18
安全地帯で少しだけ休憩してから長い長い通路の方へと進んでいく。
長い通路に出る前に巨大ウサギが1回出てきたがやはりこちらにはコウモリはいない。でもまだ安心はできない。
『気配探知』に反応がないのをしっかり確認して長い通路に出て上を確認してみたが、見える範囲にはコウモリはいないようだ。
こちらの通路にはいないのだろうか。出来ればいないでほしい。むしろいないで、お願いだから。
通路を進んでいくと巨大ネズミが1回現れて魔力へと還元されてくれた。
30分も進まないうちに左側に延びる通路を発見。しかしまたもやえらく長い通路のようだ。
もう本当に長い通路ばかりで嫌になる。
一先ずは新しく発見した通路には進まず、このまま直進することにする。
『気配探知』外の距離の天井に目を凝らして見ているけれど、やはりこちらにはコウモリがいない。
生息域に違いがあるのだろうか。
光の粒子が集まって出現する『敵』にもコウモリは1回も混じっていなかったし、何かしらの法則があるのだろう。
一応後ろと足元にも注意を向けながら天井を特に気にして進んでいると、右手方向に部屋を発見することができた。
部屋の中は横長の構造で少し先に次の部屋? へのスペースがある。扉じゃないあたりがなんとも部屋とはいいきれないところだ。
まぁ今まで扉のあった部屋なんて1つもないわけだけど。
『気配探知』には反応がないので進んでみるとやはり先は部屋になっていた。
というか壁で分割された大きな部屋みたいな感じだろうか。今までにあった部屋とは少し趣が異なる。
でも――。
「あれって宝箱だよね……」
「きゅぃ!」
「ホホォ!」
2つ目の部屋の隅のほうに隠れるように壁が宝箱の分だけ凹んでいる。
今私達がいる2つ目の部屋の入り口からまっすぐ行くと3つ目の部屋があるみたいで、私の拙い脳内マップ的にはその先はコウモリがいっぱいいた場所に繋がっているような気がする。
まだコウモリは見つかっていないけれど、心配だ。
「『気配探知』も『罠探知』も反応なしかぁ……」
「きゅぃ! きゅぃ!」
「ホーホホォ!」
「う、うん……わかってるんだけどね……。やっぱりちょっと怖くて」
「きゅぅ」
「ホォォ」
ミミックの1件以来どうも宝箱恐怖症になってしまっている私がいる。
あれは精神的に酷い事件だった。トラウマといってもいいくらいだ。
その割にはコウモリの攻撃に対してはあまり精神的にくるものがないのは、私も攻撃を受けていて大丈夫だからなのと、目に見えるものではないからかもしれない。
「と、とにかく宝箱は逃せない……。怖くてもやらないとだめ……やらないとだめ……」
「きゅぃ! きゅ~ぃ!」
「ホッホホォ!」
銅の短剣を握り締めて2人に勇気付けてもらう。
「……ひぐッ!」
宝箱にゆっくりと近づき……緊張していたからか、3つ目の入り口から『敵』が来るのを探知してビクッとして変な声をあげてしまった。
すぐにルー君が燃やしてくれたからよかったけど、我ながら「ひぐっ」はないと思う……。
気を取り直して宝箱を突っつき、刃を差し入れて何度も突き刺し、蓋を開ける。
少ないスペースにはまるにようにして設置してあった宝箱は完全に蓋が開かず、壁にトン、とぶつかって止まった。
中には小さな宝石がはまっている首輪が入っていた。
「何だろうコレ……。でも綺麗な宝石……」
「きゅきゅきゅぅぅぅ!」
「わわっ。ルー君どうしたの?」
「きゅぅぃ! きゅきゅぅ!」
「えぇ? 欲しいの? つけたいの?」
「きゅぃ! きゅぃぃ!」
どうやらルー君がとても気に入ったようだ。
でも確かに綺麗な首輪だけど、つけてしまっても大丈夫なのだろうか?
一見ただの足輪にしか見えないような物がバリアを張れるような不思議なアイテムだったりするんだ。
この首輪だって普通の首輪である保障はない。
……でもルー君達は私よりも不思議なアイテム達のことに詳しい。それも事実だ。
「ルー君これは危ない物じゃないんだよね?」
「きゅい!」
「どんな物なの?」
「きゅ! きゅぅぅ~きゅ! きゅぃ!」
ルー君にどんな物なのか聞くと、いきなり息を大きく吸い込み灯火を遠くの壁に向かって吐き出す。
しかし灯火はルー君の射程距離限界まで飛ぶと消えてしまい、壁には当たらなかった。
その後をルー君が走り、灯火が消えた位置で1回転して着地した後もう少し進む。大体壁のぎりぎりまで。
そこでまた1回転して着地して胸を張って3本の尻尾のうち2本を横に広げてポーズを取っている。
……うん、どういうこと?
