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 爽快な目覚めとはまさにこのことだと思う。

 今まで木に背を預けて寝たり、皮のローブに包まって寝ていたから体が変に固まっていたけど、目覚めたら疲れも体の固まりも何もなく爽快この上なかった。

 お布団ってすごい……。私はもうこのお布団がなければ生きていけないと思う……。


「……きゅぃ! きゅ!」

「ホホォ。ホォ」

「おはよう、2人共」


 私が目覚めてすぐに2人も目が覚めたようだ。

 恐るべき策略で真ん中を陣取ってスヤスヤと寝ていたロウ君は私が寝るためにスペースが必要だったからルー君の横にスススー、と移動させていただきました。

 たぶんそれも織り込み済みだったのだろう。ロウ君は特に文句を言っている様子もない。

 2人共爽快な目覚めのようで元気いっぱいだ。


 やっぱりお布団は最強だ。取得して大正解だった。


 朝は泉の水を桶に汲んで顔を洗い、歯を磨いてうがいをして、髪を整えて着替えれば私の準備は終わり。

 2人も小桶に汲んであげた水をパシャパシャさせてさっぱりしたら毛繕いをして完成だ。

 朝ごはんにいつもの油揚げをお皿に盛り付けてあげて、私は2人が食べている間にカタログをチェック。


 まぁ何も変わらないけど一応ね。


 2人のご飯が終われば少し休憩してから『声援魔法』の練習だ。

 調節する量を細かく出来るように練習する。休憩と『声援魔法』を交互にしながらだ。

 昨日よりも今日の方が細かく量を調節できるようになったような気がする。

 分かり易く何かがあるわけじゃないから私の気のせいかもしれないけれど、全開で使ったときと1番小さい量で使ったときの疲れ具合はよくわかるほど違う。それだけでも『声援魔法』を少しは使いこなせてきている確かな証拠だ。


 練習後は探索のための会議だ。

 コウモリ地帯の探索は終わったので、未踏破領域に乗り出してもいいんだけど今の『魔力総量』は611。

 どこかで使い魔の卵を手に入れたら『使い魔使役Lv3』をなるべく早く取得したい。

 そのためにも魔力を集めておかないといけない。『声援魔法Lv2』も欲しい。

 未踏破領域に行く前にもう1度コウモリ地帯に行って魔力を集めるべきだろうか……。


「どう思う、2人共?」

「きゅぅきゅぃ!」

「ホホホォ? ホォホホ」

「きゅぃきゅきゅぅ」

「ホホ。ホォ」

「きゅぃ!」


 お馴染みの2人の相談が終わったみたいだ。さてどうなったのかな?


「コウモリ地帯に行く?」

「きゅぅ」

「じゃああのT字路の方の未踏破領域へ?」

「きゅぃ!」

「ロウ君もそれでいい?」

「ホォ」

「わかった。じゃあ未踏破領域へ行こう!」

「きゅきゅい!」

「ホホホォ!」


 作戦会議の結果、未踏破領域へ探索を進めることになった。

 使い魔の卵は絶対手に入るわけでもないし、声援魔法も必ずしも必要ではない。

 それに魔力を集めるのは探索しながらでも出来ることだ。

 この結果に私も異存はない。みんなで決めた事だもの、あるわけないよ?


 素晴らしい爽快な眠りを齎してくれたお布団を綺麗に畳んでシートでさらに包む。

 そのまま魔法の鞄に入るのかちょっと不安だったけど、まるで吸い込まれるようにシートに包まれた『お布団セット』は鞄の中に入ってくれた。

 その光景は一言でいえばシュールだった。非現実的すぎてそういうものとしか言えない。

 まぁもう慣れっこだけどね。


 入らなかったら逆に困った事になるところだったし、問題ないよ!







