緊張と命を賭けてのやり取り――実際には戦ってないけど――に私はどうやら酷く疲れてしまっていたようだ。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







「きゅぅ~……」

「……ん……ぅぅん……」

「きゅぅ~きゅ~」

「……ん……? あ……れ……?」

「きゅ! きゅぅー!」


 頬にざらざらする感触。くすぐったいその感触とちょっと物悲しくも聞き覚えのある鳴き声はとても私を安心させてくれる存在だ。


 ……物悲しい?


「ルー君!? どうしたの!?」

「きゅぅ~」


 まどろみに揺蕩っていた私の意識が一気に覚醒する。

 ルー君が悲しんでいるのに寝てなんていられない!


 覚醒した私の胸の上にはルー君がどことなく元気がなく乗っかっていて慌てて落とすところだった。


「ルー君、どうしたの? どこか痛いの?」

「きゅぅ」


 私の問いに首を振って答えるルー君。

 痛いわけじゃないみたい……。じゃあ一体……。


「寂しかったの……?」

「きゅぅ」


 その問いに一瞬首を縦に振ろうとして横に振るルー君。

 ちぇ、違ったかー。じゃあ一体どうし……あ。


「もしかしてお腹空いてるの?」

「きゅ! きゅー!」


 どうやら正解だったようだ。

 私はお腹が空かないからてっきりルー君もお腹が空かないものだとばかり思っていた。

 そうか……。使い魔ってお腹空くんだ……。


「あ、でもルー君って何食べるの? 『敵』は消滅しちゃうから食べられないし……。草……はだめだよね。

 木の皮……もだめ。えっと……」


 私の言葉に合わせて首を振って答えるルー君に一体何を食べさせたらいいのだろうと悩む。

 まず食材となるものがない。

 あれ? でも本当にない?


「ちょ、ちょっと待ってね、ルー君」


 寝る前に脇に置いておいたカタログを引っつかんで『アイテム一覧』の後ろの方をぱぱっと開く。


「あった! ルー君、どれがいい? っていうか文字読める?」

「……きゅ!」


 ルー君に『アイテム一覧』の後ろの方のページにあった食材アイテムのカテゴリーに分類されるアイテムを見せてみると、眺めた後にたしたし、と前足であるアイテムを教えてくれた。

 冗談で言ったんだけど本当に文字も読めるみたいだし、本当に頭のいい子だ。


「ほ、ほんとにそれでいいの?」

「きゅっ!」

「る、ルー君がそういうなら……」


 ルー君が選んだ食材アイテムは『油揚げ』。

 毛並みが赤くても、小さくても、ルー君は立派なお狐様だったようです。

 10枚1セットで笹の葉? で包まれた油揚げ。『必要魔力』10という安いのか高いのかいまいちわからない値段の『油揚げ』を取得するとさっそくルー君はその1枚にかぶりついた。

 がつがつ、ととてもおいしそうに食べているルー君にとてもほっこりした気持ちになりました。


 2枚目、3枚目と食べたところでどうやらお腹いっぱいになったようだ。

 前足で器用に顔を拭いながら前足も舐める仕草はとても愛らしい。ついつい見惚れてしまうくらいに。


「きゅ~!」

「ふふ……。美味しかった?」

「きゅっ!」

「残りはどうしようか? このままじゃ腐っちゃうかな?」

「きゅぅ~?」


 残りの油揚げは少しくらいなら保存は出来るだろうけど、1回でルー君は3枚食べれば十分だ。残りは7枚もある。

 魔力を10使って取得したアイテムなんだし、出来れば有効に使いたい。


「うーん……。保存出来そうなアイテムってないのかな……。冷蔵庫とかタッパーとか」


 冷蔵庫は言い過ぎとしてもタッパーくらいは欲しい。あ、でもその前に鞄も欲しいかな……。さすがにタッパーそのままだと持ち運びが面倒だし……。


 カタログを適当に開いて『アイテム一覧』を眺める。

 ルー君も私の脇の方から頭を突っ込んで一緒にみるようだ。その様子に頬が緩むけど、早いところ入れる物を探さないとね。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 カタログをぺらぺらと捲っていると、鞄のカテゴリーのページがあった。

