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『声援魔法知識』の『消費魔力』は250。
『使い魔知識』よりも100ほど少ない。
取得したのと同時にあの清々しい清涼な気持ちが湧き上がり、私の中に今までになかった知識が蓄積される。
この感覚は何度味わってもいいものかもしれない。すごく好き。
「……そっか。これが『声援魔法』」
「きゅぃ」
「ホホォ」
私が今まで使っていた『声援魔法』はまったく加減を知らない状態で使われていたみたい。
だから常に全開ですぐ疲れてしまう。
『声援魔法知識』によれば『声援魔法』は出力の調整が効き、今まで敵味方区別無しに効果を示すと思っていたのがそれぞれ分けて使えることもわかった。
対象を区別するメリットはやはり燃費。今まで全開で使っていたのを半分以下の消費で使えるようになるのは非常にありがたい。
敵に対してどの程度効果が出るのか分からない状態なので、ルー君達にだけ効果があるように使えるならそれそっちの方がいいかもしれない。
「とはいっても知識は知識。わかったからってすぐに使えるわけじゃないんだから……練習しないとね!」
「きゅぃ!」
「ホホォ」
というわけで取得した『声援魔法知識』を元にさっそく出力調整の練習を開始することにした。
今までは特に何も考えずに使っていたのをどのくらいの出力で使うかを考えて魔法を使う。
……それだけなんだけど、意外とこれが難しい。
使ったときにどのくらいの出力になったのかは『声援魔法知識』を取得したことにより知識量が増えた事からなんとなくわかるようになったんだけど、やはりちょっとやそっとじゃ出来るようにはならないみたいだ。
今は燃費を抑えるためにルー君達だけに効果があるように練習している。
これだけで消費は半分以下だ。
あとは効果が全開の状態だからそれを少しずつ調整できるようにしていくのだ。
……まぁ訓練あるのみ!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「つ、疲れたぁ~……」
「きゅい」
「ホホォ~ホ」
最初のうちは全開でうってるのと大して変わらない消費ですぐに疲れてしまい、うっては休んでうっては休んでを繰り返していた。
ルー君達は常に『スピード』により素早さが上がった状態になっていられることが嬉しいのか、ルー君は壁走りや天井走りをしたり縦横無尽に走り回っていた。
ロウ君も羽音をほとんどさせずに高速飛行を繰り返したりして楽しんでいた。
2人の楽しそうな様子を見ていればすぐに魔法による疲れなんて吹っ飛んで、練習を再開できる。
素早さ全開状態のルー君が『敵』を発見すれば膜に接触する前に『紅蓮灯火』で燃やし尽くす事もわけない。
3度ほど『敵』が魔力になったあたりでちょっとだけコツが掴めたような気がしたけど、さすがに疲れすぎて……。
「今日はこの辺にしてねよっか。私ももう眠いかも……ふあぁ」
「きゅぃ」
「ホォ」
たっぷりと素早さ全開状態を堪能していた2人も興奮状態はもうとっくに覚めている。
でも素早い状態が勿体無くて動き回っていたから疲れているんだろう。ちょっとだけ眠そうにしている。
『声援魔法』の訓練はまた明日にして今日はもう寝ることにした。
相変わらず木の枝で就寝するロウ君。
ルー君は私と一緒に皮のローブを毛布代わりに包まって寝る。
これからは私も少しは役に立つ事が出来そうだよ。
改めてよろしくね、2人とも。
心地よい疲労に意識を委ね、あっさりと私は睡魔に導かれていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
本日は少し『声援魔法』の練習をしてから休憩を取り、探索というよりは魔力集めをしにいくことにした。
効果を制限した『スピード』をなんとかルー君達にかけることに成功したのでまずは少しだけコウモリを狙ってみる。あの量はやっぱり魅力だ。
でも深入りはしない。だって危ないもん。
「きゅきゅぃ!」
「ルー君、お見事!」
「きゅ~い!」
昨日突破した時よりも縄張りの間隔が狭くなっている気がしたけれど、『スピード』の効果で素早さが上がり、『紅蓮灯火』の発射間隔が狭まったことから何の問題もなかった。
『長射程』とも『スピード』は相性がいいのか、ルー君無双は留まるところをしらない。
ルー君も実に生き生きとしていてこのまま進んでも大丈夫なんじゃないかと思ったけれど、最初の予定通りにすることにした。
……まぁちょっとだけコウモリを多めに倒したけど。
一箇所だけあった罠もきちんと回避して安全地帯にまで戻り、そこからまた違う通路を進む。
違うといっても昨日も通った通路だけど。
ここからはコウモリが出てこなくなるので戦闘回数も大分減る。
でも昨日もさっきも戦っていてわかったことだけど、私達が見ている範囲ではコウモリが光の粒子で出現することはなかった。
ウサギやネズミは光の粒子で出現するのにコウモリは出てこない。コレは一体どういう違いなんだろうか。