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 コウモリ地帯を通らずに最初のルートから未踏破領域を探索する。

 長い長い直線通路に出るとすぐにウサギが突進してきたけど、ルー君によって魔力に還元。

 いつものように後ろと床に注意を向けつつ進んでいく。

 念のため時々天井も確認しているけど、この辺はコウモリが出てこないから多分大丈夫。


 少し進めば左に続く長い通路が出てくる。こっちも未踏破領域だけど、今日はこのまま直進してT字路を左へ行く事に決定しているのでスルーだ。

 安全地帯に近い方の未踏破領域はなぜかあまりよい予感がしなかったので私は今のところ行きたくない。ルー君達は特に何も思わなかったみたいだけど私の意見を尊重してくれた。


 気をつけながら進み、『敵』を3匹魔力にしたところでT字路についた。

 ここを右に行けばコウモリ地帯となり、ぐるッと回って安全地帯だ。

 でも今日行くのは左側。未踏破領域だ。


「さぁいこう……!」

「きゅ!」

「ホォ」


 1回転して華麗な着地を決めるルー君が頼もしい。

 逆にテンションがまったく変わらないロウ君の冷静沈着ぶりも一週回って頼もしい。


 未踏破領域はまっすぐ伸びる通路で行き止まりが一応見える。

 でもその先がただの行き止まりなのか別の通路があるのかはわからない。ただなんとなく行き止まりではない気はする。


 行くと決めたのだからいつまでも立ち止まっていては始まらない。

 後ろを確認して、足元を確認。ついでに天井も確認して最後にさっきまで通ってきた凄まじく長い通路を確認……あ、『敵』。


「……きゅ~ぃ!」

「『スピード』!」


 『気配探知』外に光の粒子が集まっているのを見つけるとさっそくルー君がダッシュする。

 ちょっと距離があったので威力を調整した『声援魔法』をルー君にかけてあげればあっという間に距離は詰まる。

 私達も少し追いかけてルー君とあまり距離を離さないようにする。


 光の粒子が集まって出てきた『敵』は一瞬にしてルー君の『紅蓮灯火』で燃え尽きて魔力になった。

 威力を調整したとはいっても『声援魔法』を受けたルー君はすごいスピードで走れる。

 それに『長射程(ロングレンジ)』が加わればルー君の射程はすごい長さになる。コウモリの攻撃だって届かないほどの長さだ。ウサギやネズミでは相手にすらならないのは当然の結果だ。


 気を取り直してT字路まで戻ってくると今度は迷うことなく未踏破領域へと進んでいく。

 未踏破領域だからこれまで以上に慎重に進む。

 頻繁に後ろを振り返り、床を確認し天井を確認する。


 すると天井に黒い塊が集まっているのを発見した。『敵』だ!

 しかもコウモリだ。こっちにもコウモリがいるみたいだ。

 しかも出現する瞬間だ。偶然だろうか。まぁ考えても始まらない。


「ルー君、上!」

「きゅぃ!」


 不用意に近づかなければコウモリだってウサギやネズミともう大差はない。

 出現した瞬間に燃やされて魔力へと還元されると、再度確認してから進んでいく。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 1時間ほど慎重に進んでいくと、一箇所だけ罠を発見して回避し、大きな部屋を発見した。

 通路に入り口のようなものがあるのは少し前から見えていたのでわかっていたけど、部屋とまではわからなかった。だって見てみないとわからないじゃん?


 『気配探知』で部屋の入り口付近に『敵』がいないことを確認して手鏡でも確認する。

 念のためっていうのは非常に大事。


 ……部屋中央の宝箱はちょっと置いておこう。まずは確認です。確認は大事。


 通路の方も『敵』はいないし、出てくる兆候もない。


「い、行く……?」

「きゅい!」

「ホホォ」


 私の宝箱恐怖症はまだ治ってない。

 だから宝箱を見つけるとちょっと腰が引ける。確認を何度もしたのはその影響かも……。

 でもルー君とロウ君は早く宝箱の中身を知りたいみたいで私を急かして来る。


 ……み、ミミックじゃありませんように……!