 たくさんの鞄があるようで、肩掛け鞄から手提げ鞄。ポーチに巾着袋。何でも揃っている。

 その中でも1番私の気を引いたのは『魔法の鞄』だ。

 正式名称は『魔法の鞄(空間容量50)』。この空間容量というのが気になった。

 ゲームとかではアイテムは大体無限にもてたり、一定数の制限付きだったりする。でも制限付きは大体何かしらの特殊なアイテムなんかで容量を増やせる。

 ページを捲って見るとやっぱりあった。『空間容量増加+10』。さすがは魔法の鞄だ。もしかしたらこれで見た目は変わらず、でも大量の物が入れられる鞄が出来るんじゃないだろうか。


 ……単純に鞄が大きくなるだけなら悲しいけれど。


 ちなみに『魔法の鞄(空間容量50)』は結構安い。といっても60だ。

 皮の帽子より若干高いだけだし、魔力も残り99ある。買えない額じゃない……。

 ちなみにただの鞄は10とかその辺の額でした。鞄は全体的に見ても安いようだ。


 あ、でもまずはタッパーも探さないと……。


 ページをぺらぺら捲ってもタッパーはありませんでした。便利道具がいっぱいあるって言ってたくせにぃー!


 仕方ないので『魔法の鞄(空間容量50)』を取得することにした。

 取得した『魔法の鞄(空間容量50)』は肩掛け用の紐が長めの鞄。デザインは無骨というか実用性重視というかお洒落とは程遠いものだけどすでに皮の帽子でお洒落なんて諦めている。

 今は見た目より生きることだ。


 鞄の蓋となっている被せを捲って中を見てみると真っ暗。

 なんだろうコレが魔法の鞄故なのだろうか。試しにその辺に転がっている石を入れてみた。

 入れたはずの石は真っ暗で見えない。鞄を持ち上げて見ると石分の重さは感じない……というか石が小さすぎてよくわからない。

 今度は銅の短剣を入れてみることにした。小剣といっても通じてしまうくらい長い刃にずっしりした重み。これが入れば鞄の重量が増えているかどうかわかるだろう。

 あ、でもなくなったら困るので先に入れた石を取り出してみよう。


 鞄をひっくり返しても石は出てこなかったので、恐る恐る手を入れてみると石の感触を発見。掴んで出してみてもさっき入れた石だった。突っ込んだ手の距離からして見えてもいいくらいの近さだったのに、どうなってんだろうほんと。

 でも取り出せるのはわかったので今度は重さの実験。

 さくっと銅の短剣を突っ込んで鞄を持ち上げて見る。


「おぉ……軽い」

「きゅ」


 思わずそう声が出てしまうほどのちょっとした衝撃だ。

 ベルトがなかったらジーパンがずり落ちてしまうくらいの重さの銅の短剣が入っているのにまったく感じない。これはすごい鞄だ。

 ……よかった。安い方の普通の鞄を取得しなくて。


 銅の短剣を取り出して腰に戻すと、本命の油揚げを入れてみる。

 タッパーがなかったのは残念だけど、油揚げ10枚を包んでいた笹みたいな葉に包みなおしてから入れたから、もし鞄の中が汚れてもさほどではないだろう、たぶん。


 ……うぅん、やっぱりタッパー欲しい……。


 何か代わりに使える物はないかと『アイテム一覧』を見ていると、ちょうど顔を上げたところで角を曲がってきたゴブリンを発見してしまった。

 一瞬ビクッとしてしまったけど、あの膜がある限りは大丈夫……大丈夫。


「る、ルー君。起きて起きて」

「……きゅぅぃ~?」


 いつの間にか寝てしまっていたルー君をゆすって起こすと、とても可愛らしい声でお鳴きになってくれちゃってます。今すぐ抱きしめてすりすりしたい。

 でもゴブリンは待っちゃくれないみたいだ。


 私達を発見したゴブリンが棍棒を振り上げて奇声を上げて突進して……膜にぶつかって跳ね返っていった。

 ……あぁ膜様ありがとうございます。本当に。


 さすがにゴブリンの奇声で目を完全に覚ましたルー君が膜に向かって駆け出す。

 私も短剣を抜いてすぐに追いかけるけど、私に何が出来るんだろう? ルー君のあの炎ならゴブリンなんて一瞬で燃え尽きちゃうし。

 でも何もしないで待ってるよりはいい。ルー君だけを戦わせるなんて……例え足手まといで何も出来なくても、絶対に嫌!



 とか思ってた時期が私にもありました。

 私が膜にたどり着くよりも早く膜をすり抜けたルー君が灯火1発。

 哀れゴブリンは一瞬で燃え尽きて灰も残さず光の粒子と相成りました。


 ……ルー君まじつえー……。




4/4 誤字修正

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