一応コウモリ退治をしているときも背後には気を配ったりしていたけれど、ウサギもネズミもましてやコウモリも出現することはなかった。
でも昨日あれだけ倒したのに今日行ったら大量にいたのはやっぱりどこかから来ているんだろうとは思う。私達がいなくなってから光の粒子が集まって出現しているのか、それともどこかから飛んでくるのか。
わかってもあまり意味がないことだし、今は気にしないでおこう。
大事なのは後ろにも気を配らないとだめってこと。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
昨日は長い通路の途中にあった部屋に入ってそのまま安全地帯にまで帰ったので、今日は部屋に入らずそのまま直進していく。
途中でウサギが2匹出現して魔力になった。
やっぱりこっちは戦闘回数がずっと少ない。
罠も全然ないし、平和だ。でもたまに後ろを振り返って確認しながら進む。
1時間ちょっとくらいだろうか。遂に直進の通路の端まで来た。
そこはT字路になっていて右の通路の少し先の天井にはコウモリが居た。
どうやらこっち側はコウモリ地帯――私命名――のようだ。たぶん繋がっているんだろう。部屋から安全地帯に戻る通路はこっち側にも伸びていたので多分そこに。
そうなると左の通路を探索するべきだろうか。
でも今日は探索というよりは魔力集め。
コウモリ地帯じゃない方のウサギネズミ地帯を通ってきて思う事は、やっぱり『敵』が少ないこと。
ルー君という頼りになる王子様がいるからこんな油断しているともいえる事が言えるのはわかっている。人間って欲深い。
「ルー君、ロウ君。こっち行ってみる? コウモリがいるし、魔力集めにはいいと思う。
その分大変だけど……」
「きゅーい!」
「ホホォ!」
その場で1回転して華麗に着地を決めるルー君は大賛成のご様子だ。
ロウ君も翼を広げて賛成みたい。
「ありがとう、2人とも。でも危ないと思ったらすぐ逃げようね」
「きゅい!」
「ホォ!」
戦うのはルー君だ。
私も出来る限り『声援魔法』で支援するつもりだけど、調整した状態でも連発は出来ない。
ここぞという時、特に撤退時には必要になるものなんだから余力はたっぷり残しておかなきゃいけない。私が動けなくなっちゃうし。
右のコウモリ地帯を素早くコウモリ達を燃やしながら進んでいく。
ウサギネズミ地帯の倍以上の頻度でコウモリとの戦闘をこなしていきながら、後ろを何度も振り返り確認する。
「やっぱりコウモリは私達がいると補充されないのかな?」
「きゅ?」
「ホォ~ホホホォ。ホ」
「きゅぃ。きゅきゅぅ」
「ホォ」
私の独り言にルー君達も混ざってくるけど、やっぱり何を言ってるのかわからないよ。ちょっと寂しい。
そんな私の様子に気づいたのか、ロウ君がふかふかの羽毛で頬を撫でてくる。
ルー君も軽やかに壁を走って飛び上がり、ふわり、と音を立てずに――私に負担をまったくかけずに空いている逆の肩に着地を決める。
ルー君は小さくて可愛いけど、それなりに体重がある。
でも今私の肩に着地したルー君はその重さをまったく感じさせない不思議なことをやってのけている。
少ししたら肩に重さがかかったけど。
でもその頃にはもうすでにルー君とロウ君が一緒になって頬を撫でたり舐めたりしてくれて慰められていて、何も気にならなくなっていた。
私の王子様達はとても優しい。
確かに彼らの言葉を理解できないのは寂しいけれど、こんなに私の事を気遣ってくれる。
私は幸せ者だ。
「きゅっ」
「わっ」
私の頬を舐めていたルー君が『紅蓮灯火』を打ち出して、その先に居るコウモリを燃やし尽くす。
突然だったのでちょっとびっくりしてしまった。
射程がずいぶん伸びたルー君の『紅蓮灯火』はロウ君の『気配探知』のぎりぎり外側まで届く。
そこにはコウモリが居たようだ。
……あれ? 確かちゃんと周りにコウモリがいないことを確認していたはず……。
「もしかしてあそこにいたコウモリって新しく出てきたやつ?」
「きゅい」
「ホホォ」
どうやらコウモリは私達がいるときでも新たに出てくるようだ。
でもウサギやネズミのような光の粒子が集まって出てくるわけではないみたいだ。
しかしどうやって出てくるのかは見ていなかったのでわからない。
『敵』の補充のされ方が1つではない、ということがわかっただけでも収穫といえるかもしれない。
これからは光の粒子が集まるのだけを警戒していてはだめだ。
いつの間にか襲われていました、では話にならないんだから。
「よし、ルー君、ロウ君。コウモリがどうやって出てくるのかちょっと調べよう」
「きゅい!」
「ホー!」
今までの経験上、コウモリは天井にしかいない。
壁際の床近くに陣取り、左右と天井を監視できる位置に腰を下ろして待機してみることにした。
休憩も兼ねているので足もちょっと揉んでおく。
さぁコウモリ調査の始まりだ。
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