 部屋は大きい。でも宝箱以外は何も無い。

 ミミックが居たのもこんな感じの部屋だった。嫌な予感がする……。


「うぅ……。怖い……。でも『気配探知』も『罠探知』も反応なし……かぁ」


 ミミックは『気配探知』と『罠探知』の両方に反応があった。

 でもこの宝箱にはどちらも反応が無い。

 まだミミックに会ったのは1度だけだ。確証はないけれどたぶんどちらの反応もあるのがミミックだとは思う。

 それでもやっぱり怖いものは怖い。


「……すぅはぁ……すぅはぁ……よしッ!」

「きゅきゅぅ~きゅ~きゅきゅぅ~きゅ~……きゅぃ!」

「……ホォ!」


 3人で深呼吸をして……いやロウ君は最後の気合入れしかしてなかったけど……。

 とにかく覚悟は決めた。


 すり足で慎重に近寄りまずは銅の短剣で突付く。……反応無し。

 隙間から刃を差し込んでつきこんでみる。……反応無し。

 ゆっくりと蓋を開ける。……開いた。よかった、ミミックじゃないみたい。


「きゅ!」

「なになに?」

「ホホーホォ」


 おっかなびっくり宝箱を開けるとすぐにルー君が前足を宝箱の縁にかけて中を覗き込む。

 中に入っていたのは緑色をした大きな石。とても綺麗だ。


「なんだろうこれ……。でもすごく綺麗……」

「きゅ~?」

「ホォ……ホホォ?」

「きゅぃきゅきゅぅ?」

「ホホォ……ホホホ」

「きゅぅぃ」


 緑色の大きな綺麗な石を手にとって眺めているとルー君とロウ君が会議を行っていた。

 どうやら結論が出たみたい。これが何なのかわかったのかな?


「ルー君、ロウ君。これはなぁに?」

「きゅ!」


 2人に差し出すように石を見せるとルー君が私の背後に回り、背負っているカタログをたしたし、と叩いてきた。

 ちょっと角度が……首が……。


 1度石を床に置いてカタログを降ろしてみたけど、やっぱりルー君はカタログを前足で叩いている。

 つまりカタログ関連ということだろう。


「ん~……カタログでどうするの?」

「きゅぃ!」

「……あ」


 ルー君が床に置いた石を器用にコロコロ転がしてカタログに接触させた瞬間だった。

 石が吸い込まれるようにカタログに吸収されてなくなってしまった。

 突然の事でびっくりしていると、魔法の鞄に『空間容量増加+10』を食べさせた時の事を思い出した。なんか似てる。


「もしかして……」


 カタログの容量も……なんて思ったけど違った。

 最初のページを捲ってみれば書かれているのは『魔力総量』。

 今日はそんなに『敵』を倒してないからあんまり増えていないはずなのに桁が1個増えていた。

 なんと2674。


「2000も増えてる……」

「きゅーい!」

「ホォ」


 ルー君が1回転して華麗に着地を決め胸を張る。ロウ君も自慢げだ。

 つまりあの石は魔力ということだろう。

 2000も手に入るなんてすごい石だ。だってウサギ100匹分だよ! すごい!


「ルー君、ロウ君! すごい魔力の量だよ!」

「きゅきゅうい!」

「ホホホォ!」


 ルー君を抱き上げてロウ君には頬を擦り付ける。2人ともとってもふかふかだ。

 一気にたくさんの魔力を手に入れられた事を2人と喜んでいると後ろに『気配探知』の反応が。


「きゅぃ~い!」


 でもルー君が灯火一閃。追加で魔力になってくれました。


 危ない危ない。ここは安全地帯じゃないんだ。嬉しくてもちゃんと警戒しなきゃだめだよね。


「……よし! 先に進もう!」

「きゅい!」

「ホォ!」


 本日の探索はまだ始まったばかり。



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