分かった事はルー君はやっぱり可愛い。3本の尻尾はあんなに横に広がるものだったんだね。
「きゅい!」
戻ってきたルー君は満足そうだけど、私には意味がよくわからない。
ロウ君を見てみるとこちらもなにやら満足そう。君達楽しそうだね。
「……うーん。本当に大丈夫なんだよね? この首輪」
「きゅい!」
「……じゃ、じゃあ……」
あまりにも自信満々のルー君なので結局は彼を信じる事になるのはわかっていた。
どうしたって私にはこの首輪がどんな物なのかわからない。
恐る恐る首輪をルー君につけてみる。
特に変わった事はなく、宝石のはまった綺麗な首輪は赤い毛並みのルー君にぴったりだ。
「ふむ……格好いいね」
「ホホォ」
「きゅぅぅん」
私とロウ君の呟きに何やら照れくさそうに前足で顔をかいている王子様。
くそう。そんな姿も可愛いったらありゃしないよ!
「……それで、その首輪で何ができるの?」
「きゅぃい!」
先ほどの説明の意味がわからなかった私はまた聞いてみたけど、その質問にルー君が愕然とした表情を見せている。
どうやら説明を理解してこの首輪をつけてくれたと思っていたようだ。
ふふ……甘いよ、ルー君。
がっくりと項垂れながらも、しおしおになった尻尾を一振りして気合を入れなおす我らがルー君。
さて何が出来るのかな?
「きゅうぅぅ~きゅ!」
「……えっ」
息を大きく吸い込み吐き出された灯火が今までよりもずっと早い速度で一直線に壁に向かって飛んで行き……壁に直撃してその炎を大きく散らす。
先ほどは壁になんて全然届かなかったのに。
もしかしてこれは灯火の速さが増して、結果的に射程が延びるようになる首輪?
え、そんな今日コウモリで射程が短くて苦戦してたと思ったらすぐにこんな物が出てきてくれるの?
……なんて好都合。でも作為的な何かを感じずには……。でもそれを考えたら、何もできない私がルー君と出会ったり、罠がある階層の前にロウ君と出会えたり……。
……うん、考えるのはやめよう。便利でいいじゃない!
「きゅい!」
「あは、そうだね。これでコウモリからダメージを受けないで倒せそうだよね!」
「きゅぅい!」
「ホー」
盛り上がる私とルー君。
でも残念ながらコウモリの音波攻撃で一切ダメージを受けていなかったロウ君はあまりテンションがあがらなかったみたいだ。
もう、クールなやつめっ!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
3つ目の部屋は案の定コウモリが逆側の壁ぎりぎりの天井にいました。何と2匹も。
これにはちょっとびっくり。
ただ2匹の間には距離が大分開いているので同時に襲われるということはなさそう。
同族が近くで襲われたら攻撃してくるのかどうかがいまいちわからないから、まだ完全には言い切れないけど。
でも射程が大きく伸びた今のルー君なら、きっとなんとかなる。
「ルー君、頑張って! 『スピード』!」
「きゅ! きゅきゅい!」
2匹という危険が倍の状況だ。私が疲れるなんて出し惜しみはしている場合じゃない。
『声援魔法』をかけたルー君は久しぶりの素早さアップにテンションがうなぎ登りだ。
テンションが最高潮に達したところで駆け出したルー君はかなり距離を残した状態で灯火を打ち出す。
今までなら射程が届かず当たる前に消えるか、コウモリ自体が動いてしまい避けられていた。
でも今回は違った。ものの見事にコウモリの射程外からの灯火が直撃し、光の粒子となって魔力にかわっていった。
「きゅい!」
無事1匹目を撃破したルー君だったけど、すぐにもう1匹に向かって駆け出す。
私なんて1匹目を無事ノーダメージで撃破したことに喜んでもう1匹の事を忘れていたくらいだったのに。
「きゅ!」
もう1発放たれた灯火がコウモリを燃やし、こちらも攻撃を一切受けることなく倒す事に成功した。
「やった!」
「きゅーい!」
「ホホーホォ!」
3本の尻尾を嬉しそうに揺らしながら戻ってくるルー君を抱きしめてあげる。
ルー君も嬉しそうに私の頬を舐めてくれる。
私の王子様はまた1つ強くなった。もうコウモリなんて恐るるに足りず!
コウモリを無傷で倒せるようになった事を喜んで、ルー君を抱きしめてくるくる回っていると私達の出す音を聞きつけたのか『気配探知』に『敵』の反応があってびっくりした。
すぐにルー君が長い射程に物を言わせて魔力にしてくれたけど、ここは危険なダンジョンの中だってことを再認識することになった。
「喜ぶのは安全地帯に戻ってからにしよっか」
「きゅぃ」
「ホォ」
でもやっぱり少しにやけてしまうのはしょうがない。
一応3つ目の部屋も何かないか調べて見たけど、1つ目と2つ目の部屋に比べて少し大きく、変な彫像が2体並んで置いてあるだけの部屋でした。
その彫像に何かあるのかとロウ君に念入りに調べてもらったけど、特に何も反応なし。
ちょっとがっかりしつつ先へと進む。
すると、そこはやはりコウモリの居た場所の先の通路のようだ。
ここから戻った方が安全地帯に近いだろう。それにもうコウモリは恐れるべき相手じゃない。
これからは私達の糧になってもらう。
さぁ目指すは『お布団セット』!
でもその前に調理器具と食材かな!
ひぐっ!
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