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04



 のろのろ、と牛歩以下の歩みで慎重に罠を探しながら通路を進む。

 遅々として進まない歩みだけど、死ぬよりはずっとマシだ。

 ルー君も私に付き合ってゆっくり慎重に歩いてくれている。本当に頭のいい子だと思う。


 通路の先は角になっていてまた見えない。

 でも角までは何もいないことがはっきりとわかるくらいに明るい。それでも罠がどこにあるのかなんてさっぱりわからないんだけれど。


 角に辿りついて慎重に先の様子を探ると何か居た。

 ルー君が気づかなかったのはどうやら先の通路の角から現れたばかりだったからのようだ。匂いで判断してるんじゃないのかな?

 一瞬だけど目視で確認出来たことにより、『敵』が居ることはわかった。

 私の緊張が伝わったのかルー君も『敵』の存在を感知して四肢で力強く石の地面を掴んで戦闘体勢だ。


 さっき一瞬見た時に見えた『敵』は簡単にいうと二足歩行の犬。

 そう、ゴブリンじゃなかったのだ。

 たぶんアイツはコボルトだ。ごわごわな毛並みは一瞬だったけどよくわかったし、手には何ももっていなかった。多分爪とか噛み付き攻撃をしてくるんだ。


 こっちの武器も刃渡り40cmくらいの銅の短剣。

 ゴブリンよりも体格は小さいとはいえ、爪や噛み付きをかわして攻撃できるのだろうか……。

 もう生物を傷つけられないなんて言ってる場合じゃないのはわかっている。今度は運良く罠で勝手に自滅してくれるなんて都合のいいことも起きないだろう。


 覚悟を……。覚悟を決めなくちゃ。


「……よし!」


 今なら角で私は相手に気づかれていない。

 奇襲するなら絶好のチャンスだろう。奇襲といっても相手よりも若干先手を取れるくらいだろう。

 短剣を思いっきり突き刺してすぐに離れよう。よし、プランはこれで……。

 あとは待つだけ……。ルー君、私頑張るよ。


 大きく深呼吸をして足元にいるはずのルー君に視線を移したら……ルー君がちょうど角から躍り出たところだった。


「ええぇぇぇ!? ルー君!?」


 慌てて私もその後を追うけれど、角を出た瞬間見たものはコボルトが真っ赤な炎に包まれているところだった。


 ……また?


 あっという間にゴブリンと同じく、いやゴブリンよりも毛が多いから燃え易かったのだろうか。とにかく光の粒子となって消滅したコボルト。

 わ、私の決意を返せ……。


 がっくりと項垂れる私の足元にルー君が擦り寄ってきた。

 短剣を鞘に納めて抱き上げてきゅっと抱きしめる。ルー君は狐なのにいい匂いがする。不思議。

 それになんだか暖かい。いや、熱いくらいだ。


「ルー君……。『敵』が罠を踏んで自爆していくよ。そりゃ私としては手を汚さなくてよくて嬉しいけどさ……」

「きゅぅ?」

「ふぅ……。ごめんね。先行こう?」

「きゅ!」


 ルー君が頬をぺろぺろ舐めてくれるので沈んだ気分も持ち上がってきた。

 どうせいつかは自分の手を汚す時がやってくるんだ。遅いか早いかの違いでしかない。

 その時に覚悟が決まっていないような事態にならないように今からでもしっかり覚悟しておこう。うん、そうしよう。さっきのは練習練習。


 ルー君を降ろして慎重に進む。

 コボルトが燃え尽きた辺りは特に慎重に。

 石橋を叩き壊して渡れなくしてしまうくらいに慎重に短剣で突っつきながら進み、やっと角まで来た。

 お馴染みの覗きを開始して何もいないことがわかるとまたゆっくり進む。


 先は角じゃなくて部屋になっているみたいだ。

 しかもなんだろう。部屋の中から水の音がする。ダンジョンに水……?


「きゅっきゅ!」


 心なしかルー君の鳴き声も嬉しそう。足取りもかなり軽くなっていて今にも走り出しそうだ。


「ルー君、罠があったら大変だから走っちゃだめだよ?」

「きゅ!」


 元気に返事を返すルー君だけど、そわそわしているのは変わらない。

 ごめんね。本当なら遊びたい盛りだろうに……。安全なところを見つけたらいっぱい遊んであげるからそれまで我慢してね……。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆








 水の音がする部屋にはなんと川が流れていた。というか滝がある。何コレ。

 部屋のサイズは前の部屋と同じくらい。

 でも部屋の半分くらいを川が流れ、その奥に壁から水が流れる滝がある。

 地面も他の場所とは違っていて土があり、草が生えていて……木も生えていた。

 場違いな風景を見ているようで呆然としてしまったけど、ルー君がたしたし、と私の足を前足で叩いて引き戻してくれた。

 どうやら部屋に入りたいけど、私が止まってしまっていたから入らなかったようだ。


「ごめんね、ルー君。あまりにも……その……変な場所だなぁと」

「きゅ~」


 なんだかルー君も同意しているような気がする。

 とにかく、部屋の中には『敵』はいないみたいだし、入ってみよう。


「わっ!」


 部屋の中にゆっくりと1歩を踏み出した瞬間、最初の部屋を出た時みたいな何かの膜を通ったような感じがした。

 驚いて通路にすぐ戻ってしまったけど、ルー君は部屋の中だ。

 そのまま私に向かって小首を傾げている。可愛い。


「る、ルー君……。平気……?」

「きゅ!」


 どうやら平気みたいだ。なんなんだろうこの膜。

 しゃがんで指で突っついて見ると弾力があるようなないような。シャボン玉のような極薄の膜があるみたいだけど、目には一切みえない。

 指だけ突っ込んでみるけどやっぱり特に何もない。

 ルー君もあっち側だし、私が突っ込んだ指をぺろぺろ舐めている。くすぐったいよぉ。


「だ、大丈夫……だよ……ね?」


 そう呟いた時だった。ルー君が警戒態勢を取った。


 『敵』!?


 慌てて後ろを振り返ればそこには二足歩行の犬――コボルト。

 角から出てきたばかりでまだ距離はあるものの目と鼻の先なのは変わりない。


「わ、わ、わあぁぁ!?」


 しゃがんでいたのも忘れて急いで走り出そうとして足が見事にもつれた。

 情けなくも顔面からこけて部屋の中に転がり込んでしまう。鼻が……痛いよぅ。

 擦ってしまった鼻を押さえながらも腰の短剣を引き抜いて転んだまま振り返り切っ先を向ける。

 立ってる暇はない、と判断してとにかく切っ先だけでも向ければ怯んでくれるかもしれない、と希望的観測の下行った行為だけど……無意味に終わった。


「ゴギャ!?」


 なぜならコボルトは部屋に入ってこれなかった。

 正確には部屋の入り口に張られていた膜に激突して跳ね返されていた。

 私が触った時には弾力があるかないかもわからないようなものだったのにどうして……。


「グルルル」


 1,2度突進を繰り返したコボルトだけど、その悉くを膜に阻まれて跳ね返されていた。

 どうやらこの膜がある限りはアイツはこの部屋に入ってこれないようだ。

 でもいつなくなるのかわからない。どうしたらいいんだろう。


 突進してきた時に短剣を膜に刺して攻撃すればいいんだろうか。でもそれで膜がなくなってしまったら?

 一撃で倒せなければ反撃を受けるかもしれない。

 怪我は……痛いって『ルール一覧』に書いてあったっけ……。やだなぁ……。


「グルルア!」


 そんなことを考えていたらコボルトがいつの間にか距離を取り、再度突進を敢行してきた。

 迷ってる暇はない。やらなきゃ! 私が……アイツを倒さなきゃいけないんだ! ルー君は……私が守るんだ!


「ヤアアァ!」


 突進してくるコボルトに合わせて私も駆け出し、銅の短剣の鈍く煌く刃を向ける。


「きゅ!」

「へ!?」


 でも私よりも先に膜を通過したものが……ルー君だ。

 そして私は見た。


 ルー君が小さな灯火を口から吐き出し、その灯火が高速でコボルトに向かっていくのを。

 突進で勢いが付き、高速で吐き出された灯火を避ける余地などまるでなく、一瞬にしてコボルトは火達磨になって膜に激突して跳ね返って光の粒子になった。


 私は膜に到達することもなく立ち尽くしていた。


「あの炎は……ルー君だった……の? 罠じゃなくて?」

「きゅっ!」


 ルー君の顔は間違いなく……すごいドヤ顔だったと思う。




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